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「長野県上田市 真田の城(址)/『刀屋』のたのもしいお母さん」

2003年3月
 
先日、乗馬仲間の方々に会いに長野県に行ってきた。その帰りに、同県の上田市を旅した。

上田は長野県の東部に位置する豊かな自然と歴史の町である。かつて戦国時代に勇名をはせた真田昌幸、幸村親子の物語の舞台になった、上田城のあった町でもある。

今、上田城址(あと)に残るのは、真田氏のあとにこの地をおさめた人々が建てた櫓や、昔の井戸、堀などが残る。真田氏のファンの友人は、
「すっごく楽しかった」
と言っていた。私だってランボー(フランスの詩人、故人)の生まれ故郷に行ったときは、本当に楽しかったもの。その気持ちはよく分かる。

ただ、私は、寒かったんだよね・・・。違う土地に来るんだったら、ちゃんとその土地の気候を調べて、服など準備しておくべきだったのに、私はしなかったのよ。私が悪いんですが、彼女がはしゃいでいる横でしみじみと寒かった。

また、この地は池波正太郎氏の書かれた『真田太平記』の舞台にもなり、池波氏自身とも深いもかかわりがあったそうだ。池波氏ご本人は東京生まれだが、親戚がいたらしい。また、『真田太平記』の舞台になったことで土地の人々に愛されたのであろう。――上田の人や町を思い出すことは、私の楽しみなのだ――とまで氏はおっしゃったという話も聞いたことがある。

また上田市には「池波正太郎真田太平記館」というのがある。池波氏の遺品、池波氏や真田氏に関する短編の映像も見られたりするし、売店では池波氏に関する本(レアそうなものをふくむ)がそろい、ここでも友人は大興奮。

それにここは、建物が洒落ているのだ。古い町並みの路地を切り取ってきたような独特な敷地内に私は感激した。将来、お金をもうけたら(?)小さくてもこういう洒落た建物を建ててお茶でも飲みたいなと思った。

私が個人的に、上田で印象に残ったのは、「池波正太郎真田太平記館」と、駅からもそう遠くない場所にある「刀屋」という蕎麦屋である。

池波正太郎氏がひいきにしていた蕎麦屋だというので、さぞかし洒落ていて量の少ない蕎麦屋なのだろうな、と思っていた。

東京の名門の蕎麦屋は高くて量の少ないところが少なくないそうだが、それは昔のなごりなのだという話を聞いたことがある。資料を捨ててしまったので確かなことは言えないのだが(興味のある人は調べてみてください)昔、江戸では、そばは、小腹のすいたときなどに江戸っ子がちょっと食べるものだったので、量が少ないのが本当なのだという話を確か雑誌で読んだことがある。だったらどうして安くならないんだというツッコミをいれてみたくなるが、そういうものなのだそうだ。

だから、蕎麦屋の名門というのは量が少なくて高いものなんだろうなと思っていたら、これが大きなまちがいだった。

まず、刀屋は、とても庶民的なつくりの店だった。刀屋の客用のスペースは、民家の応接間ぐらい。知らなかったらそんな有名な店とは思えないような小さな、庶民的なお店だ。

それと蕎麦の量がすごく多い。山盛りなんていうものじゃなくて、家庭用の中くらいの鍋の中身をすべてぶちまけたようなボリュームである。

私が店にいた二十分ぐらいの間に、食べる前の蕎麦の写真を撮っている人が二人いたが、あれはあの人たちが家に帰って家族や友達に思い出を語るとき、
「こんなに量が多い蕎麦屋で食べたんだよ」
という証拠写真を撮ったのであろう。あの多さ、安さは口で言っただけでは分かってもらえない、信用してもらえないだろうから。

あとで、椎名誠氏が「刀屋」に行って、その量の多さにたじろいだと書いておられたのを見た。椎名氏はアウトドアで鍛えられた体でいろいろなものを食べていらっしゃるそうだ。大盛りはシアワセという方がたじろいだのだから、すごいことだ。

それにしても、はやっているにしても、あんなに量が多くて安くて、儲けはどれぐらいあるんだろう。ひとごとながら気になる。

私の行った日も、開店直後から店はもう満員。

相席で何とか待たずに席に座ることができた。お蕎麦が大好きな私はもうウキウキ。さっそく、天ざるを注文。

ビールも頼んだけれど、店員の中年の女性は、
「お姉ちゃん、うち、大瓶しかないけどいい? 飲める?」
とこんなに忙しいのにちゃんと聞いてくれるのでなんだか嬉しかった。
「それでいいですよ」
と答えると、ビール大瓶と、蕎麦を揚げたおつまみが出される。それをポリポリかじりながらビールを飲むと、まもなく天ざるがでた。

やっぱり、すごいボリュームだ。そこでまたあの女性が、
「お姉ちゃん、本当はもっと多いんだけれど、あえて少なめにしたのね。足りなかったらいつでも言ってちょうだい」
と笑顔で親切に言ってくれたのでまた嬉しくなった。それにしても、これで少なめなのかー。

お蕎麦も天ぷらもおいしかった。特に、春の山菜の天ぷらはおいしかったな。

春の山菜はアク・苦味が強いので、天ぷらにするのが一番いいらしい。長野ならではのメニューだ。ふきのとうも実においしくいただいた。

私がいる間、その女性は、こんなに忙しいのに一人一人に気をつかって実によく働いていた。外で待っている客には笑顔で「すみません、お待たせして」と頭を下げるかと思えば、あふれる注文を丁寧に処理し、笑顔をたやさない。

こんなにはやっているのに天狗にならずに真面目に明るく働いている。有名店なのに、庶民的なサービスを忘れない。
「うちでおいしい蕎麦、お腹いっぱい食べてください。そんなにお金はいらないから」
・・・そんな経営者の声が聞こえてくるような気がする。

これは本当に、できそうでなかなかできない事だ。私はこの店が大好きになった。それに、この女性を尊敬した。

流行ったらすぐ天狗になるお店は少なくない。私は、そういう店はあまり好きでないので、おいしくても感じが悪かったら私はいかない。

でも、愛想が良くてもまずい店はやっぱりちょっとイヤだ。おいしくてサービスのいい店はなかなか見つからないので、こういう店を見つけたときは非常に嬉しいのだ。

池波氏がこの店をひいきにした理由もわかるような気がする。都会人の池波氏は、こういう、地方ならではの田舎っぽいあたたかさにふれに、ここに通ったのではなかろうか。

私は池波氏の小説は十冊ぐらいしか読んでいないが、ほんとうに、あたたかい人だという気がする。この店と合ったのかも。

また上田市に来ることがあったら、かならず「刀屋」に行こう。

真田ファン、池波ファンの人には特におすすめの町です。
 
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