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ペアプレイ
作:高居空


「よっしゃ、また勝ったー!」
  ゲーセンの筐体の前で俺は天に向かって雄叫びを上げた。
「やっぱツエーな、俺達!」
  ニヤリと笑う相棒と拳をつけ合わせ喜びを分かち合う俺。今日はこれで破竹の16連勝。今の俺等はまさに無敵モードだ。
「しっかし弱ぇな他の奴ら。俺等タバコ吸ってる余裕もあるってのによ」
  言いながらタバコをふかし、モニターの前で新たな対戦相手が見つかるのを待つ。正直、もうちょっと骨のあるヤツがいてもいいもんだと思うが、まっ、このゲームをやってるヤツらは基本的にバカが多いから、それもまあしゃあないだろう。
  今俺等がプレイしてるのは、トレーディングカードを筐体の上で動かしてリアルタイムで戦うオンライン型のアーケードカードゲーム。こいつで勝つためには強いレアカードが必要だの練習を重ねてハンドテクを磨くのが一番だのとまあネットなんかじゃ色々言われてるが、そんなのに金や時間を費やさなくても、このゲームで手っ取り早く勝率を上げる良いやり方がある。それが、2人でプレイするって方法だ。
  うん? 分かんないか? だからこうしたゲームに興味があるヤツはバカばっかりだっていうんだよ。例えば6枚のカードを同時に操作する必要があるとすんだろ? こいつを2本の腕で操作すんのと、4本の腕で操作すんの、どっちがより完璧にカードを動かせると思う? まあ、手加減してやってそれぞれが片腕しか使わないとしても、1人が画面の端の方で積極的に戦いを仕掛ければ、相手はバカだからそっちの方に意識が持ってかれる。その隙にもう1人が逆側で好き勝手し放題ってヤツさ。それで相手の意識が逆に向いたら、今度はもう片方が後ろから追撃、殲滅する。な、ツエーだろ?
  は? そうしたプレイはメーカーでも店でも禁止してるって? だからバカだってんだよ。そんなの建前に決まってんだろ。俺たちゃ金を払ってヤツ等を儲けさせてやってる客なんだ。文句なんて言われるはずねーじゃねーか。実際、これまで店員に見られても注意なんかされたことねーぜ、俺達。
「あの、お客様、申し訳ありませんが……」
  ン? なんだこのネーちゃん。このゲーセンの制服着てんが見ねー顔だな。新入りか?
「お客様はペアプレイをなさってるのですか?」
  は? 見てのとおりだよ。そんなのも分かんねーのか、ネーちゃん。
「あの、それでしたらやはり他の方から見てもちゃんとペアだと分かるようにしていただかないと……。及ばずながら私が少しばかりお手伝いさせていただきますね」
  そうネーちゃんが口にするのと同時に、ゾクリと何かが俺の身体を走りぬける。
  ナンだ? 反射的に自分の身体を見下ろす俺。
  な、なんだこりゃ!? お、俺の胸が……
  ジャージの下からムクムクと盛り上がってくる俺の胸。その形が服の上からでもはっきりと分かるくらい大きく膨らむと、今度は緑色のジャージがピンク色に染まっていく。
「アッ、アア……」
  口を開くと、そこからは聞いた事のない女の声が漏れた。
  戸惑う間もなく、次の刺激に翻弄される俺。
「キャンッ!」
  不随意に顎を上げ、声を上げてしまっていた。胸を……胸を何かが締め付けている!? それに股間にピッチリと張り付くこの感触……
  戻した視線の先では、完全にピンクへと変わったジャージのチャックがひとりでにスルスルと下がり、その奥に隠されていたモノが露わになろうとしていた。
  日焼けサロンで焼いたような小麦色の肌に、男のモノを簡単に挟み込めそうな大きな胸の谷間。そして、ジャージと肌の間で少しだけ顔を見せている黒色のブラ。
  ……アタシは、オンナになっていた。
  隣ではアタシの相棒がバカみたいにぽかんと口を開けている。が、アタシのオンナの部分を注視するその目には、明らかに欲望の色が浮かんでいた。
「これでお二人はどこから見てもペアですね♪」
  な、なに言ってんの、このアマ! あ、アタシがなんで男とペアになんなきゃいけないのよ!
  詰め寄るアタシに首をかしげる女。
「あ、すいません。逆でしたか」
  その声とともに、アタシのカラダに再び変化が起こる。
  ピンク色のジャージが緑に変わり、胸の締め付けが取れ、胸そのものも小さくなっていく。
  しばらくすると、俺は元の俺の姿に戻っていた。
  ……が、俺の目は元に戻った自分の身体よりもその隣に映るモノに釘付けになっていた。
  その場所にはついさっきまで灰色のジャージを着た俺の相棒が座っていたはずだ。が、今そこにいるのは、ピンク色のジャージをはだけ、大きな胸が作り出す谷間を露出させた小麦色の肌をした女だった。パーマのかかった茶髪を肩のあたりまで伸ばしたその女は、俺がこれまでアソんできた女と比べてもかなりイケてる部類に入る。加えて男を誘ってるとしか思えないその格好。ちょっと遊べばすぐにヤらせてくれるイイ女なのは明らかだが……
「ちょっ、なんでアタシが男なんかとペアになんなきゃなんないのよ!」
  こっちがちょっと引いてしまうくらいのヒステリックな勢いで店員のネーちゃんへと食ってかかる女。対するネーちゃんは、そんな噛みつかんばかりの女を前にして、何か珍しいモノでも見たとでもいったような表情を浮かべている。
「あっ、すいません。つまり、お二人はどちらも男の方とのペアは嫌なんですね。ごめんなさい。私もそういった趣向の人達がいるっていうのは知ってましたけど、実際に見るのは初めてだったものですから……」
「う!?」
  ネーちゃんのその言葉と共に再び変化し始める俺の身体。
  あっという間に、アタシはオンナの姿に戻ってしまっていた。
「はい、これなら大丈夫ですね。例え女同士でも、ジャージがお揃いですから他からもしっかりペアだって分かりますし」
  な、なに考えてんのこのアマ!?
  アタシは女をシメようと手を伸ばすが、それが胸元に届くよりも早く、女は微笑みを浮かべながらゲームの筐体を指さした。
「あ、お客様、どうやら次の対戦相手とマッチングしたみたいですよ」
「!」
  その言葉が耳に入るやいなや、アタシの身体はアタシの意志を無視して筐体へと向き直る。
「それでは、当店でペアプレイをごゆっくりお楽しみ下さい♪」
  そんな女の声を背に受けながら、アタシ達は不随意に互いの呼吸が聞こえるくらいの距離までカラダを寄せ合い、ゲームを開始するのだった……。



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