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TS整体マッサージ店
作:高居空


「いらっしゃいませ☆」
  街中にある小さな整体マッサージ店。扉を開けた俺を出迎えたのは、イケメン男性アイドル顔負けのルックスをした青年店員だった。
  辺りにキラキラとしたオーラをまき散らし、さわやかな笑みを浮かべるどう見ても整体士らしからぬその店員に思わず面食らった俺だったが、この店がどんな店なのかを思い出し、まあそんなこともあるかと気を持ち直す。
  今では様々なところで目にする整体マッサージ店だが、そこで施術を行うマッサージ士は、実はあん摩士や柔道整復士などと違い国の資格があるわけではない。つまり、マッサージ士という肩書きは名乗ろうと思えば誰でも名乗ることができるのだ。
  だが、それとマッサージ店として商売が成り立つかというのはまた別の話である。何か客を引きつける物が1つでもなければ、今の時代、そうした店はすぐに潰れてしまうだろう。逆に言えば、長く続いている店というのは、その何かがあるということだ。それは別にマッサージの腕でなくとも構わない。他の追随を許さない低価格なり何なり、とにかく客が魅力を感じるものがあればそれで良いのだ。例えそれが整体の本来のサービスとは違う、いかがわしいオプションサービスであったとしても、だ。
  そういった面では、この店のように、店員のルックスが良いというのはやはりひとつの売りにはなるだろう。こうしたマッサージ店では、大抵の場合施術をするマッサージ士を指名できる。そうした面で見るなら、イケメン目当ての女性客を常連として確保できそうな店員がいるに越したことはない。ついでに俺からしても、これから行われる施術が俺の予想通りなら、店員はオッサンよりイケメン青年の方が良いからな。
  そんな俺の前で、店員は受付カウンターから板の付いた用紙を持ってくる。
「今回お客様は初めてのご利用ですね。それでは、まずはこの用紙をご一読いただき、内容に承諾いただけるようでしたら必要事項をご記入の上、最後にここに署名をいただけますでしょうか?」
  そういってイケメン店員が手渡してきた用紙には、氏名や生年月日、住所に電話番号といった個人情報を記入する欄の他に免責事項、そしていくつかの質問が記されていた。
  その用紙の中でまず俺の目に留まったのは、質問事項の中のひとつの項目だった。“重点的にマッサージをしてもらいたい部位は”などのマッサージ店としてごく当たり前な質問の中で、その項目は明らかに異彩を放っている。
  “あなたの好きな異性の容姿、それと希望があれば年齢などをご記入下さい”、か。なるほど、こいつは期待できそうだな……。
  その質問内容に内心ほくそ笑む俺。
  一般人がこの質問を見れば、おそらくこの店が風俗まがいのマッサージ店なのではないかと疑うところだろう。だが、俺はこの質問がそのような意図とはまったく別の所にあることを知っていた。
  実は俺は大のTS物の愛好者だ。それ系の映像や漫画、小説やゲームといった情報を毎日そうした同好の士が集まるSNSで交換し合うのが俺の日課である。そのSNS上である日、“TS好きなら是非とも一度は足を運びたい店”ということでこの店の名が上がったのだ。コメ主によると、何でも物騒な免責事項があるので店でなにがあったかは書き込めないとのことだったが、ともかくそこにはTS好きにはたまらない“何か”が待っているらしい。もっとも、その後実際に店に行ったと思われる者のコメントでは、「良かった!」というコメントと「凄いけど、正直微妙……」というコメントが入り交じっており、どちらかというと後者の方が多いのが気になるところではあるのだが……。
  ともあれ、その質問欄に「美少女」「小柄」「童顔」「巨乳」「ツインテール」といったセンテンスを記入した俺は、続いて免責事項へと目を向ける。
  そこには、“当店では整体のプロがマッサージを行いますが、リラクゼーション目的の施術であり、医療行為は一切行いません”といったマッサージ店ではお決まりのフレーズの他に施術ミスの際の免責事項等が並んでいたが、最後の最後に例のSNSで仄めかされていた物騒な一文が記されていた。
  “なお、この店内であったことは一切他言しようとはしないでください。もしこれに違反された場合は、お客様の命の保証はできかねます”、か。なるほど、この店はそういう趣向ってわけね。
  だが、俺はその言葉から別の要素を読み取り内心にんまりする。
  確かにこの一文が物騒なことには違いない。なんといっても店で起こったことを他言しようとしただけで命の保証はないと言っているのである。一般人が見れば反社会的勢力がらみと考えてもおかしくないだろう。
  だが、冷静に読めば分かることだが、この一文には常識的に見て明らかにおかしい部分がある。“他言しようとはしないでください”、ここは普通なら“他言しないでください”とくるところだ。要はこの文では、他言する以前の段階である、他言しようと行動し始めた時点で命の保証はないと言っているのである。しかし、なぜ他言する前の段階でこの店の関係者はそれを察知し、さらに命を奪うことができるのか? このことが指し示す事実は一つ…………この店の客には施術の段階で、そうした行動をとろうとすると命を落とすような超常的な“何か”が仕込まれるということ、そしてつまりそれは、この店のTS手段が薬じゃなくて魔法、それも呪術系だということだ!
  これまで蓄積したTS知識からそこまで読み取った俺は、気持ちを昂ぶらせながら最後の署名欄に大きな字で自分の名を記入する。
  こいつは楽しみだ。ここまでやるってことは、この後の“施術”は相当期待できそうだぜ!
  うきうきした気持ちを悟られぬよう胸の中に隠しつつ最後に記入した内容をもう一度確認した俺は、用紙をイケメン店員へと手渡す。
  それにさらっと目を通した店員はひとつ小さく頷くと、俺にニコッとさわやかな笑みを向けてきた。
「ご記入いただきありがとうございます。それでは、さっそく施術の準備に入らせていただきますね☆」
  そう口にするなり、イケメン店員は突如両の親指を立てると、“自分の”首筋の裏や胸、腹といったツボと思える場所を刺激しはじめた。
  突然の行動に思わず呆気にとられる俺の前で、なおも自分の体のツボを刺激し続ける店員。と、そこで俺は、店員が自らのツボを刺激するたびに、何かが変わっていっていることに気が付いた。
  まさか、こいつは…………。
  店員がぐっ、ぐっ、とツボを押すたびに、その体が少しずつだが小さくなっていく。すっ、すっ、と髪が伸び、やがてそれはロングのツインテールを結えるくらいの長さにまで達する。気が付くとその顔もさわやかなイケメン青年から目のくりっとした可愛らしい美少女のものへと変わっていた。その間にも体は高校生か中学生ぐらいの女子レベルにまで縮み、着ていた服が所々ずり落ちていく。だが、そんな服の上からでもはっきりと分かる大きな二つの胸の膨らみが、これでもかというくらいに強烈な自己主張を行っている。
  ついさっきまでイケメン青年だった店員は、今や小柄な童顔巨乳美少女へと変貌を遂げていた。
「はい、どうですかお客様☆」
  その容姿に相応しい可愛らしい声で、首を少し傾げながらキュートな笑みを浮かべる元青年店員。
  いや、どうですかといわれても……。確かにその容姿は俺の好みではある。そう、あの用紙の“好きな異性の容姿”として俺が記入した内容に、目の前の少女は見事に合致していた。髪型はツインテールではないが、あの髪ならゴムかリボンで結べば立派なツインテールができあがることだろう。しかし…………。
「えへ☆ わたし、こう見えても本当に“整体のプロ”なんで、お客様が望んだとおりに“自分の体を整える”ことができるんです☆ やっぱりマッサージは、自分の好みのタイプの異性にやってもらった方がより気持ちいいですからね〜☆」
  そう言っててへっと笑うと、“それじゃあ女の子用の服に着替えてきますんで、もうちょっと待ってて下さいね☆ ちゃんと髪の方も結んできますから☆”と言い残し、少女はとてとてとスタッフルームへと走っていく。
  その後ろ姿を眺めながら、俺は小さく息を吐いた。
  うん、TSだ。確かにTSであることには違いないんだが…………
「これじゃあないんだよなあ…………」
  誰もいなくなったエントランスで、俺は独りつぶやくのだった。


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