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渚の勝負
作:高居空
「おい、男に二言はないだろうな」
「もちろんだ。そう言うお前こそ急に泣き言とか言うなよな」
「ふん、泣き言を言うことになるのはどっちかな?」
夏の日差しがさんさんと降り注ぐ海水浴場。輝く海で戯れる人々と砂浜に咲き誇るビーチパラソルを前に、俺達は激しい火花を散らす。
俺の横にいるのはいわゆるマブダチ、それもソウルブラザーと言えるような奴だ。こいつと俺とは趣味趣向やら考え方やら、とにかく波長があう。好きな漫画も同じ、好きなゲームも同じ、好きなアニメも同じ、好きなキャラや笑いのツボも同じ、ゲームなんかでの戦法も同じ、そして彼女がいないのもまったく同じ。
そんな俺達がなぜこのような状況に陥ったのか? 今となってはよく覚えていないが、とこかく何かの話から脱線してそのまま色々と飛躍しまくり、気が付いたら俺達はビーチでどちらが先に彼女をゲットするか勝負することになっていたのだ。言い出したら後に引かない性格なのも俺とこいつはおんなじだ。そんなこんなでこうして俺達は真夏の海水浴場へとやってきたのだった。
「そこまで言うからには、お前、何か奇想天外な作戦でも考えてきたのかな?」
「そう言うお前も、無策で本気で勝算があるとでも思っているのかな?」
互いに挑発しながらふっふっふっと笑う俺達。だが、俺には実際、勝利のための作戦も勝算もあった。そのための仕込みは既に終えている。さて、そろそろ仕込んだブツが効いてくる頃だが……。
「まあ、実際の所、俺が勝つのは目に見えてるけどな」
そう言ってふふんと胸を張るダチ。何でそんなに自信満々なんだかよく分からんが、おそらく奴は気が付いていないだろう。自分の乳首の部分に突如として現れた小さな布地のことに。
最初は乳首を隠すぐらいの大きさだったその布地は、徐々にその布地を広げていく。それに合わせるかのようにダチの胸が膨らみはじめ、やがてそれは女の乳房の形になっていく。同時に腰はくびれ、トランクスタイプだった水着の裾がせりあがっていくとともに尻が丸みを帯び、股間の膨らみが小さくなっていく。
よし、説明どおりの効果は出てるみたいだな。
俺は先日手に入れた秘薬の効果が出ていることに心の中でガッツポーズをする。
俺が手に入れた秘薬、それはネット上で悪魔が運営していると噂されている裏サイトから入手した物だった。
その効果は、薬を飲んだ者の存在そのものを異性に変え、さらに対象者は変化終了後最初に見た者に心を奪われてしまうというもの。つまりは変則的な惚れ薬だ。
俺はこの薬をダチの朝食に盛っていた。正しくは朝食の際、俺が作ってきた薬を盛ったサンドイッチとダチの朝食を交換したのだが(偶然にもダチの朝食もまたサンドイッチだった)、ともかくそんなこととも知らずに俺のサンドイッチを口にしたダチは、こうして今自身の変化に気付かぬまま女へと変わっていっているのだ。遅効性の薬のため、変化が始まる前に勝負が始まって別々の行動になってしまったらどうしようかと思ったが、奴の挑発に乗るふりをして時間稼ぎをしたのがどうやら功を奏したようだ。
気が付くと、ダチの胸はその谷間がはっきりと現れるくらいに大きく成長していた。顔の方も誰がみても可愛いと思うであろう女顔となり、髪型もその姿に似合った物へと変化している。
ダチは完全に可愛らしいビキニ姿の女性へとその姿を変えていた。
この姿、やっぱり薬のオプションで『魅力値+レベル3』を付けておいて良かったぜ。ただ性転換させただけじゃ、どんな女になるか知れたもんじゃないからな。
薬を注文した際のオプション選択に間違いがなかったことに満足する俺。
この薬を買った裏サイトでは、変化後の姿の外見を決める魅力値を増減できるオプションが付いていた。
オプションはプラスマイナスともそれぞれ10レベルまで用意され、プラスのレベルが高くなるほど外見は良くなるがその分対価も高くなり、マイナスが大きければ対価は少なくなる。ここでいう対価というのは、悪魔のサイトらしく寿命やら魂だったりするのだが……実際に吸い取られてるのかどうかは知らないが……、ともかく、俺はそこで魅力値プラスのレベル3を選択していた。本当ならもっと高いレベルの物を選びたかったところだが、その効果と対価とを天秤にかけた場合、これが妥協できるギリギリのラインだった。例えいい女をゲットできるとしても、寿命を二桁も捧げるのはさすがに割に合わない。
そう、俺はこの勝負が決まった時から最初からダチを女に変え彼女にするつもりだった。言っておくが別に俺はホモの気はない。だが、冷静に考えてみれば、この世の中でこれだけ趣味趣向や考え方が一致するようなパートナーが果たしてどれだけ存在するだろうか? 例えビーチでナンパに成功して一時的に彼女ができたとしても、趣味や考え方の相違はやがて不幸を呼ぶことは明らかだ。その点、ダチが彼女であるならば間違いなくベストパートナーとして付き合っていけるだろう。だから俺はダチを女に変えることにしたのだ。
もはや元の雰囲気などどこにも感じられないくらい可愛い女と化したダチは、大きなその瞳を俺に向け、にっこり……というよりもどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「どうやら、勝負は私の勝ちみたいね♪」
って何を言ってるんだ? ダチの考えていることが分からないながらもとりあえず言い返す。
「いや、私の勝ちでしょ?」
その言葉には? とばかりに口をぽかんと開けて小首を傾げるダチ。
ああもう、可愛いなあこの娘は! たぶんこうなるだろうとは思ってたけど、その可愛さは反則級だ。なんだかドキドキして、股間が湿り気を帯びてきちゃった気がする。
そう、私とダチとはまさにソウルブラザーというのが相応しいような関係だった。好きな漫画も同じ、好きなゲームも同じ、好きなアニメも同じ、好きなキャラや笑いのツボも同じ、ゲームなんかでの戦法も同じ、そして『女』が好きなのも同じ。
だから、彼がビーチで先に彼女を作るのがどちらか勝負を持ちかけてきたとき、私は彼を女に変えることに決めたのだ。後は一緒についている惚れ薬の効果で私に惚れさせちゃえば、立派な『彼女』の完成だ。
いや、ひょっとしてあの薬、存在そのものを異性に変えるって話だったから、あの娘、最初から自分が女で、しかも私が彼女だって思ってるのかな? それなら何となく話は分かるけど……。
まっ、そんなことはどうでもいいか。ともかく重要なのは、ダチがこんなに可愛い娘になったってこと♪ ホントは今すぐにでもイチャイチャしたいところだけど、さすがに今は人の目がある。世間様の常識を無視した行動をするほど、私も空気が読めない訳じゃない。イチャイチャは予約してあるホテルに行ってから存分にすることにしよう♪
「じゃ、勝負は貴女の勝ちでも良いから、ちょっと泳ぎに行こうか♪」
「うん、そうだね。一杯楽しもう♪」
私達は互いに頷くと、大きな胸を弾ませながら海に向かって駆け出すのだった。
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