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異世界に王様転生!

作:高居空


『おお、冒険者よ、死んでしまうとは情けないのう……』
  暗闇の中、飄々とした、だがどこか人を小馬鹿にしたような爺さんの声が響く。
  気がつくと俺は、この上も下も分からない、いや、そもそも自分が立っているのかどうかさえ判然としない混沌とした空間に放り込まれていた。
  ここでそこいらの奴らならば仰天してパニックを起こすか、不安で半狂乱になるところなんだろうが、そこはそうした凡俗な奴らとはレベルの違う超一流冒険者の俺。こんな時こそ慌てちゃいけないことは十分に承知している。こんな時に周囲も確認せずに衝動的に動いたりなんかしたら、今俺が攻略中の地下迷宮なんかじゃ、落とし穴にひっかかるくらいならまだ良い方、運が悪けりゃテレポーターの罠を発動させて岩の中に転移させられ強制終了だ。この俺は将来王となる男だ。それがそんなつまらん死に方をしていいわけがない。さて、まずはこの場がどんなところか冷静に周囲の状況を探ることから…………って、そういや今の声、誰かが死んだとかって言ってなかったか?
『そうじゃ、お主じゃお主。死んだのはお主じゃよ』
  ……って、なんだって? 俺が死んだ? はっ、バカな、なに言ってんだこの爺さんは。だって今、俺はこうしてここに存在しているじゃないか。
  ……まあ、不死系のモンスターの中にゃ、生前の記憶を持ってて、生きてるときとあまり変わらないような動きをする奴なんかもいるにゃあいるが、俺に限ってそれはない。なぜなら、俺には『死んだ瞬間の記憶』ってのがないんだからな。
  というか、いっちゃあなんだが、今日に限って、俺は死の危険があるような場所には一歩も足を踏み入れちゃあいない。いつもみたいに死と隣り合わせの地下迷宮に潜ってるってんなら別だが、今日俺は、その地下迷宮探索の功を認められ、この国の王宮で女王から直々に褒美を賜っていたのだ。
  小さいながらも歴史のあるこの王国で、建国当時に王都として作られたが、その後遷都の際に破壊され、今では無人の廃墟と化している古代遺跡。その神殿跡の祭壇の下から見つかった地下への階段から続く古代迷宮が、冒険者である俺の今の主戦場となっていた。
  何でもこの地下迷宮はいわくつきの代物で、王家には口伝で、迷宮には国の成立にまつわる知られてはならない禁忌の品が秘匿されており、迷宮の入口の封印が解かれたならば、その禁忌の品を国王自らの手で再び封印せぬ限り、王家に大いなる災いがもたらされるという話が伝わっていたらしい。過去の遷都による都市の破却も、その迷宮を他者の目からそらすのが本当の目的だったのではないかとも噂されているくらいだ。
  そして5年前、遺跡を漁っていた冒険者により迷宮への入口が発見されると、伝承の通り、王家はとんでもない災厄に見舞われることとなった。迷宮発見から3年の間に、王家の男子、その全てが病気や不慮の事故により死に絶えてしまったのである。残ったのは、今この国の女王を務めている国王の后をはじめとする女のみ。
  普通そんな状況であれば、周辺諸国はこの機を逃さず攻め込んでくるか、または王族の男子を婿として送り込んで属国化を図ったりするところなんだろうが、困ったことに、その災いは王族の姫達の嫁ぎ先にも及んでいた。以前、政略結婚で姫を送り込んでいた周辺諸国の王族男子がころころと死にはじめたのである。当然、姫達は離縁となってこの国へと送り返され、そして、この国を併合することにより災いが自国の王家に及ぶことを恐れた周辺諸国はどこも手を出そうとせず、こうして女だけの王家が独立を維持するという世にも珍しい状況ができあがったのである。
  だが、世継ぎを作ることができない以上、このままではいずれ王家の血は絶え国が滅びることになるのは必定。そこで国は、冒険者達に破格の報酬をもって古代迷宮の攻略を命じることとなったのである。
  国の持ち出した破格の報酬、それはずばり姫だ。この国の王家は、地下迷宮を攻略し、災いの元と考えられる禁忌の品を持ち帰った冒険者に、この国の第一皇女を与えると宣言したのである。
  おそらくは、災いの呪いが解けたとしても、その不吉さから他の王家から貰い手が現れないことを見越した宣言なんだろうが、それにしてもこの報酬は俺達冒険者からすればあまりに魅力的だ。なんといっても、第一皇女を貰うということは、この国の現在の王位継承権第一位の夫となること……つまり、一介の冒険者が王となることのできる大チャンスなのである。
  さらに報酬はそれだけではない。禁忌の品を持ち帰れずとも、迷宮攻略に功のあった者には、第二から第六皇女までもその功績に応じて与えるという、まさに大盤振る舞いだ。中には他国の王子から離縁されたバツイチもいるが、王族になれるというメリットを考えればそんなことささいなことである。
  というわけで、この国には冒険者があふれんばかりに殺到し、その中で俺は他の冒険者達とある時は協力し、あるときは裏をかいて出し抜きながら、迷宮の攻略を進めてきたのだった。
  古代迷宮の深さは伝承によると地下十階層。今のところ、探索の手は階層を下るごとに広さを増していくフロアと凶悪なモンスターや数々の罠に行く手を遮られ、中間地点の五階層までしか進んでいないが、俺達のパーティーは……パーティーといっても、最下層まで確実に進むためにお互いを利用してるだけで、最終的には後ろ手に隠したナイフで刺し合うことになるかもしれないし、少なくとも俺はそうするつもりだが……常に探索の最前線に立って道を切り開いてきた。
  そして今日、これまでの探索の功績を認められ、俺達は女王から直々に褒美を賜るとともに、王宮主催の晩餐会に招待されたのだった。
  その席で王家の皆々様方に顔を売り込むことに成功した俺達は……もちろん将来切っても切れぬ関係となる者達に好印象を抱かせるための布石である……、その後、今日の成功を祝って、普段は足を運ぶことのない超高級酒場で綺麗なネーチャンを侍らせドンチャンやってたんだが…………この行動の中で、どっかで俺が死ぬところなんてあるか?
『ふむ、やはり気付いとらんようじゃのう。それでは聞くが、お主、その上玉のねーちゃんがいる酒場でたらふく飲んだ後、自分の宿屋へと帰った記憶はあるかの?』
  …………そういえば。
  冒険者仲間には秘密だが、実は俺はあまり酒に強くはなく、吐いたりなんかはしないものの、ある一定量以上酒を飲むと、気持ちが良くなりどこだろうと寝てしまう悪癖があった。普段は地下迷宮近くにある町の定宿にしている宿屋の一階でやってる町酒場で気持ちよくなるまで飲んだ後、二階の自室に戻ってそのままベッドにゴロリといった感じなのだが、今日は土地勘のあまりない王都で、しかも行き慣れない店でネーチャンに勧められるまましこたま飲んでしまった。その後店から出て、もう一件行こうぜと誘う仲間達に手を振り、一人今夜の宿に向かって歩きはじめたのまでは覚えてるが…………。
『ふふ、そうじゃろそうじゃろ! なんせお主、その帰り道の途中で眠ってしまったんじゃからな! まあ、普段から人のあまりいない裏道とはいえ、そのど真ん中に寝そべって、気持ちよさそうにガーガーいびきまでかいてのう』
  ……………………。
『じゃが、その人がいないというのが災いしたのう。声をかけて起こしてくれる人もなければ、そもそもこんな道のど真ん中で人が寝てるなんて、この道を知っとる者なら誰も想像せんじゃろうて。そう考えれば、あの早馬も災難じゃったのう』
  ……早馬?
『そう、早馬じゃ。お主は、王宮に火急かつ秘密の用件を伝えるべく、大通りではなくあえて裏道を飛ばしてきた早馬にはねられたんじゃよ。まあ、これでもかというくらい派手に頭を蹴っ飛ばされとったから、間違いなく頭と首の骨が折れて即死じゃな、即死。よく“人の恋路を邪魔する奴は……”とはいうが、まさか、勇者になれるかもしれんだけの力を秘めとったお主が、泥酔したあげく馬に蹴られて死んでしまうとはのう』
  …………バカな、おい、ちょっと待ってくれよ。俺は自他共に認める、冒険者の中でも指折りの実力者にして王家も注目する存在だぞ? それがそんなアホみたいな死に方をするだって? まさか。この、将来王になることが約束された俺に限って、そんなことがあるわけがない!
『かっかっか! お主、やっぱり面白いのう! 自分で自分のことを“王になることが約束された”と言うか!』
  そうだ。俺は王になって然るべき存在なのだ。それがこんなところで死ぬわけがない。いや、死んでいいはずがない!
『じゃが、死んでしまったもんはしょうがないのう』
  んなこと信じられるかってんだ! というか、爺さんお前何モンだ! そろそろ声だけじゃなく姿を現したらどうだ!
『ワシか? そうじゃのう、ワシはお主達から見たら神か悪魔か……まあそんなところじゃの。そして、そういった存在は、軽々しく人前に姿を現したりはしないのじゃ。というより、直接話しかけることさえ滅多にないんじゃが、ワシはお主の気概が気に入っておってのう』
  俺の気概を気に入っている?
『そうじゃ。お主、心の底から“王になりたい”と思っとるじゃろ? ワシは実は王の大ファンでの。様々な王の姿を愛でるのが何よりも楽しみなんじゃよ。じゃが、最近ワシの周りで王権廃止論者が勢力を増してきておっての、“望みもしないのに王にさせられるくらいなら、王という制度自体を廃止すべきだ”と言いよるんじゃ』
  王を廃止する? 何を言ってるんだその連中は!? 王といったら人間全ての憧れ、それに手が届くなら、たとえ親を殺めてでも手を伸ばすだけの価値がある存在だぞ! それを廃止しようなんて、そいつらよっぽど頭がイカレてるとしか思えん!
『そうじゃろそうじゃろ! やはりワシの見立ては正しかったようじゃな! 今のワシには、お主のような“何があっても王になる”という強い思いを持った者が必要なんじゃ! じゃから冥土に行こうとするお主の魂にこうして干渉したんじゃしの。そう、自らの意志で王になる者を確保するためにの』
  自分の意志で王になる者を確保する?
『そうじゃ。もしお主が、例え神や悪魔の手を借りてでも王になることを望むのなら……ワシがその望み、叶えてやろうと思ってな』
  なに? 爺さんの力で俺を王に? ……つまりそれは、仮に俺が本当に死んでいたとして、爺さんがそれを幸運度マックス・チートスキル満載で生き返らせてくれて、その力でお宝も姫様もゲットというやつか!
『いや、それはない。大体ワシ、蘇生の力持っとらんし』
  はあ!? それじゃどうやって俺を王にするってんだよ!
『それはじゃの、転生じゃよ、転生』
  転生?
『そうじゃ。ワシは死者の魂をある程度自由にワシが望む存在へと転生させる力を持っておる。対象となる死者の魂も合意の上という条件付きじゃがの。その力で、お主が望むのなら、お主を“王”へと転生させてやろうというわけじゃ』
  ……それは確かにおいしそうだな。望むだけで何の労力もなく王になれるってんなら、こんなに旨い話はない。まあ、旨い話には裏があるもんだが、少なくとも冒険者として死と隣り合わせで一攫千金を狙うしか王になれるチャンスがない今の状況を考えれば、答えは一つしかないだろう。
  いいだろう。その話、乗ってやる!
『ふむ、お主も乗り気になってくれて何よりじゃ! ならば次に、転生先についてちょっとばかりお主に知っておいてもらおうかの』
  転生先? なんだ、もう俺がどこの国の王になるかまで決まってるのか?
『いや、そうではない。さっき、力の説明をしたときにワシは“ある程度自由に”と言ったじゃろ? 確かにワシは相手を転生させることができるんじゃが、転生先を同じ世界とすると、因果律やらの問題で自由度が極端に下がってしまうのじゃ。まあ端的に言ってしまえば、ワシはお主をこの世界の王には転生させることができん』
  はあ!? じゃあ俺はどこの王になるってんだよ!
『この世界ではないといえば決まっておろう。異世界じゃよ異世界。お主は異世界で王の体を得て、王としての人生を歩むことになるんじゃ!』
  異世界!? ……いやまあ、それは想定外だが、それでも王になれるっていうんならまあいいか。だがなんか今、爺さん変な言葉回ししなかったか? たしか、“王の体を得る”とか?
『なんじゃ、異世界ではなくそっちの方に食いつくか。いや、それこそが一流の冒険者の勘というやつかもしれんのう。まあいいじゃろ。それについて説明するとじゃな、お主は今のお主の体でそのまま転生できるわけではない。かといって赤子から新たな体でやり直すというわけでもないのじゃ。お主は、“異世界で既に王になっている者”として転生することになる。イメージ的には、異世界に存在する王の体にお主の魂が憑依するみたいな感じかの。お主は、転生すれば今のお主とは違う異世界の王の肉体となり、王としての環境にいきなり放り込まれることとなる。まあ、異世界の言語は分かるようにしておくし、体に備わった王としてのスキルは全て一級品、それに転生直後から王として相応しい行いができるよう精神的な矯正もサービスしとくがの』
  ……つまり、俺は今の俺とは別の誰かになるってことか。そして、そいつの王の立場を奪い取ると。
『ふむ、そこまでして王にはなりたくないかの? それが嫌なら、このままあの世に行ってもらうことになるが……』
  いや、誰が断ると言った? 大体にして王になるには、王家に生まれる以外には、元ある王権を打倒するか簒奪するものと相場が決まっているだろうが。そんなことで良心の呵責がとか甘いこと言ってるようじゃ、王になんて永遠になれないぜ!
『ほほう、よく言った! では、最後にもう一度だけ確認させてもらうぞ。お主は、自分の意志で王になることを望み、この選択をした……ということで間違いないの?』
  ああその通りだ。俺は王になるために生まれてきた男。それが王になるチャンスを自分から手放すなんて選択、絶対にありえないからな!
『かっかっかっ、いいじゃろう! 契約は成立した! それでは望み通り、お主を王へと転生させてやるとしよう!』
  声がそう宣言した次の瞬間、俺の意識は急速に薄れ、闇へと落ちていった……。





  日差しが熱い。
  意識を取り戻した俺が最初に感じたのは、肌を焼く日の光の感覚だった。
  体も意識もどこかふわふわとした感じの中、ぼんやりとしていた視界が徐々に晴れていく。
  どこだここは。俺は本当に異世界に転生したのか? 確かに少なくとも先程までいた空間とは違うところのようだが……。
  やがて視界のもやが完全に消え去ると、そこに浮かび上がったのは、俺がこれまで見てきた世界とほとんど変わらぬ山の中と思われる緑豊かな自然の風景と、その手前にそびえる今まで見たことのないような建築物だった。
  一見灰色がかった石を積み上げて作られたように見えるその建築物は、しかしどこにも石の継ぎ目のようなものが存在しなかった。どこか闘技場を思わせるような斜めの傾斜を持ったその建物には椅子が幾重にも敷き詰められ、屋根の部分や周囲に建つ鉄柱らしき物の先には、所々に炎や魔法の光とは異なる明かりが灯っている。また、俺の目の前には石造りと思われる道路が走っていたが、そこにも石を敷き詰めたような形跡はどこにも見あたらない。
  どうやら、ここが俺がいた世界ではないのは確かなようだ。少なくとも、この世界の文明は俺の世界よりも進んでるんだろう。
  だが、そんなことよりも俺を困惑させたのは、俺を取り囲むようにして立つ人の群れだった。見慣れない服装に身を包み、四角い何かを手にした男達の集団。そいつらは、建物に椅子があるのにもかかわらず、俺の周りに集まり、手にした四角い物体を操作してなにかを行っている。その物体は時折目くらましの呪文のような強烈な光を瞬間的に放つ仕掛けがあるようだったが、それが何の意図で行われているのかさっぱりわからない。
  何だこいつら? ひょっとして“王”に仕える近衛騎士か? いや、そりゃないな。どう見てもこいつらは騎士として貧弱すぎるし、装備もなってない。というか、そもそもこいつらからは王である俺への敬意というものが全く感じられん! まあ、殺気のようなものはないし、一定の距離から近寄ってもこないから、こちらに悪意のある奴らじゃないんだろうが…………。おい、俺は王だぞ! 見せ物じゃないんだ、無礼な、もっと下がれ!
  反射的に手で男達の視線を振り払おうとした俺は、そこでようやく自分の手が何かを握っていることに気がついた。
  見てみるとそれは俺の世界でも当たり前にあるアイテム……雨や日差しを遮る道具、いわゆる傘だった。
  ただ、その布地は見たこともない素材でできており、白と緑のツートンカラーで染め上げられている。
  何だ? 確かにこの強い日差しの中、日傘で日を遮るのはいいとして、それを差すのはお付きの者の仕事だろう。それが、どうして高貴な王である俺自身が差してんだ?
  何かがおかしい。そう思いながら視線を自分の体へと向ける俺。
  その目に最初に飛び込んできたのは、大きな二つの膨らみだった。
  俺には胸があった。いや、誰にだって胸はあるが、俺の胸は大きく膨らんでいた。そう、見間違いようもない。これは女の胸だ。その本来あり得ないはずの双丘は、真ん中に立派な谷間を作りだし、それを満天下にさらけ出している。
  そう、俺は男達の視線が集まる中、ほぼ半裸といっていい格好で立っていた。布が覆っているのは胸と臍より下の下腹部のみ。こんな格好、俺の世界でも踊り子か、なにか勘違いをした女冒険者のビキニアーマー愛好者、そして風俗でしか見たことがない。
  傘と同じく見たこともない素材でできた光沢のある緑に白い縁取りがされた布地の胸当ては、大きな胸をさらに強調するかのように寄せて上げ、下腹部を隠すスカートは大事な部分が見えるか見えないかのところまでしか布地がない。そしてその大事な部分には、本来俺が持っているはずの感覚がどこにも感じられなかった。
  お、女の体!? ど、どうなってるんだ、これは!?
  その想定外の状況にさすがにパニックを起こしかけた俺だったが、そこに俺を取り囲む男達の一角から声が飛んでくる。
「すいませーん、こちらに視線もらえますかー?」
  はあ!? なに言ってんだ!
  そう怒鳴り返そうとした俺だったが、次の瞬間、俺の体は俺の意志とは全く異なる行動を起こしていた。
  俺は声の聞こえた方向に向かい、視線を向けただけでなく笑顔を浮かべ、さらには自分の“女”を強調するような男を挑発するポーズをとっていたのだ!
  そんな俺の仕草に男達の構えた四角い物体から一斉に光がほとばしる。
  何だこりゃ!? これじゃまるで風俗系のステージに立つネーチャンみたいじゃないか! おい、これが本当に王だっていうのかよ!?
  心の中で叫び声をあげる俺に、どこからかあの爺さんの声が響く。
『その通りじゃ。お主は間違いなくこの世界の王へと転生しとる。まあ、王といっても“女王”じゃがの』
  はあ!? 女王だと! いや、女王でも王には違いないが……。だがおい、この世界の女王はどうなってんだ!? みんながみんなこんな事をやってんのか?
『いや、それはどこの女王になるかによってまちまちじゃの。じゃが、少なくとも、お主のなった女王はそういうことをするのが“責務”での』
  責務?
『そう、王たるものの責務じゃ。お主も王を目指しとったのなら分かるじゃろ? ただ身分だけの王なぞ本当の王とは呼べぬ。王としての責務を果たしてこそ真の王なのじゃと』
  いや、まあそりゃそうだが……。
『さあ、お主も希望通り女王とはいえ王になったんじゃ、だったらその責務、しっかり全うするべきじゃろうて。なに、心配はいらん。ちゃんと責務が果たせるよう、約束通りワシがお主の精神を矯正してやろう!』
  その声が脳裏に響いた瞬間、俺は脳みそをグルグルとかき回されているような凄まじく不快な感覚に襲われた。
  思わずよろけそうになるが、すんでのところで踏みとどまる俺。
  ふう、危ない危ない。王として、臣民の前で無様な姿を晒す訳にはいかないぞ、俺。こうして立っているのが王としての最低限の責務なのに、ここで倒れたりなんてしたらシャレにならん。臣民によけいな心配をさせるだけでなく、“女王、熱中症で倒れる”とか話題になったら、タダでさえ王に対する風当たりが強いのに、さらに王権反対派に口実を与えかねん……!
  いつの間にか頭に入ってきていたこの世界の王に関する知識とともに、その責務を理解する俺。
  そう、俺は自ら望んで王になったんだ。だったらそれに伴う責務、きっちり果たすのが筋ってもんだろ……!
「すいませーん、視線こっちにもー!」
  その声に、俺は自らの意志でウインクして応えると、声の主の持つ四角い物体に向かってとびっきりのポーズをとった。
  再び男達の構える四角い物体から光が放たれる。
  そうやって臣民に望まれるままポーズをとり続けるうち、いつの間にか俺は臣民達からの視線と放たれる光に快感を覚えるようになっていた。さらに快感を貪るべく、際どいポーズを決めていく俺。
  それに対する臣民達の反応に俺の体は燃え上がり、ゾクゾクした快感が全身を走り抜ける。
  ああ……これが王だけが感じることができると聞く“王の愉悦”なんだな…………!





  ……と、このように、女王の座というものは無理矢理ではなく、自らの意志で望んで就く者が大半なんじゃよ。それを当事者の意見も聞かずして第三者が女性蔑視だとかいって廃止しようとするのはおかしいと思うんじゃ。
  サーキットからレースクイーン(女王)を無くすのには、断固反対じゃよワシは!



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