トップページに戻る

小説ページに戻る
 
「これは一体どういう事だ!」
  怪しげな光で照らされた洞窟内に野太い男の声が響き渡る。
「何故だ、何故こうも我が組織には人が集まらん!?」
  男の声は洞窟の最深部、広間のように大きく開けた空間の壁に埋め込まれた鳥のレリーフから発せられていた。本人がこの場にいないためその表情を窺う事はできぬものの、声の主が相当苛立っているであろう事はその口調からも容易に想像できる。
「もっ、申し訳ございません!」
  レリーフの前では黒塗りの怪しげな西洋鎧を身に纏った男が文字通り平身低頭といった体で頭を下げている。がっちりとした体格のその男は身につけた衣装も相まって胸を張りさえすれば勇猛な武将のようにも見えたのだろうが、雨に濡れた子犬のように体をブルブルと震わせるその姿からは威厳というものがまったく感じられない。
「わ、私も、は、ハローワークをはじめ各所に求人を出しているのですが、条件欄に『年齢、性別、経験不問、固定給、ボーナス有り』と明記しているにも関わらず、な、何故か組織への入団希望者はほどんど現れず……」
「ぬう、業績によっては幹部への昇格もあるというのにか!?」
「は、はい……。そしてたまに申し込んできた者も、見習い期間の戦闘員を経た後に改造手術の上で本採用だと説明すると脱兎のごとく逃げ出す始末……」
「何故だ!? 今や病院にかかれば自己負担3割の世の中だというのに、全額組織持ちで超人になれる手術を何故嫌がる!?」
「そ、そこが私にもまったく理解できぬ所でして……」
「ええい、しかたない。こうなったらそこらの人間を拉致して改造洗脳手術を……」
「そ、それもまた……。なにぶん今この組織の構成員は客将である『博士』の一派を除けば私の他に戦闘員が4人だけ。拉致を行うには最低でも人員が2人は必要でしょうから、もしも拉致に失敗して警察に捕まってしまったとしたら、一気に組織の規模が半減してしまいます」
「むう……。それではネオン街で綺麗どころの女を餌に男を釣ってホテルの一室でで改造手術というのはどうだ?」
「ざ、残念ながら我が組織の構成員は男性のみでございまして……。し、しかも女装が似合いそうもない者ばかりという……」
「ぬうううっ、これでは八方塞がりではないか! 何故だ!? 何故こうもうまくいかん!? まさか、これもゴ○ゴ○の仕業だとでも言うのか!?」
「いえ、これらは全て通りすがりの覆面バイク乗りのせいかと……」
  そう言いながら顔に苦渋の色を浮かべる黒鎧の男。レリーフから聞こえる声の主も同じ表情をしているであろうことは容易に想像できる。
  そんな重苦しい空気を一変させたのは、突如洞窟の中に沸き起こったけたたましい笑い声だった。
「ひょ〜っひょっひょっ、どうやらお困りのようじゃのう」
「!?」
  驚いた黒鎧の男が振り返ると、そこにはヨレヨレの白衣の上に黒マントを羽織った白髪の老人が、怪しげな緑色の液体の入った大きなビーカーを手に立っていた。
「ぬう、『博士』……。客将が一体何の用だ?」
  先程までのレリーフの男に対する態度が嘘であるかのように高圧的な物腰で老人に臨む黒鎧の男。だが、老人はそんな男の態度などまったく気にすることなく聞く者に不快感を与えるようなしゃがれ声をあげる。
「ひょひょひょっ、なあに、ついさっき儂の新発明が完成したのでお主達に見せにきたんじゃよ。こいつは凄いぞ。これさえあればお主らの悩みも一気に解決することができるかもしれん」
「ほう、面白い。どのような発明なのだ、『博士』?」
  老人の言葉に対し黒鎧が口を開くよりも早くレリーフから声が飛ぶ。レリーフに背を向けながら憮然とした表情を見せる黒鎧の男。
「ひょっひょっひょっ! これが儂の新発明、即効性簡易肉体改造液兼洗脳液! その名も『ゲルウォーター』じゃ!!」
  手にしたビーカーを頭上に掲げ、『博士』と呼ばれた老人は大見得を切る。
「この液体はその名の通り対象の肉体を瞬時に改造した上で洗脳までしてしまう代物でな。対象の人間にこいつを浴びせるだけで液体は体内へと浸食し、その者の肉体を身につけた衣服ごと改造してしまうのじゃ。もっとも、正式な改造手術で産み出した怪人とは違って身体能力的にはそこらの戦闘員とほとんど変わらんがの。そして、さらにこの液体を浴びせ続ける事によって対象は液体を浴びせた者に対して絶対の忠誠を誓う兵士へと洗脳されるのじゃ」
「ほう、洗脳するにはは改造が終わった後も液を浴びせ続けなければならぬのか。そういえば、最近どこか別の組織で洗脳前に改造手術を行って結果サンプルに逃げられたという話を聞いたことがあるが……?」
  横から皮肉混じりに口を挟んできた黒鎧の男に『博士』は哄笑で答える。
「ひょ〜ひょひょひょ! この天・才の私がそのような初歩的な過ちを犯すとでも思っておるのか? 実はこの液体にはもう一つ別の効果を持たせておってな。仮に洗脳がうまくいかなかったとしても、肉体が改造された時点で対象は我々に従わざるを得ない状況に陥るようになっておるのじゃ!」
「ぬう……」
  押し黙る黒鎧に代わってレリーフから男の声が響く。
「……なるほど。『博士』、その液体がどのような物であるかは大体分かった。しかし、言葉だけでは少し物足らぬな。この場でひとつその液体の効果を実際に見せてもらおうか?」
「ひょひょひょ、了解じゃ。ほれ、お主の部下を一人ここに呼ぶんじゃ」
「な、なぜ私の部下を……」
  抗議の声を上げる黒鎧に向かってレリーフから声が飛ぶ。
「『博士』の言うとおりにするのだ」
「……くっ、分かりました……」
  顔を歪ませながらもパチンと指を鳴らす黒鎧。程なくして、覆面に黒い全身タイツという見るからに怪しげな格好をした男が奇声を発しながら広間へと姿を現す。
「さてと、それじゃ始めるぞい」
  そう言って『博士』は広間の中央で片手を斜め上に掲げたまま直立する戦闘員に向かってビーカーの中の液体を残らずぶちまける。まるで乾いた植木鉢に水をやったかのようにみるみる戦闘員の体へと染みこんでいく液体。その十数秒後、戦闘員の肉体がビクンと波打つと、みるみるうちにその姿が身につけたタイツごと別の存在へと変わっていく。
「ほう、これは……」
「な、何と……」
  思わず驚きの声を上げる2人を前に会心の笑みを浮かべる『博士』。
「どうじゃ、儂の発明は? あっという間に改造が終わる上に、この姿なら戦闘にしか使えない怪人とは違って色々と使い道があるじゃろう?」
「うむ、さすがは『博士』。実に素晴らしい」
  レリーフから発せられた賞賛の声に、黒鎧の男が慌てて口を挟む。
「し、しかし、その液体、肉体を変化させるにはそれなりの量をかける必要があると見た。そのような怪しげな色の液体、普通の人間が疑いもなく浴び続けるとでも思うのか? 洗脳をするために液体をかけ続けなければならぬと言うのならなおさらだ。拉致してきた人間を拘束して浴びせるのならともかく、それらができぬ現状、相手には自主的にこの液体を浴びて貰わねばなるまい。そのような事が可能だと本当に思っているのか?」
  だが『博士』はそんな黒鎧の男の否定的な意見にも全く動じることなく、口元に悪魔のような笑みを浮かべる。
「もちろん、その為の策も考えておるわい。お主の配下の戦闘員、それらを全てこやつと同じように改造させてくれるなら、この週末で一気に100人単位で入団者を集めてみせるわ!」
「ぬ、ぬぬぅ」
  自信満々の『博士』に対して言葉を失う黒鎧。その後ろに掲げられたレリーフから男の声で指示が飛ぶ。
「面白い。『博士』、やってみせよ」
「ひょひょひょっ! この儂にお任せあれじゃ! ひょ〜ひょひょひょ!!」
  レリーフの男の言葉に一際甲高い笑い声を上げる『博士』。だが、その目が一瞬鋭い光を放った事に、この場にいた者は誰も気が付いていなかった。


サーキットの陰謀
作:高居空



「やっべえ〜、出遅れた〜!」
  焼けるような日差しの下、俺は愛用のカメラを手に遥か彼方に見える人だかりに向かって全力疾走する。
  今、俺は山の中に作られた国際的にも有名なレースサーキットにいた。F1をはじめ多くのレースが開催されるこのサーキットでは現在、真夏の祭典とも呼ばれるオートバイの耐久ロードレースが開催されていた。真昼にレースを開始し夜7時過ぎまで走り続けるというこのレースは、容赦なく降り注ぐ太陽の日差しにより焼け付くアスファルト、変わりやすい山の天気等、文字通り過酷な耐久レースとして知られている。また一方では企業の後ろ盾を持たないプライベートなチームであっても参加ができる門戸の広いレースとしても有名だ。大手バイク会社が巨費を投じて作り上げたチームと部品工場や町のバイク屋が作ったようなチームが同じコースでしのぎを削る、それがこの耐久ロードレースなのだ。
  だが、俺としては今日決勝が行われるそのレース自体には興味はない。俺の目的はただ一つ。レースが開始される前に行われるピットウォーク……そこでそれぞれのチームのピットに花を添えるキャンペーンガールを撮影するために、俺は毎年このサーキットにやってきているのだ。
  キャンペーンガールやレースクイーンと言うと一般の人はF1等の大々的にテレビ中継されるレースを思い浮かべる事が多いと思うが、こと人数という点でいうならば今行われているバイクレースは間違いなくトップクラスだ。何せ出場チームは毎回50チーム以上。その全てのチームにキャンペーンガールがいる訳ではないが、それでも多くの場所で彼女達の姿を至近距離で撮影することができる。しかも開催されるのが真夏という事もあって、そのコスチュームはビキニトップにマイクロミニスカート等、露出度が高い物が主流だ。更にレース中には別のステージで撮影会が行われたりするなど、そういった関係が好きな人間には実にたまらないイベントなのである。
  そんな訳で今年もカメラ片手にサーキットへとやってきた俺だが、不覚にも現時点では他のマニア達に完全に遅れをとってしまっている。事前に詳しく調べてこなかったのが悪いのだが、今年からこのレースではキャンペーンガールとは別に水着姿の美女達を撮影できる新イベントが追加されていたのだ。
  イベントの名前は「ウォーターガン・ガール」。その内容は入場時に購入したプログラムによると、ビキニ姿にビーチサンダルを履いた美女達が観客に向かって水鉄砲を打ちまくるというものらしい。知らない人が聞けばただのはた迷惑なイベントのように思うかも知れないが、このサーキットは夏の日差しが容赦なく降り注ぐ山の中にある。そこは文字通り灼熱地獄。何もしなくても汗で服はグショグショになり、霧状にした水を体に吹きかける装置が置かれた休憩所があるような場所だ。水で涼をとれる上にビキニ姿の美女達を撮影できるというこのイベントは実に“らしい”ものではある。もっとも、水を浴びながら彼女達を撮影するにはカメラの防水対策が必須だろうが。
  当初、俺はこの大会にそのようなイベントが追加されている事などまったく気がついていなかった。恒例のピットウォークが終わった後、同業者達がよく分からない方向に向かって走っていくのをぼんやり眺めているうちに何となく疑問に思い、プログラムを確認してようやく気がついたという訳だ。
  とりあえずその事に気付いた時点で俺はイベントの行われる会場に向かって走り始めたが、実際の所このタイムロスは非常に痛い。
  プログラムで確認したタイムテーブルによれば、既に会場ではイベントが始まってしまっているはずだ。恐らく会場の周りは同業者によって幾重にも人垣が形成されてしまっているだろう。こうなると脚立でもない限りまともな写真は撮れない。今の俺の装備では被写体をカメラに納めるのも難しいだろう。まあ、会場の位置を確認しておくだけでも次回以降役には立つのだが……。
  だが、イベント会場が近づきその詳しい様子が見えてくると、俺は自分の考えが良くも悪くも間違いであった事に気がついた。
  向こう側に見えてきた会場には、俺の予想したとおり既にたくさんの人だかりができている。だが、そこに集まっていたのは俺が考えていたのとはまるでかけ離れた格好をした人々だった。てっきり会場は防水対策を施したカメラを持った野郎どもで埋め尽くされていると思ったのだが、そこにいたのは豪快に撒き散らされるエメラルドグリーンの水を浴びて歓声をあげるビキニ姿の美女達だったのである。
  会場に近づきながら目を凝らしてみると、人垣の隙間からは黒いビキニと赤いビキニを身につけた美女が2人ずつ、水鉄砲というよりほとんどホースのような形状をした放水機を使って周囲に集まった美女達に向かい緑色の水を撒き散らしているのが見える。その左胸のカップにはスポンサーのマークなのか、鳥が翼を広げたようなマークが入っていた。だが、よく見ると水を浴びて喜んでいる側の美女達が着ている色とりどりのビキニにもそれとまったく同じマークが使われている。何故そうなっているのかは分からないが、どうやら今俺の前で行われているイベントは、キャンペーンガールが他のキャンペーンガールに向かって水を放水するというもののようだった。
  目の前に広がるその光景を俺はどこか不自然に感じながらもカメラの準備に取りかかる。このようなイベントに同好の士の姿がまったく見えないのはおかしいが、それ以上にあれだけの被写体をみすみす見過ごすというのはマニアとしての沽券に関わる。ともかく、考えるのは撮影が終わってからだ……。
  準備のできたカメラを片手に俺は美女達の群れに近づいていく。そんな俺に気がついたのか、緑色の水を撒いていたビキニ美女達のうちの一人がこちらに向き直った。
「あれ〜♪ 何かまだ変わってない子がいるよ〜♪」
  そんなどこか脳天気な彼女の声に、他の放水機を手に持ったビキニ美女達も一斉に俺の方に視線を向ける。
「あ、本当だ〜♪ これはたっぷり水をかけてあげなきゃね〜♪」
「そうだね〜♪ みんな〜、準備は良い〜?」
  何やら怪しげな雰囲気を漂わせる美女達に、俺は思わず後ずさりする。
  だが俺のその動きは一足遅く、ビキニ美女達は俺に向かって放水機を構えると、一斉にそのトリガーを引いたのだった。
『せ〜の、ファイアー♪』
「うっ、うわ!?」
  襲いかかる水流に思わず悲鳴をあげる俺。こ、これじゃ撮影どころじゃない……!
  と、そこで俺は水に濡れて体に張り付いた衣服が何やらおかしな感じになっている事に気が付いた。
  何だ? 服が……縮んできている!?
  水流が激しくて目を開けることができないため確認はできないが、上半身を覆っているはずのTシャツの感触がどんどん縮んでいき、腹と腕、そして胸の上部までもが直に空気にさらされる。それと同時にズボンの丈もどんどん短くなっていく。スニーカーを履いていたはずの足もいつの間にか足の上部を覆っている布の感触がなくなっていた。
  やがてTシャツだった物体はオレの豊かな胸を包み込む二つのカップになり、ズボンもホットパンツの状態からデリケートな三角地帯にぴっちりと張り付く布地へと姿を変える。
  ……ん? なんだ、その豊かな胸というのは? デリケートな三角地帯? 何を考えているんだオレは? オレはオ……トコ……だぞ?
  何故だか知らないが頭が混乱してきたオレは、自分の胸へと手を伸ばす。そこには確かな膨らみがあり、胸からは触られているという感触が伝わってきた。
  な、なんだこれは……オレ…アタシはオ……トコ……だよネ……? どうしてムネがあるノ……?
  段々頭が真っ白になっていくアタシ。だが次の瞬間、アタシを襲っていた水流が前触れもなく突然ストップする。
「あれ〜? 『博士』〜、どうしたの〜? 『ゲルウォーター』、止まっちゃったよ〜?」
  目を開けるとアタシの前では黒ビキニの女が水の出なくなった放水機をブンブン振り回しながら疑問の声を上げていた。
  その声に応じるようにステージの影から黒マントを羽織った白衣の老人が姿を現す。
「ひょっひょっひょっ、すまんすまん、『ゲルウォーター』はもう品切れじゃ。この天・才の儂とした事が思わずペース配分を間違えてしまったわい」
「え〜!?」
  怪老人の返答に口を尖らせる美女。
「だってこの女の子、まだ頭の中は完全に変わってないよ〜?」
  この女の子……? その言葉に違和感を感じたアタシは、自分の体を見下ろしてみる。
「!!」
  そこには誰が見ても間違えようがない、蠱惑的な女性の体が存在していた。
  健康的に日焼けした小麦色の肌。胸は大きな谷間を形成し、それを緑色のビキニが包み込んでいる。その左胸のカップには他の美女達と同じ鳥が羽を広げたマークが入っていた。下腹部は上と同じ色の三角型の水着で覆われており、足にはビーチサンダルが履かされている。手にしていたはずのカメラはいつのまにかどこかに消えてしまっていた。
「ア、なっ、なに……コレ?」
  思わず上げた声も聞き慣れた男の物ではなく、色気を感じさせるオンナの物へと変貌している。
「ふむ、確かに頭の方は中途半端みたいじゃの。しかし、身体の方は完全に変わっておるから問題はないじゃろ」
「ナ、何を言ってるのアナタ。アナタ達は一体何者なの?」
  どこか自分の言葉遣いに違和感を感じながらも目の前の怪人物に向かって詰め寄るアタシ。
  その問いに老人は身につけたマントを両手で大きく広げて答えた。
「ひょっひょっひょっ! 儂らは世界征服を企む秘密結社! お主等は儂らの組織の一員となるべくこの儂の大発明『ゲルウォーター』によって生まれ変わったのじゃ! どうやらお主は改造液の量が足らなかったせいで洗脳がうまくいかなかったようじゃが、その肉体は既に改造人間と化しておる。さあ、おとなしく我が組織に忠誠を誓うのじゃ!!」
「な、何ですって!?」
  耳を疑うような発言にアタシの頭は混乱する。秘密結社? 世界征服? そんなのあり得るはずがないじゃない。でも、あの『博士』とかいう人物の液体でアタシの体が変わってしまったのは事実。あくまでカンだけど、アタシの体を元に戻す事ができるのは目の前の老人だけだろう。でも、だからといって世界征服を企んでいるとかいう怪しげな連中にほいほいついて行くのがホントに正しい選択なの……?
「ひょひょひょ! 迷っておるようじゃのう。そんなお主に一つ良い事を教えてやろう。儂の作った『ゲルウォーター』にはもう一つ特別な効果があっての。この液体で体を変化させられた者は、今身につけている物以外の衣服を身につける事ができんのじゃ」
「!?」
「仮にその水着を脱ぎ捨てて別の服を着たとしても、その瞬間にその服は今の水着と寸分変わらぬ物へと変化する。ひょっひょっひょっ、どうじゃ? いつでもビキニ姿の痴女として表の世界で生きるのと、我が組織の一員として闇に生きるのと、お主はどちらの方がマシだと思うかの? まあ、その姿では表の世界を選んでも夜の世界でしか生きられないとは思うがの。ひょ〜っひょっひょっ!」
「……う、ううっ」
  思わず絶句するアタシに、怪老人は甲高い笑い声を上げ続けるのだった……。







「よくやった『博士』。これで我が組織も一気に規模を拡大する事ができた」
「ひょっひょっひょっ、まあ、儂にかかればこんなもんじゃ」
  岩肌が剥き出しになった広間に『博士』の耳障りな笑い声が木霊する。
「…………」
  それを苦々しい顔で見つめる黒鎧の男。
「ついでに提案なんじゃが、こうして美女ばかりの組織になったんじゃ。いっそのこと名前を『大女禍(だいじょっかー)』に変えてみたらどうかの?」
「それは面白い」
「…………」
  今回の作戦で多大な戦果を上げた『博士』はレリーフの男からの絶大なる信頼を勝ち得たようだった。それを横目で見る黒鎧の男の顔が更に厳しくなる。そんな黒鎧に対してレリーフからは叱責の声が飛ぶ。
「お前もただ立っているだけではなく、『博士』に負けぬようしっかりと働く事だ」
「は、ははあ!」
  自らの顔を隠すかのように平伏する黒鎧の男。その頭上のレリーフからは続けて女の喘ぎ声のようなものとともに男の陶然とした声が漏れる。
「ふふっ、しかしこの女達、何から何まで実に良い。こうなれば征服と同時に日本人総ビキニ美女化計画を進めても面白いかも知れぬな」
「ひょっひょっひょっ、それは楽しそうじゃのう」
「ふっふっふっ、は〜っはっはっ!」
「ひょ〜ひょっひょっ!」
  …………
  ……
  そうして数ヶ月後、ビキニ美女軍団「大女禍」は大規模な侵攻作戦を開始する事になるのだが、それはまた別のお話。






「ひょっひょっひょっ、うまくいったわい」
  自室である研究室へと戻った『博士』は口元をニヤリと歪めながら手に持ったワイングラスを天に掲げた。その周りには今回の作戦で『ゲルウォーター』を放水していた4人の美女達……黒鎧の男の部下だった元戦闘員達がうっとりとした表情を浮かべながらかしずいている。
「儂の『ゲルウォーター』は対象を改造すると同時に液体を浴びせた者に対して絶対的な忠誠心を抱くよう洗脳する。つまり今回の作戦で改造人間になった者達は全てお主達の言う事を聞くということじゃ。そしてお主達は……」
「は〜い『博士』♪ 私達は身も心もみ〜んな貴方様の物で〜す♪」
「その通り。お主達の本当の主人はお主達を改造したこの儂じゃ。あの間抜けな2人ではなく、な。さあて、これからどのタイミングで裏切ってやるのが一番面白いかのう」
  そう言って『博士』は実に楽しそうにグラスに入った赤ワインを飲み干したのだった。



トップページに戻る

小説ページに戻る