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泣きの…
作:高居空
ぬう、こいつは……。
皆の視線が集まる中、俺はさすがに自分が置かれた状況に危機感を感じ始めていた。
ダチ達と共にこのカラオケボックスになだれ込んだのはどれくらい前の事だったか。もはや三次会だか四次会だかも定かじゃないが、ともかくここに来るまでに酒をしこたま飲んだ俺達は、更にこの部屋でアルコールを充填しながら、皆で盛り上がっていたのだ。
で、どこでそういう流れになったのかは覚えちゃいないが、ともかく気が付くと俺達はこの部屋でカラオケではなく野球拳を始めていた。そう、じゃんけんで負けた方が一枚ずつ脱いでいくという、あの野球拳だ。で、我に返ったときには俺はパン一になっていたというわけだ。
はっきり言って、こいつはまずい。まあ、モノ自体は見られたって減るもんじゃあないが、問題は野球拳の敗者に待っている罰ゲームだ。そう、こいつを始めるとき、俺達は皆で「負けた奴は罰としてそのままオ○○ーショーをする」って決めてたのだ。いくら酒が入っているとはいえ、こいつはさすがにハードルが高すぎる、しゃあない。ここは泣きの一手で何とか……。
「なあ……」
「なんだあ? ここまできて怖気づいたのかあ? ったく、だらしねえなあ。飲みが足らねえんじゃねえのか?」
そう言ってダチの一人がニヤニヤしながら突き出したジョッキを、俺はふんと鼻を鳴らしながら奪い取ると、一気に飲み干す。
「おおっ、良いねえ! そら、そいつで色々振っ切れたんじゃねえか?」
んなわけあるかいな!
そう言い返そうとした俺だったが、それよりも早く、俺の向かいに立った罰ゲームの言い出しっぺでもある対戦相手のダチが楽しそうに口を開く。
「まあ、良いぜ。一回くらい泣きの一手を認めてやってもさ。ただし……」
そこまで言うと、ダチは足下に置いた鞄の中に手を突っ込むと、そこから赤い色をした何かを取り出した。
「さすがに無条件で、とはいかないな。特別に一枚ここで服を着るのは認めてやるとして……着る物はこいつにしてもらおうか」
ニヤリと口を歪めた奴が手にしていたもの……それはブラジャーだった。
エロさ重視の際どいデザインをした深紅のブラ。さらにカップの大きさからして、そいつは明らかに巨乳向けに作られてるのが分かる。
「さあ、こいつを付けるか、それとも、このまま続けるか……。どうするよ?」
俺はどちらでもいいぜというような顔をしながら、選択を迫ってくるダチ。
く、こいつは…………。だが、別に本格的な女装をするわけでもなし、オ○○ーショーをするよりはまだこっちの方が……。
しばし迷ったものの、意を決した俺は、ピッチャーから空になったジョッキにビールを注ぐと、そいつを再び一気飲みし、やけくそだとばかりにそいつから赤い布地を奪い取る。
「良いじゃねえか。こいつを付けてやるよ!」
その決断に、ヒューヒューと指笛ではやし立ててくるギャラリー。
だが、当然ながら俺はこんなもん付けるのは初めてだ。いや、そもそもこいつ、大きさ的に俺の体の後ろでフックできんのか?
「ああ、心配すんな。そのシリーズはな、製品に合うように付けるもんを最適化する機能が備わってんだ。何となくやっても、最後にはきっちり収まるところに収まるようになってる」
そんな俺の心の中を見透かしたように、ブラを持ってたダチがニマニマしながらジョッキ片手に声を飛ばしてくる。
なんじゃそりゃ?
そう思いながらも、ブラのカップを胸に当て、留め金のついた布地を背中に回して後ろ手でぐちゃぐちゃすると、いとも簡単にフックが止まる。
おお、止まった!
そのまま肩紐を肩にかけると、ブラはしっかりと俺の上半身へと固定された。
これで良し、と。
…………いや、本当に良いのか? エロブラジャーに男物のパンツを履いた奴って、正直、他から見たら気色悪いだけじゃねえのか。
「だから言ったろ、そいつはその品物に合うように付けるもんを最適化するって。ほら、気になるなら自分で確認してみろよ」
心を読んだかのようなその声に、上体を曲げ視線を下ろした俺の目に飛び込んできたのは、いつの間にかブラとお揃いの深紅の色をした三角形の布地へと姿を変えたパンツだった。
…………うん、これなら問題ないな。
満足し、俺は髪をかき上げながら上体を起こす。体を動かしたことで、ブラで固定されているにも関わらずわがままな大きな胸がぷるんと揺れる。
それを見て再び指笛を吹いてはやし立てるダチ共。
そんな男共に俺はぺろりと舌なめずりしてから、ニイッと挑発的な笑みを送る。
「さあ、ここからが本番よ♪」
そう、ここまでは全て俺のプラン通り。
あいつらは気付いちゃいないだろうけど、俺はここまで、相手の手を見てからワザと後出しで負けてやってたのだ。
なぜかって? そんなの、男共に俺のナイスバディを見せつけるために決まってるじゃない♪ でなけりゃ、わざわざオトコに魅せる用の下着なんてチョイスしないわよ♪
………あれ?
なんか少し違和感のような物を感じたような気がしたけど、俺はすぐに眼前の勝負へと意識を集中する。
だけど男共へのサービスはこれで終了、ここからは真剣勝負! 俺の動体視力と反射神経、甘く見ないでよね! 間違っても、そう簡単にタダでオ○○ーショーなんて見せてやらないんだから♪
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