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次元管理人フォスター・シリーズ
デイ・オブ・ジ・アンコモン
作:高居空

※「フォスター」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/Novels-04-Foster-FormalSetup.htm
これまでの作品はこちらです。
http://ts.novels.jp/novel/corrector/title.htm


  私は次元管理人フォスターだ。
  時空に暗躍する犯罪者を追って、今日も過去に未来に飛び回っている。
  タイム・パラドックスを引き起こす犯罪者は許せない!
  私はタイム・パトロールとして少々の「修正」を権限で認められている。
  その時代、位置に相応しくない出来事にはその権限を行使する場合もあり得る。
  私のモットーは、「細かいことは気にするな」だ!
  さて、今回の仕事は……





「うわっ、またUCかよ!」
  とあるゲームセンターのカードゲームコーナーで、髪を茶色に染めた若い男が筐体を蹴りつけながら大声をあげる。
  ガタンと席を立った男の手にはキャラクターのイラストの描かれた名刺大のカードが握られていた。見ると男の座っていたゲーム機のパネルの上にも同じ大きさのカードが山のように積まれている。
  男の座っていた台はネットワーク対戦型カードゲームと呼ばれるジャンルのゲームで、自分の用意したカードを読み込ませ、オンラインネットワークで繋がれた全国のゲームセンターのプレイヤーとリアルタイムで対戦ができるような仕組みになっている。そしてプレイ後には1プレイにつき1枚カードが排出されるのだが、男はそのカードに納得がいっていないようだった。
「ったく、なんでこれだけプレイしているのにUCばっかり来るんだよ! せめてRくらい出ろよ!」
  台を睨みながら苛立たしげに吐き捨てる男。UCというのはカードのレアリティ、分かりやすく言うならばカードの入手のしやすさをカテゴリー化したもので、このゲームでは入手しやすい順にC(コモン)、UC(アンコモン)、R(レア)、SR(スーパーレア)の4種類が設定されている。このうちR以上のカードはその名の通りほとんど排出されないのだが、実際にはゲーム機に組み込むためのカードパックセットに必ずSRのカードでも1枚は封入されるようになっているため、連続でプレイしていれば必ず入手できる計算になっている。山になるほどカードを引いてSRはおろかRのカードさえ1枚も出ないというのはある意味異常だといえた。しかも最も出やすいはずのCのカードもほとんどなく排出されるのはUCばかりというのは、カードパックセットに細工がしてある等何か作為的な物が潜んでいるようにも感じられる。若い男が腹を立てるのも分からなくもない。
「何だ? 今日はUCの日かなんかなのか? それともUCが俺に恋でもしてるっていうのかよ?」
  あたりの迷惑など考えず半ば自暴自棄気味にわめき散らす男。だが、そんな男の言葉にどこからか応える声があった。
「ふむ、それは問題だな」
「!?」
  突如聞こえた野太い声に男は反射的に向き直る。そこには全身タイツを思わせる銀色の衣装を身に纏い、近未来的なゴーグルをかけた筋骨隆々とした外国人風の男が立っていた。いかにも怪しげな格好のその男の手には、昔の漫画に出てくるようなオモチャの光線銃のようなものが握られている。
  だが、若い男はその異様な風体にもまったくひるんだ様子もなく銀色タイツの男に噛みついていった。
「何だおっさん? 問題ってそれ俺に言ってんのか?」
  不機嫌な様子を隠そうともせず銀色タイツの男を睨みつける若い男。冷静に考えるならばどう見ても関わり合いにならない方が良い感じがするのだが、頭に血が上っている若い男はそこまで気が回らないらしい。
  しかし、一方の銀色タイツの男はそんないきりたった若い男の態度などまるで目に入っていないかのように,、どこからかメモ帳のようなものを取り出すと片手に銃のような物を握ったまま器用にページをめくりはじめた。
「うむ、やはり私のメモにあるUCの情報と現在のこの状況とではあまりにも話が食い違いすぎているな。もしもこのような事例が発生したとなると、UCの定義そのものが根本から崩れ、消滅してしまう。今まさにこの場所でタイムパラドックスが起ころうとしているのは間違いのない所だな。いったい誰が仕組んだことまでかは分からんが……」
「タイムパラドックス? 何訳わかんないこと言ってるんだおっさん?」
「おっさんではない。私の名はフォスターだ」
「んなことどうでもいいんだよ! なめてんのかおっさん!」
  そんな今にも飛びかからん勢いの若い男を前に、フォスターの表情がわずかに曇る。
「まずいな。事件の鍵となっている者がこの調子では確実にタイムパラドックスが発生してしまう。犯人もよく考えたものだ」
「だから何言ってるんだよ!?」
「だがしかし、この場所に『修正』の権限を持つ私が現れることまでは想定していなかったようだな。ということでさっそく発射」
  フォスターがそう言い終えるのと同時に彼の手の中にあった光線銃のような物体の先端から怪しげな極彩色の光が迸る。
「!!」
  ビビビという昔の漫画の効果音めいた音を発しながら進む光の束は、突然の事態に思わす棒立ちになった若い男にいともたやすく命中した。
「うっ!?」
  たちまち極彩色の光に全身を包まれる若い男。その光の中で男の姿がみるみる変貌していく。
  男性としては平均的な体格だった男の体が一回り小さくなる。腰周りが細くなりくびれのようなものが現れると、それに反比例するかのように胸と臀部が張り出してくる。鋭かった男の顔立ちが柔らかくなり、後ろ髪が背中にかかるくらいまで伸びていく。それに合わせるようにして髪の色も人工的に染めあげられた茶色から美しい光沢を放つ自然な黒へと変化していった。男が身につけていたシャツは清楚な白いブラウスとなり、ジーンズの2本の筒が1つに繋がると膝上の高さまでせり上がってベージュ色をした柔らかそうな生地のスカートへとその姿を変える。裾の下から現れた足は白いハイソックスに包まれ、いつの間にか履いていたローファーとともに素朴さと可憐さを演出する。
  やがて光が収まったとき、そこに立っていたのはいかにも純真無垢といった感じの一人のおしとやかそうな美少女だった。
「あっ……私、どうなって……」
  その場に棒立ちになったまま半ば惚けたような表情でつぶやいた少女は、次の瞬間、まるで自分が発した声と言葉に驚いたかのように目を大きく見開くと、両手を口に当てて頬を真っ赤に染め上げる。その仕草に満足そうな表情で頷くフォスター。
「うむ、これならばタイムパラドックスは発生しないだろう。犯人め、UCが恋をする対象を定義と異なる物にねじ曲げることによってタイムパラドックスを引き起こそうとしたのだろうが、ターゲットをその定義通りに『修正』してしまえば何の問題も起こらない。うむ、我ながら完璧すぎる発想だ」
「え……あの……」
「ああ、心配することはない。お前がその姿で生きていけるように既にお前に関係する人間にはお前が元々今のような存在だったというように記憶を改変してある。本来ならばお前の記憶も同じように改変してしまうところなのだが、そこはサービスだ。今の姿で生きてきたという記憶と一緒に『修正前の記憶』も全て残しておいてやったぞ。タイムパラドックスを引き起こす可能性があるから人格の方は変えさせてもらったがな」
「え、そんな……」
「なに、感謝には及ばない。これでお前も何の問題もなくUCの愛を受け止められるはずだ。私もお前とUCがうまくいくことを遠くから祈っているぞ。では、さらばだ」
「あっ、ちょっと待って……!?」
  その場から立ち去ろうとするフォスターを慌てて呼び止めようとする少女。だが、その体を掴もうと手を伸ばしたところで、フォスターの身につけた銀色の全身タイツが目もくらまんばかりの閃光を放つ。
  反射的に目を閉じた少女が恐る恐るまぶたを開けたときには、既にフォスターの姿はゲームセンターのどこにも存在しなかった。





  ふう、今回の事件は中々手が込んでいたな。本来清楚な処女にしか恋をしないはずのUCを操り粗暴な男相手に恋をさせ、その事実を根拠にUCの存在定義を改変しようと企むとは、誰だかは知らんが実に恐ろしい犯罪者だ。しかし、どんなに犯罪者が巧妙な計画を練ろうとも、この私がいる限り時空犯罪は必ず食い止めてみせる! 歴史を守るため、私は今日も戦い続けるのだ!
  ……しかし今回の事件、私が直前に西暦2010年の映像アーカイブの中にあった作品を見ていなければ正直食い止めることができなかっただろうな。「機○戦士ガ○ダムUC」……あの作品がなければさすがの私でも「UC」が「ユニコーン」の略字だとは決して気付かなかっただろう。昔の映像というのも中々役に立つものだ。もしかしたらあの作品には他にも何か重要な情報が秘められてるかもしれん。よし、本部に戻ったら早速続きを……もとい、情報収集を再開するとしよう!



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