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投稿小説サイト
作:高居空


「お、こいつは初投稿か……」
  夜中、仕事を終え自宅でパソコンのメールソフトを立ち上げた俺は、そこに届いていたメールを確認し、独り笑みをこぼしていた。
  俺は趣味としてTS物の総合情報サイトを運営している。そのコンテンツの一つとして、TS同人小説の投稿を受け付け、それをサイトに掲載するということを行っているのだ。
  TS同人小説の書き手にとって、俺のサイトに投稿する事はそれなりのメリットがある。
  まず、俺のサイトは小説オンリーの投稿サイトや個人サイトに比べ、アクセス数が圧倒的に多い。俺は小説の他に、様々なTS物に関する情報を毎日必ずアップしている。それなりに手間はかかるが、閲覧者は俺のサイトが毎日更新されているのを知っているから、日に1回は内容をチェックしにくる。つまりはリピーターを増やすための努力ってわけだ。そうやって名を売っておけば、新規でこの世界で入ってくる奴らも、そうしたリピーターから情報を聞きつけこのサイトへとやってくる。結果、俺のサイトはTS物を扱うサイトの中でもトップレベルのアクセス数と認知度を誇るサイトとなっているのだ。そこに小説が掲載されるということは、それだけ多くの人に自分の作品を読んで貰えるということである。仮に自分で小説サイトを立ち上げている書き手であっても、自分のサイトへのバナー代わりとして俺のサイトを“利用”する価値は十分にあるだろう。
  次に、俺は小説の掲載にあたり、付き合いのある複数の絵師に依頼して挿絵を製作して貰っている。投稿者にとってはこれがデカい。俺もそうだが、こうした同人小説書きというのは基本的に絵心が無い者が多い。それはそうだろう。もしも絵が上手ければ、ジャンルの特徴からいってもいちいち小説なんて書かずに漫画を描いているはずだ。そして、自分の小説に無料で挿絵を描いてもらえるなんてことは、よほど親しいイラスト描きでもいない限りはまずない。俺のサイトでは、そうした同人小説書きの“夢”をタダで叶えてやっているのだ。これだけでも同人小説書きにとって俺のサイトに投稿する意味はあるだろう。
  と、このように投稿者側の方にかなりのメリットがある俺のサイトだが、小説を掲載するにあたって、俺は投稿者に対し1つだけ条件を付けさせてもらっている。これは投稿者にとっては大きなデメリットともいえるものだ。それは、作品の著作権を俺に譲渡するとともに、作品に関わる全ての事項について俺の修正を無条件で受け入れるというものである。
  作家にとって、自分が心血注いで生みだした作品が他人の物となり、さらに勝手に修正されるかもしれないというのは受け入れがたいものもあるだろう。この業界の同人作家でうちとは関わりを持ってない人も結構いるが、ひょっとしたらそれが足かせとなっているのかもしれない。
  ただ、基本的に俺は投稿された作品に対して修正を行うような事はしていない。もしもその作品があまりにも読むに耐えないような物だった場合は、その旨とどこを改善すべきかをメールで返信し、作家自身に修正をお願いしている。俺が修正するのは、それとはまた別の部分だ。
「なるほど、ペンネームは“あるふぁ”ね……」
  俺はメールの中身を確認し、独自に作成したデータベースソフトを立ち上げる。サイトに投稿してきた作家の情報を、俺はこのデータベースで管理している。さっそく新規入力ページの氏名欄に“あるふぁ”と入力する俺。
「さてと、それじゃどんどんデータを入力していくか。“あるふぁ”ちゃんは16歳の女子高生。クラスの中でも五本の指に入るくらいの可愛い女の子っと……」
  名前に続き、投稿者のプロフィールを入力していく俺。
  当たり前の事だが、送られてきたメールの中にはそんなプロフィールなどどこにも書かれてはいない。が、そんなものは別に俺は必要とはしていない。俺は作品に関わる全ての事項について修正する力と権利を持っているのだ。そして、当然ながら作品には作者名が記されている。つまり、作者もまた作品を構成する要素の一つであり、作品に関連しているということだ。ならば、その作者のプロフィールについても、俺は『それを修正する力と権利を有している』。
  今頃、投稿者はどこかで16歳の可愛い女子高生、“あるふぁ”ちゃんへと変貌を遂げているはずだ。
「身長は149センチ」
  続けて“あるふぁ”ちゃんの身長をわざと低めに設定する俺。向こうでは目線の高さがぐぐっと低くなり、男物の服がだぶだぶとなっていることだろう。自分が変わってしまったという事を認識させるための俺なりの演出である。
「だけどバストはFカップと……」
  これで“あるふぁ”ちゃんは身長に見合わぬ巨乳の持ち主となった。嫌でもその身に備わった2つの膨らみが目に入っているはずだ。最初に可愛い女の子と設定してあるから、今の“あるふぁ”ちゃんは“ロリ巨乳の美少女高校生”ということになる。
「“あるふぁ”ちゃんの着ている服は高校の制服でブレザーにミニスカート。ちなみに夏はシャツでOK、チョッキは認めないと……」
  続いて“あるふぁ”ちゃんの服装を指定する俺。これで、向こうの衣服も男物から女子高生の制服へとその姿を変えているはずだ。
  この服装のチョイスというのは結構重要である。大抵、TSされた者達が最初にすることといえば自分の身体の確認だ。となると、衣服はなるべく脱ぎやすい、というより脱ぎ方が分かりやすい方が良いに決まっている。ウエディングドレスなんかは論外、セーラー服なんかも正しい脱ぎ方を知っている男は限られているだろう。やはり“最初”は男物と作りの似ているブレザー型の制服が一番だ。
「さてと、それじゃ最後に……」
  入力画面の一番下の欄に設けられた『性癖』という項目。そこに俺は、“自慰好き”と入力する。
  これで、自らの肉体を探究し始めた“あるふぁ”ちゃんは、そのままたまらなくなって自慰へと突入していく事になる。さて、向こうがお楽しみの間にこちらは……
  再びメールソフトへとディスプレイの表示を戻した俺は、投稿されたメールに対する返信を作成していく。

『今回は当サイトに投稿頂きありがとうございます。
  ところで、当サイトからのプレゼントはお楽しみいただけましたでしょうか。
  これから“あるふぁ”さんは、16歳の女子高生として生きていく事になります。
  このメールをご覧になっている頃には、“あるふぁ”さんの頭の中には女の子としての知識と記憶が形成されていることでしょう。周りの方も、あなたのことを最初から女の子だったと認識されているはずです。
  そこでもし“あるふぁ”さんに元に戻られたいという希望があるのであれば、お手数なのですが、さらに作品を当サイトへと投稿して頂けますでしょうか。条件が満たされ次第、元の姿へとお戻しいたします』

  そう、俺が投稿者を女の子に変えたのは、ひとえにサイトに投稿される小説の本数を増やすための戦略だった。これで投稿者が元の姿に戻りたいとなれば、最低でもあと1本はこのサイトに小説を投稿しなければならない。ついでに言えば、俺は1本作品を送れば元に戻すなどとは返信のどこにも書いてはいない。元に戻す条件は『さらに作品を投稿する事』だ。具体的に何本送れば条件が満たされるのかはあくまで俺次第。闇ルート的な方法で逆襲を受けても困るのであまりしつこくはやらないが、うまくはまればこれで5,6本は作品を確保出来る。これぞ他の投稿小説サイトにはない、このサイト独自の積極的な投稿者への働きかけってやつだ。もちろん、この事を他言した場合は今より酷い状況になることも文末に付け加えておく。
  が、実際の所、これだけでは投稿者が再び作品を投稿してくる確率というのはあまり高くはない。普通のサイトならともかく、俺が運営しているサイトは特殊な趣向を取り扱っているサイトなのだ。だから俺は、さらに次の一文を追加する。

『または、他になりたい“女”があるのであれば、ご要望にお応えします。名前、容姿、年齢、職業、服装、既婚又は彼氏持ちといった項目まで細かく対応が可能です。希望される場合は、次回作を送られる際にメールになりたい女のプロフィールを添付して下さい。なお、一度要望を送られた後でも、もう一度作品を送る際に記載して頂ければ何度でも内容の変更が可能です。投稿お待ちしております』




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