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入替洗脳薬
作:高居空


  お、ようやく帰ってきたみたいだな。
  俺は二階の自室から見える向かいのワンルームマンションの一室に灯りが点るのを確認し、独りほくそ笑んだ。
  あのマンションの一室には、若いOLが一人で住んでいる。別にストーカーをしてた訳じゃないが、あの女の部屋はちょうど俺の部屋の窓から正面にあたる位置にあり、朝や休日の日中なんかに人が出入りするのを見ていれば大体の当たりはつく。そして、部屋の主である女は、遠目で見ても分かるくらい大きな胸をした、顔もなかなかのレベルのいわゆるイイ女だった。あの女が誰もいない部屋で一人ナニをしているのか……。
  ただの中坊でしかなかった昨日までの俺には、これまでそれを想像してオカズとするしかなかったわけだが、今は違う。今の俺なら、あの女の部屋の様子を知ることができる。それどころか、あの女の体そのもの、そしてその体が味わう快感までをも俺の物とすることができるのだ!
  俺は興奮にムスコをいきり立たせながら、学習机の上に置かれた薬へと手を伸ばした……。


「この度はご用命いただきありがとうございます」
  突然部屋へと現れたその男を、俺は笑顔をもって出迎えた。
  漫画に出てくる執事のような格好をしたその男は、そのナリにふさわしい慇懃な物腰で俺に対して一礼する。
  おそらく、前もってこの男について知識がなかったら俺はビビってイスから飛び上がっていただろう。何せこいつは、自室でパソコンに向かっていた俺の背後にいきなり現れたのだ。これで驚かない奴なんてそうそういるわけがない。
 が、俺はこの男のことを知っていた。こいつは「悪魔」だ。この執事の格好をした人外は、アダルトサイトのさらに裏ページに存在する、悪魔が運営しているという噂の通販サイト……金の代わりに寿命やら何やらを捧げることで購入できる品物が並ぶ、一見イカれたサイトだ……そのページの中で、商品説明欄に説明の代わりに無料1日モニター募集と表示された試作品のボタンをクリックすると同時に、商品を手に注文者の自室へと現れるという。そして、モニターに募集した者に……サイトに置かれた商品のトンデモさから考えると、そのほとんどが冗談だと思ってボタンをクリックした奴なんだろうが……モニター商品について、ネジが外れているとしか思えないような内容の説明を行うと、一日の間にその商品を使用するよう強制してくるということだ。
  ただ、その商品自体は実際に男の説明通りの効果を持っているらしく、常識ではありえないような事柄を引き起こすことができるらしい。
  俺がこの事を知っていたのは、実際にこのサイトを利用したというダチから話を聞いたからだ。でなければ、そもそもこんな怪しげなサイトのボタンをクリックしようなんて思わない。サイトの在処も含め、色々と教えてくれたダチには感謝しなくちゃならないな。まあ、実際の所はこいつが本当に目の前に現れるまでは俺も半信半疑だったわけなんだが。
「それでは、こちらがお客様に使用していただく製品、『入替洗脳薬』になります」   そう言って男が取り出したのは、よく薬局でもらうような銀色のシートに収まったカプセル状の錠剤だった。数は、一列二錠の三列で計六錠か。
  しかし、頼んでおいて何だが、この『入替洗脳薬』っていうのは一体何なんだ? ちょうど俺が見たときこれしか無料モニターの商品が無かったから頼んだ訳なんだが、商品名からはこれがどんな薬なんだかさっぱり分からない。『洗脳』っていうのは対象者にこの薬を飲ませることで洗脳することができるっていう奴なのかもしれないが、もう一つの『入替』っていうのがさっぱり分からん。
「この薬は、従来の入替薬、憑依薬の欠点を改善するべく試作されたものになります」
  入替薬に憑依薬? まずそこからして分からないんだが。
「入替薬というのは、薬を飲んだ者と意中の者との精神を交換する薬、憑依薬というのは薬を飲んだ者の精神を対象者の精神の上に上書きするような形で対象の体に定着させ、その体を自在に操ることができる薬のことです」
  ……つまり、両方とも他人の体を乗っ取って自分の思い通りにすることができる薬って事か。そいつは面白そうだな。例えば、そこらへんのイイ女の体を乗っ取って、あんなことや、こんなことを……。ととっ、それで、その薬の欠点というのは何なんだ?
「まず、入替薬というのは精神を入れ替える薬でございますから、入れ替えられた対象者の精神は薬を飲んだ者の体に宿ることになります。合意の上での入替ならば問題はありませんが、そうではない場合、入れ替わっている間、薬を飲んだ者の元の体は対象者の自由にされてしまう上に、対象者に自分の体を乗っ取った者の素性を知られてしまいます。基本的に肉体に宿った精神はその体の記憶を自由に引き出せますから」
  なるほど、確かにそれは後でかなり面倒な事になりそうだ。
「もう一つの憑依薬ですが、憑依薬を使用した者の本来の肉体には、憑依している間精神が存在しない状態となります。現代の人間の医学レベルでは、原因不明の意識不明状態と診断されるでしょう。つまり、後で大事にならぬよう薬を使用するとなると、自室のベッドの上、しかも自分以外の者が長時間入って来ないような状況にほぼ限定されます。ただ、この他者が入ってこない状況というのがまたやっかいでして、憑依に夢中になっていて数日以上対象に憑依し続け、いざ元の体に戻ろうとしたところ様々な要因により元の体が息を引き取ってしまっていてそのまま浮遊霊に……などという事故も起こっております」
  確かにそんな薬じゃうちじゃ使えないな。うちのお袋は俺の部屋にノックもなくいつもズケズケと入ってくる。そこで俺が意識を失ってぶっ倒れてたら、それこそお袋まで卒倒しちまう。
「そこで、それらの欠点を改善するために作られたのがこの『入替洗脳薬』です。この薬は広義的には入替薬に含まれますが、その他の効果として、遅効性の洗脳効果が付与されています。この効果は精神を入れ替えられた対象者の精神が薬を飲んだ者の肉体に宿ったタイミングで発動し、宿った精神が体に宿っている間、元からその体の持ち主であったように洗脳するのです。そして元の体に戻ったときに洗脳は解け、対象者は洗脳されている間のことをまったく覚えていないとなります」
  なるほど、つまり、俺が薬を使ったとして、俺が他人の体に宿っている間、代わりに俺の体に入った精神は洗脳されて「もう一人の俺」となって活動してくれてるって訳か。記憶も自由に引き出すことができるっていうから、それはもう、完全に「俺自身」になってるってことになるんだろうが……
「でもそれってうまくいくんか? いくら洗脳しても、俺がその薬を使ったっていう記憶を引き出されたら、『自分が本物の俺じゃない』ことに気付かれちまうんじゃねえのか?」
  ふと思いついた疑問を口にした俺に対し、執事の格好をした悪魔は一瞬「ほう」とばかりに感心したような表情を見せるが、すぐにその顔を内心の読み取れない慇懃な笑みへと戻すと、俺に向かって恭しく頭を下げる。
「確かにお客様のおっしゃる通り、薬を使ったという記憶を読み取られた時点で対象者の中では記憶の矛盾が生じ、精神が不安定となった結果、洗脳は解けてしまいます。   実は、その事が分かったのは前回のモニターテストの時でして、今回の商品はその改良版となっております。具体的には、洗脳の際、薬を飲んだことを思い出さないよう禁則事項を追加することにより、対象者の精神の安定を図るという内容になっております。もっとも、あまり記憶に関する禁則事項を設けすぎると思い出せる記憶そのものが穴だらけとなり、そこから精神が不安定となってやはり洗脳は解けてしまいますので、入れ替わる前の直近の記憶である『薬を飲んだ』という行為だけしか禁止することはできませんが」
  なるほど。それなら確かにうまくいきそうな気がする。
  しっかし、この商品ってサイトに書かれてたとおり本当にモニターテスト段階の試作品だったんだな。ただでさえ普通じゃない物のうえに、さらに想定外の事が起こるかもしれないってことか。まあでも、あのサイトで売られている正規の商品に比べればそれでもまだマシだけどな。
  おそらく正規の商品はこうしたモニターテストを経てサイトの説明通りの効果を発揮するようになってるんだろうが、いくらトンデモナイ効果が約束されてるからといって、その対価に自分の寿命やら何やらを支払うなんて、よっぽどの理由があるならともかく、面白半分で手を出すにはあまりにバカげている。まあ、実際にはあのサイトの内容からして、ネタだと思って商品をクリックしてしまった奴も相当数いそうだが。
  ととっ、今はそんなことより、この入替洗脳薬だ。モニターを引き受けた以上、俺はこの薬を一日の内に使用しなければならないわけだが、さてさて誰を相手にこいつを使えばいいのやら……って、そんなのは決まっている! 体を入れ替えるなんて普通ではありえない体験、しかも六錠という回数制限があるのならば、やはり相手は俺では一生経験することの無いような体験をすることのできる奴にするべきだ。となると、真っ先に思いつくのはやっぱり女体の神秘! というわけで、ターゲットは女! それも十代から二十代のいわゆるイイ女に限定だ!
  ……とはいえ、いくら目的がナニとはいっても、いきなり男とヤるというのは俺にも抵抗があるし正直少し怖い。となると、まず最初のターゲットは、旦那がいるような奴や部屋に彼氏を連れ込んでそうな奴は除外となる。それともう一つ、俺の知識では、女というのはナニをしていて快感に酔ってくると不随意に卑猥な言葉を口走ったり喘ぎ声を発してしまい、それを抑えるのは非常に困難とある。こいつはちとマズい。経験豊富な生粋の女ならばそれでもある程度の制御はできるのかもしれないが、女の快感バージンな俺ではまずそれを抑えることは不可能だろう。最初のターゲットでヤル事は自家発電でほぼ決定な訳だが、当然、そこで声を上げれば他人に自分がオナっている事を気付かれてしまう可能性がある。他人に自分がオナっている場面を見られる……しかも、それが家族ときたらそれこそ目も当てられない。自家発電の際、最も気をつけなければならないのは家族にバレないようにすることだというのは、俺だけでなく万人共通の事柄だろう。他人の体とはいえ、そのような状態に陥るのはさすがに避けたい。大体、入れ替わりを自分の任意のタイミングで解除できるとも限らないしな。
  となると、ターゲットは極力独り暮らしの若い女となるわけだが……いるじゃないか。目の前のマンションに、ちょうどおあつらえ向きのイイ女がさ!
「それでは、お客様には契約通りこの商品を一日の間自由に使用していただきます……」
  男の説明を聞きながら、俺は口元に浮かびそうになるにやけた笑みを抑えるのに必死になっていた……。



「さて、そんじゃ始めるか」
  女の部屋に灯りが点ったのを確認した俺は、さっそく六錠ある入替憑依薬のうちの一錠を口の中へと放り込んだ。ごくりとそれを水なしで一気に飲み込むと、ターゲットの女の顔を思い浮かべる。悪魔の話によると、この薬で入替を行うには、薬を飲んでから約1分間、対象者の顔を思い浮かべ続けなければならないらしい。何でも入替は体質により個人差はあるものの、概ね薬を飲んでから約1分後に発動するとのこと。そしてその際に対象の顔を思い浮かべていないと、ターゲットを特定することができないため入替は失敗してしまうらしい。その他の条件として、ターゲットと自分との物理的距離が百メートル以上離れても効果は発動しないみたいな事も言っていたが、今回のターゲットに関してはその点の心配はない。
  そういや、入替の効果時間についてはあの悪魔、薬の効力が持続している間は維持されるけど、体質により個人差があるからとか言って結局明言しなかったな。その点が不安っちゃあ不安だが……。まあ、今更そんなことを考えてもしょうがないな。現にこうして薬を飲んじまった訳だし。
  そう思った瞬間、俺の視界が突然ぐらりと揺れた。
  目まいのようなその感覚の後、次に目に入ってきたのは見慣れた俺の部屋ではなく、小綺麗に整頓された清潔感漂うフローリングの床の一室だった。
「おっ、やったのか!?」
  発したその声の違和感にはっとし、不随意に手で口元を隠す俺。今の声……間違いない。いつもの俺の声じゃない。そう、これは明らかに女の声だ!
「おおぅ……」
  見ると、口元に添えていた手の指も、本来の俺の物とは全く違う、白くて細いちゅぱちゅぱするととっても美味そうな物へと変わっていた。そしてそのまま視線を下ろすと……
「うわ、でか!」
  思わずそう口走ってしまうほどに立派なモノが俺の胸には鎮座していた。
  こ、こいつはスゲーぜ。男じゃありえねーアングルってのもあるんだろうが、この迫力、ボリューム! く〜、たまんねえ!
「ん……♪」
  たまらず自分の物より明らかに小さくなった手でその双丘をもみ上げると、手からは布地越しでも分かるくらい柔らかな物体をもみ上げる感触が伝わってくるとともに、胸からはこれまでに感じたこともない刺激がもたらされる。
「うん……♪ こりゃイイわ……。でもやっぱり、お楽しみはご開帳の後ですかね……」
  興奮で体が火照ってくるのを感じながら、俺は帰宅時のままの服装をした女のシャツのボタンを上から一つ、二つと外していく。その度に露わになっていく、自分の胸の大きな谷間……。
「こ、こいつはたまんねえぜ!」
  その圧倒的なスペクタクルに思わず感嘆の声を上げた瞬間、俺は耳に伝わってきたその声音に違和感を感じた。いや、違和感というよりむしろ聞き慣れたというか……
  これって、元々の俺の声なんじゃねえか?
  その事に気付いて体を見下ろしてみると、思った通り、俺の体は見慣れた元の体へと戻っていた。
  なんだよ、せっかくこれから良い所だったっていうのに! というか、薬の効果時間短すぎやしねえか? なんかほんの1、2分しか経っていないような気がすんぞ!
  薬の効果時間のあまりの短さに腹を立てながらも、俺はすぐにシートから新しい薬を取り出し口へと放り込む。お楽しみはこれからなんだ、こんな所でおあずけなんて冗談じゃないぜ!
  さっそく女の顔を思い浮かべ待つこと1分、再び視界がぐらりと揺れると、先程のフローリングの床が目に入ってくる。そして……
「うおおおおおおっ!!」
  次に飛び込んできた映像に、俺は思わず驚嘆の声を上げてしまっていた。
  谷間だ。ピンク色のブラジャーに支えられた巨乳により生み出された肌色の深い谷間が、俺の前に露となっている。更に言えば、先程まで着ていたシャツの感触がどこにもない。
  どういう状況なのかと左右を見渡した俺は、ベッドの上にシャツが無造作に投げ捨てられているのに気が付いた。その脇には年齢的に少し少女趣味すぎるのではと思われるようなピンク色のパジャマが置かれている。
  次に自分の体を見下ろしてみると、上半身はブラ一丁、下半身はスカートを履いたままという格好だった。
  こいつはつまり……着替中だったって奴か?
  確かに部屋に帰ってまでずっと昼間の服装をしてるなんて事はないよな。もしくは、俺がシャツのボタンを中途半端に外していたのを受けて、元に戻った女の精神が着替えの途中だったと辻褄を合わせたのかもしれない。
  だがまあ、理由は如何にしろこいつは俺にとっては渡りに船だ。何せ、服を脱ぐ手間と時間が省けたんだからな! しかもよく見りゃブラはおあつらえ向きにフロントホックときてる。こいつは俺にホックを外してくれって言ってるようなもんだぜ!
  その心の声に従い、さっそくブラのホックへと手をかける俺。
  次の瞬間、締め付けから解放され、ぷるんという擬音が本当に聞こえてくるかのような動きで胸が解き放たれたカップからこぼれ出る。
  うほっ、たまんねー! スマホかなんかがあれば、もう一度ホックを留めなおしてこの光景を録画しときたいところだぜ! だがまあ、無い物は無いし、そもそも入れ替わっていられる時間はあんまり長くはないみたいだからな。さっさと本題に入らせてもらうか!
  そう思い直した俺は、外気へと晒されたむしゃぶりつきたくなるような形の良いバストへと手を添えると、優しく緩急をつけてその双丘を揉みしだく。
「あっ……♪ うんっ……あんっ……♪」
  胸からもたらされた先程の布地越しに感じた感覚の数倍以上の強烈な刺激に、口から勝手に声がどんどんと漏れていく。そのいやらしい『自分の声』に興奮し、更に気分が高まっていく俺。うん、女は快感を口にすることによって更に快感が高まっていくっていうのはホントだな。さあ、そろそろ乳首も良い感じになってきたみたいだし、次はこの先っぽをギュッとやってみようか、ギュッと!
  俺は胸の中でも最大の快感が得られるという乳首へと手を伸ばし、二本の指でそれをつまみ上げる。
「あん!!」
  次の瞬間、もたらされた刺激によってたまらず上げた俺の気色悪い『男の声』が部屋に響き渡る。
  って、何じゃこりゃ!?
  さあこれからといったところで、俺は再び元の自分の体へと呼び戻されてしまっていた。
  おいおい、勘弁してくれよ。これじゃホントに薬を六錠全部使い切る前に最後までイケんのかどうかも分かんねーぞ?
  そう思いながらもすぐにあの快感の続きを味わうためにシートから薬を押し出し口へと放り込む俺。
  そのまま目を閉じ女の顔を思い浮かべ、入れ替わりが再び起こるのを待つ。
  しばらくして体に伝わってきたのは、全身の火照るような熱さと、それとは全く逆のひんやりとした足元からの冷たさだった。
  目を開くと、俺は上半身裸のままフローリングの床へとぺたんと座り込んでいた。
  こいつは……いわゆる女の子座りって奴か? いや、それよりもこの体のたまらない火照り……こいつは、元に戻った女がさっきの俺の『続き』をやってくれてたとしか考えられない。これは好都合だ。この流れのままなら、あと何回か俺が元の体に戻されたとしても、その間女の方で勝手に先へと進めてくれるだろう。もっとも、美味しい所やフィニッシュは俺のターンでないと困るがな!
「じゃ、まずは最初の美味しい所をいただくとしますか!」
  そう独りごちた後、俺は床からすくっとその場に立ち上がる。
  女になったらやりたいことで、外せない物の一つといったら、やっぱり脱衣だろう。俺の手でその秘められた部分が徐々に露わになっていく……正直これだけでご飯一杯はいける。上の方はシャツのさわりとブラを外すことしか体験できなかったが、下の方はしっかりとやらせてもらうとしますか!
  スカートに手を伸ばし、ホックを外すとチャックを広げ、すすっと足を抜いていく。布地を脱ぎ捨てたその下からは、ブラジャーと同じピンク色の布地が姿を現した。やや色がくすんで見えるのは、その上に肌色のパンティストッキングを履いているからだろうか。
  おお、良い眺めだぜ! なんだか腹の奥がうずいて体が更に熱くなってくる。さて、次はこのままパンストごとこの小さな布地を一気に脱ぎ捨てちまってもいいんだが……いや、それじゃやっぱり味気ないな。状況的にも薬の量にもまだ余裕があるんだ。ここは一枚一枚、ゆっくりと味わいながら……。
  俺はパンストに手をかけると、それをゆっくりとずり下げていく。このパンストって奴は、手荒に扱うとすぐに使い物にならなくなっちまうって聞いたことがある。別に俺のモンじゃないんだからそんな事まで気にする必要なんてないんだろうが、せっかく一枚ずつ脱いでくって決めたんだ。そこまで気を遣わないと興が削がれるってもんだ。
  パンストが痛まないよう丁寧に脱ぎ去った俺は、ついに最後に残った布地へと手を掛ける。
  いよいよだな。こ、この下にあの……
  頼りない一枚の布地の下に隠された女の秘部を想像し、思わず生唾を飲み込む俺。
  一気に脱ぎ捨てたいと逸る気持ちを抑えながら、俺はまるで誰かに見せつけるかのように、布地のサイドに指をかけてゆっくりとじらすようにそれを下ろしていく。そして徐々に下がっていく布の下からついに女の秘密の場所が姿を……
「むっ!?」
  現したかと思った瞬間、俺の視界は再び自分の部屋へと戻されていた。
  ちっ、ちょっとパンストを脱ぐのに時間をかけすぎたか?
  ここからというところでお預けを食らった俺は、すぐに机の上の薬の入ったシートへと手を伸ばす。
  おそらく状況からして、次に入れ替わったときには女はパンツを脱ぎ捨ててしまっているだろう。それは残念だが、本丸である秘部の愛撫の下準備をしてくれていると思えば、それはそれで悪くはない。
「?」
  が、シートから薬を押し出そうとした俺は、そこで想定外の事態に直面した。
  薬が入って……ないだと!?
  そこには空になった銀色のシートが一枚、机の上にぽつんと置かれていた。
  理解不能な状況にシートの表裏を何度も確認する俺。だがいくら見てもシートには薬は一錠も残されてはいない。ただ、よく見ると、シートの裏側には薬を押し出したと思われる穴が6つ開いていた。
  どういうことだ!? 俺がこれまで使った薬は3錠のはずだぞ!
  だが、いくら見ても目の前には空になったシートが残るのみ。見た感じ、俺の意識が向こうに行っている間にこの部屋に誰かが入ってきた様子もないが…………
  と、そこで俺は閃いた。いや、俺が向こうに行っている間、この部屋には人がいたじゃないか。そう、「俺」だ。正確には、薬により「俺」へと洗脳された女の精神が!
  俺に薬を渡した悪魔の話では、洗脳の際、俺が薬を使ったという記憶は引き出せなくなっているということだった。だが、薬そのものの記憶は? そして、薬を使ったという記憶が無くなっているとなると、次に思い出す直前の記憶は何か? そしてそこからどう「俺」が行動するかを考えると……

1 俺が薬を使って女と入れ替わる(残り5錠)
2 洗脳された「俺」がマンションの「女」と入れ替わるため、薬を飲む(残り4錠)
3 1分後、薬の効果により元の体に「入れ替わった」俺が女の体に戻るため薬を飲む(残り3錠)
4 1分後、再び洗脳された「俺」が薬を飲む(残り2錠)
5 1分後、再び元の体に入れ替えられた俺が薬を飲む(残り1錠)
6 1分後、洗脳された「俺」が最後の薬を飲む
7 1分後、再び入れ替えられた俺が薬を飲もうとして…←今ココ

  そんな俺の思いつきを裏付けるかのように、背後からため息混じりの男の声が聞こえてくる。
「なるほど、まさか薬にまだこのような欠点があるとは思いもしませんでした」
  振り返ると、そこにはいつの間に現れたのか俺に薬を渡した執事の格好をした悪魔が立っていた。
「ですが、こうしてモニターテストをしなければこの欠点に気付かなかったこともまた確か。今回は私どもの試作品を使用していただきありがとうございました。この結果を元に、私どもはより良い商品開発へと取り組んで参ります。それでは、またのご用命をお待ちしております……」
  そう言って一礼すると、俺が何か言おうとするより早く文字通り霧か霞かのようにすーと消えていく悪魔の姿。それをただ呆然と見送るしかなかった俺の手には、空になった薬のシートが握られていた……。



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