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私の名前はミラクル☆カラン! 世の中の弱者の声を感じ取り、その子に代わって悪事を止めるために頑張ってる正義の魔法少女なの! とはいっても、どこかの魔法少女みたいに悪い人に力ずくでお話を聞いてもらう訳じゃないよ。どんな攻撃魔法で相手を倒したって、その人が自分が悪いことをしているんだって事を理解してなかったら、また同じ事を繰り返すかもしれないもんね。逆に、自分がどんなに酷いことをしているのかが分かれば、痛い思いをしなくたってその人は絶対に改心すると思うんだ。
だから私は魔法を悪い人を懲らしめるためじゃなくて、自分が過ちを犯してるんだって気付いてもらうために使っているの。この力で私は世界中のみんなの顔を笑顔に変えていきたいんだ!
魔法少女ミラクル☆カラン
カードファイトでドッキドキ?
作:高居空
よし、きた……!
机の片隅に積まれたカードの山。そこから1枚のカードを手札に加えたぼくは、今この場面で一番大切なカードがきてくれた事に心の中でガッツポーズを取った。
今、ぼくの小学校ではカードゲームがすごいブームになっている。テレビで放送されているアニメが原作のカードゲーム……あれ、それとも逆なのかな? とにかく、ぼくの学校では下級生から上級生まで、みんながそのカードゲームで放課後にカードファイトすることを楽しみにしてるんだ。先生も「このゲームは頭を使うし、計算力もつく」ってテレビで取り上げられたことがあるからか、帰りの時間がくるまでは黙ってみてくれている。う〜ん、携帯ゲームを持ち込んだりするとすぐにガミガミ怒るのに、どうしてこっちは大丈夫なんだろ? 携帯ゲームだって頭を使うし、計算だって必要なのもあるのにね。大人の人はみんな、電気で動くゲームはダメなゲームだって思ってるみたい。ほんと、良く分かんないや。
そんなこんなで、今日もこうしていつもみたいにカードファイトをしているぼくだけど、正直今回のファイトは対戦相手の木瀬君のファイトにここまでかなりおされ気味だった。
自慢じゃないけど、ぼくはカードファイトの腕前では学校内でも上位のランクに入っている。同学年の3年生相手だったらほとんど敵無し、5年生や6年生相手でもそこらの人には余裕で勝っちゃえたりする。だけど木瀬君はそんなぼくを倒すために、どうやら専用の特別なデッキを作ってきたみたいだ。
こうしたカードゲームには強いって言われる有名な戦法がいくつかあるんだけど、そういったのを多くの人が使い始めると、その戦法を倒すために新しい戦法が開発されるってことがある。そうした新しい戦法っていうのは、大体が「普通の相手と戦った場合はあまり強くないけど、ある戦法を使う人相手には圧倒的に有利」っていうのが特徴で、対戦相手の使う戦法が戦う前から分かっているなら、ファイトで物凄い力を発揮してくれるんだ。
一応、ぼくの使っている戦法はそれほどみんなが使っているようなものじゃないんだけど、木瀬君はそんなぼくの戦法を研究して、対ぼく用のデッキを作りあげてきたに違いない。じゃなきゃ、ここまでカードファイトでぼくの思い通りにならないことなんてそうそうないはずだ。だけどそれもこれで終わり。ぼくのデッキの中で一番大切なこのカードさえあれば、どんな相手だって敵じゃない!
「たちあがれ、ぼくの分身!」
ぼくはテレビアニメで主人公が一番愛用しているカードを場に出すときに口にするセリフをマネしながら、切り札を戦場へと送り出す。
「ちょーっと待ったー!!」
次の瞬間、教室内に響き渡る女の子の大きな声。
な、なに?
その大きな声に何か危ない事でもあったのかと思いゲームをストップして辺りを見渡したぼくは、ちょうど教室のドアの所になんだかコスプレっぽい服を着た見たことのない女の子が立っているのに気がついた。
フリルがいっぱいついた魔法少女っぽい白いワンピースを着た、ぼくより一つか二つくらい年上に見える女の子。その子は、なんだかわかんないけど顔をちょっと赤くしながら、教室内に向かって手にした魔法のステッキみたいなものを突きつけている。
「全世界の弱者の味方、魔法少女ミラクル☆カラン! 悪事の現場にただ今参上です!」
そう言って後ろでドーンという効果音が入りそうな感じのポーズを決める女の子。
ミラクル☆カラン? それってこの女の子がしてるコスプレの元になったキャラクターの名前かな? そんな名前のキャラクターなんてぼくは聞いたことないけど、今は真夜中にもアニメがやってるって話だし、もしかしたらそこに出てくるキャラクターなのかも?
そんな事を考えているうちに、気がつくと女の子は音もなくぼくのすぐ側へと近寄ってきていた。
「そこの君!」
え? ぼく!? なんで!?
「どうして君はそんな悪い事を口にするんですか!」
そう言って相変わらず頬を少し赤く染めながらも眉毛を吊り上げる女の子。ちょっ、いきなりそんな事言われたって、なにがなんだか分かんないよ!? ぼくがさっき口にしたのはテレビアニメの主人公のセリフで……
「なっ!? もしかして君、そのセリフがどんな意味を持っているのかも知らないで口にしてたんですか!?」
そんなぼくに対し、怒ったような呆れたような顔をみせる女の子。
「君は分かっていないみたいだけど、あのカードファイトアニメの主人公が口にするセリフって、実はとっても危険なんですよ! 『起ちあがれ! 僕の“分身”!!』 ……朝っぱらの放送とは思えないそのセリフ、そして誰が相手でも“分身”を起ちあがらせちゃう主人公に全国の女の子達は毎週みんなドッキドキ! 放送局側もPTAから文句が来ないかドッキドキ! ホントみんな大変なんですから!」
「え……と、ごめんなさい、やっぱりよく分かんないよ。どうして女の子がそのセリフでドキドキしたりするの? それってファイトが面白くなりそうだから?」
「みゅ……そうですか、どうやら君には、どうしてそのセリフを口にしてはいけないのか、実際に聞く側の立場に立って知ってもらう必要があるみたいですね」
え? それってどういう……
「いくよ! 悪因悪果、因果応報! 目には目を目を歯には歯を! 超魔法スーパーハムラビスパーク!!」
だけど、ぼくが口を開くより早く女の子は呪文のようなものを唱えると、同時にその手に持ったステッキからピンク色のまぶしい光が溢れ出す。
その光はまたたく間にぼくの体を包み込み、ぼくはそのまぶしさにたまらず目を閉じる。次の瞬間、下の方で何かが弾けるパンという音が聞こえたのと同時に、ぼくは履いているズボンの感触が何だか変になってしまったのを感じていた。
なんだこれ、急に足全体がやけにスースーしてきたような……
その感覚に光がやんでるかどうか確認しながらおそるおそるまぶたを開いてみたぼくが目にしたのは、ズボンの代わりにぼくの腰から太ももの上の方までをぐるっと包み込んでいる、ひだひだのついた一枚の布切れだった。丈の短いその布切れの下からは、白い足が太ももの付け根ギリギリ近くまで顔を出している。
え……これってひょっとして……スカート!?
訳が分からずその布を上からパンパンと叩くぼく。だけど、それによりぼくはさらに信じられないことがぼく自身に起こっていることに気がついてしまった。
な、なくなってる……
男の子なら誰でもついているあれ、あれがあるところを上から叩いても、そこにあるって感じがまったくしない。こ、これって……
そんなぼくを前に女の子はウンと一つうなずくと、その視線を対戦相手の木瀬君の方へと向ける。
「さあ君、この子がさっき言ってたセリフを言ってみて」
「え、う、うん。たちあがれ、ぼくの分身……」
その目の強さに気圧されたのか、それとも目の前でぼくに起こった事態に動転してるのか、どこかたどたどしい口調でさっきぼくが言ったセリフを口にする木瀬君。
「さあ、どうですか? ドッキドキしたでしょ?」
再びぼくの方へと顔を向けた女の子は、「さすがに分かったでしょ」といった表情を浮かべながらそう尋ねてくる。え、べ、別に何とも思わないけど……というか、今はそれどころじゃないし!
「え? あ、あれ? おっかしいなあ……。う〜ん、ひょっとしてちょっと年齢的にまだ早すぎたのかなあ……」
そんなぼくの態度に女の子はあごに手をやりながら何やら一人でぶつぶつとつぶやいていたけど、やがて「よしっ」という声と共にうなづくと、こちらに向かってにっこりと、でもなんとなく不自然な感じがする笑みを浮かべた。
「う〜ん、残念だけど、今の君にはさっきのセリフが悪い事を言ってるって事を分かってもらえなかったみたいですね。でも大丈夫! あと数年もすれば君にもあのセリフのどこがドッキドキする所でそれがどんな悪い事なのか、絶対に分かるようになりますから! もしもその時が来て、そこで元の姿に戻りたいと思ったら、私の事を呼んでみてね! それじゃ、またね!」
そう言い終わると同時に、足下から突然立ち上った光の中へと消えていく女の子。その光景と女の子の口にした内容にしばらく呆然としていたぼくが我に返り、慌てて「待って」と口にしたその時には、光は消え、女の子の姿は既にどこにも見あたらなかった……。
う〜む、どうやら今回はこのミラクル☆カランをもってしても悪事をうまく食い止めることができなかったみたいです……。でもでも、あの子も数年後には自分が悪い事をしてるって絶対に気付くはずだし、そこできちんと反省してくれれば、悪事もきっと止めてくれると思うんだ!
……あ、そういえばあの子に「もう一度呼んで」みたいな事言ってきたけど、ちょっと慌ててたから連絡先を教えそびれちゃったなあ……。まあ、良いか。あの子が本当に来て欲しいって思えばきっとこっちにも伝わってくるでしょ。テレパシーか何かでね!
さ〜てと、それじゃ今回の件はちゃちゃっと忘れて、そろそろ私は次の弱者の所へ向かおうかな。私の名前はミラクル☆カラン。みんなが笑顔になれるその日まで、私は頑張り続けるの!
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