それは、母親から課された・・・いわゆる「おつかい」だった。

「え?花束?」
「そう。明日犬塚家に仕えてくれた犬達の法事があるから、少し豪華で大きめな花束、買ってきて頂戴よ」

普段なら姉に頼むこの買い物を、俺に頼んできやがった。
男に花を買わせる母親もどうかと思って、一応確認のため今一度問いただしてみた。

「・・・この俺が?」
「他に誰がいるっていうの?・・・それとも、文句ある?」

いや、この母親に逆らうことが出来る人間などいないのは分かっているから、
俺は大人しく「・・・じゃあ行って来る」と言い残して家を出た。多分一生このカカァ天下な母親に敵うことは無いと思う。

そして向かった花屋で・・・久しぶりに、彼女を見かけた。

 

 

Amorous breeze

 

 

「よ!」
「!キバじゃな〜い!」

母親に花束を買ってくるよう頼まれた俺が仕方なく花屋に足を運ぶと、珍しくいのが店番をしていた。

「珍しいわね、アンタが花屋に来るなんて」
「母ちゃんのパシリでさ、ちょっと豪華な花束作ってくんねーかな?」
「お安い御用よ!」

いのは少しだけ『パシリ』という言葉に反応してにやけながらも、俺の注文を快く受け入れた。

「どんな色合いがいいのー?」
「・・・そうだな、白っぽくて・・・あんまり派手じゃない色合い、かな」
「はーい」

俺の指定を受けると、いのは「そこに椅子あるから、座って待ってて!」と言った。
本当は赤丸を連れて戻って来ようと思っていたが、せっかくの好意を無駄にするわけにはいかないと思って椅子に腰を下ろした。

 

「・・・それにしても、何のための花束なのー?」
「んー・・・」

母親には『お供え用の花』と言われていたが、俺はそれをもっと遠回しな表現にしたかった。

「・・・まぁ、犬塚家に仕えてくれた犬達へ、ってとこかな」

普段試行錯誤することのない頭ではこれくらいの表現が限度だった。
案の定、いのは本意に気付いて動かしていた手を止めて少し悲しげな顔をした。

「あっ・・・やだ、私・・・変なこと聞いちゃったね」
「対したことねぇよ、気にすんな」

俺が言い出したんだし、と付け足すと、いのは少しだけ悲しげな面影を引きずりながらも、作業を再開した。
花束作りに対して真剣な表情になったいのに、俺は話し掛けることができなくて場が静まってしまった。

 

その間、俺はいのが花束に対して向けている視線と同じように真剣にいのの姿を見ていた。―――いや、見とれていた、に近い。

中忍選抜試験の時、対サクラ戦でばっさりと長い髪を切ったいのだったが、今では元通りの長さになったストレートの金髪。
オーシャンブルーのように、少しだけ緑を帯びたような水色の瞳。
―――そして、3年前と断然違う女らしい姿に、俺は見とれていた。

 

「キバ!出来たわよ〜!こんな感じ?」
「あ、ああ・・・―――」

いのに声かけられてはっと気付いた俺の眼前には、淡い色合いに包まれた少し大きめで美しい花束だった。

「・・・なんか大分豪華に見えんのは俺だけか?」
「それこそ気のせいよ!・・・それに、自分で『ちょっと豪華な』花束って言ったんじゃなーい!」
「・・・ま、いっか」

細かいことは気にするな、と言っただけに引き際を失った俺は、大人しく豪華すぎる花束を受け取った。
・・・が、やっぱり値にそぐわない気がしてきて、俺はその花束から一際目立つの黄色い花を一輪抜いた。

 

―――いの」
「何ー?」
「やる」

そして、いのにそれを手渡した。

 

「・・・え、私に?」
「それ以外誰にやるってんだよ。それに、どうせその他大量に供えるんだし、1本くらいなくたって問題ねぇよ。
―――
じゃあな、豪華な花束、ありがとな」

「ちょ、キバ!!」

残されたいのが引き止めるように俺を呼んだのはわかっていた。けれど、それに応じる顔がなかった。
―――もう、平然を装うことが出来ないくらい顔が熱を帯びていた。

 

渡した一輪の花を後で調べたら、花の名は『ひまわり』。花言葉は『あなたを見つめる』。

ああ、もう抑えられない。俺は、とうとう彼女への恋情なるものを自覚してしまいました。

 

 

―*―

 

 

「コラ!キバー!!」
「!」

翌日、赤丸と一緒に気持ちのいいそよ風の吹く丘で昼寝していたところに、突然頭上から声をかけられて俺は驚いた。
声の主はいのだった。「隣、座るわよ」と俺に有無を言わせず隣に座った。

「まったく、昨日は逃げてくれちゃってー!ひどいじゃない!女の子置いてく男は嫌われるわよー!」
「あ、のなぁ・・・―――!」

俺が言い訳しようとすると、どこに隠し持っていたのか一輪の花を俺の目の前に差し出した。
ピンク色で4枚の花びらを持つその花は、昨日作ってもらった花束には入っていなかった。

「はい。・・・アンタが、昨日私にひまわりくれたから」
「・・・ん、」

何に使えばいいんだ、とは言えないので俺は大人しくそれを受け取った。
俺は隣でぬくぬくしていた赤丸の鼻にその花をかざしてやったりして遊んでみた。

「キバは知らないかも知れないけど、ひまわりの花言葉って『あなたを見つめる』、なのよー?」
「・・・ああ、そうなんだってな」

いのが物知り風にそう話していたが、俺は昨日知ってしまったので、
赤丸が鼻がゆそうにしているのに集中しながらそう流してしまった。おれがそう言うといのは残念そうな反応をみせた。

「なんだ、知ってたのー?なら、私は本気で取っていいのよね?」
「―――?それってどういう・・・」

俺がいのの方を見ると、いのは眼下に広がる花畑を見ながら(俺に視線の一つもくれずに)こう言った。

「キバ、アンタが持ってるその花、『ハナミズキ』の花言葉は・・・」

 

「『私の想いを受けてください』」

 

「!・・・それって・・・おわっ!!」

俺が驚いて起き上がると、いのは俺に覆いかぶさるように倒れこんできた。
俺はそれを受け止めきれないで地面にまた寝転がることになってしまった。

「・・・私ね、いますごい幸せ!―――また、花買いにきてくれる?」
「・・・ああ」

赤丸が「ワン!ワン!」と言いながら走りまわっていたけれど、俺達はささやかな幸せの風を感じた。

 

 

【END】




あとがき:
すみません、キバいの小説は初書きなのでちょっと文章が乱れていて美しくないです;orz
多分花言葉も合っていると思いますが、もし間違っていたらご一報くださいませ↓

それでは、サイト再開設、おめでとうございます。お祝いとしてこの小説をhinaさまに捧げます。
hinaさまのサイトが末永く続くことをお祈りしています。


2006年11月21日   『序曲 -the Last Luv Letter-』 柚木 音穏 拝