日曜の夕方は嫌いだ。
軽い絶望感と、安定感で眩暈がする。
ビスケットも、温かいミルクも嫌いだ。
平和そのものの、酷く子供じみた味がする。
ビスケット
今日、頼りない雪がしらしらと降った。
部屋の中は暖かくて、穏やかで、天国のような場所だった。
まだ4時くらいなのに、外は薄暗くなり始めた日曜日。
はダイニングテーブルについてビスケットを食っている。
こんな風には、毎週日曜日の午後、オレの部屋にやってきて、映画のDVDを観たり
ゲームをしたり、課題をやったりして6時くらいにはお腹が空いたっつって規則正しく帰ってく。
それも、チョコレートだのポテトチップスだの何かお菓子を持参して。
それを2人で食べながらだらだらと過ごす。ファミリーサイズのそれが空になって、
いったいは何しに来てんだぁ?って想う。
まぁいいんだけど。
「?何ー?」
はオレの視線に気づいてくりくりとした目を向けた。
「オレそれ嫌いー」
はマグカップの中の温めた蜂蜜入りのミルクにビスケットを浸してた。
「えー、あたしはこうやって食べるのが好きなのー。ふしゃふしゃで美味しいもん」
ふ、ふしゃふしゃ?
ワケ解んね。それって美味いの?
「・・・ベル、こっちおいで!」
「何さぁ?」
「いいから座りたまえ、子猫ちゃん(うひひ、と笑いつつ)」
・・・って、可愛いのに変だ。
云われるままにの向かいのテーブルにつく。
すると、すっと目の前にがミルクに浸したビスケットを差し出した。
「食べて?」
えー嫌だー。
オレはそう返そうとに視線を戻した。
「食べなさい」
そう云ったの目はまっすぐで、オレは言葉を呑み込んだ。
そうしての手からビスケットを受け取って口の中に入れた。
天使から施しを受けたような気持ちだ。
最後に口にしたのはいつだったっけ?
多分、ヴァリアーに入隊する前だったと想う。
記憶はオレンジの明かりで滲んで、それは幸福なシルエットの世界が浮かぶ。
「美味しい?」
は訊ねた。こく、と小さく頷くと
「ね?あたしはこれを食べるといっつも幸せになるんだぁ」
そう云ってはほっこりとした笑顔を見せた。
そうして笑ったは、いつもと何も変わらなかった。
「あ、あたしお腹空いたから帰るねー」
「んー・・・ね、たまにはもうちょいいたら?何なら泊まってけば?」
「やーよ。お母さんのご飯食べたいのー。それにベルのところに遅くまでいたら
何されるか解んないもん」
はーん。一応解ってるわけね。はいはい。
はコートに袖を通し、バイバーイ、と手を振って帰っていった。
ぱたぱた、とブーツの音がドア越しに響く。
それが聞こえなくなると、急にしぃんとした空気が流れる。
や、別にそれだけじゃなくてさぁ・・・。
自分の中でぐだぐだ云いながらリビングに戻る。
外はすっかり暗くなって、雪の音が聞こえそうなくらい静かだ。
ビスケットも、温かいミルクも嫌いだ。
平和そのものの、すごく子供じみた味がする。
それでもオレは、またを待ってる。
end
YUKIの曲を聴いて書き上げた一品。リアルに独りでビスケット食べながら
「ふにゃ・・・否、ふしゃふしゃだ!」などと喚いてました。作家さんが資料のため旅行に
行く理由が解りました。百聞は一見に如かず也。
「一回行って食ったら解んねんってホンマ」。某ファーストフード店CM。
書きたいことを全部書けたし、少なくともHinaには好評だったので良作かと。
これからも日々精進です。