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続・虎退治
作:高居空


  気が付くと、私は忘れようにも忘れられないあの場所に立っていた。
  辺りは見渡す限りの竹林。だが、そこに生えている竹はどこか現実離れしており、まるで日本画に描かれている竹のような印象を受ける。
  そして、私はいつの間にか深紅のチャイナドレスに身を包み、一本の槍を携えていた。
  間違いない。ここは2年前の初夢で見た場所だ。あの夢で、私は中華系美少女に姿を変え、槍を片手に、目の前に現れた虎を見事退治したのだった。
  しかし、これは僥倖だ。あの夢の性質からして、再びこの場所に来られるのは早くて12年後だと思ってたけど、こうして2年後の初夢でやってこれるとは。
  口元に笑みが浮かんでいることを自覚しながら、周囲を見渡す私。
  しばらくすると、あの時と同じく『グルルルゥ……』という唸り声とともに、竹と竹の間から一匹の虎が顔を出す。
  屏風絵から飛び出てきたかのように、大きな目とニヤリとした口元をした、現実の虎とは大きく異なるデフォルメチックな顔つきをした虎。その姿に、私は全身の血が沸き立つのを感じていた。
  まさに千載一遇の好機!
  ペロリと舌なめずりした私は、虎の前に仁王立ちする。
  そう、2年前の初夢で見事虎を退治した後、目を覚ました私が最初に見たのは、自分の体を包む深紅のチャイナドレスと大きく張り出した二つの胸だった。
  結論から言うと、どうやらあの夢の世界と現実世界はなんらかの縁で繋がっていたらしい。あの夢で中華系美少女に変身した私は、現実世界でも女の子になっていた。いや、正確には元から女だったことになっていた。私の存在は、『中国武術に夢中な、でもそれだけじゃ食べていけないので、師範の親戚の中華飯店でチャイナドレス姿でウェイトレスのアルバイトをしている中華系少女』へと書き換えられていたのだ。
  ただ存在を書き換えられただけではなく、ちゃんとその設定に基づく知識も頭に入っていたため、女の子としての生活や接客業に支障はなかったし、何なら中国武術のお陰で酔客や体目当てで寄ってくる男どもを物理的にいなすのは容易だったけど、あの男どもの下心丸出しのいやらしい目つきだけは今でも慣れない。いや、そもそもあの店でウェイトレスを続けている自分にもその責任の一端はあるのだが。だってあの店そこらのバイトより断然お給金良いし、それにチャイナドレス着た私って、自分でオカズにできるくらい可愛いし……
  って、違う違う! ともかく、私は再び自分の存在を書き換えるべく、その機会を待ちわびていたのだ。
  そんな事を考えている間にも、竹林から姿を現した虎は一定の距離を取って私と対峙する。何故かは知らないが、虎はその体に縦縞の野球ユニフォームを着込んでいた。が、そんなことに私は興味はない。あの虎を前にしたとき何をすべきか、それは既に頭の中で何回もシミュレーションしてきた事柄だったからだ。虎がどんな格好をしていようが関係ない。私はあの虎を……
  思いっきりヤりまくることに決めているのだ。
  そう、あの虎の穴を、私のぶっとい棒で突いて突いて突きまくってヒイヒイ言わせてやるのだ!
  ただ問題は、その穴を貫く棒を、今の私は持っていないことなのだが……
『穴を貫く棒が必要なのですね。でしたら、作って差し上げましょう。ただし、対価はいただきます。夢の中とはいえ、完全なる無から有は生み出せない故。何かを作り出すには、その品に類似性のある何かを捧げて頂かなければなりません』
  と、そこで私の脳裏にどこからか声が響く。
  そしてそれは、私が待ち望んだ声でもあった。
  2年前のあの日、虎と戦う武器を望んだ私は、あの声の持ち主による疑似等価交換により、私の棒と引き替えに今手にしている槍を手に入れた。今回はその逆。この槍と引き替えに、私は穴を貫く棒を手に入れるのだ!
  懸念材料は、虎と戦う武器が失われることだが、この2年、この状況を見据えて私は功夫を積んできた。今なら、徒手空拳でもあの虎に勝てる自信はある!
  そうこうしている間にも、手にした槍が姿を変えていく。
  ……姿を変える? 確かに槍はその輪郭をぐぐっと変えていっている。だが、その場所が手から移動する気配はない。
  やがて変化がおさまると、私の手には一本の棒状の何かが握られていた。
  その棒は、男性のアレを模したような形をしていた。そう、あくまで作り物だ。その一部には何かのスイッチがあり、試しにオンにすると、棒全体が卑猥な振動を刻み始める。
  いや、これって確かに穴を貫く棒かもしれないけど、いわゆる大人のオモチャでは……
  が、そのことに気を回せるのはそこまでだった。
  私が手にした物に貞操の危機を感じたのか、虎が物凄い勢いで突進してきたからだ。
  ああ、もうしゃあない!
  私は片手に大人のオモチャを持ったまま、虎にカウンターの一撃を見舞うべく半身の構えを取るのだった。


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