鋳鉄調理

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take-m ©2006 2007Shinji Murakami

ダッチオーブンとスキレットで、日常の料理素材を簡素に生かす。

炎の調理ではない、熱量調理がいかに素材の持ち味を生かすかということについて。シンプルな例で説明します。旨み(化学)調味料からの脱却法になります。この習慣によって、味覚や嗅覚が鋭敏になっていきます。

私が使用しているダッチオーブンは下記の通りです。

10インチ キャンプ・ダッチオーブン
野外でもキッチンでも使用している。上下加熱によるベイクから煮込みまで多用途。
12インチ・ディープ キャンプ・ダッチオーブン
主に野外使用。数年前まで毎年秋に行っていた丹沢鍋会での主役で、スッポン鍋を作っていた。最近出番が少ないが、石を中にひきつめて石焼芋は冬の定番。パンを焼く場合は、上火からの距離がとれるので、大きいパンを焼成しやすい。
8インチ スキレット
キッチンで使用。主に一人分を調理したり、下ごしらえに便利。始めて試しに買ったスキレット。
9インチ スキレット
キッチンで使用。最も使用頻度が高い。女性でも使える重さなので重宝。
9インチ グリルパン
キッチンで使用。もっとも出番が少ない。
コンボ・クッカー(旧モデル)
キッチンで使用。9インチ・スキレットに次ぐ使用頻度で、我家はほぼ同寸のルクルーぜと使い分けている。

道具の適性は、条件や使い方次第ですが、
             無駄なく買い揃えるためにアドバイス。

 キャンプ・ダッチオーブンは、通常12インチが定番です。最も多用途に使えます。ディープ・タイプや、16インチなどはやや特殊です。
 屋外使用が無く、キッチンで使用するのみならば、
キッチン・ダッチオーブンの方が使いやすいでしょう。まずは10インチあたりを使ってみてはいかがですか?
 
スキレットは9インチをカバーとセットで購入するのが良いと思います。4人家族の場合は、10インチを使いたいところですが、重くなるのでその点をしっかり検討してください。スキレット+材料=手首にかかる負担、です。
 全てを一台でこなせる
コンボ・クッカーは便利です。カバーの密閉度はキャンプ・ダッチオーブンには敵いませんが、スキレット的にも使用できます。



全てロッジ製です

写真上から パスタ青梗菜のトマトソース(9ihchスキレット) / イタリアンパセリの卵焼きとラディッシュ+ルッコラの瞬間蒸(9inchスキレット+カバー)※器:鈴木豊(陶房たゆ)作 / 目玉焼き(8inchスキレット) / 小松菜のカレー(コンボ・クッカー)


スキレットを使用して目玉焼きを作る

「はは〜ん、たかが目玉焼き・・・」と侮ってはいけない!いつもテフロンのフライパンで作っているあなた!これから説明するスキレットでの目玉焼きの作り方を見て、「蓄熱」「熱量」を理解しなければなりません。鋳鉄道具は炎の料理というより、「熱量料理」を得意とするのです。

手順
@ スキレットとカバーを用意し、スキレット表面に薄く油をひく。
A スキレットとカバーを別々に火にかけプレ・ヒートする。
B スキレット表面から微かに油煙が出る程度になったら、
   卵を入れる。水は入れないこと!
   (無水調理はダッチオーブンの得意技)
C 卵投入直後にカバーで蓋をする。
   カバーのプレ・ヒートはスキレットより弱めで構わない。
   これは上火代わりになる。
D カバーで蓋をしたらすぐに火を止める。
   後は余熱で調理が進行する。
   B〜Dの工程は、速やかに進行することが望ましい。
   カバーは、スキレットの注ぎ口が少し開くようにずらす。
   (蒸気が適当に抜けるようにして)蓋をすることがコツ!
   カバーを完全に密封してしまうと、目玉焼きの表面がブクブク
   になります。
E 余熱量の誤差によるが、1分30秒程でカバーを外せば、
   目玉焼きの出来上がり。
   焼き加減はそっとカバーを開けて様子を見てお好みで時間を
   調節して下さい。

カバーを使わないで作る場合は、スキレットをプレ・ヒートした後、卵を投入し、卵の変化を見ながらたまに数秒、弱火で熱を補いながらジワジワと調理します。

以上、言葉で手順を説明すればこのようになります。何も特別なこととは思えないかもしれませんが、余熱で調理した目玉焼きが、どれだけ素材の持ち味を発揮することか!これは食べてみなければわかりません。ただし、余りにも品質の悪い素材を、特別な美味さに引き上げるというような魔法があるわけではないので、くれぐれもお間違えなく。
テフロンや、他の薄手の調理器具での目玉焼きとは違った世界を堪能下さい。

我家では、養鶏場で平飼いの卵を買っており、素材自体もパワフルなのですが、塩コショーやソースなどは全く使わずに食しています。


鋳鉄調理に魅了されてしまった人との付き合い方

注! レシピ紹介が目的ではありません。
目玉焼きの例で、「蓄熱量」を理解して下さい。また、スキレットを購入されたら、鍋肌に油が馴染んできたところで「目玉焼き」をシンプルに楽しんでみてください。
卵の白身と黄身に現れる、鶏の品種と飼育環境(テロワール?)が感じられたら、それはクリアーでトーンの高い世界への入口です。

熱量の話

 自宅の風呂に入るよりも、風呂屋の大きな浴槽に浸かる方が、温まることは誰もが経験していることと思います。温度が同じでも、湯の成分がほぼ同じだとしても、です。それは、少ない湯よりも多くの湯の方が、全体として熱量が多いことが原因です。もっともあまり小さな浴槽では、冷えた身体が入るだけで湯温が下がってしまうことも原因の一つではありますが。
 小さな鍋よりも大きな鍋で量多く煮込んだほうが美味しく出来るという経験談も良く聞かれますが、これも鍋全体の熱量が原因の一つです。
 このように、ただ100℃の温度というだけでなく、100℃でもどれだけ熱を蓄えられる環境下で調理するか、ということも料理の仕上がりに大きく影響してくるのです。
 天麩羅や揚げ物をダッチオーブンで行うと、素材を投入した際の油温の変化が少ないので、専門店の大きな鍋を使用した状態に近くなります。家庭の弱い火力を蓄熱量で補うことが出来ます。

 私がここでクドクド述べるまでもなく、ダッチオーブン、スキレットの布教活動本は数多く出版されています。この調理器具の特徴に魅了されてしまうと、一通り洋食から和食、菓子作りまで、なんでも鋳鉄が一番優れている!とまで思い込んでしまう程に惚れ込みがちです。あまりにはまってしまうと少々迷惑かもしれませんが、周りの方々は我慢してください。美味しいものが食べられるのですから。ウルサイ薀蓄も適当に聞いて下さい。そう!鋳鉄調理の魅力を体験してしまった人と、鋳鉄調理が未経験の人との間には、壁か溝があるのです。薀蓄がウルサイと思っていたあなたも、壁を越えればこちら側の人です。「経験者は語る!」ものです。

 この「あちら」と「こちら」の立つ位置による私という存在のあり方の変化は、実に意味深長なテーマで、芸術表現の問題、宗教の問題・・・ということは文化、国家の問題にまで繋がっていく大変なことなのです。

 それに、鋳鉄=鋳物は彫塑の技法としても重要なテーマで、奥深い話が一杯あるのです。これは追って別ページで取り上げることになるでしょう。

「経験者は語る!」ものです

 だいぶ前の話になります。仕事先のある美術館の学芸スタッフの女性が、石鹸作りを始めました。余暇の貴重な時間を使って彼女は材料を吟味し、手間隙かけて石鹸を作ったのです。
頂いた石鹸を使ってみるとわかります。大量生産のものとは別物の使用感であることを。
 私のことを薀蓄語りと思っていたフシのある彼女ですが、まあ石鹸のこととなると猛烈に語りました。製法から歴史、巷の石鹸批評と熱っぽく語るその様子に、周りのスタッフは少し呆れていたのですが・・・私は思いました。彼女はこちら側に立ってしまったのだと。
(この時点で彼女は学芸や批評という立場を忘れている・・・作家からすればいいことだと思う。)

「Sさん、村上はいっているよ!」と言うと、我に返って「マズイ・・・」という顔になってました。

 私からすれば何がマズイのでしょうね!


素材の持ち味を引き出す鋳鉄調理

旨み調味料に浸りきった食生活とオサラバする

 美味い料理を作る鍋の条件に、昔から言われる厚みと蓋の重さ。この二つを兼ね備えているということだけで、ダッチオーブンとスキレットの能力は計り知れるだろう。熱はジワリと伝わり、蓋は内部圧力を高めてくれるので、いくらか圧力鍋のような効果が得られる。小豆を煮てみると分かるが、アルミ鍋より早い時間で煮上がる。餡で有名な老舗の和菓子屋さんの使用している小豆を煮る鍋も鋳鉄製だとか。
 さて、実際に作ってみればその効果がわかるというものです。まずはシンプルに「瞬間蒸し」の技から!

キッチンに常備すべき調味料を整理して、絞り込むことで、素材の味をどのように組み立てていくかを単純にしておく。

上等な塩 (ミネラル豊富な塩を選びましょう。ゲランドを奢っても、必要のない調味料に金銭を投じることを考えれば有効です。)
砂糖 
(上白糖かグラニュー糖を使用し、黒砂糖等はその風味が付加されるのでこの場では保留。)
米酢
 (添加物のない、良いものを選びましょう。純米酢が良いですね。私は「富士酢」「千鳥酢」を使い分けています。)
ワインビネガー
 (山梨県勝沼のシャンテワインビネガーを使っています。)
料理酒(日本酒)
 (糖類、酸味料添加のない、本醸造酒以上のものを使いましょう。)
料理酒(ワイン)
 (飲み残しや、瓶入りの国産無添加ワインを使用。)
醤油 
(キッコーマン丸大豆以上のクオリティーが条件。)
オリーブオイル 
(ピュアやバージンと用途が異なるが、変色のない新しいものを使用する。)
胡麻油 
(京都の某胡麻油を使用。)


調味料はそれぞれの郷土料理に根ざした良心的なものを使いながら、自分の好みに合ったものを選択すればよいのです。味覚や嗅覚が鋭敏になってきた時に、違和感を覚えたならば、その時点で調味料を探していけば良いのです。

必要の無い調味料
旨み調味料(化学調味料)が添加されているもの

瞬間蒸し

@ カヴァー付きのスキレットを用意する。
   油をごく薄くひいたスキレット本体のみをプレ・ヒートする。
A 大さじ1〜2程の水を用意する。
   好みや、素材のパワーによっては、
   この水に耳かきすりきり一杯程度の少量の塩を
   溶かしておいても良い。
B スキレット表面から油煙が薄く立ち上る手前ぐらいの状態で
   素材を投入し、直ぐ用意した水を注ぎ、
   水蒸気を封じ込めるようにカヴァーで密封する。

 スキレットのプレ・ヒートの加減と、水の量、カヴァーの密封時間は素材の種類と、仕上げる料理のイメージによって調節する。
 瞬間的に蒸すことによって生で食す食材に、+αを与える効果を狙うというのが目的なので、レアーもしくはアルデンテ状態の食材を楽しむことに向く。

 例えば、タラの芽の天麩羅は山菜料理の代表格で、とても美味ですが、これをスキレットで瞬間蒸しすると更に風味を強烈に楽しむことが出来ます。参考までに私の蒸し時間は5〜10秒程度。決まりは無いのでいろいろな温度帯と時間で変化を楽しんでみると良いと思います。
 閉じたカヴァーを開けた時の、タラの芽の香りをまず楽しみ、冷たくならないうちに食して長いアフターテーストを楽しみます。酒は純米吟醸の吟醸香の強くないタイプで、軽めの酸があれば私としては幸せなひと時が過せます。

 あらゆる野菜を蒸して温野菜をいただくと、サラダとは違って体を冷やさずに済みます。プランター栽培の小型の大根や蕪をスキレットで蒸します。

蒸している時にスキレット本体と蓋の隙間から蒸気が漏れる様子
取っ手が冷却フィンになるので、大抵取っ手側から蒸気が漏れるので扱いに注意する。

手入れや通常の使用法は、様々な参考書籍が出ていますので、ここではいちいち述べません
ただ、絶対に気をつけていただきたい点は一つ!火傷です。蓄熱された鋳鉄は、強力に火傷します。鍋つかみを用意して、不用意に素手で扱わないようにしてください。熱くてびっくりして手を離したらカバーが足元に落下して骨折・・・なんてことにならないように!

鋳鉄製のダッチオーブン、
スキレットを扱う上での注意点

お勧めのスキレット本
「もっとシンプルに。スキレットでつくる僕のイタリアごはん」
日高良実 著 プレジデント社


 2006年春の時点では版元在庫切れで、再版予定なし。一時のブームが落ち着けば忘れ去られるということでしょうか。私は別に日高氏のファンでもなく、日高氏の店「アクアパッツァ」や「マンジャ・ペシェ」の常連でもありませんが、この本は優れものです。再版してもらいたいですね

2007年5月4日夕食の一品

スキレットでの瞬間蒸し技による葡萄(マスカット・ベーリーA)の花穂料理。
自宅栽培だからこそ出来る贅沢。サンジョベーゼ種で醸造されたイタリアワイン(赤)とともに楽しむ。花穂は糖度こそ感じられないものの、旨みと酸味は葡萄の持つ魅力そのもの。

 ということでおはぎを作ることになった我家は、十勝産小豆1sを10インチ・キャンプ・ダッチオーブンで煮る。渋きり2回、挿し水では50℃程度まで湯温を下げるなど、小豆を煮る通常手順を踏んでいくが、火にかけている煮る作業自体の正味時間は30分〜40分程度で済む。
 とかく豆を煮るには時間がかかるというイメージがつきまとい、面倒くさいと思いがちだが、ダッチオーブンや圧力鍋を使用すれば、時間を大幅に短縮することが出来る。しかも、ダッチオーブンは鋳鉄製であり、手作りの伝統製法を守る老舗和菓子屋さんも鋳鉄製の大鍋で煮ていると聞けば、自ずとダッチオーブンで小豆を煮ることが正解であると理解することが出来るだろう。
 しかし、こしあんを作るとなると、裏ごしや晒しといった工程に関しては従来通りに手間がかかる。いくらダッチオーブンでもこれは門外漢だ。
 つぶあんでアンパンを作ると美味しい。買ってきた餡と違って自分で煮た小豆で作ったアンパンは素晴らしい。私はパン生地についてはフランスパン的にややドライな印象のクラムに餡を包む包むのが好きだ。
 今回はおはぎなので、やっぱこしあんでしょう!ということで小豆1s分の生餡を、銅さわりで練るのでした。

あんこ食べたい!


晒し5回目の状態

奥から10インチ・キャンプ・ダッチオーブン、銅さわり、練りあがって粗熱をとっている餡(写真では見えないが、ステンレスボウルの下には冷却用の水がはってある)

秋は栗きんとんだね!


岐阜県中津川の栗きんとんは有名ですね。秋になると一度は口にしたくなる素朴で旨いお菓子です。新宿のデパートでも売られていたりしますが…栗は私の地元の丹沢周辺でも多く栽培されており、農産物直売所でも良い感じの栗が沢山売りに出されます。
昨年(2006年)は、都合3回も自家製栗きんとんを楽しみ、レシピは完成度を上げたので、今年も作ることにしました。
まず栗の調達ですが、珈琲以上にニュークロップであることが要求されます。これが最大にして譲れない条件です。生産地の、いわゆるテロワールに関しては、きんとんの風味に影響を及ぼしますが、何より鮮度が優先です。収穫した翌日までのものを手に入れるように努力します。今年は昨年良好だった伊勢原の生産者の栗を1kg調達しました。

ざっと洗って表面の汚れを落とした栗は、2回に分けて10インチ・キャンプ・ダッチオーブンで煮ました。今回は水から25分で煮上がりました。包丁で煮上がった栗のど真ん中を切って、スプーンで中身をかきだします。この時、栗の傷んだ部分は外しておきます。珈琲界で言うところのハンドピックにあたる工程とも言えるでしょう。
仕事の都合などで、一日目はここまでの工程しか出来なかったので、ボウルにラップをしっかりとかけて、冷蔵庫に保存しました。(出来ることなら一気に仕上げるべきです。)

翌日、フードプロセッサーで栗を粉砕し、茹でたいちょう芋を加え、だいたい混ざったところで和三本糖を加えます。再びフードプロセッサーを回転させていくと、練り上げた状態になります。フードプロセッサーは連続回転させるのではなく、断続回転させることで効率的に仕上がっていきます。全体にねっとりとしたところでザルを用いて大雑把に裏ごしをします。この裏ごしによって、混ざっていた渋皮が取り除かれます。更に舌触りをシルキーに仕上げるためには、きっちりと裏ごしを行います。昨年はこの工程をしっかりと行いましたが、今年はザルごしまでで終わりとしました。このやり方でも充分なめらかな舌触りが得られました。
使用したフードプロセッサーは[クイジナートDLC-10PLUS
]で、家庭での使用には余裕のある性能を有しており、我家では重宝しています。


ダッチオーブンによる和菓子の制作例 秋の彼岸の一皿

出来たてのおはぎを皿にならべて休ませる。
翌日の方が全体が馴染んで一体感が増して美味となる。

出来合いの餡を買ってきて作ったおはぎとは、二味は違う自家製の餡。こしあんは確かに時間がかかります。丁寧に晒すと一日仕事となりますが、PCで画像修正仕事を行っている場合など、仕事の合間の気分転換にも餡作りは最適です。
餡を練り上げる際に一つまみの塩を加えますが、ゲランドは素晴らしい効果を餡でも発揮してくれます。お勧めです。