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四尺玉 上から見るか横から見るか
作:高居空
「それでは、テストを始めましょう」
暗幕で光の遮られた室内。蝋燭の明かりで照らされたテーブルの向こうで、ヴェールで顔を隠した女が水晶玉に手をかざしながら俺達にそう告げてくる。
対する俺は、どうしてこんな怪しげな空間に足を踏み入れてしまったのかと、今更ながら後悔していた。
思い返せば、あの看板に出会ったタイミングが悪かったとしか言い様がない。俺の通う大学の学祭、一通りめぼしい所を見て回り、他に何か面白い出し物はないかと廊下をぷらぷらしてたところで、「あなたの人生を変えちゃう(かもしれない)心理テスト♪ あなたの本当の姿が分かる!? ペア限定で実施中♪」という看板が目に入ったのだ。
それだけなら「んなこといったって、相手なんていないし」と素通りしているところだったろうが、たまたまその時、俺は講義をよく一緒に受けている宮永とばったり出会い、何か面白いところはないかと話をしていたところだった。そこで宮永が「“カップル”じゃなくて“ペア”って書いてあるんだから、俺達二人で入ってもいいんじゃないか」みたいなことを言い出して、そのアクティブさに引きずられるように気付けばこの部屋に足を踏み入れていたのだ。
そこで待ちかまえていたのが、どうみても心理学専攻のゼミ生じゃなくオカルト研究会系の格好をした目の前の女だった。明らかにうさんくさいが、いまさら回れ右して出て行くわけにもいかず、結局こうして二人で心理テストを受けることになったというわけだ。
「では、これから私があるシチュエーションを提示します。そのうえでシチュエーションにまつわるいくつかの質問をさせていただきますので、皆さんにはそれに対する答えを、やはり私が用意したいくつかの選択肢から選んでいただきます。答えは二人同じものでも別々でも構いませんし、二人で相談して一つに統一してもOKです。全ての質問が終わった後、選択した回答によってあなた方の本当の姿が明らかになる……といった流れになります」
だがまあ、いまさらどうこういっても仕方ない。さっさとこの心理テストを終わらせて、外にでることにしよう……。
「それでは、あなた方は今、打ち上げ花火がよく見える場所に来ています。さて、これから次の打ち上げ花火が打ち上がるようですが、打ち上げられる花火玉の大きさは次の3つのうちどれでしょう。
A 二尺玉 B 三尺玉 C 四尺玉
ちなみに、お分かりだとは思いますが数が大きくなるほど玉は大きくなります」
そんなの大きい方が良いに決まってる。花火の醍醐味といったらやっぱり大輪の花だからな。
宮永も同じことを考えたらしく、俺と一緒の四尺玉を選択する。
「はい。それでは次です。皆さんの選んだ花火玉、それが今打ち上がりました。さて、花火はどの高さで花開いたでしょうか。
A 思ったより低空 B はるか高空
さあ、どちらでしょう?」
これも考えるまでもない。せっかくの大輪が低空で花開いたんじゃあ打ち上げ失敗もいいところだ。答えはBしかない。宮永も即答で俺と同じ答えを選ぶ。
「はい、それでは最後の質問となります。皆さんは、その花火、上からと横から、どちらのアングルで眺めてますか? 自分が好みの方を選んで下さい」
? 下から、じゃなくて、か?
聞き直す俺に対し、選択肢は上からと横からの2つしかないという女。何とも不自然極まる選択肢だが……。
「う〜ん、それだと上から、かなあ……。滅多に見られるアングルじゃないし……」
これまでの質問に即答してきた宮永も、今回の問いについては相当迷いがあるのか、上からとは口にしたものの、いまいち歯切れが悪い。この口ぶりからして、俺が絶対横から見た方が良いと強く言えば、答えを横から見るに変えることもありえるだろう。
ここで二つの選択肢について冷静に考えてみる。
上から眺めるという選択肢のセールスポイントは、宮永も言ったとおり、滅多に見られるアングルではないということだ。具体的にそのようなシチュエーションがあるとすれば、飛行機がたまたま花火大会の会場の上空を飛行していて、窓から眺めることができたくらいしか思いつかない。それに遭遇することは相当ラッキーだと言えるだろう。
対する横から眺める選択肢のウリは、そのシチュエーションだ。花火を横から見るとなると、十中八、九、タワー等の展望室から花火を眺めるということになるだろう。で、ポイントは、わざわざそうした展望室にお金を払って登ってまで、一人で花火を見に行くか、ということだ。当然そこには他の誰かがいてしかるべきだろう。そう、横から一緒に花火を眺めるという、何とも良いムードを共有するだけの相手が。
う〜む、この選択肢、どれを選ぶべきか…………
(注)ここから先は、読者の皆さんがどの選択肢を選んだかによって、ルートが3つに分岐します。下のルートから1つを選んで下さい。
・上から眺める……………………ルートAへ
・横から眺める……………………ルートBへ
・宮永を説得し、二人とも横から眺める選択にする……ルートCへ
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