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オミクジ
作:高居空
「なんじゃこりゃ……」
新年早々、俺は自分の手にした紙に書かれていたあまりにもな内容に思わず声を漏らしてしまっていた。
新年といえば初詣、ということでダチとともに地元の神社へとやってきた俺。参拝を終え、さあ運試しだとばかりにオミクジを引いたのだが、その内容はまさに開いた口が塞がらないといったような代物だった。いや、総合的には小吉なんだから悪くはないんだろうが……
「どうしたよ明雄、何か面白いモンでも書いてあったんか?」
同じく自分の引いたオミクジの中身を確認していたダチの勇太が、俺のこぼした声が聞こえたのか、どれどれとばかりに俺の手元を覗き込んでくる。
「なんだ、小吉じゃないか。俺は末吉だからどっちもどっちってとこだな。ていうか、小吉と末吉ってどっちが上なんだっけ?」
「知るかそんなもん……」
「へえへえそれで……って、なんだこりゃ! 超笑える!!」
俺のオミクジに書かれた問題の部分を読んだのであろう勇太は、その場で周囲の目もはばからずに爆笑する。
「うっせえなあ、俺にその気はないぞ」
ジト目で睨み付ける俺だが、勇太はなおも笑い転げ続ける。
「だ、だってよ明雄、普通のオミクジなら恋愛欄に『同性に好かれる。受け入れろ』なんて、絶対に書いてないぜ! お前、実は自分自身で気がついてないだけで、ホントはその気があるんじゃねえのか? ああ、俺はその点まったくその気はないから安心しな。というか目覚めて手ぇ出してくんなよ、マジで!」
「うっせえって言ってんだろ! ったく、そう言うお前はどうだったんだよ、勇太!」
「俺のやつは『友人関係から進展あり。押せ』って書いてあったぜ。へへっ、今年はもう思いっきり押して押して押しまくるぜ!」
「……それも普通のオミクジとしてはどうかと思うが、俺のよりかはよっぽどましだな……」
再び自分の引いたオミクジへと目を向け、書かれた内容に小さく息を吐く俺。
「あの〜、どうかなされましたか?」
と、その時、そんな俺達の様子をどこかで見ていたのか、後ろからどこかほんわかとした女の人の声が飛んでくる。
その声に振り返ると、そこには黒い長髪をうなじの辺りでゆわき、白い着物に赤い袴というコテコテの巫女装束に身を包んだ、美人と言うよりはどこか可愛らしさを感じさせるような女の人が立っていた。
なんだ? この神社の巫女さんか? まあ、この神社には社務所もあるし、実際そこで巫女さんがお守りとか売ってたから、この場所に巫女さんがいてもおかしくはないが……
そう思いつつもどこかその巫女さんが漂わせる不思議なオーラのようなものに少々居心地の悪さのようなものを感じる俺。だが、さっきからからこんなオミクジあるかと憤慨していたこともあり、半ば八つ当たりだと心の片隅で思いつつも俺は手にしたオミクジをその巫女さんへと突きつけた。
「ちょっと巫女さん、今ここでオミクジ引いたらこんなんが出たんだけど!」
「あら〜、これは確かにめったに見ない内容のオミクジですね〜。ですが、オミクジに書かれた内容というのは神様が下さったありがたいお言葉とでもいうべきもの。人の身ならば、やはりそれに従うべきではないでしょうか〜」
「って、俺にそんな趣味はねえって! 俺は男にモテたいんじゃなくて、女にモテたいんだ!」
「あらあらそうでしたか〜。ならば、ここをこうすれば問題ないですねえ〜」
そう言って、俺に柔らかな笑みを向けてくる巫女さん。
なんなんだ、この巫女さんは? そう思った次の瞬間、突然俺の胸の辺りからこれまでに味わった事のないような違和感が伝わってくる。
なんだ? この胸を何かで締め付けられるというか、無理矢理押さえつけられてるような感覚は?
その違和感を確かめようと視線を下ろした俺は、そこで目に飛び込んできた映像に思わず凍りついた。
なっ……なんだこりゃ!? なっ、なんで……お、俺の胸が……ふ、膨らんでるんだ!?
そう、そこには厚手のハーフコートの下だというのに、まるでその存在を誇示するかのように大きく隆起した胸の膨らみがあった。一目でそこらの平均を大きく超えていると分かるその『存在』に頭が真っ白になるオレ。
な、なんでこんなものがオレの胸に……
半ば呆然としながらもわなわなと震える手で胸の『物体』を確かめようとしたオレだが、さらにそこで衝撃が走る。
こ、これってオレの手か!?
そこにあったのは記憶にあるオレの物とは似ても似つかない、細い指と白く小さな手のひらだった。ま、まさか……
嫌な予感を覚えながら視線を胸からさらに下に向けると、そこにはヒダの入った丈の短いスカートがあった。その先には冬だというのに剥き出しになった柔らかそうな太ももが見える。
これって……もしかして…………
その視覚情報に再び頭が真っ白になりかけたオレだったが、完全に意識がとぶ寸前に何かねっとりとした視線のようなものを感じとり、本能的な危機感もあってか何とか意識を繋ぎ止めることに成功する。
なんだ……?
視線を再び上へと戻すと、そこにはギラギラと瞳を光らせた勇太の姿があった。
「なあ……今まで気が付かなかったけど、こうして改めてみると明美……お前って結構イケてんじゃん!」
な……
「なに言ってんのよ、勇太!!」
怪しく目を輝かせながらジリジリとにじり寄ってくる勇太に、本能的に後ずさる“あたし”。
「ヘヘッ、オミクジにも『押せ』って書いてあったし……ここは力づくで押させてもらうぜ、明美……」
そう言いながら舌なめずりする勇太を前に、あたしは助けを求めるように巫女さんへと視線を送る。
「あらあら〜。さっそくお相手が出来たのは喜ばしい事ですけど、これではオミクジの内容と少々異なってしまいますね〜。それでは、ここをこうさせていただきましょうか〜」
巫女さんがそう声を発した瞬間、今度は勇太の身に異変が起こる。
いきなり音もなくぐぐっと体が縮んでいく勇太。突然の出来事にあたしが呆気に取られている間にも、勇太の肩幅はきゅっと狭くなり、茶色く染められた短かい髪がすすっと肩の辺りまで伸びてくる。それに合わせるかように顔は一回り小さくなり、目は大きく、肌は白くきめ細かくなっていく。着ているジャンパーの上からでも分かるくらい胸が膨らんだかと思うと、ズボンは丈を短くしながらミニスカートへと姿を変え、膝上まで伸びたソックスが太ももに絶対領域を作り出す。細く長くなった指の先はマニキュアで彩られ、唇にはいつの間にかピンク色のルージュが施されていた。十数秒後、そこには少々派手な雰囲気をした、元が男だったとは思えないような性的魅力に溢れた美少女が立っていた。
その姿に急にドクンと高鳴るあたしの胸。
ヤバっ……こうしてみると優香って体つきもセクシーだし、結構好みかも……
そんな思いが頭をよぎった次の瞬間、目の前の少女はキラーンとその目を光らせると、勢いよくあたしに向かって飛びついてくる!
「明美! あたしと付き合って!!」
そう言いながら思いっきり体を投げ出してくる優香の事を反射的に抱き止めるあたし。体全体で感じる優香の体の柔らかさに思わず恥ずかしくなって目線をそらしたあたしの視線の先では、巫女さんがニコニコとその顔に笑みを浮かべていた……。
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