トップページに戻る

小説ページに戻る
 


二人式中国語遊技
作:高居空


「ふふっ……ついに、ついに手に入れたぞ…………」
  俺は宅配業者から受け取った段ボールの梱包を剥がしながら、幻とも言われる品を手に入れた喜びに打ち震えていた。
  丁寧にガムテープを剥がし、はやる気持ちを抑えながら慎重に箱を開く。
  その中には、外からの衝撃が伝わらないように緩衝材によって厳重にくるまれたフルフェイスのヘルメットを思わせる物体が入っていた。ヘルメット状の機械の側面にはAVコードの端子のような物がついており、脇にはそこに接続するための物と思われる長いケーブルと、あらゆる接続方式に対応しているであろう変換アダプターがまとめられている。
「これが……これが『ゲームダイバー』か……」
  俺はヘルメット状の物体を誤って落としたりしないように慎重に箱から取り出しながら、ゲーム好きなら誰もが手に入れたいと願うであろうその機械の名を呼んだ。



  ゲームダイバー、それは最近ネット上でその存在を噂されているゲーム世界疑似体験装置の名前だった。ネット上でまことしやかに語られているところによると、この機械を装着した者は機械とケーブルで接続されたゲームの世界をあたかもその世界に自分が存在しているかのように疑似体験することができるらしい。一部の噂では、この機械の使用者は本当にゲームの世界へと飛ばされてそのゲームをクリアするまではこちらに戻ってくることはできないとも言われているが、真偽のほどは明らかではない。ゲームの世界を疑似体験できるといえば、今話題の「ゲームダイバーランド」という全く同じ名前のアミューズメントパークが思い浮かぶが、ゲームダイバーはそこで稼働しているゲーム世界疑似体験装置のプロトタイプで、昔ロケテストで使用された物やそれ以前の研究段階の物が闇のルートで流出したものだとも噂されていた。
  俺がそんな幻の機械を手に入れることができたのは、本当にただの偶然だった。
  都内に出たついでに学生時代に足繁く通っていた基板屋……ゲームセンターにあるビデオゲームを家でも遊べるように、ゲームの中古基板やコントローラー等周辺機器を販売している店のことだ……に久しぶりに顔を出したところ、オタク系の風貌をした20歳前後の男と店長とがこの機械の買い取り交渉をしていたのだ。
  こちらに来たばかりでまとまった金が必要なのだという男は、どういうルートでかは知らないが半ば都市伝説と化しているこの機械を入手して売りに来たのだという。一方の店長は男の売り込みに対してかなり渋い顔をしていた。こうした店をやっている以上、店長もゲームダイバーの噂は聞いたことがあるだろうが、昔から慎重かつ現実的な物の見方で店を切り盛りしてきた店長のことだ、そのような機械が実際に存在しているとは思っていなかったに違いない。
  それに、仮にゲームダイバーが本当に存在していたとしても、男が持ち込んだ機械が本物だという証拠はどこにもない。普通の基板や何かならその場で動作確認ができるが、ゲームダイバーについてネット上で語られている事が真実ならばゲーム世界の疑似体験ができるのは使用者だけであり、それを外から第三者が確認するということはできないだろう。確認するには自分で使用してみるしかないだろうが、妙な噂も流れているこの機械に慎重な店長が簡単に手を出すとは思えない。加えてこの店は店長が一人で経営をしているため、もしもこの機械が本物であるのなら機械を試している時間中店内は店員不在の状態になってしまう。金に困っているという男が、その間おとなしく確認が終わるのを待っているだろうか? おそらく店長ならそこまで考えているはずだ。
  そんな感じで膠着状態に陥っていた二人の交渉に、俺は千載一遇のチャンスとばかりに割って入った。ヘビーゲーマーを自任する者として、目の前に幻のゲームダイバーが存在するこの状況を見逃す手はない。もちろん機械が偽物であるという可能性もあるが、虎穴に入らずんば虎児を得ず。ここで躊躇しては後で“もしかしたら本物だったかも”と後悔する事は目に見えている。それに、仮に偽物だったとしても男が希望している買取金額は俺からすればさほど高いものではない。前に競馬場で第1レースから全レース負け続けた時の出費と比べればこのくらい安い物だ。偽物だった場合は馬券が外れた物と思えばどうってことはない。
  俺は二人に、この機械を一旦男が望む金額で店長が買い取り、その後店長の希望する価格で俺がそれを購入するという案を提示した。本当なら俺が直接男から機械を買い取れば良いのだが、その場合これまで交渉をしていた店長が面白く思わない可能性がある。それに対して俺が掲示した案なら、少々俺が損をすることになるが男にも店長にも利があるため話も丸く収まるはずだ。そしてそんな俺の目論見通りに交渉はトントン拍子で進み、その結果、こうして俺はゲームダイバーを手にする事ができたのだった。当日他に荷物があった俺は店長に品物の郵送を頼み、そして二日後の今日、ようやくその品が俺の元へと届けられたというわけだ。
「さて、それじゃあ早速試させてもらうか……」
  俺は周りに巻かれた緩衝材を取り外し、ゲームダイバーを事前に用意していたゲーム基板へと接続していく。既にゲームダイバーが届くまでの間に疑似体験をするためのゲームは決めてあった。後は機械を起動さえすれば……
「ふふっ、夢にまで見たウハウハタイムに突入だ……」
  これから体験することになるであろう出来事を想像し、俺は自然とほくそ笑む。そう、このゲームダイバーが本物ならば、俺にはこの後ウハウハの疑似体験が待っているはずなのだ。
  俺の選んだゲーム、それはかつてゲームセンターで一大ジャンルを築き上げた麻雀ゲームだった。もちろん、麻雀ゲームと言っても今流行のオンライン対戦式4人麻雀ではない。俺が疑似体験しようとしているのはプレイヤーとゲームの中の女の子とが一対一で戦う麻雀……通称、脱衣麻雀と呼ばれるジャンルのゲームだった。
  ちなみに脱衣麻雀というのは、その名の通り麻雀でこちらが和了ると画面の女の子が一枚ずつ服を脱いでいくという内容の麻雀ゲームである。今は諸々の規制により流通に乗せるのが非常に困難になっているらしいが、十数年前まではこれがゲームセンターに年齢制限無しで当たり前のように置かれていたのだ。麻雀ルール的には通常4人でやる麻雀をプレイヤーとコンピューターの2人で行うということと、最初に持っている点数以外は一般的な麻雀ルールに準じている。普通の麻雀ゲームとして見た場合、二人麻雀ということに加えルーチンの関係もあって、総じて大物手が出やすい……実際にはコンピューターが大物手で、ということなのだが……傾向にある。プレイヤーの最初の持ち点はどのゲームでも低く、最初に相手にあがられた場合は一発でゲームオーバーになってしまう事が多い。勝利条件は大抵の場合相手の着ている服の枚数分だけあがり続けるか、相手の持ち点をマイナスにするかのどちらか。相手の持ち点に関わらず服の枚数分だけあがればこちらの勝利という点と最初の持ち点の少なさからして、勝利のコツは安手でもとにかく相手よりも早く役を作ってあがることなのだが、基本的に後半のキャラクターになるほどコンピューターの配牌補正がかかって異常な速さでとんでもない役を連発してくる。中には高確率で天和……自分が親の時最初に牌が配られた時点で役ができているというもの。麻雀の役の中でも一番点数が高く、かつゲーム開始時点で役が完成しているのでどんな手を使っても防ぐことはできない……を連発してくる当時のゲーム好きの間で伝説と化したキャラまでいたほどだ。当然、エンディングを迎えるには本人の腕に加えて持ち合わせた運が重要になってくる。つまり、このゲームジャンルに関しては必勝法というものは存在しない、ということだ。冷静に考えれば金をつぎ込ませるための不条理なゲームといえるのだが、それが分かっていてもなおコンティニューでコインを投入してしまうだけの魔力がこの脱衣麻雀には溢れている。そう、脱衣麻雀は男のロマンなのだ。
  そんなゲームを俺が選んだ理由……それはあえて言うまでもないだろう。しかし、俺は、この疑似体験に脱衣だけで終わらない更なる野望を抱いていた。
  基本的に、脱衣麻雀におけるサービスシーンは大体があくまで脱衣だけ、それも最後の一枚を脱ごうとする所までとなっている。その後の行為については大体が他のキャラクター等に邪魔されて未遂に終わるようになっているのだ。そうでなければ規制の緩かった昔でも学生が出入りするゲームセンターにそれらを置くことは難しかっただろう。だが、プレイヤーの立場からしてみればこれは寸止めも良いところだ。しかし、このゲームダイバーで行く疑似世界でならば、やり方次第でその先を楽しむことができるはずなのである。
  俺が機械を購入した後で元の所有者である男がこっそり話してくれた所によると、ゲームダイバーで疑似体験できると言われている世界は、実際にはそのゲームの世界観によく似た平行世界なのだという。なんでも使用者はその世界に存在するキャラクターの一人に憑依することによって、そのキャラクターの持っているスキルや記憶を自在に使って好きなように行動することができるらしい。そして、憑依状態から元の体に戻るにはゲーム中のエンディングに相当する場面まで辿り着かなければならない。だが、その事さえ考慮に入れなければ使用者の行動によってゲームのストーリーとは全く違う展開へと持って行くことも不可能ではないらしいのだ。男の話では、当初のエンディングとあまりにも違う展開になってしまうと、エンディングがどこに相当するか機械が認識できなくなり元の体に意識が戻らなくなってしまうという話だったが……例えば脱衣麻雀におけるお決まりのパターンである最後の一枚を脱がそうとした時に次の対戦相手が乱入して来るという展開なら、対局が始まる前に対局する部屋なり家なりの鍵をかけておくだけで色々と対応が可能なはずだ。そこでゆっくり楽しんだ後で次の対戦者の所に向かったとしても、ストーリーの全体的な流れに狂いは生じないだろう。
  一つ引っかかるところがあるとすれば、このゲームダイバーは研究の初期段階で作られた試作品のため、平行世界の選択がかなり大雑把で、最初の段階からストーリーやキャラの性格等の設定が元のゲームとは大幅に違う世界が選ばれる可能性があると男が語っていたことだが……まあ、どれぐらいの誤差になってるかはやってみてのお楽しみといったところだ。
  ちなみに、俺は男の説明の中に頻繁に出てきた平行世界が云々という話はまったく信じてはいない。そもそも、平行世界という物が存在しているかどうかも今ははっきりしていないのに、そこの世界のキャラクターに憑依するなどとはあまりにも現実離れしすぎている。おそらくそれは使用者の気分を高めるためにメーカーが機械が作り出す仮想空間の事をそう呼び表したのだろう。まあ、本当に平行世界にいけるというのなら、それはそれで面白そうではあるのだが。
「さてと、それじゃあ始めますか」
  一通り準備を終えた俺は、ヘルメット状の装置を被ると基板の電源を入れる。
  俺が選んだ脱衣麻雀ソフトは今から十数年前にヒットした人気シリーズのうちの一本で、麻雀同好会の設立を目指す女子高校生3人に対して主人公が4人目の仲間となるべく彼女達の自宅を回って腕試しをするというストーリーになっている。記憶ではエンディングはあまりハッピーエンドではなかったような気がするが、俺の目的はエンディングではなく、あくまでその過程にある。その目的さえ達成できれば後はどうでも良い事だ。大体にして、エンディングに達した時点で俺の意識はこちらに戻ってくることになっているんだし。
  そんな事を考えているうちに、機械の効果なのか突然俺の頭に猛烈な眠気が押し寄せてくる。
「ふふふっ、さあ、みんな待ってろよ……」
  急速にぼやけていく意識の中、俺はこれから対局することになる女子高生達の顔を思い浮かべながらそう呟いた……。





「よし、それじゃあ始めようか!」
  正面から聞こえてきた女の子の声に、俺の意識はゆっくりと目を覚ました。
  ここは…………何処だ……俺は…………誰だ……何で俺は…………ここにいる…………。
  靄のかかったような頭でなんだかふわふわとした曖昧な感覚を味わいながらぼんやりとあたりを見渡す俺。
  そんな俺の目に入ってきたのは清潔感を感じさせる女の子のものと思われる部屋、そして、緑色のラシャが敷かれたテーブルの向こう側に座るいかにもスポーツ少女といった感じのショートカットの似合う少女の姿だった。
  その見覚えのある少女の顔に、俺の意識は一気に覚醒する。
  そうだ、俺はゲームダイバーを使ってゲームの世界を疑似体験しようとしていたんだ。そして、目の前にいる少女は紛れもなく俺の選んだ麻雀ゲームの一人目の対戦相手……ということは、今俺の意識は機械の作りだした仮想現実世界にいるってことか……って、待てよ。今こうして既に彼女がスタンバってるということは、ひょっとしてプレストーリーとか対局前のイベントとかすっ飛ばしていきなり対局場面に入ってるのか!?
  嫌な予感を感じながら自分の目の前にある麻雀卓を確認する俺。そこには俺の想像したとおり、既に14枚の麻雀牌が配られてしまっていた。
  なんだよ……。想定外の展開に俺は内心舌打ちする。当初の予定では彼女の家に上がる際、最後の場面で次の対戦者の少女が部屋に入ってくることのないようにドアの鍵を閉めたか確認をさせるつもりだったのだが、既に対局が始まってしまっているのではどうしようもない。さすがに一枚服を脱がせてからでは彼女も部屋の外に出ようとはしないだろう。しかたがない、この子でムフフな展開に持って行くのは諦めるか……。いや、しかしそれはやっぱりもったいない。何か他に良い手はないか……?
  手元に配られた配牌を眺めながら麻雀とは別の件で思い悩む俺。そんな俺の態度にじれたのか、少女は頬杖をつきながらもう一方の手で雀卓の縁をトントンと叩き始めた。
「ほら、どうしたの? あなたが親だよ。早く切らなきゃ始まらないじゃん。……あ、ひょっとして、この特別ルールにビビッちゃったとか?」
  そんな少女の言動に俺は何とも言えない違和感を感じる。確かゲーム中のこの子はボーイッシュなように見えて言動には少女的な一面を持ち合わせていたはず。少なくともこんな挑発的な態度を取る子じゃなかったはずだが……。ひょっとして、男の言っていたとおりキャラクターの性格設定に大幅なズレが生じているのか?
  何となく嫌な感じを覚えつつも、俺は少女に返事を返す。
「いえ、別にビビッてる訳じゃ……!?」
  だが、その途中で俺は更なる違和感に襲われた。何だ、俺のこの高い声は? これじゃまるで女の子みたいな……!?
「!!」
  反射的に自分の体へと視線を落とした俺は、そこでさらに信じられない物を見る。
  胸が……膨らんでいる!? 
  視線の先にある俺の体は、何故か女性物と思われる白いブラウスに包まれていた。その胸の部分がなだらかに隆起している。しかもブラウスの下には、チェック柄のプリーツスカートのような物が……。
「あっ……」
  細い指で胸に触れると、胸には触られていると言う感覚があり、指からは布地越しに柔らかな感触が伝わってくる。一方、股間の辺りを漂っていたもう片方の手からは、そこにあるはずの物体の感触が一向に伝わってこない。
  そんな俺の挙動を見ていた少女がジト目で呆れたような声をあげる。
「て、なにやってんの、あなた? もしかして負けた時のこと想像しちゃって興奮してるの?」
「負けた時……?」
  オウム返しで尋ねる俺に、少女ははぁっと息を吐いた。
「もしかして、特別ルールを忘れちゃった? ほら、あなたが私達が立ち上げようとしている“女子麻雀同好会”に入会したいって言ってきた時に腕試しのルールを決めたじゃん。二人麻雀であなたの最初の持ち点は千点。あがられた相手は一枚ずつ服を脱いで、相手を全て脱がし終わった方が勝ち。点数がマイナスになったときはその時点で全部脱ぐ事って」
「えっ、ええっ!?」
  脱ぐって……俺が!? 何で!?
「こちらも脱ぐんだからそっちも脱ぐ。当たり前でしょ」
  当然だという顔をする少女に思わず固まってしまう俺。いや、でも確かに私も女の子なんだから同じ条件だよね……って、違う違う! 大体、それならこの最初の持ち点千点というのはあまりにも不公平なんじゃないか!?
「う〜ん、確かに言われればそうかも知れないけど、私達が欲しいのは即戦力になる人材だから。私達の目標は同好会の設立がゴールじゃなくて、今年行われる高校生麻雀全国大会を制覇する事。聞いた話じゃ全国には嶺上開花やら海底撈月やらであがりまくる化け物みたいな人がいるって事だし、それに対抗できるだけの実力と運をかけ備えた人に入会して欲しいってことで、あえてこういう条件をつけてるわけ」
  って、む、無茶苦茶な……というか、なんか別の漫画か何かのストーリーが混ざってきてないか、これって!?
「ほら、ぶつぶつ呟いてないで早く切りなよ。もしここで降りるって言っても試合放棄という事でしっかり脱いでもらうからね」
  そう言って俺に早く牌を切るようせかす少女。し、仕方ない。当初の目論見とは全然違うけど、麻雀で相手に勝たなければいけないという点は変わりはないんだ。でも……脱衣麻雀に負けて服を脱いでる時の女の子って、一体どんな気持ちなのかな……って、さっきから何考えてるの私!?
  段々と頭の中で首をもたげてきた妙な思考に混乱しながらも、わた……俺は手牌から“西”と書かれた牌を雀卓に切る。まさか、この牌でいきなり当たられるなんてことはないだろう……。
「あっ、悪い。それロン」
  ……へっ?
「小四喜、役満! あれ? 人和はありのルールだったっけ? ありならダブル役満だけど、ま、結果に変わりはないか」
「…………」
  彼女のあがった役に私は声を失う。小四喜というのは天和と同じく麻雀の役の中で一番点数の高い役の名前だ。人和も同じ点数の役だけどこれを役と認めるかどうかは人によって取り扱いが分かれている。いずれにせよ、通常ルールの持ち点でも一発でマイナスになるだけの役であることは確かだ。って、あれ……? もしかして一人目からいきなり配牌補正がかかってたりする……?
「じゃ、悪いけど勝負は勝負。その着てる服、全部脱いで貰おうかな」
「えっ、えええええっ……」
  ニヤリと笑みを浮かべる少女に思わず声を上げる私。だけど私の体は私の意志とは関係なくすくっとその場に立ち上がると、ゆっくりとブラウスのボタンを外し始めた。その手の動きに合わせて、二つに分かれた布地の間から白いブラジャーに包まれた二つの膨らみが露になる。恥ずかしさから顔が熱く火照ってくる。でも、これは腕試しをすると決めた時から私も了承していたルールなんだから、きちんと最後までやらないと……って、あれ、私、何かおかしいような……?
  恥ずかしさのせいか頭がぼうっとしてくる中、ブラウスをすっと脱いだ私はスカートのホックを外すと、ゆっくりと相手に見せつけるように足を抜いていく。続いてブラジャーのホックを外し、少し前屈みになりながらカップを外すと、ぷるんという揺れとともにその先端までもが露になった。その格好のまま私は上目遣いで勝者の顔を覗き見る。目の前の少女はそんな私のことをまるで男の子みたいに食い入るように見つめていた。その視線に私の体の中の何かが熱を帯びてくる。
「そ、そんなに見ないで下さい……」
  口ではそう言いながらも、私は得体の知れない興奮を覚えながらゆっくりと最後の一枚へと手を伸ばしていた……。





「こんにちはー。来ましたよー」
  放課後。学校の用事を全て済ませた私はいつものとおり住宅街の中にある一軒のお宅を訪れていた。
「お、今日も来たんだ。なかなか根性あるね」
  ドアホンを鳴らすと、ボーイッシュな雰囲気のショートカットの少女が笑みを浮かべながら姿を現す。ずいぶん前に家に帰ってきていたのか、彼女は既に私服へと着替えていた。
「ええ、今日こそ絶対に勝たせてもらいますから」
  少女に向かってそう宣言する私。結局あの後、私は一週間にわたって彼女に戦いを挑み、その結果毎日彼女に裸体を晒し続けていた。だが、ここで諦めるわけにはいかない。女子麻雀同好会に入るためには……じゃなかった、元の世界に戻るためには彼女を倒し、その後に控える二人にも勝利しなければならないのだ。そしてこのメンバーで全国に……って違う違う!
  私は少女に気付かれぬよう自分の頭を軽く小突く。この一週間この体で生活してきたせいか、私の意識は半ばこの少女と同一化し始めていた。少女としての生活を行うために彼女の記憶を引き出しているうちに、どうやら頭の中で二つの情報が入り交じってしまったらしい。とにかくこれ以上症状が進行しないうちにエンディングまで辿り着かないと……。
「じゃあ、今日も可愛い脱ぎッぷり、堪能させてもらおうかな」
  ニヤッと笑いながら視線を私の体に走らせる少女。彼女の視線にこれまでの痴態を思い出さされた私は思わず赤面する。実際には痴態と言っても裸をただ見られているだけでいわゆる性的な行為には及んでいないのだけど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。でも、何だか最近はあの視線が気持ちよく感じられてきちゃって……って違う違う!
「今日こそ、今日こそは私が勝って、逆に貴方の脱衣を堪能させてもらいますから!」
  頭の中に浮かんだヤバゲな妄想を抑え込むように頭をブンブンと振った私は、彼女に向かって指を突き立てながら宣言する。
「うんうん、やっぱりそのくらいの意気込みじゃないと面白くないよね。じゃ、早速はじめようか」
「望むところです!」
  そして今日も戦いが始まる。無事私は勝利を手にして元の世界に戻ることができるのか!?

  …………一人目の相手にこれだけ苦戦しているようじゃ正直厳しいかも…………。



トップページに戻る

小説ページに戻る