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  私の名前はミラクル☆カラン! 世の中の弱者の声を感じ取り、その子に代わって悪事を止めるために頑張ってる正義の魔法少女なの! とはいっても、どこかの魔法少女みたいに悪い人に力ずくでお話を聞いてもらう訳じゃないよ。どんな攻撃魔法で相手を倒したって、その人が自分が悪いことをしているんだって事を理解してなかったら、また同じ事を繰り返すかもしれないもんね。逆に、自分がどんなに酷いことをしているのかが分かれば、痛い思いをしなくたってその人は絶対に改心すると思うんだ。
  だから私は魔法を悪い人を懲らしめるためじゃなくて、自分が過ちを犯してるんだって気付いてもらうために使っているの。この力で私は世界中のみんなの顔を笑顔に変えていきたいんだ!


魔法少女ミラクル☆カラン
作:高居空


「ああ〜っ! また取り損ねた〜!!」
  大学から駅へと続く道の途中にあるゲームセンター、そのプライズコーナーで無情にも景品を掴み損ねて上昇していくUFOキャッチャーのアームを眺めながら、俺は筐体の前で思わず頭を抱えこんだ。
「う〜ん、今のはかなり良い線いってたと思ったけどね」
  俺の横では様子を眺めていたヒロの奴がそんなことを口にしながら微苦笑を浮かべている。そんな奴の顔をジト目で見やりながら、俺は財布から次なる軍資金を取り出した。
「どんなに良い線いってたって目的の品をゲットできなきゃ何の意味もないだろ」
  コインを投入しながらヒロに向かって苛立ち混じりの声をあげる俺。そう、ことプライズゲームにおいては、途中経過が良かったからというのは何の励ましにもならない。狙った獲物を手に入れること。それこそがプライズゲームの唯一無二の目的であり、評価の対象となるのだ。どんなに途中までうまくいったからといって、最終的に景品を手にすることができなければ、それは最初からうまくいかなかったのと全く同じ事なのである。
  まあ、実際には取りづらい位置にある景品を途中で落ちること前提で掴み、取りやすい位置に移動した上で次の回で勝負するといったテクニックもあるのだが、今回の景品はそんな小細工が通用する相手ではなかった。ならば正々堂々正面突破で行くしかない。
  筐体の各スイッチに明かりが灯り軽快な音楽が流れ始めたのを確認した俺は、ガラス張りになっている筐体の内側の様子を慎重に見定める。
  俺が今挑戦しているUFOキャッチャーは昔からあるオーソドックスなもので、2本のアームのついたクレーンで景品を掴み取る形になっている。クレーンは縦方向と横方向に動かすことが出来るが、それぞれの向きには1度だけ、それも操作ボタンを押している間しか動かすことができない。つまり、目測を誤って景品の上を通り過ぎてしまった場合はその時点でアウトということだ。縦横の移動を終えると2本のアームが開き、クレーンが下へと動き出す。そしてある地点まで行ったところでアームが閉じて景品を掴み取り、そのまま排出口まで無事に掴み続けることができれば成功だ。
  こうして言葉にすると簡単そうに感じるかもしれないが、実際にやってみるとこれが結構難しい。アームの力は筐体によって異なるが総じてあまり強くはなく、景品の重心がずれるだけで簡単に取りこぼしてしまう。更に景品の中にはある特定の部位にアームを差し込めないとほぼゲットすることが不可能な品というのも存在する。今俺が狙っているターゲットがまさにそうだった。高さ20センチほどのプライズフィギュア。直方体の箱に入れられたその景品は掴みづらい上にそこそこの重さもあって、箱のサイドに開けられた穴に正確にアームを差し込まない限りは持ち上げることができるとは思えない造りになっている。達人レベルになれば正規の穴ではない上蓋の隙間に引っかけたり、片方のアームだけ穴にフックさせるだけで持ち上げたりすることもできるらしいが、あいにく俺にはそこまでの技量はない。となれば取れる攻略法は正攻法のみ。とにかくアームがうまく穴に刺さるまでひたすら繰り返すしかないのだ。
「それにしても、そんなに金をつぎ込んでまでここでその景品が欲しいの?」
  俺の邪魔にならないように後ろに下がったヒロの問いに、俺は筐体に顔を向けたまま大声で答える。
「あったり前だ。“美少女戦士ミルティリア”の限定水着バージョンフィギュアだぞ! しかも白ビキニとスクール水着の2バージョン! これを手に入れなくしてミルティリアファンを名乗れるかってんだ!」
  そう、俺が手に入れようと躍起になっているのは、ただ今絶賛放送中のアニメ“美少女戦士ミルティリア”の主人公ミルティリアの水着フィギュアだった。最近のアニメ、それも美少女物は人気が出るとフィギュア化されるものが多くなっているが、その中には“プライズ専用”として作成される特殊なフィギュアがある。その名の通りプライズゲーム専用で販売は行われないフィギュアの事で、景品の回転を早めるため元々少数しか生産が行われない上に再販の予定もほぼないという、まさにファンなら垂涎物のレアアイテムなのだ。しかも今回のミルティリアフィギュアは製品自体の出来も良いときている。こいつを見逃すようじゃミルティリアファンの名が廃るというものだ。
「でも、それだけ金を使うんだったらオークションで買った方が絶対安いって。実際、そのフィギュアのスク水バージョンを最近買ったんだけど結構安く済ませることができたよ」
「…………誰かが一度手にしたフィギュアなんて、他人に抱かれた女と一緒だ。使用していらなくなった物をあてがわれたって嬉しくも何ともない。こういった物は自力で手に入れてこそ意味があるんだ」
「そういうもんかなあ」
「そういうもんなんだ」
  半ば呆れたような声をあげるヒロにそう断言すると、俺はクレーンを操作するボタンに手をかける。確かにヒロが言ったとおり俺がこの筐体につぎ込んだ金はかなりの額にのぼっている。そろそろ獲物をゲットできないと、軍資金切れで退却という事態にもなりかねない。ここはクレーン操作に全神経を集中させなければ…………
「そこのお兄さん達、ちょっと待った!」
「!?」
  次の瞬間、突如後方から飛んできた女の子のかわいらしい声に、俺は思わずボタンから指を滑らせた。
  な、何だ?
  声の主を確かめるべく振り返った俺の目に入ってきたのは、白を基調にしたフリフリのワンピースを身にまとい、宝石を思わせる何かが埋め込まれた30センチほどの長さの棒を手に持った10歳前後の女の子の姿だった。
  その少女は見たところかなり幼さが目立つ容姿をしていたが、まるでアニメのキャラクターが現実世界に現れたらこんな感じだろうと思わせるようなかわいらしさを持っていた。あと7、8年もすればかなり良い女になるのは間違いない。だが、フリル過剰なワンピース、しかもスカート部分は大きく広がるフレアスカートというマニアックな服装に加え、手にはステッキ……なのだろう、きっと……というスタイルは、普通の女の子と呼ぶにはあまりにも基準からかけ離れている。そんなちょっとイタいコスプレ少女が一体俺達に何の用があるというのか? ちょうど俺と少女との間に立つ形となったヒロの奴も、どう対処したら良いのか分からないのか、その顔に困ったような笑みを浮かべている。
  そんな俺達の気持ちになどまるで気付いていないのか、少女は手に持ったステッキをくいっとこちらに向けると両足を肩幅の大きさに開いて堂々と名乗りを上げた。
「全世界の弱者の味方、魔法少女ミラクル☆カラン! 悪事の現場にただ今参上です!」
「……………………」
  思わず絶句するヒロと俺。少女はそんな俺達に構うことなく左手を腰にあてて仁王立ちすると、可愛らしい眉をつり上げて詰問してくる。
「お兄さん達、どうしてそんな悪いことをしようとするんですか!」
「悪いこと?」
  オウム返しに問い返す俺に、少女の大きな目がすうっと細くなる。
「もしかしてお兄さん達、自分が悪いことをしようとしているって自覚がないんですか? 知ってますよ。お兄さん達、その水着のお人形を手に入れたら色々な事をして遊ぶんでしょ?」
「そりゃあまあ、このフィギュアは可動式だし遊ぶと言えば遊ぶだろうけどな」
  そんな俺の答えに少女の目がキラリと光る。
「やっぱりそうなんですね! このお人形を手に入れたら、お兄さん達遊んじゃうんですね! ネットリとした目で全身を視姦したり、胸とか大事なところを指でさすりあげたり、舌でペロペロしたり、果てには今夜のオカズにしちゃったりするんですね!?」
「お、おい!?」
  どう見ても小学生くらいにしか見えない女の子が発したとは思えない一連の台詞に声をあげた俺に対し、少女はステッキを突きつけたまま一人激高する。
「そんなことをしてお人形さんがかわいそうだとは思わないんですか! ただ水着姿を人に見られるってだけでも恥ずかしいものなのに!!」
「いや、俺はそんな卑猥な目的でフィギュアで遊んだりはしないぞ。それに、そもそもフィギュアっていうのは観賞用に作られたものなんだから、それで見られて恥ずかしく思っているっていうのはちょっと違うんじゃないか? というか、フィギュアがかわいそうっていう着眼点自体がかなりずれてるような気がするけどな」
「むう、物が言えない立場の人形を人形のように踏みにじる、これを悪と呼ばずして何と呼べばいいんでしょう!」
「いや、もうそれ日本語破綻してるって…………」
「分かりました! お兄さん達には見られるっていうのがどんなに恥ずかしいことか知ってもらう必要があるみたいですね!」
  そう断言すると少女は前に突き出したステッキをくるくると回し始める。
「悪因悪果、因果応報! 目には目を目を歯には歯を! 超魔法スーパーハムラビスパーク!!」
  少女がそう呪文のような物を唱え終わると同時に、ステッキの先からカメラのフラッシュを思わせる白くまばゆい光が放たれる。
「!?」
  反射的に目を閉じる俺。それと同時に体にぞくりと何か冷たい物が走っていくのを感じる。続いてぞわぞわと何かが蠢く感触が体のいたる所に生まれ、俺はその不快感にまぶたをさらにぎゅっと強く閉じた。
「う、うわああっ!?」
  そんな俺の耳に突如ヒロの悲鳴が飛び込んでくる。
  何が起こったのかと不快感に耐えながら目を開けた俺は、そこに信じられない物を見た。
  俺の斜め前に立っているヒロ、その姿が何か別のものへと変わって……いく!?
  平均よりもやや高めだったヒロの身長が徐々に縮んでいく。それと同時に髪の毛が伸び、顔つきが柔らかくなっていく。元々やせ型だった体が更に細身になり、腰がくびれてくる。逆に胸と臀部は大きく膨らんでいき、どう見ても女性としか言えないような体のラインが形成される。足は内股気味になり、袖から見える手の指もほっそりとしたものへと変わっていく。
  そして数十秒後、先ほどまでヒロが存在していた場所には、男物のだぶだぶの服を着た15、6歳ぐらいの色気とかわいらしさを併せ持った美少女が立っていた。その姿に俺は思わず息を飲む。少女は“美少女戦士ミルティリア”の主人公ミルティリアにそっくりだったのだ。
「ヒロ……お、お前ミルティリアに……!?」
「そ、そっちこそ……」
「!?」
  ヒロだった少女に指摘され自分の体に目を落とした俺は、次の瞬間頭が真っ白になる。見下ろした俺の胸、そこにはヒロだった少女と同じ立派な双丘が存在していたのだ。そ、そういえばさっき発した声も自分の物とは思えないほどトーンが高かったような…………。
  半ば呆然としながら自分と相手の体とを見比べる俺とヒロ。その姿に再度変化が起こる。
「こ、今度は何だ!?」
「ふ、服が……縮んで……!?」
  ヒロの身につけていた男物の服。それが一瞬で紺色に染まると凄い勢いで縮み始める。同時に俺の服も白一色に変わるとヒロの服と同じように縮みはじめた。いや、正確には同じではない。ヒロの方は服の袖とズボンの裾が猛烈な勢いで縮んでいっているのに対し、俺の方はそれに加えてシャツの裾までがどんどんと豊かな胸の方へと移動し始めていたのだ。首周りも襟が取れ胸元が露わになっていくのは同じだが、ヒロの方がU字型へと変形していくのに対し、俺の方はより大胆にカットが入って胸の谷間が露出していく。そうこうしているうちにズボンの裾は足の付け根の部分まで完全に消滅し、残った部分は股間と臀部をぴっちりと覆う化学繊維の布地へと変わっていた。上半身も服の袖と首周りとがすっかり消え去り、肩の部分も肩紐のような物を残すだけとなる。背中の布地も残った上半身部分を支える最低限の部分を残して全て消失してしまったようだった。残ったヒロの上半身とズボンの布地が一枚に結合していく。俺の方は上半身とズボンの部分とが完全に分かたれ、それぞれ女性物の下着を連想させる大胆な形へと変化していく。
  やがて変化が収まったとき、UFOキャッチャーの筐体の前ではスクール水着と白ビキニを身につけた2人の少女が恥ずかしそうに身をよじらせていた。
  ここまでくればさすがに俺達の身に何が起こったのかは大体想像がつく。俺達は自称魔法少女の手によって、UFOキャッチャーの景品フィギュアと同じ、水着姿のミルティリアへと体を変えられてしまったのだ。
「どうです、お人形さんと同じ格好になった気分は? 凄く恥ずかしいでしょ?」
  そう言ってステッキを再びこちらに向ける魔法少女。対する俺は半ば意識がおかしな方向へと飛びかけていた。こんな非常識きわまる事態を前に、正気を保っていろというのが無理な話だ。ヒロの奴も顔を赤らめながら完全に固まってしまっている。というか、ヒロの視線、何だかずっと俺の胸へと向いているような気がするんだが…………。
  その事を意識した瞬間、俺は一気に顔が熱く上気していくのを感じていた。その変化を肯定と受け取ったのか、魔法少女が再び口を開く。
「どうやら分かってくれたみたいですね。それじゃ、これからはもうお人形さんをエッチな目で見たり使ったりしちゃダメですよ。良いですか?」
「あ、ああ……」
  反射的に答えた俺のその言葉に満足したのか、魔法少女はうんうんと頷くとこちらに向けていたステッキを天高く掲げる。
「それじゃあこれにて一件落着! ミラクル☆カランはまた一つ悪事を食い止めることができたのでした! それではハッピーエンドでまた来週!」
  少女がそう言い終わるのを待っていたかのように再び鋭い光を放つステッキ。思わず目を閉じた俺が数秒後おそるおそるまぶたを開けたその時には、既に魔法少女の姿はどこにも見あたらなかった。UFOキャッチャーの筐体の前に立っているのは俺とスクール水着姿の少女のみ…………って!?
「も、元に戻ってない!?」
  思わず自分の体を確認する俺の手に、柔らかな胸の感触が伝わってくる。
「お、おい、ちょっと!? 一件落着とか言うんだったら俺達を元の姿に戻してけよ!!」
  だが、俺のその叫びに答える声はない。
  ゲーム機が奏でる軽快なミュージックが流れるフロアで、俺達は水着姿のままただ呆然と立ちつくしていた…………。





 ふう、これで今日もまた悪い人を改心させて弱者を救うことができたよ。やっぱり自分が酷いことををしているんだって事に気付いたなら、人は正しい方向を向くものなんだね。良かった良かった。
 …………あれ、そういえば、さっきの件で何かやり残してきた事があるような気が…………。う〜ん、何だったかな…………?
 うん、ま、いっか。思い出せないって事は大したことじゃないよね、きっと。それより今は次にどんな弱者を助けるか調べておかないと。私の名前はミラクル☆カラン。みんなが笑顔になれるその日まで、私は頑張り続けるの!



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