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ワイン・オンザ・ビーチ
−白ワイン−

作:高居空


「はい白ワイン! 相性がいいのは魚だな!」
  ワインを出すような店とは思えないような威勢の良い店員の声とともに、紙コップに入れられた白ワインが手渡される。
  おいおい紙コップかよ、とも思ったが、こんな場所でワイングラスという訳にもいかないなと思い直し、浜辺に目をやりながらコップを傾ける俺。
  瞬間、視界がぐらりと揺れる。
  何だ?
  突然の目まいに前につんのめりそうになるのを、すんでで堪える俺。コップの中のワインが波打ち、胸が大きく揺れる。
  ……胸?
  その違和感に視線を下ろすと、そこには大きく膨らんだ二つの塊があった。
  純白のビキニトップにより支えられたそれは、胸元に大きな谷間を作り出している。
  更に視線を進ませると、腰はくびれ、さらに胸の水着と同色のビキニパンツに包まれた股間には、あるべき膨らみがない。肌は水着の色に負けないくらい白く、むだ毛の一つもない。
  コップを持たない手を胸元へと向けると、それは自分の物とは思えないほど細くなっていた。前屈みになった視界の端に、長く伸びた黒髪がかかってくる。まるでそれは、20代前半の女の肉体のように見えた。
  あまりの事態に呆然となりながら視線を上へと戻すと、照りつける太陽の下で輝く海と、そこで戯れる人々の姿が入ってくる。
  その中の一点に、吸い付けられるように視線が向かう。
  それは、この海の家に来る前、海で遊んでいたときから気になっていたものだった。
  ほとんどの人が波と戯れ遊んでいる中、一人沖の遊泳可能地点を示すロープと砂浜とを黙々とクロールで往復し続ける男性。トライアスロンの選手か何かなのか、ストイックに遠泳する姿は、場違いとも思えたが、自然と目が惹き付けられるものがあった。
  そんな彼は、今も視線の向こうで魚のように泳ぎ続けている。彼の無駄肉のそぎ落とされた引き締まった肉体を思い浮かべ、わたしの胸はトクンと高まるのだった。



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