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ワイン・オンザ・ビーチ
−赤ワイン−

作:高居空


「はい赤ワイン! 肉食と相性ばっちりだ!」
  ワインを出すような店とは思えないような威勢の良い店員の声とともに、紙コップに入れられた赤ワインが手渡される。
  おいおい紙コップかよ、とも思ったが、こんな場所でワイングラスという訳にもいかないなと思い直し、浜辺に目をやりながらコップを傾ける俺。
  瞬間、視界がぐらりと揺れる。
  何だ?
  突然の目まいに前につんのめりそうになるのを、すんでで堪える俺。コップの中のワインが波打ち、胸が大きく揺れる。
  ……胸?
  その違和感に視線を下ろすと、そこには大きく膨らんだ二つの塊があった。
  ワインレッドのビキニトップにより支えられたそれは、胸元に大きな谷間を作り出している。
  更に視線を進ませると、腰はくびれ、さらに胸の水着と同色のビキニパンツに包まれた股間には、あるべき膨らみがない。
  コップを持たない手を胸元へと向けると、それは自分の物とは思えないほど細くなっていた。前屈みになった視界の端に、長く伸びた髪がかかってくる。肌の張りから見て、それは20代前半の女の肉体のように見えた。
  あまりの事態に呆然となったところに、いきなり声が飛んでくる。
「ねえ君、今、一人?」
  振り向くと、そこには適度に日焼けした、茶髪の軽薄そうな顔をした男が立っていた。
  チャラ男だ。チャラ男に間違いない。
  容姿から瞬時にそう判断するが、その体は男らしく引き締まっており、強いフェロモンを感じさせる。
  ふ〜ん、見た感じ歴戦の勇者といったところかな。おそらくテクも百戦錬磨なんだろう……。
  そう考えたときには、口が勝手に動いていた。
「ええ、そうなの。なぜか誰も相手をしてくれなくて」
「へえ、もったいない。こんなに美人さんだってのに」
  男の世辞だか本心だか分からぬ言葉に、ワタシは目を細め口元に笑みを浮かべて応えるのだった。



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