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文字 −其の四−

作:高居空


────古人曰く、文字は呪の一つ、力ある者が用いれば、あるいは現世に影を落とさんと────


「ねえ、ホントにこんなところまでくる必要あった?」
  ゴミ袋を手に僕は前をいく友人に尋ねる。
「こういうのはやっぱり人目に付かないところでっていうのが定番だからな。俺達の目的、忘れてないだろ?」
「分かってる、青いカンでしょ、青カン」
  そう、僕たちは二人で青いカンを探していた。なぜそんなものを探しているのかというと、青いカンは今僕達が参加している「スポーツゴミ拾い」の中でも、特別ポイントが入るゴミだからだ。
  スポーツゴミ拾いというのは、町の清掃活動に競争の要素を加えたイベントで、今回は、参加者が二人一組となって制限時間内に道ばたなどにポイ捨てされたごみを拾い、その集めたごみの内容によって順位を競うというものになっている。順位は集めたごみの重量が基本なんだけど、それ以外に特別にポイントの付くゴミというものがある。それが、カンやペットボトルといった、リサイクルすることができるゴミだ。
  なんでも、そうしたゴミは、専門のところに持っていけば、資源として買い取ってもらえるらしい。ただ、普通のポイ捨てゴミとごちゃまぜだと引き取ってもらえないということで、イベントではそれらの品目は普通のポイ捨てゴミとは別の袋で回収することで、その袋は重量にプラスして特別ポイントが入る仕組みになっているのだ。
  ポイントは、ペットボトルが1本につき1ポイント、カンが1本2ポイント、そしてカンの中でも赤いカンは5ポイント、青いカンは10ポイントとなっている。そして、1ポイントは100グラムとして計算される。つまり、青いカン1本拾えばそれだけで1キログラムのゴミを拾ったのと同じになるのだ。
  ゴミ拾いをやったことがある人なら分かると思うけど、普通のポイ捨てゴミ、タバコの吸い殻やコンビニ弁当の容器なんかは軽いので、青いカン1本分のポイント1キログラムを集めるにはかなりの量が必要となってくる。つまり、このイベントで上位に入るためには、特別ポイントがつく品目をなるべく多く集めることが重要なのだ。そこで、僕と友人は、ポイントの一番高い青いカンに狙いを絞って集めることにしたんだけど……。
  でも、やっぱりこんなところに空きカンはそうは転がってないと思うけどなあ……。
  寂れた神社を通り過ぎ、更に奥の森へとずんずん進んでいく友人の背中に、僕は心の中でつっこみを入れる。
  確かに、神社へと続く参道の入口脇には、誰が置いたのか自動販売機があって、そこでは青いカンの飲み物が売られていた。そこに目を付けた友人は、“ポイ捨ては人目の付かないところでやるものだ”という考えで、人がほとんどこないと思われる森の方へと進んでるんだろうけど、僕の考えでは、空きカンのポイ捨ては、中身を飲み終わったあと、荷物になるからとその場に捨ててっちゃうのがほとんどだと思っている。
  つまり、自販機で飲み物を買ってから、結構離れたこの場所まで来て飲み物を飲もうというような奇特な人がいない限り、ポイ捨てされたカンはないというのが僕の読みだ。もっとも、常日頃から主導権を友人に握られている僕と友人の関係では、なかなか僕の意見を言うことはできないんだけど……。
  そんな、ちょっと悶々とした気持ちになりかけたときだった。
  僕らの後ろ、ちょうど神社の方から女の人の声が聞こえてくる。
「あらあら、先日のあの子達といい、最近の若い子達は本当にお盛んですねえ」
  “あらあらまあまあ”といった感じの声に続き、今度は小学校低学年くらいの女の子と思われる声がする。
「ねえ母様、あの子が言っていた“あおかん”って、なに? どんな漢字を書くの?」
「それはですね、ふふふ……」
  瞬間、僕の見ている景色ががぐらりと揺れた。




「ねえ、ホントにこんなところまでくる必要あった?」
  ゴミ袋を手に僕は前をいく友人に尋ねる。
「こういうのはやっぱり人目に付かないところでっていうのが定番だからな。俺達の目的、忘れてないだろ?」
「分かってる、青いカンでしょ、青カン」
  答えた僕に、友人は足を止め、振り返るとにいっと口元に肉食獣のような笑みを浮かべた。
「そうだよな、分かってるよな。なら……もう準備はできてるって事で、いいよな?」
「えっ?」
  意味が分からず思わずきょとんとした僕に対し、友人はざっと距離を詰めると、いきなり僕の着ているTシャツをめくり上げた!
「きゃあ!」
  乱暴にたくし上げられたTシャツの下から、ブラに包まれた二つの膨らみがぷるんと顔を出す。
  …………え?
  何でこんなものが僕の胸に? と思った瞬間、次の衝撃が僕を襲う。
  友人が僕の口の中に舌をねじ込んできたのだ!
「〜〜〜〜〜〜〜〜!」
  そのまま地面へと押し倒される僕。
  そして…………
 



  こうして僕は、“青姦”というマニアックなシチュエーションで初めて男を受け入れたのだった。



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