写真の技法・・・創造の力は、原初に還ることで破壊力を増す・・・ピンホールが描きだす神秘

2010年1月の個展に向けての、新作準備の一部を公開することで、写真表現の様々なことを考えるきっかけの場になれば幸いです。
道具一式を準備して、仕事の段取りをする。
2008年の梅雨。
時間を見つけては部屋の中で内職のようにピンホールを作る。
この時点では、まだ本気での制作ビジョンは見えていない。
真鍮板は、近辺のDIYショップでは0.3mm厚までしか入手出来なかったの
で、東急ハンズで購入する。

学生の頃から、「そりゃあねぇ・・・ハンズに行けば売っているだろうけれ
ど、始めからハンズに行くってのもねぇ・・・芸が無いっていうか・・・」という
会話を友人達としていたものだから、今でも、ハンズに頼ったということは
ちょっと悔しい。


一応、効率的に制作するためにアタリ線など書き入れ
る。

(画像の樽型収差が酷いのは、コンパクトデジカメの
限界ですが、ま、分かれば良いという程度の目的なら
ば、これで充分ですね。)
使用する真鍮板は0.1mm厚で、目指すピンホールの直径は0.2−0.3mm。
緻密な手作業の世界だが、別にこうした作業が嫌いな訳ではないので、
やり始めればのめり込むもの。

数を作って、その中から出来の良いものを選ぶという方法で、目的の性能
を有するピンホールを作り出す。

この手のものは、一つ作って所定のものが出来るというほど手軽なもので
はない。

しかし、やる作業は単純な繰り返し。
一応数枚作れば熟練という言葉が浮かんでくる。なんとなく上達する感触
はあるものである。

外は雨・・・J.S.Bachのカンタータを聴きながら、快適な仕事。
気分転換は、珈琲工房ホリグチで買った豆でドリップする。
マンションの一室という、大した制作環境ではないが、文字にすると優雅
な制作風景。



きぬくけ針で真鍮板の表面に凸面を作り、耐水ペーパーで磨いて穴をあ
ける。

ピンホール解説本にある記述通りのやり方で行う。上写真はペーパーが
けをしてあいたばかりの穴。



これは(下写真)#600の耐水ペーパーで研磨しているところ。
穴の状態を7倍のルーペで見ながら出来るだけ穴の周辺の真鍮板の厚み
を薄くしていく。

先を急いで力を入れすぎると、真鍮板がアルミホイルのような波打ちのひ
どい状態になるので、気長に磨く。

だいたい半日で一枚のピンホールを作るようなペース。


目が疲れてくると、チェックがしづらくなってくる。ルーペのせいにして、家
中のルーペを動員してチェックする。

写真上は、0.25mmのピンホールをチェックしているところで、裏側からポジ
フィルムのチェックに使うライトテーブルの光を当てている。

写真下のように、PEAK製のリネンテスター・ルーペが、大雑把なチェック
には便利だった。

ちなみに、私はPEAK製のルーペを幾つか使っているが、どれもその性能
に満足している。
0.2mmのピンホールの拡大画像。
この図は、スキャナーで得た。
暗室で引伸ばし機にかけて、台板上でチェックする方法もある。
完全な円ではないが、作った中ではかなり出来の良い部類に入る。

こうして2008年の梅雨時期は終った。


EBONY WIDE4×5にピンホールが取り付けられるように、リンホフ・ボード
規格に加工した黒塗りのベニヤ板を用意した。そのピンホールをEBONYに
取り付けてしばらく遊んでいたが、もう少しフランジバックを短くしたかった
ので、専用のボディを作ることを決心した。それは、2008年の秋のことだ
が、重い腰は上がらずに年を越す。


2009年梅雨・・・ついにピンホール専用カメラボディの制作が始まる。それ
は、突然思い立って始まった。ボディ構造の中心部分は、MDF材を貼り合
わせながらつくっていく。3ミリ厚のMDFの端材が沢山あったので都合が
良かった。それらを無駄にすることなく、カメラという新しい命にかえられる
のだ。

木工用ボンドで積層させるように張り合わせながら、ボディ・ベースを仕上
げて行く。そして、外装部分はラワンベニヤ板、桜、アガチス等、これも手
持ちの端切れ板を流用した。なるべく新規購入部材を減らすように努力し
た。後で鬼目ナットを埋め込む部分などは、MDFでは効きが悪いので、桜
材などを使うようにしている。

この制作工程を撮ったのは7月。制作期間は短く、接着剤の乾燥時間を充
分にとっても1週間程度だった。これで外装部のニス塗装まで終らせた。

意外と神経を使った箇所は、三脚穴だ。しっかりと三脚に固定する時に、
強い力が加わるので、ナットの埋め込みには少々工夫した。

ところでこの2枚の写真、葉の影が写っているが、我家の葡萄(マスカット・
ベーリーA)の葉影である。葡萄の木陰でカメラオブスキュラを仕上げてい
った。それは、象徴的な意味を持つように私は思い、1人で感動したのだ
った。
ピンホールの直径 0.2mm
バックフォーカス(フランジバック) 39mm
F. 195
6×7ロールフィルムホルダー装着(4×5カメラ用)

2009年8月上旬・・・我家の小さな庭でテスト撮影を2回行い、実使用時の
露出傾向を把握した。おおよそ、f. 22で計測した値に×200の露出を与え
るのが基準となる。それは、1分前後の露出時間(シャッタースピード)の
場合のデータで、それに相反則不軌を考慮することになる・・・が、そのあ
たりは昔からの制作の関係で、感覚的に慣れているので特に不便はな
い。


写真は、神奈川県秦野市にある震生湖畔での撮影状態。この8月はこの
地へ何回か足を運び、このピンホール・カメラで撮影を行った。その際、何
人かの方々に「何をやられているのですか?」と質問されたので、この状
態を目撃した方々は多いと思う。

従来の「写真の技法」ページは、内容を一新していく予定です。

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