トップページに戻る

小説ページに戻る
 


年賀状
作:高居空


  なぜだ、なぜ無いんだ!
  カメラ屋に置かれたパソコンモニターの前で、俺は画面をスクロールしながら内心歯がみしていた。
  俺は今、年賀状のイラスト印刷を注文しにカメラ屋に来ている。
  ただ単にネットでイラストを拾って印刷するだけならば自宅のパソコンでも簡単にできるんだが、やはり見栄えという点では、素人の物よりもプロのイラストレーターが描いた作品を写真現像の技術を使って印刷するカメラ屋の方が上だ。ただ、問題は、自分の気に入るようなイラストが、カメラ屋にあるかどうかなのだが……。
  残念ながら、今年のカメラ屋が用意したイラストには、俺の意に沿う物はラインナップされていなかった。いや、しかしおかしいだろ。せっかく12年に1回のチャンスだってのに、イラストレーターが誰もあのイラストを用意しないだなんて。まあ、この時代、コンプライアンスに引っかかるだなんだで難しいのかもしれないが……。
  そんなことを考えていたときだった。
「お客様、気に入ったイラストはございませんでしたか?」
  制服を着たカメラ屋の店員が後ろから声を掛けてくる。
  振り返り俺が口を開くよりも早く、店員は答えは分かっているとばかりに笑みを浮かべながら言葉を続けてくる。
「もしよろしければ、本社が用意した物ではなく、当店オリジナルのイラストをご紹介することもできますが」
  なんだ、そういうのもあるのか。じゃあ、そちらも見せてもらおうかな。
「ただ、当店オリジナルのイラストは、ここではお見せすることができないのです。なにぶん、お客様のご希望に応じて、それに添うような物をご用意させて頂く形になりますので」
  そういって俺が通されたのは、どうみても写真を撮影するためのスタジオにしか見えない部屋だった。実際、向こうの壁にはカメラのレンズと思しきガラスが埋め込まれていて……
  パシャッ。
  瞬間、シャッター音とともに部屋が白い光に包まれる。
「お待たせしました、お客様」
  それからしばらく後に入ってきた店員は、いきなり写真を撮るとは何事だと文句を言おうとするこちらの機先を制するように、サンプルと思しき年賀状を手渡してくる。
  そこに描かれていたイラストは、まさに自分が探していたものそのものだった。
  そうそう、やっぱり今度の年賀状のイラストはこうでないと。かなり実写チックだけど、それはそれで肉感があって良い感じだ。
  さっそく、店員に向かって必要な枚数を注文する「私」。
  ふふっ、さあ、この卯年にちなんだ私のとっておきのバニーガールの年賀状で、新年早々みんなを悩殺しちゃうんだから♪



トップページに戻る

小説ページに戻る