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  私の名前はミラクル☆カラン! 世の中の弱者の声を感じ取り、その子に代わって悪事を止めるために頑張ってる正義の魔法少女なの! とはいっても、どこかの魔法少女みたいに悪い人に力ずくでお話を聞いてもらう訳じゃないよ。どんな攻撃魔法で相手を倒したって、その人が自分が悪いことをしているんだって事を理解してなかったら、また同じ事を繰り返すかもしれないもんね。逆に、自分がどんなに酷いことをしているのかが分かれば、痛い思いをしなくたってその人は絶対に改心すると思うんだ。
  だから私は魔法を悪い人を懲らしめるためじゃなくて、自分が過ちを犯してるんだって気付いてもらうために使っているの。この力で私は世界中のみんなの顔を笑顔に変えていきたいんだ!


魔法少女ミラクル☆カラン
魔法少女と風評被害?
作:高居空


「う〜む……」
  人もまばらな24時間営業スーパーの生鮮食品売場。そこで俺は『本日の特売品』と書かれたポップの前で、値段とそこに置かれた野菜とを交互に見比べながら唸り声を上げていた。
  目の前にある野菜は間違いなく安い。この大きさなら他の店ではここの1.5倍くらいの値段で売られていてもおかしくはないだろう。大学に通うために親からの仕送りでアパートに一人暮らしをさせてもらっている身としては非常に助かるお値段だ。正直、これで何もなければ迷わず『買い』なんだが……
「でもこの野菜、あの県でできた奴なんだよなあ……」
  そう、そこに並んでいる野菜は全て、しばらく前に起こった想定外の大災害により広範囲の土壌汚染が問題となった県で収穫された物だった。
  当然、これらの品物は国の定めた出荷基準についてはクリアしてるんだろう。でなければ、スーパーの方でもこうして堂々と産地を明記した上で目玉商品として販売なんかしないはずだ。だが一方で、これらの品物が『怖い』のもまた事実。いくら国なんかが『大丈夫』だと言っても、すんなり『はい、そうですか』と納得できるはずもない。
  ……いや、分かっている。これがいわゆる偏見だっていう事くらい俺だって。被災地の復興を考えるならば、そうした偏見に惑わされずにこうした品物を買うべきだって主張する人の言う事も十分理解できるし、それが正しい事だとも思っている。だが、それが自分の身に直接関わってくるとなれば話は別だ。率先して危険性がある『かもしれない』品物を口にするなんて、正直言って正気の沙汰ではない。う〜ん、でも安いんだよなあ……。
「そこの人、ちょ〜っと待ったー!!」
「へっ?」
  そんな俺の耳へと突然飛び込んできた高い声。いきなり響いたその声に内心ドキリとしながらも何事かと振り返った俺は、そこに立っていたこうしたスーパーにはどう見ても場違いな格好をした一人の小さな女の子の姿に思わず目が点になった。
  フリルでこれでもかと装飾された白を基調としたワンピースを身に纏い、右手におもちゃの宝石のような物が埋め込まれた30センチくらいの棒を持った輝くような瞳が印象的な10歳くらいの女の子。ワンピースのスカート部分はふわりと大きく広がり、それだけ見るとまるでテレビアニメの魔法少女物やバトルヒロイン物に登場するキャラクターのようだ。だが、その女の子が左腕で抱え込むようにして持っているチラシか何かの分厚い紙の束のせいで、全体的な雰囲気としてはコスプレ喫茶やメイド喫茶の客引きの子供版とでもいうような何とも言えない微妙な物になってしまっている。
  だが、当の女の子はそうした空気になどまったく気付いていないのか、足を肩幅に広げ手にした棒を正面にビシリと突きつけると、もう一方の腕で分厚い紙の束を抱えたまま大きくその場で見得を切った。
「全世界の弱者の味方、魔法少女ミラクル☆カラン! 悪事の現場にただ今参上です!」
「……………………」
  少女の名乗りによってさらに微妙なものとなる空気。客入りの悪い時間帯なのか、さっきまでまばらにいた客もどこかに消え、ちょうどこの場に俺しかいなかったのは、この子にとってある意味幸いといえるだろう。……って、ちょっと待て。そうなるともしかして、この電波な女の子の相手は俺がしなきゃならんってことか? というか、そもそもこの場に俺しかいないってことは、今の名乗りもひょっとして俺に向かってやってたのか?
「お兄さん、なんでそんな……とと、その前にっと」
  そんな俺を前にポーズを決め悦に入った表情でこちらに棒……おそらく格好から察するにステッキかなんかなんだろう、きっと……を突きつけていた女の子は、そこで何かを思い出したのか、ステッキを握ったまま器用に脇に抱えたチラシの束からチラシを1枚引き抜くと、はいと言いながらこちらにそれを手渡してくる。
「只今絶賛キャンペーン中です! よろしくお願いします!」
  キャンペーン? 一体何の?
  訝しみながらも渡されたチラシへと目を落とした俺は、次の瞬間、そこに書かれていたあまりにも電波な内容に自分の視界がグラッと大きく揺れるのを感じた。
  そのチラシには極太ゴシックの大きな文字で『魔術学校生徒大募集! 今なら入学金なんとタダ! このチャンスに君も魔法少女になっちゃおう!!』と書かれており、その下にはやや小さな文字で『※魔法少女になっても人間やめちゃうようなことはありません』という注意書きのようなものが記されていた。
  何だこりゃ? 一体これは何のドッキリだ?
  なんだか頭が痛くなってきた俺の目の前で、電波な女の子はふうと一つ小さく息を吐くと、再びビシリと俺に向かってステッキを突きつけてくる。
「よし、これで一つノルマを消化ということで! 改めましてお兄さん、お兄さんはどうしてそんな悪い事をしようとするんですか?」
「悪い事?」
  女の子の口にした身に覚えのないその言葉に思わずオウム返しで問い返す俺。それを聞いた女の子の大きな瞳が瞬時にその輝きを増す。
「お兄さん、ひょっとして自分が悪い事をしているという自覚がないんですか!?」
  そう言うと女の子は俺へと突きつけていたステッキを例の野菜の陳列された棚へと向け、その棚をオーバーリアクション気味にトントンと叩く。
「ここに並べられたお野菜! あれだけ国の偉い人や検査機関が大丈夫だって言っているのに、『あそこの県で採れたのだから危な〜い』なんて考えて買うのをためらうなんて、それってヒドいじゃないですか! お兄さん、あそこの県には汚染されてる土地もあるのは確かだけど、そうじゃない所だってたくさんあるんですよ! それなのにあそこの県だってだけで一緒くたにされて、全然お野菜を買ってもらえない農家さんのこと、考えた事があるんですか!?」
「うっ…………」
「大体、この国の人は自分でろくに調べもしないでネガティブな情報を自身の思いこみでどんどん膨らますからダメなんです! 私の所もちょ〜っと前に深夜枠で放送されて大ヒットした新感覚魔法少女アニメの影響で現実の魔法少女まで危険なお仕事だと思われちゃって、今期の魔術学校の入学希望者数は激減! ホントなら当然後を継ぐべき魔術士のご子息やご息女さん達まで、『死にたくない』だとか『人間辞めたくない』とか『魔法少女に絶望したー!』とか言って二の足を踏む始末! お陰で私達OBまでこうやってチラシ配りに駆り出される羽目になってるんだから!」
「…………いや、全体的に言ってる事が正しそうだっていうのは分かるんだが、一体その『魔法少女』っていうのは何なんだ? どう聞いたって怪しいし、色々な意味でアブなそうな感じなんだが……?」
「なっ!? 魔法少女は決して危険なお仕事なんかじゃないですよ!! そりゃあ、魔力の運用に失敗したり、モンスターなんかとバトッたりしたときには色々ありますけど、他の職業だってほら、工事現場で事故に巻き込まれたりだとか、スポーツの試合中たまたま当たり所が悪くてとか、実験中に実験体が暴走してとかあるじゃないですか! それとおんなじですよ!」
「……いや、アブないっていうのは主にそういった意味で言ったわけじゃなかったんだが……。しかも、そっちの意味でも聞いた限りじゃ相当危なそうな気がするし」
「にゅっ! ……そうですか、どうやらお兄さんには他者の思いこみによるネガティブな風評で苦しんでいる人達の気持ちをその身で知ってもらう必要があるみたいですね!」
「は?」
「いくよ! 悪因悪果、因果応報! 目には目を目を歯には歯を! 超魔法スーパーハムラビスパーク!!」
  女の子がそう口にするやいなや、突然女の子の持ったステッキの先からまばゆいピンク色の光が溢れ出す!
「!!」
  なんだってんだ一体? 最近のおもちゃの演出ってのはこんな過激なのか? っていうかこれって人に向かって使っちゃダメだろ?
  その強烈な光に反射的に瞼を閉じてしまった俺は、女の子に文句を言うためすぐに目を開けようとしたが、そこで自分の体がまったく言う事をきかない事に気が付いた。手や足はもちろんのこと、声一つさえまったく発することができない。それと同時に襲ってくる体全体がクルクルとコマのように回転させられているような感覚。
  ど、どうなってるんだ!? 瞬時にパニック状態に陥った俺の頭には、足、腰、上半身の順に身につけている物が弾け飛んで、新たに別の何かがまとわりついてくるような感触が伝わってくる。
  そして身体が回転させられているような感覚が止まったとき、さっきまであれだけ動かそうとしてもまったく反応しなかった瞼がパッと開くと、俺の口からは俺の意志とはまったく関係なく自分の物とは思えないような可愛らしい声が発せられていた。
「夢と希望の魔法少女、ミラクル☆アニス! 可憐に可愛く参上です♪」
  …………って
「なんじゃあこりゃあー!」
  自分の発した言葉、そして目に飛び込んできた己の姿に思わず叫び声をあげる俺。
  いつの間にか俺の身体は目の前の女の子と同じようなデザインをした赤が基調のフリフリのワンピースに包まれていた。信じられないがその服に合わせるように俺の目線の高さも頭一つ、いや下手をしたら二つ以上低くなってしまったように感じられる。大きく広がったスカートで足下はよく見えないが、腕はまるで子供、よくても中学生低学年の女の子くらいのレベルまで細く短くなり、そして……俺の胸には小さくなってしまったと思われる身体にはやや不釣り合いなくらいの膨らみが存在していた。
「きゃん!」
  小さく変わってしまった手でその膨らみを揉み上げるようにして触ってみると、これまで味わった事の無い感覚が電流のように脳を駆けめぐり、口からは不随意に声が漏れる。
「うん、これでお兄さん、いやお姉さんも立派な魔法少女の仲間入りだね! とはいっても、外から注ぎ込んだ魔法で強制的に変身させただけだから、外見は魔法少女でも実際には魔法は全然使えないんだけどね。でも、『魔法をかけられた少女』だって言葉を略せば『魔法少女』になるから、うん、特に問題ないよね!」
「って、どういうことだよ、これ!?」
「ということで、新たな魔法少女、そして私の後輩になったお姉さんにさっそくお仕事です♪ このチラシ、すみませんけどこの町の皆さんに無くなるまで全部配っておいて下さいね♪ 本当は私も手伝ってあげたいんだけど、全世界の弱者が私の助けを待ってるの。それを放っておいたら正義の魔法少女の名折れだもんね。あ、ちなみにチラシを全部配り終えたら変身も解けるようになってるから。まあ、逆に言えば配り終えないと変身は一生解けないんだけどね♪ じゃ、後はよっろしく〜♪」
「って、人の質問に答えないで一方的にしゃべったままどっかいこうとすんな!」
  だが、そう口にしたときには女の子はその足下に突然前触れもなく浮かび上がった魔法陣のような物から発せられるまばゆい光に包まれていた。その強烈な輝きに思わず顔をそむける俺。
  やがて光が収まったとき、そこには女の子の姿はどこにもなく、彼女が立っていた場所にはチラシがドッサリと置かれているだけだった……



  ふう、こうして今日もまたミラクル☆カランは悪事を食い止めることができたのでした! お兄さんもきっと反省してくれたと思うし、ついでにチラシ配りも押しつけ……じゃなくて手伝ってもらえることになったしで、うんうん、良かった良かった。
  さてと、今回の件も一段落した事だし、そろそろ私は次の弱者の所へ向かおうかな。私の名前はミラクル☆カラン。みんなが笑顔になれるその日まで、私は頑張り続けるの!



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