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我慢王への道!
作:高居空


「それでは、The・我慢王、これより準決勝を開始します!!」
  密林に司会者のマイクが木霊する。
  俺は今、南米某国のジャングルの奥地にいた。鬱蒼と茂る木々の間にポツンと円を描くようにできた草むら。そこに置かれたパイプ椅子の上に、俺を含めた6名の大学生が腰掛けさせられている。
  そんな俺達の座る椅子の下には高級そうなレッドカーペットが敷かれ、それは10メートルほど向こうに置かれた工事現場などでよく見る物体へと伸びていた。物体のドアは目の前の男達を招き入れるように開け放たれ、中に見える純白の輝きは俺達を堕落の道へと誘おうとする。
  その誘惑に必死に耐えるライバル達を横目に、俺は準決勝での勝利を確信していた……。




  “The・我慢王”、それは大学生の中で一番我慢強い者を決めるために開催される壮大な我慢比べ大会である。この大会のために各大学から選出された猛者達は、“我慢王”の称号を手に入れるため日本国内だけでなく世界の各地で熱い戦いを繰り広げる。待ちかまえる試練は過酷な物であるが、自身の名誉に加え大学の威信をも背負った参加者達は、ただひたすら自らの限界まで耐え続けるのだ!
  なお、この大会の模様は全国ネットのテレビ局でゴールデンタイムにスペシャル番組として放送されることになっている。つまりこの大会の参加者は、良いところを見せられれば一躍全国の人気者となれる可能性があるが、逆に醜態を晒してしまった場合は知らない人からも後ろ指を指される事になるという。文字通りハイリスク・ハイリターンな戦いに身を投じているのだ。
  そんな過酷な大会の準決勝で俺達を待ち受けていた試練……それは、『30分間トイレに行くのを我慢地獄』というものだった。
  ちょうど1時間前、俺達はジャングルに棲む原住民達の集落で『原住民の神秘の秘薬連続一気飲み地獄』という試練を受けていた。その試練の内容は、原住民の作った秘薬だというとてつもなくマズイ飲み物を一気飲みし続けるというもので、参加者達はもの凄い勢いで胃袋に液体を流し込んでいたのだが、これが罠だった。皆はこの『一気飲み地獄』が準決勝なのだと思いこんで無理にでも液体を一気飲みし続けていたのだが、実際にはこの試練はフェイク。本当の準決勝は今始まった『トイレ我慢地獄』だった……というわけだ。
  既に参加者の体内には大量の水分が取り込まれている。さらに、原住民の秘薬には利尿効果があったようで、俺の股間はかなりむずむずとした状態になってきていた。実際にはまだまだ我慢できる範囲だが、これが30分間続くとなるとなかなか精神的に厳しいものがある。
  そして、それに輪をかけて問題なのが、参加者達をグルリと取り囲んでいるテレビカメラの存在だ。この試練、ただ限界まで耐えればOKというものではない。意地を張って我慢をし、もしも限界を越えてトイレに駆け込む前に決壊してしまったとしたら……当然の事ながら、その様子が全国のお茶の間に放送される事となるのだ。第三者から見るとただのバカバカしい試練なのだが、実際に我慢する方からすると実に恐ろしい荒行なのである。
  だが、俺はこの危険な試練を無事に勝ち抜くことができるという事を心の中で確信していた。もちろんただのやせ我慢ではない。実は、1時間前に行われた偽の試練で、俺は例の秘薬をほとんど口にしていなかったのだ。
  子供の頃からこの大会のファンだった俺は、偽の試練から本当の試練へと続くこの流れを何度もテレビで目撃してきた。そして今回『一気飲み地獄』のお題が出たとき、これが偽の試練だとヤマを張った俺は、何回か秘薬を一気飲みしただけで早々にリタイアしたのだ。これが本当の試練だったら目も当てられない所だったが、どうやら天は俺に味方したらしい。今の状態でも少しばかり苦しいのは確かなのだが、それでも他の奴らに比べれば俺は圧倒的に有利なのだ。
  横目で見ると、ほとんどのライバル達の額には脂汗が浮かび、中には顔面蒼白となっている者もいる。この調子なら30分持たない奴がほとんどだろう。誰か一人口火を切れば、ドミノ倒しのように次々とリタイアしていくに違いない。となると、決勝の相手は……。
  俺は自分のすぐ隣の椅子に座った細身の男の様子を相手に気付かれぬように覗き見た。男は多少困ったような感じで眉根を寄せているものの、その口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。先程の偽の試練で大量に液体を摂取したはずなのに、その表情は他のライバル達とは明らかに異なっていた。
  やっぱり田中か……。しかしこいつ、中学の時とまったく変わってないな……。
  昔、俺が色々と難癖をつけた時に浮かべていたのと同じ表情を浮かべる田中の姿に、俺は思わず苦笑してしまう。
  田中は中学時代の3年間、俺と同じ教室で共に学んだクラスメートだった。実に温厚な性格の持ち主で、どんな時でも口元に笑みを浮かべていたのが印象に残っている。当時少々羽目を外していた俺は、そんな田中の人の良さにつけ込み、クラスの当番から宿題のノートなど色んな事を奴に押しつけていた。頼まれたらいやと言えないアイツは、俺の前でよくあの表情を浮かべていたものだった。
  その後、中学を卒業した俺達は別々の高校に進学した事もあってすっかり疎遠になっていたのだが、まさかそんな田中にこの大会で再会する事になるとは、さすがに夢にも思わなかった。
  なんでも田中の話では、この大会に出場する事になっていた同じゼミの学生が大会直前に盲腸で入院してしまい、代わりに出場してくれと懇願されてしかたなく出場することになったということだったが、俺は田中の奴がかなりの忍耐力の持ち主であるという事に中学生の頃から気付いていた。中学時代のアイツは温厚である一方で頑固な一面もあり、頼まれた仕事はどんな理不尽な物であっても泣き言一つ言わずに全て自分の手で片づけていた。少なくとも俺はアイツが弱音を吐いたり愚痴をこぼしたりする姿を一度も見た事がない。そんなアイツに忍耐力がないなんていったら嘘になるだろう。
  そして俺の思ったとおり、大会が始まると田中は全ての試練を危なげなく突破してきていた。おそらく今回の試練もアイツが堕ちることはないだろう。かつてのクラスメート同士の決勝戦となれば番組でも大きくクローズアップされるのは間違いない。こいつはおいしい。後は俺が勝てれば最高のハッピーエンドなんだが……。
「さあ、もうすぐ15分経過だ! みんな、生きてるか〜!!」
  俺達と仮設トイレのちょうど中間地点の場所に置かれた席で、司会者がことさら陽気な声を上げる。どうやら俺の思ったより他の参加者も忍耐力があったようだ。時間的に折り返し地点に達しようという時点で、今のところ脱落者は一人も出ていない。これでは司会者も退屈だろう……。
  俺は小さなモニターが6つ並んで置かれている司会者席へと目を移した。机の上に置かれているモニターには、この番組を見た事がある者なら誰でも知っている事だが、俺達の向かいに置かれたトイレの中の様子が映し出されるようになっている。そして誰かがリタイアしてトイレに駆け込んだとき、司会者はここぞとばかりに叫ぶのだ。“お〜っと、彼はとっても気持ちよさそうにオ○ッ○をしているぞー!”……と。
  この言葉、テレビを観ている人はただの下品な台詞だと思うだろうが、極限状態に置かれた者達にとっては実に甘美な響きに聞こえるらしい。実際、これまでの大会で行われた同じ試練では、毎回司会者がこの言葉を発すると同時に何人ものチャレンジャーが衝動に打ち勝てずに連鎖的にトイレへと駆け込んでいるのだ。だが、こうもリタイア者が出ないようでは司会者も煽りたくても煽れないだろう……。
  だが、そんな俺の読みに反して司会者はマイクを手に取ると席から立ち上がり、大きく声を張り上げた。
「さあ、そろそろ神秘の秘薬の効果が出てくる頃だぞ〜! この試練、果たして耐える事ができるのか〜!?」
  なんだって? あの液体、ただ単に利尿効果があるだけの薬じゃなかったのか?
  司会者の言葉に俺の心の中で不安が芽生える。
  どういうことだ? まさか、今出てる利尿効果はほんのさわりでしかなくて、この後とてつもないビッグウェーブがやって来るとでもいうのか……!?
  そんな考えが頭の中をよぎったときだった。
「!!」
  突如として襲ってきた異様な感覚に俺は全身を震わせる。
  何だ!? あの感覚が……体の中に……!?
  先程まで痺れるような何ともいえない焦燥感を産み出していた股間の感覚。それが体の中にめり込むかのように徐々に場所を移動していく。
  同時に肩と腰の部分を何かに押さえつけられているような感触が走り、短パンから剥き出しになった足からムダ毛が抜け落ちていく。
  うなじに何か髪のようなものが触れる感覚が伝わってくる。
「あっ、ああ……」
  聞こえてきた女のような声は、誰かがあげた声だったのか、それとも俺が発した物だったのか。
  乳首のあたりに鋭い痛みが走ったかと思うと、Tシャツを押し上げるように2つの丘が隆起してくる。シャツを張りつめさせるくらいまで成長したそこからは、これまでに感じた事のない重みが伝わってくる。
  こっ、これは……バカな、そんなわけあるはずが……
  俺はやけに細くなった指を震わせながら、自分の胸に出現した2つの膨らみへと手を伸ばす。
「!」
  次の瞬間、膨らみの先端に走った刺激に俺は慌てて手を離した。
  こっ、これはマズイ……色々と確認したいのはやまやまだけど、今みたいな刺激を受け続けたら確実に……バーストする!!
  その光景を想像した俺は反射的に太ももをすり合わせる。
「あ……」
  俺の口から女のような甘い声が漏れる。
  俺の皮膚は信じられないくらい敏感になっていた。素足同士が触れただけだというのにこれまで感じた事のない感触が伝わってくる。そして同時に、足をすり合わすには障害となるはずの股間の存在は、太ももからも股間からも一切感じ取る事ができなかった。
  う、嘘だろ……!?
  俺は思わず股間に手を伸ばそうとする。
  いや、ダメだ! もしあそこがああなっていたとして、そんな所を指で触れたりしたら絶対にもたないぞ!
  なけなしの理性を総動員して指の動きを止める俺。そう、試練の開始時から感じていた股間の焦燥感は、収まるどころか体内へとその場所を移動してから加速度的に緊迫度が増してきていた。こんな時に未知の刺激が脳へと伝わってきたら我慢などできるはずがない。
  俺は震える手を椅子の両脇へと垂らして小さく深呼吸をする。落ち着け、俺。司会者はさっき神秘の秘薬の効果が現れると言っていた。ということは、信じられないがこれがその秘薬の効果ということになるのだろう。そして大会スタッフがこの効果を知っていたという事は、必ず体を元に戻す手段があるということだ。我慢大会で参加者を性転換させました、元に戻せませんなんて事になったら責任を取らされるのは関係者だ。テレビ局がバックについている大会運営委員会がそんな愚を犯すとはさすがに思えない。となれば、ここは何があってもとにかく我慢するのみだ……。
  再び小さく深呼吸をした俺は、背筋を伸ばして視線を前へと向ける。これ以上自分の体を見ていても変な妄想が沸いてくるだけだ。体の事は意識せずに、とにかく尿意を我慢する事だけに集中だ、集中……
「あ、あぁ〜ん……」
  だが、俺の集中力はどこかから聞こえてきた女の喘ぎ声によって簡単に途切れてしまう。
  何だ、今の声は?
  反射的に声の聞こえた方へと振り向いた俺は、目に飛び込んできた映像に思わず絶句してしまった。
  そこでは椅子に座ったアイドル並のルックスをした美女達が、自分の胸を揉みしだいてはもう一方の手を股間に這わすという痴態をテレビカメラに向かって見せていたのだ。
  女達はすべて服を着ているとはいえ、それはとてつもなく扇情的な光景だった。その様子を俺の隣に座った黒髪の美女が唖然とした表情で眺めている。
  こ、これはもしかして、女になったアイツらなのか? となると、この隣の女がた、田中!?
  信じられない光景に固まってしまう俺。それほどまでに横に座ったメンバー達の姿は元の姿とはかけ離れてしまっていた。隣に座っている田中と思われる女も、細身である所は変わらないものの、髪は背中まで伸び、腰はくびれ、胸には形の良い大きめのバストが張り出している。この姿を見て男だと思うヤツは誰もいないだろう。顔もそれぞれのパーツが絶妙にマッチしたグラビアアイドル顔負けの美女へと変貌している。もはやそこに田中の面影は全く残っていなかった。
  そして、それ以上に変わってしまったのが他の参加者達だ。トイレを我慢している身でありながら、しかもその姿が全国に放送される事になるというのに、彼女達は自分の体を確かめる行為を止めようとはしなかった。いや、ひょっとしたら止められないのかも知れない。これも秘薬の効果なのか……?
「も、もう我慢できない!!」
  そんな中、体をまさぐっていた女達の1人が、ついに限界に達したのか絹を裂くような声で悲痛な叫びを上げる。跳ねるように椅子から立ち上がると尻を振りながら内股でトイレへと駆け込んでいく美女。
「お〜っと、ここで一人目のリタイア〜!!」
  トイレのドアが閉まったのを確認した司会者が席のモニターを覗き込みながらハイテンションな声をあげる。
「うお〜、これは凄い!! みんな〜、彼女は幸せそうな顔で色々としているぞ〜!! うわ〜! これは気持ちよさそうだ〜!!」
  て、おい、色々って何だ色々って!?
  心の中でツッコミを入れる俺。
「あっ、だ、ダメだ!」
「う、うおおおおおっ!」
「ボ、ボクも!!」
  だが、司会者のその声でたがが外れたのか、田中を除く他の参加者は一斉に席を立つとトイレに向かって走り出す。
「お〜っと、ここでまさかの大量リタイアだー!! そして〜! おぉー! これは凄い、凄い! 凄いぃぃぃぃ!!」
  モニター越しにトイレの様子を眺める司会者もスパーク状態だ。そ、そんなに凄いのか……?
  いつの間にか、俺は再び自分の体へと視線を戻してしまっていた。目の前にはたわわに実った2つの果実がある。こ、これを揉みさえすれば……いや、ダメだ! 何を考えてるんだ俺は! そんな事をしたらすぐにリタイアだぞ! でも、この機会を逃したらこの感触は一生味わえないだろうし……ってダメだダメだ!!
  雑念を振り払おうと頭をブンブンと振る俺。それに合わせて後ろ髪が左右に揺れる。と、そうやって横を向いた拍子に、俺は隣の田中がこちらに気付かれぬよう横目でちらちらと俺の事を窺っていることに気がついた。
  その視線にさっきまで俺の頭の中を占拠していた妄想が一気に鎮まっていく。
  そうだ、何をやっているんだ俺は。今までに4人の参加者がリタイアしたってことは、残っているのは田中と俺の2人だけ。ということは、時間内に田中がリタイアすれば、その時点で決勝を待たずして俺の優勝は決定じゃないか!
  その事実に気付いた俺は、前を向いて大きく息を吐く。
  さあ、我慢だ我慢! 俺は何のためにここにいる? この大会に優勝するためだろう? それが手の届く場所まできてるっていうのに、それを一時の快楽の為に放棄するのか? そうしたらこれまでの苦労はどうなる? とにかく、制限時間が過ぎるか田中がリタイアするまで我慢する事だけを考えるんだ!
  俺は雑念を捨て去り、下半身を襲う尿意に耐える事だけに集中する。恐らく田中も俺と同じ事を考えているのだろう。トイレの方向からは悩ましげな女の喘ぎ声のようなものが聞こえてくるが、俺も田中も全く反応しようとはしなかった。そんな状態がどのくらい続いただろうか。
「さあ、ここで30分経過だ〜! The・我慢王準決勝、『30分間トイレに行くのを我慢地獄』を勝ち抜き、決勝へと進むのは、この2名の猛者達だー!」
  司会者のアナウンスで試練の終了した事を知った俺は、小さく息を吐くと右手でガッツポーズを作った。
  ふう、結局田中との勝負は決勝に持ち越しか。でもまあいい。決勝の試練は時間無制限。そこでどちらが我慢王にふさわしいか決着をつけてやる。でも、とりあえず今は……
「と、トイレ……!」
  終了とともに気が緩んだのか、突如一際強烈な尿意に襲われた俺は、飛び跳ねるようにして椅子から立ち上がるとレッドカーペットの先にある魅惑の個室へと駆け込んだのだった……。





「は〜い、それじゃ次、こっちお願いしま〜す!」
  照りつける太陽の下、いくつものフラッシュの光が俺を包み込む。
  俺は内心辟易としながらも声の方向に向かってポーズを決めた。
  The・我慢王の決勝が始まって早1時間。俺も田中も今のところは順調に試練に耐え続けている。だが、俺の精神はその過酷な試練の前にかなり消耗してきていた。
「う〜ん、いいねいいね。はい、そこで腕を組んでもうちょっと前屈みになって〜」
  言われるがままに上体を倒す俺に向かって再びシャッターの嵐が襲いかかる。
  まったく、なんだってんだ今回の大会は……。
  俺はカメラを持った男達に笑顔を振りまきながらも内心では大会の運営者に向かって思いっきり毒づいていた。
  The・我慢王決勝。そこで用意された試練はその名も『ドキッ! 浜辺でセクシーポーズ地獄』というものだった。準決勝が終わった後、俺達は男に戻されることなく、決勝の舞台である国内の有名リゾートビーチへと連れてこられていた。そこで待っていたのはいかにもといった格好をしたカメラ小僧達。何でも奴らはここで新人グラビアアイドルの水着撮影会があるという告知を見て集まってきたらしい。そう、今回の試練は奴らの前でビキニ姿のグラビアアイドルとしてポーズをとり続けるというものなのだ。
  もちろんあいつらは俺達が本当は男だという事を知らされていない。俺達はその事を隠しながら……とはいっても今の肉体は完全に女なのだが……奴らの要求するポーズをとり続けなくてはならないのだ。そしてこの撮影会はどちらかが要求に対して拒否の動作をするかギブアップの意思表示をするまで永遠に続く事になる。なんでも撮影会は何回かに分かれていて、後の回になるほど参加者はマニアックなカメラ小僧になっていくらしい。今の回でさえ正直怖気が走っているというのに、これ以上マニアックな連中の相手をしなくてはならないかと思うと、プライドも何もかも捨てて、ここでギブアップした方が良い気さえしてくる。
「は〜い、こっちに視線お願いしま〜す」
  向こう側ではピンクのビキニを身につけた田中が同じくカメラ小僧達に囲まれてポーズをとっている。
  正直言って、今回の試練は田中の方にややアドバンテージがある。あいつは元々頼まれたら嫌とは言えず、それでいて常に笑顔を絶やさない温厚な奴だ。あいつなら多少無茶な要求でも嫌な顔一つせずに応じてしまうに違いない。
「いいよいいよ可愛いよ〜! はい、右手で髪を掻き上げるようにしてもう一枚!」
  カメラ小僧の要求に応じ、笑顔でその長く美しい黒髪を掻き上げる田中。……というか田中の奴、何かノリノリのようにも見えるが……気のせいか?
「すいませ〜ん、こっち良いですか〜」
  再び俺の周りのカメラ小僧から注文が飛ぶ。まあいい、ここまで来たらこちらも破れかぶれだ。田中の奴がリタイアするまで、どんなエロいポーズでも取ってやろうじゃないか!
  吹っ切れた俺は正面のカメラに向かって大胆なセクシーポーズを決める。ある意味やる気になったからか、カメラに撮られているうちに段々と気持ちが昂ぶってくる。
  あれ? 慣れてくるとこうして男の人に見られて写真を撮られるのって、結構気持ちいいかも……。
  だが、そう感じ始めた一方で、俺の心の片隅ではある一つの不安が芽生え始めていた。
  ここでこうしてグラビアアイドルとして写真を撮られる事に順応しちゃって、俺、この大会が終わった後に男に戻れるんだろうな……?



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