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ツいてる
作:高居空
よし、絶対良いの引いたるぜ……!
人もまばらな深夜のゲームセンター。昭和感漂う店内の一角に置かれたとあるゲームのセンターターミナルの前で、俺は人目がないことを幸いに、フンと鼻息荒く気合いを入れていた。
手にはコンビニを回りに回ってようやく手に入れたスナック菓子が二つ。
クレーンゲームの景品としてそうした物を置いてあるアミューズメントパークならともかく、昔ながらのゲームセンターでこうした菓子を手にした客は、いささか場違いかもしれない。が、今の俺にはこの菓子こそが重要だった。いや、正確にはこの菓子の袋に付いてるシリアルコードが、だが。
今、アニメやゲーム業界では、作品やゲームの内容とはまったく関係のなさそうな他のゲームタイトルや異業種とのコラボ企画が流行っている。そして、俺が普段からやり込んでいるこのゲームでも、ついにスナック菓子とのコラボ企画が開催されることとなったのだ。期間限定でコンビニチェーンに並ぶコラボ菓子の袋に付けられたシリアルコード、それをゲームセンター内にあるセンターターミナルという通信対戦ゲームの筐体を統括管理する役割を持った端末に入力すると、ゲーム内で使える様々な豪華限定アイテムがゲットできるのだ。
その中には、本当にツイてる人しか手に入れられないシークレットな景品もあるとのことで、元々こうした期間限定アイテムに弱い俺は、コラボ初日に勇んでコンビニへと足を運んだのだった。
が、現実は甘くなかった。
こうしたゲームの中だけでなく現実の商品ともリンクしたコラボ企画の場合、重要となるなのが互いの知名度だ。
販売店側の視点で考えてみれば分かるが、一般人の多くにも知られているような大ヒットアニメやゲームなんかと、普段から店に定番商品として売られているような菓子とのコラボだったら、売り上げはかなり期待ができるだろう。だが、コラボする菓子は定番商品でも、アニメやゲームのタイトルが聞いたこともないものなら、売り上げのプラスはさほどでもないに違いない。むしろ、パッケージに描かれたアニメやゲームの絵柄を見た一般客が敬遠して売り上げが落ちることも考えられる。また、アニメ等のタイトルは有名でも、コラボした菓子メーカーが普段店舗と取引のないところの場合、発注の手間が増える事は想像に難くない。
そうした点で見ると、俺のやりこんでいるゲームは、シリーズとして歴史もありゲームセンターに通うような面々ならば触ったことはなくても一度は聞いたことがあるであろうタイトルだが、同人誌即売会でいくつも島ができるような人気アニメや数百万ダウンロードを達成したようなスマホゲームに比べれば、一般的な知名度はかなり低い。そして、コラボした菓子メーカーも、奇抜な商品を作り続ける社風からマニアからは一定の支持を受けているものの、コンビニで定番商品として置かれているかというとほとんどの店舗で見かけないような菓子を作っているメーカーだった。
そんな二つがコラボをしたらどうなるか。
つまり、ゲームのホームページでは“全国のコンビニチェーンで販売!”と大々的に謳っているものの、実際にはほとんどの店舗が無視または様子見で、取り扱いがないという事態に陥るわけだ。
もちろん、販売をしてくれている奇特な店舗もあるにはあるが、ネットで情報がすぐに拡散しまくるのがこのご時世。販売されてるという情報が流れれば、コアなファンが一気に押し寄せては大人買い、結果すぐに品切れとなってしまう。
そんなわけで、一日中コンビニをハシゴし続けた結果、何とか手に入れられたのが、今手元にある二つというわけだ。
だが、今さらそのことをどうこういっても仕方がない。今、俺がしなければならないことは一つだけ。そう、一射必中の気迫をもって、コンソールにシリアルコードを打ち込むことだ!
さあ、まずは一発目!
俺はセンターターミナルに備え付けられたテンキーに、これでもかというくらいバチバチと音を立てながらシリアルコードを叩き込んでいく。
てい!
声とともに最後の文字を打ち終わると、センターターミナルがピロリンと音を立て、付属のモニターに大きく“景品獲得!”の文字が浮かび上がった。
さあ、なにをゲットできた……?
やがて文字が消えると、モニターにはこのゲームのナビゲーター役を務めるキャラクターが驚愕の表情とともに現れる。
“おおっと! スゴいスゴい、ツいてます! シークレット景品〜、ゲットです!”
おおっ!? いきなりシークレット引き当てたか!
ナビキャラのその台詞に、“うしっ”とその場でグッと拳を握る俺。その間にモニターには、シークレット景品の景品名が映し出されていた。
えーっと、なになに? “元がどんなのでもたちまち美人に早変わり! シークレットスペシャルスキン!” ……? ああ、つまり、このスキンをあてるとゲーム内のどんな不細工なキャラでも美形にグラフィックが修正されるってやつだな、きっと。確かにそれは面白そうだ。さっそく試してみるか。いや、その前に、この流れのまま残りのひとつを入力しとくべきか……。
いきなりシークレット景品という大本命をゲットしたことでテンションのあがった俺は、すぐにゲームで景品を確認するか、それとももう一つの菓子についたシリアルコードを続けて入力するか一瞬迷ったが、この良い流れを自ら切ることはないと、残りの一つも入力することとする。まあ、シークレット景品はゲットできたわけだし、あとは限定衣装あたりでも当たってくれれば……。
“おおっと! スゴいスゴい、ツいてます! シークレット景品〜、ゲットです!”
って、マジか!? 買った奴が二つともシークレットとか、どれだけツいてるんだ、今日の俺!
まさかの展開にさらにテンションが跳ね上がる俺の前で、景品名がモニターに表示される。
なになに、“どんな服でも隠せない! シークレットだけどシークレットじゃない超絶巨乳!”
……? なんだこりゃ?
その内容に思わず目が点になる俺。
……つまりこれは、ゲームの女キャラのグラフィックがみんな巨乳になるっていうやつか? まあ、無いより有ったほうが目の保養になるっていうのは一般論として正しいが、そもそもこのゲームに出てくる女キャラ、全員元から巨乳じゃないか。それがさらにデカくなるってことか?
…………まあいいや、ともかく実際にゲームで確かめてみよう。
そう思い、センターターミナルからゲームの筐体へと移動しようとしたときだった。
ぶるん!
俺の視線の端で何かが揺れるとともに、胸の辺りに感じたことのない振動が伝わってくる。
うん?
その違和感に不随意に胸へと視線を向ける俺。
そこには、まるで漫画やアニメの巨乳キャラのような、現実にはありえないくらいの大きさをもった乳房としかいいようのない形をした二つの膨らみがどでんと鎮座していた。
な、なななななっ!?
そのありえない映像に思考が一瞬で吹っ飛ぶ俺。そんな俺を現実へと引き戻そうとするかのように、センターターミナルからナビキャラの声が流れてくる。
“シークレット景品の当選者への適用を確認”
なに? まさかこれって、あの景品の効果……!? おいお前、こいつはお前の仕業なのか!?
現実にはありえるはずのない事態を前にして、返事が返ってくるはずはないと分かっていながらも、センターターミナルのモニターに映し出されたナビキャラへと噛みつく俺。
“ええ、そうです。これはシークレット景品を引き当てたツいてるプレイヤーの皆さんへの私からのプレゼントです”
が、まるで双方向のテレビ電話かなにかのように、ナビキャラは俺の問いに対し返事を返してきた。
なっ!? お、おい、どうなってるんだこれ!?
“どうもこうも、私は運営に命じられたままに行動しているだけのただのナビゲーションキャラクターです。ツいてる皆さんには、ゲーム内だけでなく現実にも反映されるスペシャルなシークレット景品を差し上げるように、と”
い、いや、さっぱり訳わからん! どうしてこんなことができるんだよ!
“はあ、面倒くさい方ですね。いっそツいてない方がよかったですか?”
ああそうだな。こんな訳分からん目に遭うんだったら、ツいてない方がよっぽどマシだ!
“分かりました。それでは『ツいてない』ということで、さっそく取っちゃいましょう”
ナビがそう声を発すると同時に、ムズリと股間に違和感が走る。
え…‥っ
その感触に思わず一瞬視線を下げた俺だったが、大きすぎる胸が邪魔をして、そこで何が起こったのかを確認することができない。
仕方なく視線を上へと戻したときには、ナビキャラはセンターターミナルのモニターから姿を消していた。
代わりにモニターには、監視カメラの映像のように斜め上から撮影されたゲームセンター内の様子が映し出されている。その中心に映る、戸惑ったような表情を浮かべた巨乳美人は…………。
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