トップページに戻る
小説ページに戻る
ピッチで躍動する
作:高居空
何が起こっているんだ……!?
週末の昼下がり、俺は自室のテレビの前で固まっていた。
目の前の画面には、ピンク色の髪に黄緑色のワンピースを着た、背中にトンボのような羽根を生やしたアニメチックな美少女が映っている。いわゆるステレオタイプの“妖精さん”というやつだ。まあ、それ自体はおかしな事じゃあない。テレビをザッピングしていれば、そのようなキャラクターが出てくるアニメにぶち当たることもあるだろう。おかしいのは、そうして画面に映し出されているだけのはずのキャラクターが、『俺に向かって話しかけてきている』ということだ!
『ほらほら、どうするんですか? 当選者さん♪』
混乱する俺を茶化すように、人差し指を頬にあて、ウインクしてくる“妖精”。
まっ、待ってくれ、どうしてこんなことになってるんだ!?
『それならさっきご説明しましたでしょ? あっ、ひょっとして、あまりの幸運に舞い上がりすぎて記憶が飛んじゃいましたか? もう、しょうがないなあ。それじゃあ特別に、もう一度だけご説明してさしあげますね♪ あなたは今、私達、フェアリーライフチャンネル主催のスロット抽選会で見事大当たりナンバーを揃えられたのです!』
うん、それは分かる。いや、フェアリーライフチャンネルというのは何のことやらだが、俺がデジタル放送の双方向機能を使ってテレビに表示されたスロットを回し、3つの数字が揃ったのは確かだ。
それまで“衛生放送無料の日”を利用して普段見ない衛星放送チャンネルをザッピングし、たまたまやっていたサッカーのプロリーグ、青黒ユニと赤ユニのチームとの試合をテレビ観戦していた俺は、点の入る臭いのまったくしないゲーム展開に正直飽きつつあったところで、画面下部に小さく“ただいま大抽選会開催中! あなたもdボタンで豪華景品をGET!”と表示されているのに気づき、反射的にリモコンのボタンを押してその抽選会に参加したのだった。
そして回したスロットで数字が3つ揃った瞬間、今テレビに映っている“妖精”が大写しになり、俺に話しかけてきたというわけだ。しかもこの“妖精”、あらかじめ当選者向けに収録された映像を流しているのではなく、明らかにこちらの反応をみて会話をしてるときてる。まったく、一体どうなってるんだ!?
いや、そもそもスロットの大当たりナンバー自体がおかしい。俺が揃えた数字は“777”ではなく“666”だぞ? 何でこれが大当たりナンバーなんだよ!?
『何でといわれても、それがうちの局ではラッキーナンバーなんですよ♪ さて、話を戻しますが、そうして見事大当たりナンバーを揃えられたあなたには、特賞の“現在試合が行われているスタジアムのピッチ上で躍動できる権利”が与えられたのです♪』
いや、その特賞とやらの内容もよく分からない。スタジアムのピッチ上で躍動できる権利? 何となくイメージはできるが、アレか? 選手と一緒に手を繋いで入場するというアレ。いや、だがあれをやれるのは子供オンリーだったような気がするが……よく知らんけど。
『いえ、私共の差し上げる権利は、エスコートキッズになれるとかそういうものではありませんよ? 大体、あの入場シーン、選手含めてみんな躍動しているように見えますか?』
まあ、確かに言われてみれば、あれは手を繋いで整列して歩いて入場してくるだけで、到底躍動しているとはいえない。なら、この妖精が言う“ピッチ上で躍動できる”っていうのはどういうのなんだ?
『それはもちろん、あなたがチームの一員としてあのピッチの上で活躍していただくということです♪』
チームの一員として? 一瞬、自分がサッカー選手として、あのスタジアムのピッチ上を颯爽とドリブルしている姿が思い浮かぶ。
『もちろん、プロと今のあなたとでは、肉体、技術ともに大きな差があります。ですが、そこはご安心を。私共、フェアリーライフチャンネルの開発した独自の技術が、瞬時にあなたを心身共にプロと同等のレベルまで引き上げて差し上げますので♪』
何だ、その独自の技術って? うさんくささ満点の話に頭がくらくらしてくる俺。
だが、見方を変えれば、こうしてアニメキャラクターがこちらに話しかけ、さらにテレビ電話でもないのに会話が成立しているということ自体が、この“妖精”がこちらの想像もできないような技術を有している何よりの証拠といえるんじゃないか? ならばもしかして、“妖精”の言っている豪華景品の話もあながち嘘ではない……かも?
『それではもう一度お聞きしますね。あなたは私共が差し上げたこの権利、行使なさいますか? 行使なさらない場合は権利は次にナンバーを揃えられた方に移らせていただきますが……』
その妖精の問いに、俺はつい首を縦に動かしてしまっていた。
次の瞬間、テレビのチャンネルをリモコンで変えたかのように、目の前の景色ががらりと変わる。
俺の目には、青く澄んだ空と緑の芝、そして、その芝を取り囲むように設置された立体的なスタンド席が映っていた。その席は、一番低い席でも自分の目線よりも一段高い位置に作られているように見える。さらにそこには、自分のことを眺めている観客達の姿があった。いや、正確には大多数の観客が席から立ち上がって出入口のゲートへと移動しようとしているが、明らかに座席に座ったままこちらの方を見ていると分かる観客もいる。
これは……俺は今、あのスタジアムのピッチの上に立っているのか!?
何がどうなっているのか、そもそも瞬間移動をした感覚もなくこんなところに突然放り出されるなんて……!
半ばパニックになりながらも、まずは本当に自分がピッチの上にいるのか足下を確かめようとする俺。
だが、そこで待っていたのはさらなる混乱であった。
確かに俺は緑の芝の上に立っていた。それはある意味予想通りである。問題は、その芝よりももっと手前、視線に入り込んできた俺の体にあった。
最初に目に飛び込んできたのは、自分の胸にできた肌色の“谷間”だった。俺の胸には、大きく膨らんだ二つの丸い丘ができていた。その双丘を青いビキニトップが寄せて上げ、見事な谷間を作りだしている。見るとどうやら俺はその上にジャケットのようなものを羽織っているようだっが、それは前を閉じるどころかほとんど前部の布地がなく、胸以外の上半身全ての肌が露わとなっている。そこから続く腰は細くくびれ、さらにその下ではデザイン重視の大きな白いベルトが、ピッチリと下半身に張り付くようなビキニトップと同色のホットパンツを締め付けている。手にはいつの間にか金色の繊維を集め玉のようにしたものを握らされていた。
それが何を意味するのかを理解する間もなく、俺の耳に飛び込んでくるアナウンスの声。
『それでは、ハーフタイム恒例、公式チアダンスチーム“ブルーフェアリー”による華麗なダンスをお楽しみ下さい!』
チアダンス!? 気がつくと、俺の左右には俺と同じ格好をした美女達が笑顔で立っていた。な、何なんだ、これは!?
だが、俺の体はそんな俺の意識を無視して勝手に動き出す。
場内に軽快な音楽が流れ、チアリーダー達がそれに合わせて踊り始めたのだ。数いる候補の中からオーディションで選ばれたであろうプロらしく、華麗な、そして妖艶な演技を個人としてだけでなくチームとしても魅せていくチアリーダー達。その動きに俺の体は遅れることなくついていく。
妖艶に腰をくねらせ、足を蹴り上げ、大きな胸を弾ませる『俺』。
やめろ、見るな、見ないでくれ……!
そんな思いとは裏腹に、俺はいつの間にか顔に笑みを浮かべていた。観客的には試合の合間のいわゆる“トイレタイム”の時間帯にも関わらず、それでもスタンドに残ってこちらを観ている観客達に向かって、己の技と肢体とを見せつけていく。
あ、ああ…………。
遠くからでもはっきりと感じる熱い視線に晒され、かあっと顔が熱くなる。だが、俺は、その熱さの中に、顔から火が出るような恥ずかしさとは別に、興奮と快感からくるものが入り交じっていることに気が付いていた。
ああ、オレ、チアリーダーになって、みんなに“女”をさらけ出してる……。
そう意識したとたん、体にゾクッと快感が走り、お腹の下の辺りがキュンと音をたてたように感じる。
アアッ……オレ……見られることでキモチよくなってる……。ああ……もっと、もっとキモチよくなりたい……。見て……もっと見て、オンナの“アタシ”のことを……。そして、もっともっと感じさせて……!
いつの間にか、アタシは自分の意志で体を動かしていた。曲に合わせて手足を振り上げ、乳房を揺らし、ガン見している男の視線に気付けばわざと少し前傾姿勢となって笑顔とともに胸の谷間をアピールする。
アァ……。みんなの視線が集まってくる……。キ、キモチイイ……!
照りつける太陽の下、アタシはピッチの上で観客達の視線を感じながら、最高の笑みを浮かべ躍動するのだった……。
さて皆様、いかがだったでしょうか。フェアリーライフチャンネルのサッカー応援特番、“新たなフェアリーが生まれる瞬間(とき)”は? こうしてスタジアムでは新たなフェアリーが次々と誕生しています。スタジアムに来たときは、サッカーの試合だけでなく、彼女達の華麗なパフォーマンスにも注目して下さいね♪
それと最後に一つご注意を。サッカーチームにはチアダンスチームを置いているチームと置いていないチームがあります。置いているチームもアウェーゲームにはチアダンスチームを帯同していない時もあるので、彼女達を目的にスタジアムに来られる場合は事前に確認してくださいね♪ それでは、次はスタジアムでお会いしましょう♪
トップページに戻る
小説ページに戻る
|
|