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キリ番サービス
作:高居空
※お陰様で当サイトは2009年1月6日に10000ヒットを達成いたしました。どうかこれからもよろしくお願いします。 管理人 高居空
「うわ〜、キリ番踏んじゃったよ……」
僕はディスプレイに映し出されたサイトのトップページを見ながら思わずつぶやいてしまった。
画面の一番下の部分に設置されたカウンターにはきっかり“10000”と表示されている。冬休み最後の日、ネットサーフィンを楽しんでいる最中にたまたまこのサイトにやってきただけの僕にとっては何とも言えないバツの悪さだ。
どうしようか……そう悩んでいるうちに、モニターの画面が別ページへと切り替わる。
「?」
見ると、新たに表示された画面には「キリ番サービスについて」という文字が浮かんでいた。
あれ? キリ番を踏んだら自動的にページがジャンプするようにプログラムでも仕込んであったのかな?
突然の事態に戸惑う僕の前で、ページは映画のスタッフロールのようにゆっくりと自動的にスクロールしはじめた。
“当サイトは2009年1月6日に1万ヒットを記録しました。これもひとえに皆さんの応援のお陰です。ありがとうございます。
さて、当サイトでは今回からキリ番を踏まれた方にちょっとしたサービスをしようと考えております。とはいっても、ちょっとまともなサービスではないのですが……。”
まともなサービスじゃない? その言葉に興味を惹かれた僕は、画面がスクロールするのに合わせてページを読み進める。
“これから下4桁が0になるキリ番を踏まれた方には、管理人の小説にキャラクターとして登場する権利を差し上げたいと思います。
ただし、これはあくまで話の中に登場する権利だけですので話の中でどのような役割を担うのかは指定できませんし、このことによる苦情も一切受け付けません。
キリ番を踏まれた方でそれでも構わないという人がいましたら、上のアドレスまで連絡頂ければと思います。”
キャラクターとして小説に登場する権利……。これは確かに面白そうだけどかなりクセのあるサービスだ。自分の分身が他人の小説の中に登場するというのは興味をそそられるけど、その分身がどのような目に遭うのか分らないというのはちょっぴり怖い。下手をしたら、ホラー小説で怪物に殺される役、なんてのにされてしまうかもしれないのだ。よっぽどこのサイトの小説のファンでもない限り、いくらサービスとはいっても申し込むのには二の足を踏んでしまうだろう。
“なお、その際は以下の項目を記入して下さい。
まず、作品に掲載しても良い名前と性別、これは必須です。
次に年齢、職業、身体または精神的特徴で希望がある方は記載して下さい。
最後に、話の中で被害者になりたい/なりたくない方はその旨を記載して下さい。特に記載がない場合は……おそらく皆さんのご想像通りになります(笑)”
被害者になりたい? これはどういうことなんだろう。まだここの小説を読んでいないから何とも言えないけど、被害者になると何か良い事でもあるんだろうか? それに、記載がない場合想像通りにって、どうなるんだろう……?
そう思った瞬間、目の前の風景がグラリと揺れる。
「うわっ!」
突然の事態に思わず声を上げてしまった僕は、その自分自身の声に何ともいえない違和感を感じた。
何だ今の声? いつもよりめちゃくちゃ高かったように感じたけど……?
「あ〜、あ〜」
試しにもう一度声を出してみた僕は、そのあまりにも高いソプラノの声にガツンと何かに頭を叩かれたような衝撃を受ける。
うそ……ホントにこれ、僕の声なのか? これじゃまるで女の子の声じゃないか……!
そこまで考えたところで、僕はハッと自分の体を見下ろしてみる。厚手のセーターとジーンズに包まれた体は一見なんの変わりもないようにみえる。だが、袖の先に見える自分の手は記憶にあるのよりも細くしなやかで、視界の端の方にはなんだか髪の毛のような物が見えるような気がする。
そんな馬鹿な! そんなことはあり得ない。常識的にある訳がないじゃないか……そう思いながらも僕は恐る恐る自分の胸と股間へと手を伸ばす。
「!!」
そこにはあるはずの物が無く、あるはずのない物が存在していた。股間にあるはずの物は消え失せ、胸には僅かながらも柔らかな膨らみが感じられる。
「ど、どうなってるの!?」
混乱する僕の目の前で、モニターに映し出されたページがスクロールしていく。
“なお、被害者を希望される方は被害後の格好や特徴を記入してもらっても構いません。例えば『メイド』とか。”
「きゃうっ!?」
その文章が目に入った瞬間、僕は反射的に声にならない悲鳴を上げてしまっていた。何者かが突然僕の胸を締め付けたのだ。反射的に視線をおとす僕。
そこには数秒前まで身につけていたはずのセーターとジーンズの姿はなく、代わりに可愛らしい白いフリルのついたシャツに黒い上下一体のスカートがあった。さらにその服の上には清潔感漂う白いエプロンまで用意されている。
「うっ、うそでしょ……」
僕は自分の目に映るその光景に思わず目まいを覚えた。この服って、漫画やなんかでよく見る、いわゆる「メイド服」って奴じゃないの? 何で僕がこんな服を……って、そうなると今も胸を締め付けているこの感触って……もしかして、ブラ!?
「そっ、そんな……」
立て続けに起こる非常識な出来事に脳みそが掻き回されているような感覚に陥る僕。どうなってるの? 突然、体が女の子になって、更にメイドの格好になってしまうなんて……。でも、不思議と嫌な気分って訳でもない。このメイド服は今の自分の体にぴったりとフィットしていて、なんだか安心できるような感じがする。まるでこれが本来の私の姿であったかのように……
「って、何考えてるの私!」
すんでの所で我に返った私は自分の頬を両手でパンと叩く。そう、私は正真正銘の男の子なのだ。女の子だなんてとんでもない!
私は荒い息を吐きながらパソコンのモニターへと向き直る。恐らく私の体がこうなったのはこのホームページのせいだ。ここに『メイド』という文字が出てきた瞬間に私の服装はこうなった。ってことは、私の体を元に戻す方法もやはりこのページのどこかにあるに違いない。
そう思いながらページを読み進める私。だが、続きの文章には私の期待とは全く無縁の内容が書かれていた。
“ただし、それが話の展開を縛るような物の場合、希望に沿えるとは限りません。例を挙げると、『丑年だけに牛チチ娘でミルクまみれ』とあった場合、この時点でシチュエーションやオチまで決まってしまいます。この場合、『牛チチ』の部分だけ採用させて頂きます。
もし、どうしても『このシチュエーションじゃなきゃ駄目!』という方は、こちらに応募するよりご自身で作品を書いてみる事をお薦めします。キャラやシチュエーションがそこまでできているのならば、あと一歩ご自身で足を踏み出してみてはいかがでしょうか。”
そこまで読んだところで、私は急に胸がうずき始めるのを感じた。
「あっ、あっ、あっ……」
同時に沸き起こった未知の感覚にたまらず口から吐息を漏らしてしまう。反射的に胸にあてがった手の平からは、これまで服の上からは確認する事のできなかった胸の膨らみが急速に成長していくのが伝わってくる。
ああっ、何で『牛チチ』なんて例えを出すの……? 痺れる頭でそう思ったときには、私の胸は手で抑えつけたくらいでは隠す事のできないくらい立派な二つの丘を形作っていた。
続いてメイド服にも変化が起きる。可愛らしいフリルの付いたブラウスのボタンのいくつかが消失し、大胆なカットが入っていく。黒いワンピースもそれに合わせて変形し、アタシの鎖骨と胸の谷間が空気へと晒される。同時に膝下まであったスカートの丈がスルスルと縮んでいき、むっちりとした太股とガーターベルトが露になる。
「アァ〜ン……」
気が付くとアタシの声も可愛らしいソプラノから色っぽい女の声へと変化していた。清純派のメイドだったアタシの姿は既にない。今のアタシは殿方にアダルトな色気を振りまくお色気メイドそのものだった。その現実に、恐怖と得体の知れぬ快感とが混じり合ったゾクゾク感がアタシの全身を駆けめぐる。
“なお、最後に繰り返しになりますが、この件に関する苦情は一切受け付けません。キャラクターの末路が気にくわないと言われても、作品の修正、削除等は行いませんので、その点ご理解いただけた方のみ申し込みをして下さい。よろしくお願いします。”
「イヤ〜ン……」
アタシは体をくねらせながらモニターを覗き込む。既に画面のスクロールは止まっていた。つまり、これが最後の文章。なのに、アタシの体は未だに巨乳のお色気メイドのままだった。戻る気配は一向にない。
ああ、アタシこれからどうなっちゃうのかしら……。頭の中にはいくつもの絶望的な未来が浮かんでくる。なのに、アタシはその想像に逆に興奮している自分を感じていた。ああ、アタシってお色気メイドの上に極度のマゾだったのね……
「アア〜ン……アタシってば変態でダメなオンナのコ……♪」
倒錯した感情に翻弄されながら、アタシは体を震わせ快感混じりの吐息を吐いたのだった…………。
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