来世の党

作：高居空

　いやあ、こんな年も押し迫って忙しい時に急に解散総選挙だなんて、参っちゃいますよねえ。
　しかも今回は票を入れたいような政党もなし。与党に入れても生活は楽にはならなさそうだし、野党はみんな頼りないし、もうどうしようもないですよね。
　え、だったら投票行かなきゃいいじゃないか、ですって？　いや、それは駄目でしょう。それってつまりは白紙委任ですよね？　自分じゃ“投票しないことが意思表示だ”みたいに格好つけていても、上の人から見たら“煮るなり焼くなりご自由に”と言ってるのとおんなじですよ、それ。
　それにそういう事を言う人って、なぜか“俺達の生活が楽にならないのは政治のせいだ。政治屋ども何とかしろ”とか頭の悪いことを口にしたりするんですよね。だってあなた、今の議員や政党に政治を任せられるような者がいないってことで投票に行かなかったんでしょ？　任せられるような者がいないって結論が出てるのに、何で“政治屋ども何とかしろ”って、その任せられない政治家に自分達を助けてくれって頼み込んでるんでしょうね。まあ、それが日本という国のお国柄ってことなのかもしれないですが。
　ある海外経験が長い人が書いた本にこうありましたよ。海外でも「生活が楽にならないのは役に立たない政府のせいだ」とか「役人が働かないからだ」とか口にする人はいる。ただ、そうした人の大半は「政府はあてにならないから、自分達の身は自分で何とかするしかない」と、まずはできうる限りの自衛策を考えるんだそうです。
　一方、日本人でそういったことを言う人は、「だからお前等何とかしろよ」といった結論で話を締めくくることが多い。つまりどういうことかというと、政府や役人をさんざん罵倒し蔑んでいるくせに、そういった人達は一方で自分が本当に困ったときにはそうした政府や役人が自分達を救ってくれるとなぜか本気で信じこんでるんですよね。だから、自分達でなんとかしようなんてことは一切考えない。ほんと、おめでたい人達だと思いませんか？
　え？　そこまで言うからには、お前は何か考えているのか、ですって？　もちろんですとも。
　実は私、今回の選挙に立候補しようと思ってるんです。それも無所属ではなく政党を旗揚げしてね。与党にも既存の野党にも票を入れるに値する党がないのであれば、いっそのこと自分で作ってしまえってやつです。この前ネットで賛同者を募ったところ、結構な数が集まりましてね。これならば比例区ならなんとかなるんではないかと思ってるんです。
　党の名前ですか？　これはもうインパクト重視で決めましてね。その名もズバリ『来世の党』！　どうです？　衝撃度抜群でしょう？　次世代なんか軽く飛び越えて、いきなり来世なんですから。
　え、それって何だかカルト政党っぽい？　逆にそれが狙いなんですよ。この時代、新党なんてただ旗揚げしただけじゃ誰にも注目してもらえません。党の中に世間での知名度が抜群の候補者でもいない限り、こういったちょっと過激な名前にでもしなければ、有権者に興味をもってもらうことなんてできないじゃないですか。つまりは「なんだこりゃ？　どういった政党なんだ？」って有権者に思わせるための戦略的ネーミングなんです。これで党の公約まで読んでくれればしめたもの。ついでにこういったインパクト抜群の名前にしておけば、今の時代良くも悪くもネットで内容も含めてすくに話題が拡散しますしね。
　え、党の公約ですか？　もちろんとっくに決めてありますよ。ネットで支持者を募ったんですから当然じゃないですか。
　私の党の公約はですね、“この党が議席を獲得できたならば、票を入れて下さった有権者の皆様の来世が、性的魅力にあふれた異性になることをお約束します”ってやつです。
　さらに言うなら、党員になっていただいた方には有権者の方よりもさらに一段上の容姿をご用意。議員立候補者レベルともなれば、これはもう来世はトップアイドル間違いなしですね。
　懸念材料は、早く来世を迎えたいがために有権者の中で自殺者なんかが出てしまうんじゃないかってことですが、そこは“自殺された方にはこの公約は適用されません”って注意書きをすることによって対応させてもらってます、はい。
　え？　本当にそんな公約、守ることができるのか、ですって？　もちろんですとも。ちゃんとした裏付けとビジョンがなければ、そもそも公約なんて発表できませんよ。
　ただ、私達の政党の場合、有権者の方が公約が実現したのかを実感できるのは、どうしても来世になってからのことになってしまいますけどね。
　当然、そこで公約が果たされていないと思ったら、次の選挙では別の政党に入れてもらって構いませんよ。私達も議席を獲得できたならば、次回以降の選挙で有権者の審判を仰ぐ覚悟はできてますから。
　もっとも、有権者の方が公約が果たされているかどうかを確認してからその後の選挙に参加できるようになるには、最短でも２０年はかかるんですけどね。まあ、そのうち１８年になるかもしれませんけど。
　どうです？　もし投票する党が決まってないのなら、ここは『来世の党』に一度託してみませんか？

トップページに戻る

小説ページに戻る