北朝鮮の無理難題的な賃上げ要求                            岡森利幸   2009/6/24

                                                                    R1-2009/6/25

以下は、新聞記事の引用・要約・意訳。

毎日新聞朝刊2009/6/12 国際面

北朝鮮の開城(ケソン)工業団地事業に関する韓国と北朝鮮の事務協議が6月11日、開城で行われた。北朝鮮側は労働者1人当たりの賃金を4倍の月300ドル(約2万9300円)とすることなどを提示した。大幅な賃上げ要求に進出企業から悲鳴が上がっている。

北朝鮮側は団地の敷地330ヘクタールの賃貸料(50年間)を1600万ドルから約31倍の5億ドルに上げることも要求した。

The Japan Times 2009/6/13 business overseas

昨年来、政権が変わった韓国政府が北朝鮮に対して強硬路線をとっていたことから、北朝鮮は開城工業団地以外の、両国の主な共同プロジェクトを停止または関係を打ち切った。朝鮮統一・協力のシンボルだった、その開城工業団地も、閉鎖の危機に直面している。

開城工業団地は、韓国の資本・技術と、北朝鮮の平均月70ドルの安い労働力を組み合わせることで、両国の経済協力のモデルとして、2004年に開設された。ただし、賃金はすべて直接北朝鮮の国庫に納められる。団地には、106の韓国企業が進出していた。

11日の協議で北朝鮮は、賃金を初年度月300ドルとし、次年度にも10〜20パーセント引き上げることを要求したという。

敷地の賃貸料については、両国が合意済みだったことで、北朝鮮は50年分の借地料としてすでに1600万ドルを受取っていた。

平均月70ドルというのは労働者の賃金として安すぎるように見えるが、両国が検討して合意した時点では、それなりに妥当な額だったはずだ。それなのに、そのすべての労働者の賃金をいきなり4倍にしろと言われたら、企業は悲鳴を上げるしかないようだ。

工業団地に働く40,000の北朝鮮人の賃金を4倍にしろというのは、昨今の世界的な不況の中で、非常識な要求だし、無理な話だろう。利益追求というより国策のため、あるいは善意で北朝鮮に進出した韓国企業としては、いくら韓国政府の助成や優遇措置があっても、これには対応できそうもない。借地料に関しては、明らかに契約違反だろう。というより、人間同士の信頼関係をぶちこわすような行為だ。

今年の4月に入ってからミサイル発射や核実験を強行したことで、世界的な制裁が強化されようとしている状況で、とりわけ、韓国との関係がうまくいっていない状況で、北朝鮮の、理性を失ったかのような行動の一面が現れた。韓国の北朝鮮に対する非友好的な態度に、北朝鮮としては不満といらだちを覚えたのだろう。国際的な孤立によって、国の経済がますます困窮の度を深めているという危機感もあるだろう。それらが怒りとなって表出したものだろう。

相手国にぎりぎりの譲渡を迫る「瀬戸際外交」の一つだろうが、今回の要求は「言いがかり的」であり、交渉の範囲外のものだろう。単に賃金が安いからといった労働条件上の不満というより、企業の支払能力や常識をはるかに超えた要求額だから、解決のためには、韓国側にとってやっかいだ。その要求は、北朝鮮の政治的な「仕返し」のためでもあり、「いやがらせ」的な行為でもある。北朝鮮のプライドをかけて、自分の存在感を居丈高に示すための、一つのパフォーマンスとも言えそうだ。

いきなり支払能力を超えた要求を出し、北朝鮮がそれを押し通おそうとするならば、両者は決裂しかない。操業停止で、40,000の人が職を失う危険をかえりみないのは、北朝鮮政府らしい。政府の極めて政治的な感情によって、人びとが危険にさらされる。40,000の自国民とその家族を「瀬戸際」に追い込むようなことでもある。北朝鮮政府は、40,000人を人質にとって、「金をもっともっとよこせ」と言っているようなものだ。その後に、多くの人が職を失っても、国際的な人道的支援を期待してのことだろうか。

40,000の人が職を失うと同時に、彼らから「合法的にピンはね」している北朝鮮政府としても、財政上の大きな痛手となるはずだ。国際関係をさらに悪化させもしよう。そんな損得を考えずに、べらぼうな要求を突きつけるところが、北朝鮮の面目躍如(?)である。

ただし、工業団地が閉鎖されるとなれば、北朝鮮政府は、韓国企業が設営した生産設備をすべて接収し、国営とするのだろう。北朝鮮領内に工業団地を造らせたメリットが活きるわけで、ほとんど丸儲けになる。工業団地の大規模な生産設備そのものが、北朝鮮が得意とする「拉致」の対象になったようだ。

 

 

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