トップページに戻る

小説ページに戻る
 


ワイン・オンザ・ビーチ
−スパークリングワイン−

作:高居空


「はいスパークリングワイン! ハジけるぜ!」
  ワインを出すような店とは思えないような威勢の良い店員の声とともに、紙コップに入れられたスパークリングワインが手渡される。
  おいおい紙コップかよ、とも思ったが、こんな場所でワイングラスという訳にもいかないなと思い直し、浜辺に目をやりながらコップを傾ける俺。
  瞬間、視界がぐらりと揺れる。
  何だ?
  突然の目まいに前につんのめりそうになるのを、すんでで堪える俺だったが、手にしたコップから中身がほとんど飛び出てしまう。飛沫が胸の谷間を濡らす感覚。
  ……谷間?
  その違和感に視線を下ろすと、そこには膨らんだ二つの塊があった。
  ピンクのビキニトップにより支えられたそれは、胸元に確かな谷間を作り出している。
  更に視線を進ませると、腰はくびれ、さらに胸の水着と同色のビキニパンツに包まれた股間には、あるべき膨らみがない。肌には張りがあり、むだ毛はどこにも見あたらない。
  コップを持たない手を胸元へと向けると、それは自分の物とは思えないほど細くなっていた。前屈みになった視界の端に、長く伸びた髪がかかってくる。まるでそれは、10代後半の少女の肉体のように見えた。
  ……ってあれ? 大体こぼしちゃったけど、何でアルコールの入った飲み物なんて持ってたんだろう?
  自分の歳では飲めない物を手にしていたことに戸惑う私。いや、オトナな体験はしてみたいとは思ってたけど、これはちょっと違うよね。
  そう、高校生になって初めての夏を迎えた私は、これまでの地味地味だった自分から心機一転、アオハルを満喫ためにこの海岸にやってきたのだ。ビキニの水着も初めてで、実はちょっと今も恥ずかしいけど、オトナの階段を登るためには、これも必要な経験! のはず!
「よーし、はじけるぞー!」
  紙コップをゴミ箱にポイした私は、未知の体験を求めて輝く渚に向かって走りだすのだった。



トップページに戻る

小説ページに戻る