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効果的な体操
作:高居空
いや無理だろ。
テーブルの上に置いたスマホの画面に向かい、俺は相手に届かないことを知りつつも、思わずツッコミを入れていた。
『体操は、鏡とか自分の姿が写る物の前でやるのが効果的だにゃ♪ 今日はみんなもやってみるにゃ♪』
ツッコミを入れた腕の先では、メイド服に身を包み、頭にネコミミを付けたアニメチックな巨乳美少女がウインクしている。
俺が今観ているのは、いわゆるネット配信動画だ。コスプレした子が軽く体を動かす系のネット動画で検索してヒットしたのが、このチャンネルだったのだ。
まあ、彼女の言うことも一理ある。体操をしてるとき、自分は手本通りに体を動かしているつもりでも、他人の目で見るとかなり姿勢が崩れているなんて例は結構ある。つまり、自分の姿は自分じゃ見えないし、思った通りにも動けていないって事だ。本来の動き通りに体を動かせなければ、運動の効果も半減する。その点、自分の姿を見られる環境を整え、自身の動作を確認しながら意識して体を動かせば、体勢が崩れることもなく、想定通りの運動効果が得られるだろう。
が、ここに一つ問題がある。自分の体を見ながら運動するということは、即ち手本を見ないということだ。つまりは、体操の動きをきっちり脳内再生できるレベルでないとダメって事である。そんな目を瞑ってでもできるような体操なんて、ラジオ体操くらいだろう。それも第一オンリー。第二は結構怪しい。
そんな俺が、初見の体操動画で手本を見ずに体を動かすなんて、夢のまた夢って奴だ。
『さあ、それじゃいつもの体操いくにゃあ♪』
当然、画面の向こうの提案は無視し、俺は流れ始めた曲に合わせて動く少女の姿をなぞるように体を動かし始めるのだった。
はあ、はあ、めっちゃ、本格的……。
見た目に寄らず結構ストイックだった体操。
スマホから流れる曲が終わる頃には、体は汗だくになっていた。
だがまあ、これだけ動けばさすがにダイエット効果はあるだろう……
そんなことを考えながら手で額の汗を拭い、スマホへと目を戻す。
「……あれ?」
そこでようやく何かがおかしいことに気付く。
テーブルの上に置かれたスマホ、それがいつの間にか、誤動作していたのだ。
「? 触ってもないのに、なんで自撮りモードになってるにゃ?」
そう、スマホはいつの間にかカメラの自撮りモードになっていて、画面にはメイド服に身を包んだ自分の姿が映し出されていた。もちろん、頭にはトレードマークのネコミミ付きだ。
「むう、タイマー機能なんか入れたつもりないんだけどにゃあ? ……でも、これってひょっとしたら怪我の功名かもにゃ」
腑に落ちないながらも、すぐに結果オーライかとポジティブシンキングに切り替えるわたし。
だって、さっきの体操の時、わたしは画面に映っているのが手本の子だと信じて疑わなかった。いつから自撮りモードに切り替わっていたのか知らないけど、それに全く気付かなかったってことは、わたしが指先一本、いや髪の毛一本まで手本の子と全く同じ動きができてたって証拠じゃにゃいか♪
“いや、動きどうこうより体そのものが同じに……”
頭の片隅でそんなノイズが走った気もしたけど、額に浮かんだ汗ごとそれをタオルで拭き取るわたし。汗だくの顔がとりあえず見られる顔になったのを自撮り画面で確認し、続いてカメラに向かってウインク♪ その動きに合わせて、画面にはこちらにウインクを飛ばすメイド服を着たネコミミ巨乳美少女が映し出された。
うん、我ながらあざと系美少女だにゃわたし。かわかわ可愛い、可愛いにゃ♪
「さあ、この可愛さを磨くためにも、もう1セット追加だにゃ♪」
エイエイオーとばかりに片腕を突き上げると、わたしはさっそく体を動かし始めるのだった。
……あ、せっかくだから体操の様子を配信しちゃおうかにゃ?
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