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私の名前はミラクル☆カラン! 世の中の弱者の声を感じ取り、その子に代わって悪事を止めるために頑張ってる正義の魔法少女なの! とはいっても、どこかの魔法少女みたいに悪い人に力ずくでお話を聞いてもらう訳じゃないよ。どんな攻撃魔法で相手を倒したって、その人が自分が悪いことをしているんだって事を理解してなかったら、また同じ事を繰り返すかもしれないもんね。逆に、自分がどんなに酷いことをしているのかが分かれば、痛い思いをしなくたってその人は絶対に改心すると思うんだ。
だから私は魔法を悪い人を懲らしめるためじゃなくて、自分が過ちを犯してるんだって気付いてもらうために使っているの。この力で私は世界中のみんなの顔を笑顔に変えていきたいんだ!
魔法少女ミラクル☆カラン2
やり込みプレイにご用心
作:高居空
「うわっ、またハズレかよ……」
目の前のモニターに表示されたデフォルメされたモンスター。その姿を見た俺は思わず天を仰いでいた。
既に今日俺がこのゲームをプレイしはじめてから10時間以上が経過しようとしている。プレイ開始時には眩い朝の光が降り注いでいた窓からの景色も今では日が落ちすっかり暗くなってしまっていた。ゲームのやり込みプレイには自信がある俺も、さすがに疲れを感じ始めている。まさか、これだけやっても当初の目的が達成できないとは……。
「まったく条件が無茶すぎるんだよなあ。まあ、だからこそやりがいもあるともいえるんだが……」
コントローラーで画面上のキャラクターを操作しながら俺は小さく息を吐く。今俺がプレイしているのはやり込み系のゲームとしてマニアから高い評価を得ているロールプレイングゲームだった。やり込み系とは、人によって多少解釈は異なるものの、様々なアイテムの収集やキャラクターの強化、ゲームクリアに直接関係ないラスボスより強い敵が登場する迷宮など、ゲームのストーリーをクリアするのとはまた別の目的を持って長時間遊べるような要素が組み込まれているゲームを指す言葉である。当然、ただクリアするだけのプレイと比べてやり込み系のプレイに費やす時間や労力は数倍から下手したら数十倍にもなる。ただストーリーを追うことしかしないライトユーザーから見れば、自己満足のために時間を浪費しているとしか見えないだろう。まあ、確かにその通りではあるのだが、困難な目的を成し遂げたときの達成感は何ともいえないものがある。それにそうしたやり込み要素を全てやり遂げてこそ本当の意味でそのゲームをクリアしたと言えるのではないだろうか。
だがまあ、こうしてプレイ開始から10時間以上しても一向に進展がないのではさすがにちょっと辛くなってくるのも事実なのだが……。
「まったく、ここに本当に出てくるんだろうな。その伝説のアイテムを落とすっていう敵は……」
キャラクターをマップ上で円を描くように動かして敵と遭遇するのを待ちながら、俺はネットで見た情報を思い返す。
このゲームには通常の敵モンスターの他に255分の1だかの確率で遭遇するレアモンスターが存在している。そのレアモンスターのうちの1体である女魔人がまれに落とすというレアアイテム、それを狙って俺は延々と戦いを繰り広げているのである。
だが、当然の事ながらそのようなアイテムが簡単に手に入る訳がない。まず、レアモンスターに出会わない。今日ここまでプレイしていて未だ俺はターゲットである女魔人に遭遇していなかった。更にモンスターがレアアイテムを落とす確率は10分の1以下だと言われている。つまり、ターゲットと遭遇してもアイテムをゲットできる確率は非常に低いのだ。よほど運が良くない限りアイテムをすんなりゲットするのは難しいといえるだろう。
だが、それでも俺は目的のアイテムを手に入れたくて仕方がなかった。やり込み派ゲーマーとしての意地……それもあるが、実はそのアイテムには男なら誰でも手に入れたくなるような特殊効果が付与されているのだ。
「レアアイテム“伝説のビキニ鎧”か……。装備したらどんなグラフィックになるんだろうな……」
コントローラーを操作しながら俺はまだ見ぬアイテムを装着した自分のキャラクターの姿を想像する。このゲームでは装備した防具によってキャラクターのグラフィックが変化するようになっている。当然の事ながら体を護る防具である以上、どんな安物でも体の大切な部分は防具で覆われる訳だが、その防具の役割を真っ向から否定するお遊び系のアイテム、それが俺が狙っているレアアイテム“伝説のビキニ鎧”なのだ。
ちなみに当然のことだが俺の使っているプレイヤーキャラクターは女性キャラだ。このゲームでは髪型や体型、肌の色等キャラクターのカスタマイズ要素も充実しており、俺はそれを最大限に活用して実に俺好みのキャラクターを作り出していた。彼女に噂の鎧を着せたらどうなるか……その妄想をモチベーションに俺はこうして苦行にも似たプレイに耐えてきたのだった。
「さて、目的の品を手にするためにもう一踏ん張りするか」
気合いを入れる為に自分の頬をパンと叩いた俺は、再びコントローラーを手に画面へと向かう。
「ちょ〜っと待った!」
「!?」
だが、そんな俺の行動を遮るように突然部屋に女の子の声が響き渡った。
何だ!?
突然の事態に反射的に俺は声のした方向へと向き直る。この部屋はワンルームの安アパートだ。しかも俺には同居人もいないときている。女の子の声なんて聞こえるはずがないのだが……。
だが、後ろを振り返った俺の目には、俺のベッドの上で仁王立ちする女の子の姿が確かに映っていた。白いフリフリのワンピースを身に付け、一昔前の魔法少女物のアニメに出てくるようなステッキを持った10歳前後の女の子。その少女が片手を腰に当て、こちらに向かって何か決めポーズのようなものを作っている。
「全世界の弱者の味方、魔法少女ミラクル☆カラン! 悪事の現場にただ今参上です!」
「……………………」
何だそりゃ? 俺の頭の中で疑問符が猛烈な勢いで飛び交っていく。この子は一体何だ? コスプレ少女? 何でそんなんが俺の部屋にいるんだ? というか今日は外に出ていないからドアも窓も鍵がかかりっぱなしのはずだ。それなのにこの子はどうやって俺の部屋に入ってきたんだ? ああ、もう訳分からん。いったい何なんだ?
混乱する俺に対し、目の前の少女はそんな俺の頭の中の事など関係なしとばかりに手にしたステッキをビシリとこちらに突きつけてくる。
「お兄さん、どうしてそんな悪いことをするんですか!」
「はあ?」
訳が分からず間の抜けた声をあげた俺に対し、少女の大きな目がキラリと光を放つ。
「知らないんですか!? 労働基準法では原則として1日の労働時間は8時間と決められているんですよ!!」
「へっ?」
「それなのに、女の子に休み無しで10時間以上肉体労働をさせて! 可哀想とは思わないんですか!!」
それって…………もしかしてこのゲームのキャラクターのことを言ってるのか……?
「そうそう、そういえばこの国にはゲームは1日1時間っていう法律もありましたよね! ということはこれは9時間以上の過重労働ということになります! 鬼! 悪魔! 労働者の敵!!」
「…………お前、頭大丈夫か…………?」
あまりにも突っ込みどころ満載の内容に思わず率直な感想を漏らした俺に対し、少女は顔を紅潮させ、肩を震わせながら更に大声をあげる。
「な、ななななんたる侮辱!! た、確かに他の魔法少女仲間から『カランって暴走しすぎ♪』とか言われたことはあるけど! 根本的な頭の中身まで疑われたことはさすがにないよ!!」
「まあ、仲間ならそう思ってても言えないだろうからな……」
「にゅ……!! 分かりました。やはりお兄さんには自分がやっていることを体で味わって貰う必要があるみたいですね!」
そう言うやいなや、少女は前に突き出したステッキをくるくると回し始める。
「悪因悪果、因果応報! 目には目を目を歯には歯を! 超魔法スーパーハムラビスパーク!!」
少女がそう呪文のような物を唱え終わると同時に、ステッキの先から強烈な光が放たれる。
「!?」
反射的に目を閉じる。
「なっ、なんなのよ……」
そう呟いたあたしは、自分の声がいつもとは違う事に気が付いた。なによこれ、なんかやけにトーンが高くてまるで女の子みたい……。
自分の声に戸惑いながらもゆっくりと目を開けるあたし。次の瞬間、あたしは瞳に飛び込んできた光景に思わず固まってしまった。
そこにあったのは見慣れた安アパートの部屋ではなく、崩れかけた石壁とむき出しになった大地だったのだ。
なによこれ……。訳が分からず周囲を見渡したあたしは、地面に何か生き物のような物が転がっていることに気が付いた。よく見るとその生き物は何らかの手段にによって体を真っ二つに両断されており、地面にはどす黒い血だまりができている。そしてその生き物の姿をあたしは画面越しに眺めたことがあることに気が付いた。これって、あたしがしてたゲームに出てくるモンスターじゃない!
そこから連想されるある事態に思い至ったあたしは慌てて自分の体を確認する。
「…………」
そこには、一般的な日本人なら一生着ることのない服装をしたあたしの姿があった。全身を覆う金属の板。何か特殊な技法が用いられているのかほとんど重さを感じなかったため気が付かなかったのだが、私の体はいつの間にか黄金色に輝く派手な金属鎧に包まれていた。鎧の胸の部分はなだらかに盛り上がり、腰のベルトからはまるでスカートのように白い布が太股の辺りまで伸びている。一方で頭部は体とは反対に何の防具も装着されずに無防備のままだ。さらに私の手には鎧と同じく重さを感じないものの、かなりの大きさを持った剣が握られていた。
「これって……」
あたしは自分が身につけているそれらの装備に見覚えがあった。これらは全てあたしがゲームのキャラクターに装備させていたもの。ゲーム内でも最強クラスの魔法剣と魔法甲冑だ。更に言えばあたしはキャラの顔が隠れるという理由で兜を装備させていなかった。ということは、もしかして…………。
『どうですか、お兄さんがさっきまで使っていたゲームのキャラクターになった感想は?』
唖然とするあたしの耳に少女の声が響く。
『さあ、それじゃあ休みもないままずっと戦い続けさせられるのがどれだけ大変なことか、身をもって味わって貰いますね! えっと、まずはこの十字キーでマップを移動っと……』
少女がそう呟いた瞬間、あたしの体はあたしの意志に関係なく迷宮を歩き出す。もしかして、あたし、あの女の子に体を操作されているの!?
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!!」
慌てて声をあげるあたしに少女がにこやかな声で答える。
『ダメですよ。まだモンスターと連戦どころか一回も戦ってないじゃないですか。これじゃどれだけゲームのキャラクターが大変なのか分かって貰えないでしょ』
「な、なんですって……!」
少女の言葉に思わず絶句するあたし。あたしに実際にモンスターと戦えっていうの!?
……いや、でも待って。確かに戦うのはあたしだけど、実際にはあの女の子がコントローラーであたしを操作するわけよね。なら何とかなるかもしれない。これまでのやり込みプレイであたしのレベルはとてつもなく跳ね上がっている。それこそボスクラスであっても一撃で倒せるくらいにだ。もしも格闘経験の全くない本来のあたしの腕で戦えっていうのなら非常に厳しいだろうけど、女の子が操作してくれるのなら少なくともこの辺りの敵相手ならばあたしは絶対無敵なはずだ。
『お、さっそくモンスターと遭遇!』
そうこうしているうちに突然目の前の地面が盛り上がるとともにモンスターが姿を現す。出てきたのは胸と下腹部だけを薄い布地で隠した長剣を持つ女魔人……って、これってあたしが狙ってたレアモンスターじゃない!
『ようし、それじゃさっそく攻撃だね!』
あっけにとられるあたしの頭とは全く別系統の指示により、体が目にもとまらぬ速さで剣を一閃する。その一撃だけであっけなく大地へと倒れ込む女魔人。
『あれ、なんかあっさり勝っちゃったね……』
一方的な勝利に拍子抜けといった声をあげる少女。まあ、こちらとしては痛い思いをしなくて済んで万々歳なんだけど。
『あ、何かアイテムを落としたみたいだよ』
だが、続けて少女が発した声にあたしの心臓はどくんと大きく脈を打った。も、もしかして、このタイミングであのアイテムが出たっていうんじゃ……。
『うわあ、“伝説のビキニ鎧”だって! 変な名前ー!』
「…………」
あまりにもな巡り合わせに再び唖然とするあたし。そんなあたしに向かって少女の声が飛ぶ。
『でも、せっかくだからこの鎧、装備してみましょうね!』
「えっ!?」
その言葉の意味を理解するより早く、あたしの体を覆っていた魔法金属の鎧が音もなく消え去った。いや、それだけではない。その下に着込んでいた服の感触も一緒に無くなって……ってまさか!?
「!!」
視線を降ろした先、そこには先ほどとはうってかわって大胆に露出したあたしの肉体があった。胸と股間の大事な部分だけを気持ち包み込む赤い金属板を除けば全裸といっても過言ではない姿。大きな乳房がカップにより形を整えられ深い胸の谷間を作りだし、動けば色々はみ出すのではないかと思えるほど小さな股間の金属板が危うさを際だたせている。足下には靴の代わりにビーチサンダルを思わせるような履き物が用意されていた。
『おお〜、これはなんというかなかなかにエロス……ですねえ』
「なっ、ななな何オヤジ目線で見てるのよ〜!!」
少女の声と同時にどこかねっとりとした視線を感じたあたしは、思わず身をよじらせながら叫び声を上げたのだった……。
ふう、こうして今日もまたミラクル☆カランは悪事を食い止めることができたのでした! あのお兄さんもだいぶ懲りただろうし、これからは休みもなしに女の子をこき使うようなことも無くなるでしょ。うんうん、良かった良かった。
そういえば、あのお兄さん、そろそろこっちの世界に戻ってこれたかな? あの魔法はゲームをクリアしない限りこちらに戻ってこれないって正直に説明したら何か顔を真っ赤にしながらぎゃあぎゃあ言ってたけど。うん、でもまあ、大丈夫だよね。だってあんなに強いんだし自分で自分のことを動かせるようにもしといたから問題はないはず。それにあの伝説のビキニ鎧まで装備してるんだし! まあ、あの鎧って実は呪いの鎧で一度装着すると他の防具や服を一切装着できなくなっちゃうみたいなんだけどね。
さてと、済んだ話はこの辺にしておいて、そろそろ次の弱者の所へ向かおうかな。私の名前はミラクル☆カラン。みんなが笑顔になれるその日まで、私は頑張り続けるの!
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