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異世界に転生したら高ステータス超チートスキル持ちの神官だった

作:高居空


『ああ、なんということでしょう。私の管轄するこの神域で、まさか命を絶とうとする者が出るなんて……』
  よし! 情報は本当だった!
  どこまでも続く暗闇の中、ただただ下に落ちていくだけだった俺の頭に突如響いた女の声に、俺は心の中でガッツポーズをとる。
  それを察したのか、半ば呆れたような口調へと変わる女の声。
『はあ……貴方もネットの情報を見てウチの井戸へと身投げしたクチですか? まあ、確かにあのサイトを利用させてもらったのは私ですが、こうも反響があるとは世も末ですねえ……』
  俺が見た情報、それは、とある僻地の神主もいない寂れた神社の裏手にある涸れ井戸に身を投げると、異界の女神が異世界に現世の記憶を持ったまま高ステータスかつ超チートスキル付きで転生させてくれるというものだった。
  転生物の小説がずらりと並ぶ某ネット小説サイトの中に隠れるように記されていたその内容に、俺は呆れながらも、なぜか記憶の隅にこびりついていたその場所へと気が付くと足を運んでいたのだった。
  ひょっとすると俺は疲れていたのかもしれない。いや、今の生活よりも確実に良い思いができるという異世界が本当にあるのならば、それに惹かれるのは当然といえるのではないだろうか?
  だが、だからといってそこで命を絶とうと思うほど悲観的でなかったのもまた事実。本当にネット小説のように超チートな転生ができるという保証があるならまだしも、そうじゃなかったらこんなアホな死に方はない。周りに迷惑をかけるのはもちろんのこと、現実と妄想の区別がつかなくなったネット廃人の末路として、ネット上で延々と面白おかしくネタにされるのが目に見えている。
  だが、実際に井戸の前に立ち、中を覗き込んでみると、そこは既に深さ1メートルくらいのところまで土で埋まっていた。これじゃあ飛び込んでも命を落とすどころか、井戸に落ちた系の話でよくある、上までよじ登れないなんてこともない。というか、底に足を付いても中学生ぐらいの背丈があれば肩より上は外に出てるだろう。まったく、何だったんだ、あの情報は?
  想像とあまりにも違う涸れ井戸の状況に、苦笑するしかない俺。
  さて、どうするか。せっかく来たのにこのまま何もしないで帰るのも何だし、井戸に入ってネタ写真でも自撮りしとくか……。
  そんなことを考えながら井戸の縁に手をかけ井戸の中へとポンと飛び降りた瞬間。
  まるで落とし穴にでもかかったかのように井戸の底が抜け、俺はこの無限に続くかとも思える暗闇の空間へと投げ出されたのだった。


『……さて、そうはいってもこうして情報を信じて実際に飛び込んできてしまった以上、異世界に情報通りに転生させてあげるのが私の責務といえるでしょうね。はあ……まったく、実際のところあっちはもう供給過多なんですけれども……』
  落ち続ける俺の頭に響く、しゃあないといった感ありありな女の声。
  だが、その言葉に看過できぬ物を感じ取った俺は、どこにいるか分からない女神に対して聞き直す。
  供給過多? 供給過多ってなんだ?
  女神が口にするには違和感のあるその言葉。いや、違和感があるといったら、さっきからネットやらサイトやら怪しげな単語がバリバリ出ちゃいるし、そもそもその話っぷりからして女神っぽくないんだが、供給過多という単語は、その意味的にもかなり気になる。ひょっとして既に転生者が俺の前にも何人もいて、向こうの世界で超チートスキルでやりたい放題。そしてもう向こうは転生者を必要としていないということなのか?
『ああ、それですか。まあ、説明する義務はないのですが、それはそれで何か悪い気がしますので一応お話ししておきますと、私はあちらの世界でとある都市を守護する神のうちの一柱として祀られているのです。ですが……』
  都市を守護する神。つまり、特定の都市でしか信奉されていない土着のマイナーな神様ということか。
  そんなある意味失礼なことを俺が考えていることも知らずに説明を続ける女神。
『困ったことに、ここ数年の間に神殿で私を祀る神官達が揃って病にかかってしまったのです。そもそも、私の神官達は神託を神殿を訪れる者に授け、その対価として報酬をいただくことで教団運営を行っていました。ですが、神官達が病に冒されていることが町に知れ渡ると、来訪者がぴたっと止まり、今では神殿の維持にも事欠いている始末。新たな神官を召し出そうにも、元々私の神官としての素養を持っている者は限られている上に、素養を持つ者も病を恐れて神殿に近づこうともしません。このままでは教団は崩壊し、あちらの世界での私の立場も、こちらの世界と同じようになってしまいかねません』
  なるほど。確かにあの井戸のあった神社は荒れ放題で、事前にネットで検索してみたが、神社の由来はおろか祭神さえも分からないといった有様だった。ライトノベルなんかじゃよくある設定だが、そうやって信奉者がいなくなり人に忘れ去れてしまうと、神様も本来の神の力といったものが使えなくなってしまうんじゃないだろうか。
『そこで私は一計を案じました。こちらの世界では今、ライトノベルで転生物が大人気。ならば、本当に異世界転生したいというようなバ……じゃなくて好奇心旺盛な人間もごく僅かながらいるのではないかと。それをスカウトして私の新たな神官にしてしまおうと、まあ、そういうシナリオだったのですが、実際にやってみたらビックリ。思った以上に転生希望者が集まってしまって、こちらが想定していた神官の数を大幅に上回ってしまったのです。今のところ、まだなんとか神殿の個室の数は足りますが、このままだと首が回らないというかローテーション制も考慮しなくてはならないというか……。でも、一度ネットに載った情報を完全に削除するのって、凄く面倒なんですよねえ…………』
  ……この声の主って、ホントに女神なんだよな?
  そのあまりにも軽いというか、神にしては世俗的すぎる話の内容に、段々と不安感が増してくる俺。大体、神官の話なんて初耳だぞ? ひょっとして、転生先の職業ってもう確定なのか?
『そりゃ当然でしょう。何の見返りもなしに高ステータスで超チートスキル持ちの転生なんてしてもらえると思いましたか? いや、中には気まぐれでそんなことするのもいますけど』
  むう…………。
『それに、これは転生者のためでもあるのですよ。いくら高ステータス超チートスキル持ちでも、職業“無職”ではあちらの世界で生きていくのは大変ですから。そもそも転生者はあちらのお金を持っていません。あちらの世界はこちらでいうところのファンタジー系RPG世界みたいなところですが、貨幣制度はすでに確立されていますから、なにをするのにもお金は必要ですよ。異世界に転生したら無一文のホームレスで物乞い生活……ライトノベルのタイトルみたいですが、貴方もそれでは困るでしょう?』
  う、確かにそれは困るが……。
『さあ、どうします? もし転生されるんであれば、私の神官として必要な要素を全て満たした高ステータスな若い肉体を差し上げます。さらに常時発動の超チートスキル「病気・毒耐性EX」付き! このスキルを持っていれば、決して病にかかることはなく、毒も一切効きません。仮に冒険者を兼職するにしても、このスキルは決して無駄にはならないでしょう。それに、神官職のお給金も町民の平均収入の2倍以上をお約束! 病気知らずでしかも高収入の定職付き! これはもう、異世界での成功は約束されたも同然でしょう! さらに今なら転生者が能動的に発動できる超チートスキルをもう一つ特別にお付けしちゃいます! どうです? お買い得でしょう?』
  話が進むうちに段々とテレビの通販番組のような口調へと変わってくる女の声。だが、何かおかしくないか? そもそも、転生者を必要とする事の発端は、自分の神官達が病にかかったことだったはずだ。病を無効にするスキルを与える力があるのなら、異世界からの転生者ではなくその神官達に与えてやればいいじゃないか?
『いえ、このスキルは先天的スキル限定なので後天的には付与できないのです』
  ……じゃあ、神様の力で病を癒してやるっていうのは? そもそも、RPGにおける神官僧侶系といったらヒーラーなのが定番だし、その親玉たる神様が癒しの力を使えないというのも何だか変な感じだが。
『もちろんそれはやろうと思えばできますが、面倒くさいというかなんというか、どうせ病が治っても、すぐに他人から移されてしまっては意味がありませんし……』
  ちょっと待て? ひょっとしてその異世界って、そんなに疫病が流行っているのか?
『いや、そんな無差別に感染するような病気ではありませんよ? ただ、ウチの神事ですとどうしても感染しやすい状況になってしまうというか何というか……。というか、そもそも転生者の皆さんには感染しないのですから、気にすることではないのでは?』
  そのいかにも何か隠してますといった感がありありと分かる女の声に、ぐんぐんと増していく俺の不信感。こいつ、本当に信じてしまっていいのか?
  だが、そんな俺の様子から自分が疑われていることを察したのか、女の声はこほんと一つ咳払いをすると、俺に選択を迫ってきた。
『ともかく、今貴方が選べる選択肢は二つです。一つは、異世界に高ステータスかつ超チートスキル持ちの肉体を持った私の神官として転生する道。そしてもう一つは……』
  もう一つは?
『ここでこのまま死ぬこともできずに、永遠に落ち続ける道です。さあ、どちらにします?』
  ……………………。
  ここにきてようやく俺は、涸れ井戸に足を踏み入れた時点で俺の命運は既にこの女に握られており、選択権などあってないようなものであることを理解したのだった。





  …………というわけで、私はこの世界に転生して、今こうしてアナタの相手をしてるってわけ。
  …………って、なにドン引きしてんの? まったく、私が病気持ちじゃないか心配だってアナタが言うからこうして教えてあげたのに、その態度はないでしょ?
  ……まあいいわ。ともかく、今この神殿にいる神官はみんな転生者で、全員が私と同じ“病気・毒耐性EX”のスキル持ちよ。だから誰も病気なんて持ってないから安心なさい。
  にしてもまったく、『私の女神様』にも困ったものよね。まさか、女神の神官が女限定で、しかも神事で神託を授かるのに、“殿方との性行為によるエクスタシー”が必要だなんて思いもしなかったわ。そりゃ、新しい神官のなり手なんてそうそう集まるわけないわね。しかもその神官の間で性病が流行してるだなんて知ったら、殿方だって寄りつかなくなるだろうし。私だって、最初からこんな神官になるって知ってたら、井戸になんか飛び込んだりしなかったわよ。
  え、後悔しているのか? う〜ん、それはどうだろ? 何だかんだでこのおシゴトはお給金は良いし、それに今の私って、こうしたおシゴトに必要な要素を全て高ステータスで備えてるじゃない? このカラダ、見た目がバツグンなのはもちろんのこと、感度だって最高なんだから♪ こんな素敵なカラダを貰えて、しかも気持ちいいことだけしててお金が貰えるなんて、ホント元の人生じゃ考えられないわ。その点では女神様に感謝してるって感じ♪ どんな相手とどれだけヤッたって病気になる心配はないし、それに、私にはもう一つの超チートスキルがあるしね。
  えっ、そのもう一つの超チートスキルって何なのか? ああ、そんなに警戒しなくたって大丈夫よ。このスキルは魅了とか精気吸収とか、相手の殿方に影響を与えるようなスキルじゃないから。
  じゃあどんなスキルなのか、ですって? ふふっ、それはね…………『妊娠するかどうかを自分の意志で選べる』っていうスキルよ♪ どう? こういうおシゴトでは最強レベルの超チートスキルだと思わない?



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