トップページに戻る
小説ページに戻る
苗床
作:高居空
へえ、こんな洞窟の奥に来客とは珍しい。途中に魔獣の巣もあったろうにご苦労なこった。で、なんの用だ?
はっ、「魔女」、ねえ。あいにく、こちとらキノコの研究に一生を捧げると決めた、ただの学者だぜ。まっ、特殊なキノコを使って魔術めいたこともできなくもないが、本物の魔法なんて使えやしないさ。魔女狩りなら他を当たってくんな。
まあ、「はいそうですか」とはいかんわな。実際、賞金稼ぎにとって、賞金がかかってさえいれば、相手が本物の魔女かどうかなんて関係ないだろうしな。まったく、あの狂信者どもにも困ったもんだ。優れた相手が女の姿をしていれば、すぐに魔女だと騒ぎたてやがる。あんな教団が懸賞金を懸けるだけの財力を持ってるとか世も末ってもんだ。いや、それともお前さんもあの教義を信じているくちかい?
まあいいさ。で、一つ聞くが、自分に賞金がかかっていることを知ってる俺が、何の備えもしていないと思うかい?
どうだ? 体が痺れていうことをきかなくなってきただろ?
この洞窟の深部には、俺が発見した新種のキノコの胞子が充満してるのさ。当然、お前さんの体にも相当数が付着しているだろうな。
このキノコはいささか特殊でな。光がないところで成長し、逆に日の光を浴びればとたんに死滅してしまう。もしお前さんが日のあるうちに引き返してれば、何事もなく街に帰ることができてただろうさ。
そう、お前さんは既にキノコの苗床なのさ。
もう指も満足に動かせないだろ。さあ、もうすぐ発芽するぞ。一斉にな。
このキノコは本当に特殊でな。胞子状態では日光に触れない限り死滅することなく永遠に漂い続け、その苗床、生物の雄が現れるとその肉体に着床し1、2時間後に発芽、一気に成長する。養分は宿主の体の男性成分さ。
ああ、だからといって、2本や3本くらいなら特に問題はないぞ。キノコが吸い上げる量より、体が作り出す男性成分の方が多いからな。だが、果たしてお前さんの体にはどのくらいの胞子が付着しているのかな?
ふっ、これは壮観だな。見事に全身から立派なキノコがそそり立つように生えてるじゃないか。こいつは旨そうだ。さて、それじゃあ収穫するとするか。
お、気が付いたか。
お前さんに生えたキノコは全て収穫してやったぞ。ああ、無理はしない方がいい。全身から養分を吸われて、今はほとんど体を動かせないはずだからな。まあ、まずは栄養をつけるこった。
ほら、これでも食いな。お前さんから採れたキノコだ。立派なもんだろ、太くて大きくてさ。
さあ、存分に味わいな。その新しくできた「下のお口」でな。
トップページに戻る
小説ページに戻る
|
|