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文字 −其の参−

作:高居空


────古人曰く、文字は呪の一つ、力ある者が用いれば、あるいは現世に影を落とさんと────


「ねえ、どうしてこんなところまでこなきゃいけないの?」
  ボクは森の中へとずんずんすすんでいく友だちにたずねる。
「そんなの、先生とかみんなのいないところでしゃせいをするためにきまってるじゃん」
  友だちはふりかえるといたずらっぽいえみをうかべた。
  う〜ん、なんでだろ? 友だちはそういったけど、しゃせいをなんで先生とかみんなのいないところでやらなきゃいけないのか、ボクにはわけがわからない。
  学校のしゃせい大会、たしかに先生は町の中ならどこでかいてもいいといったけど、友だちが「いいところがある!」といってたばしょが、こんな昼でもくらい神社の後ろの森だとはおもわなかった。
  たしかに、先生もみんなもいないけど、くらい森で友だちと二人きりというのは何だかこわい。こんな時、おばけなんかが出てきたら……。
  そのときだった。ずっと後ろの神社のほうから女の人の声がする。
「まあまあ、昔からここでそうしたことをしようとする人達は時折いましたけど、この歳でなんて、今の子は本当に進んでますね」
  いっしゅんおばけかとも思ったけど、その女の人の声はまったくこわさを感じないやさしい声だった。ちょっとほっとしたところで、こんどはボクたちより少しだけ小さそうな女の子の声がする 。
「ねえ母様、あの子が言っていた“しゃせい”って、どんな漢字を書くの?」
「ふふっ、それはですね……」
  しゅんかん、ボクの見ているけしきがぐらりとゆれた。




「ねえ、どうしてこんなところまでこなきゃいけないの?」
  ボクは森の中へとずんずんすすんでいく友だちにたずねる。
「そんなの、先生とかみんなのいないところでしゃせいをするためにきまってるじゃん」
  友だちはふりかえるといたずらっぽいえみをうかべた。
  う〜ん、なんでだろ?
  そう思ったしゅんかんだった。友だちはとつぜんボクのかたに手をかけると、ドンとボクを後ろにおしたおした。
「わっ!」
  しりもちをついたボクに友だちはのしかかってくると、ボクのはいているスカートをたくしあげる。
「きゃあ!」
  おもわず声をあげたところで、ボクはおかしなことに気づく。
  あれ、なんでボク、スカートなんてはいてるんだろう。ボク、男の子なのに…………。え、でもパンツも女の子のだし、それをはいてるってことはボクは女の子……? あれ?
  なにがなんだか、ボクにはわけがわからない。
  その間にも、友だちははいていたズボンをぬぎすてていた。そして…………
 


「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
  だれもいない森に、友だちのしゃせいをうけとめるボクの声がひびいた。



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