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ゲームダイバー
(後編)
作:高居空


  沈んでいく太陽が魔法学院の裏庭を紅く染め上げる。
  暖かな風が吹き抜ける中、裏庭のシンボルである大樹の下には今、二つの人影があった。
  夕日にも負けないくらい顔を真っ赤に染めて何かを伝えようとしている少女と、その告白を固唾を飲んで待っている少年。
「ああ、もう覚悟を決めてパパッと告白するにゃ……」
  その様子をボクは少し離れた茂みの中でヤキモキしながら見守っていた。


 

 
 
  ちょうど1年前、ボクはある会社が開発したゲーム世界を体験できると言う機械、ゲームダイバーのモニターテストに参加していた。
  選択したゲームに酷似した平行世界のキャラクターに意識を憑依させるという無茶苦茶な理論のその機械で、ボクは紆余曲折の上、とあるファンタジー系恋愛シミュレーションゲームの世界へと飛ばされていた。しかも憑依したのは主人公ではなくて攻略される側の女の子、それも猫耳尻尾付きときてる。
「……もう完全に慣れちゃったけどにゃ……」
  ボクは自分の頭の上に乗った耳をチョンチョンとつつく。この耳の後ろ付け根あたりを触るのが凄く気持ちいいのにゃ。もう病みつきにゃ……って、今はそんな事やってる場合じゃにゃいけど。何せ、今日ボクはようやく元の世界へと戻れるんだから。


  ゲームダイバーを開発した会社の社員、世島さんの説明では、平行世界に飛ばされた意識が元の世界に戻るには、ゲームにおけるエンディングかクリア画面にあたる場面まで進めばいいということだった。このゲームではゲーム開始から1年後、つまり今日この裏庭での告白シーンがエンディングとなっている。つまり、今ボクの視線の先にいる2人が結ばれたとき、ボクは元の世界に戻れるのにゃ。
  いやあ、ここまでの道のりは長かったにゃ。別に女の子としての生活については元々の体の持ち主であるターニャの記憶やスキルを引き出せるので困らなかったけど……実際にはもう完全に元の自分とターニャの人格やらナンヤラが入り交じってる気もするけどにゃ……、とにかくあのニブチンの主人公パルスと奥手のあの娘をくっつけるのには凄く苦労したのにゃ。
  まあ、ボクもヒロインのうちの一人にゃんだからボクがパルスとくっつくという手もあったんだけど、これでもターニャさんはオトコのコなのにゃ。女の子とニャンニャンするのはともかく、男と付き合うのはマッピラゴメンなのにゃ。
  とは言っても元のターニャはパルスに興味を持っていたから実に厄介だったのにゃ。だから、元のターニャに引きずられてボクがパルスにドキドキし始める前に他の娘とパルスがくっつくよう、裏でせっせとフラグ立ての手伝いをしてあげてたのにゃ。今2人がこのエンディングを迎えられるのはターニャさんのお陰なのにゃ。

  ボクがそんな事を考えている間も、2人は無言のまま互いの目を見つめ合っていた。もうここまで来たらやることは一つだろうに、まったくイライラするにゃ。
  でもまあ、ボクは傍観者だからいきなり舞台に上がる訳にもいかないんだけどにゃ。それに今のボクは姿隠しの魔法を使っている。この魔法の効果期間中は相手に気付かれることは無い代わりにこちらからも一切手出しができないのにゃ。……そういえば、元の世界でも魔法って使えるのかにゃ?
  ん、どうやらあの娘もようやく覚悟を決めたみたいだにゃ。さっきより目の輝きが強くなってる。いよいよだにゃ……
「パルスさん……貴方が……好きです」
  彼女の口がそう動いた瞬間、ボクは真っ白に輝く光に包まれていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「う、う〜ん……」
  しばしの空白の後。ボクは体に何とも言えない違和感を感じながらゆっくりと目を開いた。
  最初に目に入ってきたのはどこにでもあるような灰色の事務机。そして、その向かいの机でにっこりと微笑む女性社員……世島さんの姿だった。
「お帰りなさい。どうでした、ゲーム世界は?」
  そう言ってにこやかに人差し指を立てる世島さん。それに答えようとしたところで、ボクは今いる場所がどこかおかしい事に気がついた。確かボク達がゲームダイバーのモニターをしていたのは百人単位で入ることのできる講堂みたいな場所だったはず。それが今いるのは事務机が二つだけしかない小部屋。しかも、この部屋には窓が無い上にドアはいかにも頑丈そうな金属製ときてる。その上、あの時ボクが装着したゲームダイバーも、この部屋にはどこにも見あたらなかった。
「どこなんですか、ここは?」
  身を乗り出して尋ねたボクは、そこで自分の体に感じる違和感の理由に気がついた。あの時のボクはラフなシャツにジーンズという格好だったはず。それが、今のボクはきちっとした白いシャツにスーツを羽織り、ネクタイまで身につけていた。どうなってるんにゃ、これは?
「ふふっ、ここは私達の会社の事務室の1つですよ。今のあなたは私達の会社の社員なんですから不思議でも何でもないですけど」
「にゃ!? どういうことですか!?」
  思わず机越しに詰め寄ろうとするボクに、世島さんは意味深な笑みを浮かべる。
「ふふっ、あなたはこれまで1年間平行世界で暮らしてきましたよね。その間、こちらの世界の時間が止まっているとでも思いました?」
「!」
  その答えに思わず絶句するボク。確かにその通りにゃ。あちらの世界だけ時間が動いててこちらの時間が動いてないなんて都合の良いことありえるはずがない。でも、それならボクの意識が向こうの世界に行っている間、この体を動かしていたのは誰なのにゃ?
「あらあら、何だかこの1年間の間のあなたは誰だったのかと疑問に思っているような顔ですね? ふふっ、答えは簡単ですよ。あなたが向こうの世界でターニャさんに憑依している間、一度でも“ターニャさん自身の意識”を感じた事がありましたか?」
「にゃ……!」
  そう言われてみれば、ターニャの記憶やスキルはどんどんボクの頭の中に入ってきたけど、その自我みたいなものはこれまで感じたことはなかったにゃ。ボクの意識がターニャみたいに変質したような感じはあるけど、それは彼女の記憶がボクの記憶の中に流れ込んできて、それをボクが自分の過去として認識してしまったため。彼女の意識が自分の体を取り戻そうとしていたわけではにゃいと思う。
「くすっ、実はゲームダイバーというのはこちらの世界の人間の意識を平行世界に送り込むだけの機械ではないんです。こちら側の意識に体を奪われたあちら側の世界の意識を空になったこちらの肉体に憑依させる機能もあるんですよ」
  そう言って笑みを浮かべる世島さん。
  ……なるほど、これが世島さんが前に言っていた“向こうの世界でやられても大丈夫”ってヤツの種明かしって訳にゃ。向こうの世界に飛んだ意識が死んでしまっても、こちら側の肉体には向こうからやってきた意識が入っているから大丈夫ということだにゃ。恐らく、ボクがそうだったようにこちらに来た意識も体の持ち主の記憶やスキルを引き出すことができるんだろう。確かにそれなら“中身”が違っていても他の人間は誰も気付かないに違いないにゃ。
「……でも、そんな事して何の意味があるんですか?」
  ボクの発した当然とも言えるその問いに、世島さんは片目をつむって指を立てる。
「あら、意味ならありますよ。ファンタジー世界における魔法理論、シューティング世界でのあれだけの戦闘兵器を作り上げる超技術……いずれもこの世界では得難いテクノロジーばかりです。それらの技術を持った人達をこちらの世界に招き入れ、そのノウハウを蓄積する……それがこのプロジェクトの本当の目的ですから」
  その言葉にボクは全身の毛が逆立つのを感じていた。世島さんはサラッと言っているけど、これは相当とんでもない事にゃ。何せこちらの世界では基礎理論どころかフィクションとして取り上げられもしない技術を独占的に入手してるんだから。この技術を使った製品を発表されたらそれこそ誰も追随できない。技術独占による一種の世界支配だって可能かもしれないにゃ。
「……けど、ゲームダイバーはどのキャラクターに憑依するかは選べないんじゃにゃいですか? そうした技能を持っている人ばかりが送られてくる訳じゃにゃいでしょう?」
「確かにその通りです。その点は改善しなくてはいけませんね。ファンタジー世界の剣士なんかがこちらに来られてもまったく役に立ちませんから」
  そう言って苦笑する世島さん。
「それに、そうした技能を持つ人が送られてきたとしても、全員が全員協力する訳じゃないんじゃにゃいですか?」
  だが、続けて発したボクの問いに対し、世島さんは怪しげな笑みを浮かべた。
「いえ、その点は問題ないですよ。こちらに来られた皆さんには感謝されたことはあっても、反発された事はほとんどありません。……何故だと思います?」
  予期せぬ質問返しにボクはしばし考え込んだ。恐らく世島さんは“分かりません”という答えは望んでにゃい。あの口元の笑みとは裏腹な冷たさを感じさせる目は以前にも見た、そう、ボクの事をどの程度の物かと見定めている目にゃ。多分、返答の内容によってボクの運命は大きく左右されるんだろう。となると、問題は正解を言うべきか、あるいはワザとトンチンカンな答えを返してバカだと思わせるかだけど…………うん、ここは正解を言って切れ者だと思わせといた方が良いような気がするにゃ。多分、世島さんはボクのことに興味をもっている。でなければ直接ボクの事を出迎えた上で、部外秘だと思われる自分達の真の目的まで明かすことはないはずにゃ。ここでバカだと思われたら、秘密を知った使えないヤツとして始末されてしまうかもしれにゃい。そして窓一つなく出入口も限られているこの部屋は、そうした事をするにはまさにもってこいの場所にゃ。
  で、肝心のどうしてこちらの世界に連れてこられた人達が感謝してまで世島さん達に協力しているかだけど……やっぱりぱっと見だと連れて来られた人にはデメリットの方が多いような気がするにゃ。目を覚ましたらいきにゃり違う世界、しかも自分まで違う姿になっている。もしそれが女の子の意識だったら更に悲惨にゃ。何せ程度の差はあれゲームオタクな男の体に入れられるんだもの。それじゃ普通感謝するどころか大反発にゃ。
  だけど、それでも実際には反発する人がほとんどいないというのならば、考えられるのはただ一つ、体を変えられるというデメリットを上回るメリットがこの世界にはあるっていうことにゃ。つまり、元の世界には無くてこちらの世界にはある物、もしくはその逆で元の世界にはあってこちらの世界には無い物があるって事…………彼らがやってくるのは世島さんの話からするとファンタジー世界かシューティングなんかのSF世界だから、そういったゲームの設定とこちらの世界とを比べてみると…………そうか、分かったにゃ!
「どうやら思いついたみたいですね」
「ええ、恐らくこれで合ってると思うんですけど」
  ボクはどこか妖しげな光を湛える世島さんの目をしっかりと見すえながら答える。
「こちらの世界に来た人達が世島さん達に感謝する理由……それは、この世界、その中でも特にこの国が“平和”だからですね?」
  その回答に、世島さんはニッコリと笑みを浮かべた。
  やっぱりそうにゃ。シューティングやファンタジーRPGといったゲームには必ず一つの要素が必要になる。それは“敵”という存在。つまり、そこから来る人達というのは戦火のまっただ中で生きているということにゃ。
  例えばシューティングなんかだと、侵略者の兵器に対抗できるのは秘密兵器である自分の機体だけって設定なんかが結構ある。これって逆に言えばその世界は九分九厘侵略者の手に落ちてるってことにゃ。それにファンタジー世界。魔王と戦う勇者というのは聞こえは良いけど、つまりそれは国としての軍隊が壊滅していて魔族と戦争するだけの力がにゃいということ。街を守るだけで精一杯で、意地悪く言うなら少数による敵本拠地への潜入及び指導者の暗殺くらいしか打つ手がないということにゃ。オンラインRPGの世界だとそこまでひどくない場合もあるけど、街から一歩外に出るとモンスターがウヨウヨしていて、戦闘訓練をしている者でも死の危険性があるということには変わりがにゃい。つまり、総じてそういった世界というのは人類が崖っぷちということにゃ。
  そんな世界とボクの世界、特にこの国ではどちらが暮らしやすいかなんて聞くまでもにゃい。何せこの国は数十年間戦争もなく、お金を稼ぐ手段さえ確保すればそれこそやりたいように生きていけるんだから。これなら向こうの世界から来た人達は多少のデメリットは目をつむってでも世島さん達に協力するだろう。
「ふふっ、あなたの言うとおりです。彼らがやってくるのは人類存亡の危機に直面した世界。そこから助けだした上で、この世界で生活するための手段、つまりこの会社への就職まで用意しているのです。これで“嫌”という人はそうそういませんよ。
  更に付け加えるなら、もしも向こうに送り込んだ意識が戻ってきたとしても、それはゲームにおけるエンディングを迎えた証。彼らが戻る先は敵が倒れ平和になった世界という訳です。つまり彼らにとっては何のデメリットもありません」
  そう言うと世島さんはボクの目をじっと見つめてきた。
「やはりあなたは見所がありますね。1年間待った甲斐がありました。正直、こちらに来たターニャさんは魔法学院に入学したばかりということで魔法も使えなくてあまり役に立たなかったんですが、今のあなたなら魔法も使えるでしょうし、我が社の良い戦力になります」
「……ボクが協力を断る、とは考えにゃいんですか?」
  そう返したボクに瀬島さんは唇をニッと歪ませる。
「それができる状況でないことはあなたも分かっているでしょう? ……ですけど、一応保険はかけておきますか」
  その言葉と共にスッと手の平をボクへとかざす世島さん。同時にボクの体に電流のような何かが走り、続いて全身が痺れるような感覚が襲ってきた。
「あ、ああっ……」
  思わず声を漏らすボク。その声が徐々に高く、そして聞き覚えのあるものへと変わっていく。
「む、胸がぁ……」
  ぷっくりと膨れていく二つの胸。それを覆い隠すシャツとスーツも女性物のシャツとブレザーへと姿を変えていく。
「にゃ!」
  次の瞬間、短く揃えられていた髪がバサッと伸びる。それは両脇の耳を完全に覆い隠していた。いや、覆い隠すというよりも耳そのものが小さくなって……にゃくなろうとしている!? 同時に頭の上では何かがもぞもぞと動いていた。これって、もしかして猫耳が作られてるんじゃ……。
  それと同じくしてお尻の上の部分からはニュルリと何かが体の中から生えてくるような感覚があった。それは人間なら決してあり得ないはずの、だけどついさっきまで体に備わっていたもの。
「にゃ、にゃぁ……」
  何とか視線を下げると、そこには見慣れた襞付きのミニスカートがあった。やっぱり間違いにゃい。ボクは向こうの世界での姿……ターニャの姿に体を変えられてしまったのだ。
「あらあら、ゲームの画面で見るよりも実物の方が可愛いですね、ターニャさんは」
「そんにゃ、どうして……」
「ふふっ、それは“どうしてこんな姿に変えたのか”ということですか? それとも“どうしてこんなことができるのか”、ですか?」
  予期せぬ事態に戸惑うボクを前に、猫のように目を細める世島さん。
「この術は向こうの世界から来た人達の要望で作ったものでしてね。私が力を送る事によって、対象を一時的に向こうの世界の体に変化させることができるんです。もしもその格好のまま外に出たらどうなるか……ふふっ、なかなか面白い事になりそうですよね?」
「にゃ……」
  世島さんの言わんとすることにボクは思わず凍り付く。今のボクには猫耳と尻尾がついている。しかも本物。これが注目を浴びないわけがにゃい。それにこの姿は元のボクとはあまりにもかけ離れている。例え親が見たって実の息子だとは分からないだろう。当然、今まで住んでいた場所に住む事はできないし、カードの番号は覚えているけど、本人照会をされたら必ず引っかかる。つまり、この姿のボクは異世界からきた異邦人そのものなのだ。この格好で外に放り出されたら、それこそまっとうな手段では生きていけにゃいだろう。
「ふふっ、心配しなくても私が力を送るのを止めさえすればあなたは元の姿に戻れますよ。もっとも、私が再び力を送ればあなたはすぐにその姿に変わっちゃいますけど。……白昼の大通りで通行人の見守る中、猫耳少女へと変わっていく青年男性……くすっ、想像するだけで楽しいですよね?」
「…………」
  ボクは絶句するしかにゃい。
「この変化の術というのは私の家に伝わる方法では結構な大魔術なんですけど……異世界の魔法理論と超高度演算装置のお陰でここまで簡単にすることができました。これも向こう側から来てもらった皆さんの協力のお陰ですね」
「? それってどういう……」
  その言葉の中に聞き捨てならない物を感じて声を上げたボクに、世島さんはまるで悪魔のような笑みを浮かべた。
「そんなに驚くことでもありませんよ。先程も説明しましたけど、魔法理論や超科学はこちらの世界では得難いテクノロジー……つまり、得難いだけで存在していない訳ではないんです。そうした知識と力を持った人々は代々徹底した秘密主義の元で研究を重ね、その成果を子孫へと伝えていくという作業を繰り返してきました。私の家もその一つ。ただ、私は先祖の皆さんと違って少々せっかちなものですから、一気に研究を進めるために様々な“場所”から助力を願う事にしたのです」
  そう語る世島さんを前に、ボクの全身からは嫌な汗が流れ始めていた。
  ま、まずいにゃ。世島さんの話が本当だとするなら、ゲームダイバーは世島さんの研究を進めるために作り上げられたものということににゃる。というか、ゲームダイバーそのものが世島さんの家に伝わる秘術を用いて作られた物にゃんだろう。ということは、このゲームダイバー関連のプロジェクトそのものが、会社の為ではなく世島さんの為に存在しているということになるんじゃにゃいだろうか。それってつまり世島さんはこの会社のただの社員なんかじゃないってことで……
「さて、それじゃあそろそろ返答を聞かせて貰えますか? 我が社に協力して貰えるかどうか。おそらく答えは決まっているとは思うんですけど」
  先程の妖しげな笑みから一転、にこやかな表情を浮かべる世島さんに、ボクはただ頷く事しかできなかった…………。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『皆さ〜ん、今日はゲームダイバーランドに遊びに来てくれてありがとにゃ♪』
  たくさんの人で埋め尽くされた会場にボクの声が響き渡る。
  あれから1年。ボクは最近開園したゲームダイバーの体験施設、ゲームダイバーランドでナビゲーター兼マスコットキャラクターとして働いていた。
  ターニャの格好のままだと版権に関わるからという事で伸ばさせられた髪は今や背中まで伸び、エナメル質のノースリーブシャツとミニスカートはボクの色気を過剰なまでに増幅させている。しかも、強制的に寮に入れられた上で髪の毛の関係もあるからとずっとターニャの姿にさせられていたため、ボクは今では元の身体の方に違和感を感じるようになってしまっていた。にゃあ、こんなんじゃ駄目にゃんだけどにゃ……。
『それじゃ、これからゲームダイバーの遊び方を説明するにゃ♪』
  ボクは踊るように壇上をクルクル回りながら机の上に置かれた機械を手に取る。あれからゲームダイバーには更なる改良が加えられていた。ボクが使った時にはできなかった、憑依キャラクターの指定ができるようになったのだ。また、それと平行して本物のゲームダイバー……ゲーム世界の疑似体験装置の開発も行われている。そして、このゲームダイバーランドの中のゲームダイバーは1台を除いて全て疑似体験装置のゲームダイバーが使用されていた。さすがに会社も何万人もの向こうの世界からの来訪者を養えるほど余裕があるわけじゃにゃいし、無作為に大量に憑依を行ったら色々とボロも出てくるだろう。そこでこのテーマパークは完全予約制ということを利用して、予約段階で中身が入れ替わっても問題が無く会社に引き込めそうな人間だけをピックアップし、それを憑依装置の方へと振り分けているのだ。
  この改良のお陰で、世島さんの研究はどんどん進んでいるらしい。世島さんがその研究で何をしようとしているのかはボクには分からにゃい。何かとんでもないことを企んでいるのか、それともただ自分の知識欲を満足させているだけにゃのか。ただ一つだけ言えるのは、あの人のとんでもない力が研究が進むにつれ日に日に強力になっているということにゃ。にゃあ、このままじゃボクは一生あの人の飼い猫にゃ……。
  そんな事を心の中で考えながらも、ボクは面白おかしく説明を続けていく。にゃんだかんだいって、ボクは結構今の仕事を気に入っていた。こうしてボクの動きに合わせてお客さんが驚いたり笑ったりするのはにゃかにゃか楽しいのにゃ。それに、最近はみんなにこの姿を見られてるというのが段々気持ちよくにゃってきたというか…………本当はマズイんだろうけど。
『それじゃ、ボクの自信作ゲームダイバー、思いっきり楽しんでってにゃ♪』
  そう言ってボクは今日も大観衆に向かって満面の笑みを浮かべながらウインクをしたのだった。
 

(了)

 
 

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