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ヒーロー誕生!? リザレクション
〜運命・宿命・ジャジャジャジャーン〜
作:高居空


「おお〜っ、待っとったぞ脇田君! 何だかずいぶん放置プレイだった気がするのう」
「まったく、新年早々何言ってるんっすかオーナー。昨年も大晦日までバイトしてたの忘れたっすか? ……まさか、記憶にないとかいってバイト代をちょろまかそうなんて考えてないっすよねえ。とと、その前にとりあえず、明けましておめでとうございます」
「うむ、あけおめじゃ。しっかし、やっぱり何だか久しぶりって気がするんじゃが……。何かこう……2年ぶりくらい?」
「ちょっとオーナー、さすがにそれはないっしょ。最近、ろくに発明もせずにスマホゲームばっかりやってたから頭にガタがきてるんじゃないっすか?」
  新年早々、初詣の帰り道にいつものごとくバイト先の廃工場内にある研究室へと足を伸ばした俺。そんな俺を出迎えたのは、これまたいつものごとくよれよれの白衣を着たオーナーだった。
  もっとも、オーナーは最近、18禁ゲームから始まって圧倒的人気を背にアニメ化や映画化までされた某伝奇系作品の最新作であるスマホゲームにどっぷりとはまっていて、生活リズムまで全てゲーム第一となってしまっている。ただでさえ浮世離れしてたところにゲーム廃人特有のオーラが加わり、今のオーナーの姿はある意味一種の仙人のようにも見えた。まあ、元から不老不死っぽかったので、実はホントに仙人なのかもしれないが。
「まったく失敬じゃな、脇田君。確かにワシがゲームにはまっとるのは事実じゃが、ワシがライフワークである発明までおろそかにしとると思っとったのか? ちゃんと色々インスピレーションを得て、新たな発明品を完成させておるわい!」
「となると、今やってるゲーム的にやっぱり発明品は宝具ですか? それとも意表をついて聖杯そのものとか?」
「いや、それはそれ、これはこれじゃ。脇田君に試してもらう発明品といえば……もちろんこれしかあるまい!!」
  そう言ってオーナーが懐から取り出したのは、何だか中途半端にくすんだ半透明の色をした長方形の箱のようなものだった。箱の片側にはオレンジ色をしたレバーのような物がついており、中央には目の形をした意匠が施されている。この悪く言えば安上がりな子供のオモチャのような機械は……
「こ、こいつは…………まさか『ゴースト』!?」
  そう、それは毎度毎度の仮面のバイク乗りが登場する特撮番組シリーズのうちの一つ、“ゴースト”の主人公が変身するために用いる変身アイテムだった。
「うむ、そのとおりじゃ! やはりワシの発明といったらこれ。何だかんだでこれまで待ってくれている人の期待を裏切るわけにはいかんじゃろうて!」
「いや、待ってくれてる人って、一体自分以外に誰がいるんすか……?」
  まるで目に見えない誰かに見せつけるようなオーナーの言動に少し不安を覚えながらも、その発明品を受け取る俺。
  オーナーの発明、それはアニメや特撮番組に登場する様々な架空のアイテムを実際に作り上げたものだった。その発明品は外見はもちろんのこと、作中での様々なSF的な機能さえも再現されている。ただ、実際にはそれらの機能は何かしらの解釈の違いやら改造やらで、原作どおりの効果とならないことがほとんどなのだが…………。ひょっとしたらそれが“投影した贋作”の限界というやつなのかもしれない。
「で、こいつにはめ込む“アイコン”はどこにあるんすか?」
  受け取った発明品をいつものごとくベルトのバックルの上にセットし、固定されたことを確認した俺はオーナーに尋ねる。
  原作である平成に入ってからのバイク乗りシリーズでは結構ある事なのだが、主人公達は昭和の時と違い、ベルト単体では変身ができないことが多い。変身するにはベルトの他に、もう一つアイテムが必要なのだ。そして、今回の発明の元になったシリーズで主人公が変身に用いるのが、“アイコン”という目玉の形をしたアイテムだった。その目玉をベルトの眼の意匠の中心にはめ込むことで、主人公はヒーローへと変身できるのだ。
「うむ、アイコンならもちろん用意してあるぞい。しかも、そのベルトは最初から自分の魂ではなく偉人達の魂が宿ったアイコンで変身可能なように調整済みじゃ!」
「……? 珍しいっすね、オーナー。いきなり最初から原作の設定を逸脱するなんて」
  そのオーナーらしからぬ今回の調整に首を傾げる俺。発明品に色々と困った改良を施すオーナーだが、基本的に変身シークエンスは原作をそのまま踏襲するというのがこだわりだったはずだ。そして、このベルトが出てくる作品では、主人公は最初に自分の魂を具現化したアイコンで変身を行うことになっている。オーナーの言っている偉人の魂の宿ったアイコンでの変身は、最初のベーシックな変身体から各種強化形態への変身に用いる物だ。その最初の工程をすっとばすというのは、さすがに何らかの意図が感じられるところだが……。
「いや、しょうがないじゃろ。脇田君の魂のアイコンを作るとなると、当然脇田君の肉体から魂を抜き出さなければならんからのう。もちろん、原作のように脇田君がこの発明のために死んでくれるというんじゃったら話は別じゃがのう」
「いや、さすがにそれは俺も願い下げっすけれどもね……」
  正論といえば正論のようにも聞こえるオーナーの説明。オーナーの言うとおり、原作の主人公は既に死亡した霊体であり、その副産物的な感じで自身の魂をアイコンとして使用することができる。それをそのまま再現するとなると、俺もオーナーに文字通り魂を差し出さなければならなくなるだろう。
  だが、オーナーとのつきあいが長い俺は、オーナーの意図がそれだけではないことに気が付いていた。オーナーの説明は、言うなれば“嘘は言っていないが全てを語っているわけでもない”というやつだ。おそらくは何らかの裏があるか、説明自体をミスリードさせようとしてるんだろう。
  なぜろくずっぽ発明の知識のない俺にそんなことが分かるのかと言えば、それはやはり繰り返しになるがオーナーとのつきあいの長さということになるのだろう。
  オーナーにはこの手のレトリックを使う際に必ず行う無意識の癖がある。それは、普段は白衣のポケットに突っ込んでいることが多い手の片方を、そういった説明をする際には必ず腰に添えるというものだ。そして、今のオーナーもまたしっかりと手を腰に添えている。つまりはその説明をそのまま額面通りに鵜呑みにはできないってことだ。
  そんなことを俺が考えているとはつゆ知らず、オーナーは片手を腰に添えたままやれやれとばかりに嘆息する。
「それに正直なところ、ワシはこの作品のベルト自体があんまり好きではなくてのう。子供なんかはこういうもんが喋ると喜ぶのかもしれんが、いくら何でも今回のやつは喋りすぎうるさすぎじゃろ。だもんで、今回のワシの発明は音声が出ないようにもしてあるからの」
  音声が出ない……? だが俺は。オーナーのその改造にぴんとひらめく物があった。
「なるほど、つまり変身前に何の偉人のアイコンがセットされているのかを音声で流れないようにしたってことっすね。確かに原作のままの設定じゃ、変身前にオチがわかっちゃいますもんねえ? 例えば、“女性の偉人”のアイコンを使っていることとか」
「うん? いや、別にそういう意図で改造した訳じゃないんじゃぞ、脇田君?」
「本当に?」
「むっ………、まあ、それはそれということで…………」
「で?」
「……………………」
「……………………」
  まあ、そんなことだろうとは予想はついていた。オーナーの発明した仮面のバイク乗りのベルトには、決まって原作にはないある一つの機能が付いている。それは、ベルトの使用者……つまりはバイトで被検体をやっている俺の体を変身すると同時に女にしてしまうというものだった。ただ、オーナーはあくまでその機能について、それを搭載した何かしらの理由を付けてくる。“女の子にしたいから女の子にした”と素直に言わないところがまあ、オーナーのこだわりなんだろう。
  で、今回のベルトには、おそらくは女性の偉人のアイコンを用いて変身すると女に変身するいうギミックが仕込まれていると見た。原作では基本的に偉人のアイコンを使うと着ているパーカーの色が変わり、装飾が一部変化して武装が追加されるといった感じなのだが、オーナーのことだ、「より偉人の力を発揮するために、偉人の姿そのものに変身できるようにしたのじゃ!」とかいって女の姿になるように改造してあるに違いない!
  ちなみに、原作では偉人のアイコンをベルトにセットし使用するステップの中で、ベルトが音声でそのアイコンに宿った偉人の名を発するようになっている。変身前にオチが分かるというのはつまりはそういうことだ。
「で、実際にオーナー、どんな偉人のアイコンを用意してあるんすか?」
「む、それはじゃな……」
「まさか言えないなんて事はないっすよね? 音声が流れないっていうんじゃ、なおさら確認しておきたいところですし」
「ぬう、今回の脇田君は何かやさしくないのう……」
  愚痴りながらも作業机の上にあったアタッシュケースをこちらへと持ってくるオーナー。そこには目玉の意匠を施された球体がいくつか並んでいた。
「まずはじゃな、脇田君から見て左上のほうにあるのがジャンヌ・ダルク。それから右へ順番にキュリー夫人にナイチンゲール、エリザベス一世にクレオパトラ、下段にいってグレース・ケリーに巴御前、西太后に日野冨子といったところじゃの」
「やっぱり女の偉人ばっかりじゃないっすか! というか、最後の2人ってそもそも偉人なんっすか?」
「いや、原作じゃツタンカーメンだって偉人扱いなんじゃから、権力者周りはみんな偉人っていうことで良いんじゃないかの?」
「いや、それはそうっすけど……。まあともかく、今回の実験、女の偉人のアイコンは使わないっすからね」
  俺はオーナーにびしっとそう言い放つ。どうもこのところ誤解されているようだが、俺は決して自ら進んで女になりたいと思っているわけじゃない。普段から女装趣味なんてこれっぽっちもないし、とにかく好きでそんなことをやっているわけじゃないのだ。まあ、女の子にされてお仕置きとばかりにオーナーをバイク乗りパワーで吹っ飛ばすのは好きなんじゃないかと問われれば、まあそれはそれなんだが。
「う〜む、しかたないのう。じゃが、男の偉人のアイコンとなると、実はそんなに用意してなくてのう……」
  そんなことを口にしながらも、オーナーはポケットの中からまるで俺の言葉を予期していたかのように、すぐに一つのアイコンを引っ張り出す。
「これは?」
「うむ、これは間違いなく男の偉人、それも世界的に有名な偉人の魂の宿ったアイコンじゃ! 女の偉人のアイコンが嫌じゃというのなら、このアイコンで変身するんじゃ、脇田君!」
「……男の偉人というだけで、名前は言わないんすね」
「うむ、そこは大人の事情ということで察して欲しいところじゃ」
「ま、いいっすけど……」
  ……つまりはこいつが今回のオチの鍵ってことか。オーナーの口っぷりからして、男の偉人ってところに何かしらの意味があるんだろう。はてさて、どんなことが待っているやら……。
  そんなことを考えながらも、俺はオーナーからアイコンを受け取ると、横にあるボタンを押し機能を作動させる。
  そのまま半開きになったベルトの格納部分にアイコンをセットすると、ベルト脇のレバーを操作して稼働状態とし、俺はお決まりの台詞を口にする。
「変身!」
  簡単に印を結ぶようなポーズをとり……本来はその前後にかなり複雑な動きをするのだが、そこら辺は省略して……ベルトの力を解き放つ俺。
  一瞬、力の奔流を感じるとともに目の前が光に包まれると、俺の体は別の姿へと変化していた。
「……………………」
  上半身を覆う銀色の鎧。どこか神聖さを感じさせる輝きを放つその鎧は、だが、その胸の部分がなだらかに盛り上がっていた。そして下半身にはあきらかにスカートと分かる青い布地が見て取れる。
「な、なんと…………!」
  そんな俺の前で、明らかにオーバーリアクションと分かる動きで驚きを表現するオーナー。
「ま、まさか、伝説の騎士王と名高いあの“アーサー王”が、女の子だったとはー!!」
  ……なるほど、今回はそういうオチか。
  全てを理解した俺は、いつの間にか手に握られていた金色の輝きを放つ剣をベルトの前にかざす。ベルトを操作すると、その中央の瞳部分からエネルギーが剣の柄の中央へと注ぎ込まれていく。
「うん? どうしたんじゃ、脇田君? そんな、“大開眼”みたいなモーションをして?」
  そんな俺の動きに不思議そうな顔をするオーナー。“大開眼”というのは、原作でのバイク乗りの必殺技で、強力な技の発動にはエネルギーチャージが必要となる。早い話が今やっている動きだ。
「いや、そりゃ分からないっすよね、あの“アーサー王”がホントは女の子だったなんて思いもよらないですし。ただまあ、どっかのゲームシリーズが好きな人の間じゃ、そんなのは常識だって噂も聞いたことがあるっすけどね。というか、そもそも女の子だっただけじゃなくて初代ヒロインだったんじゃなかったでしたっけ?」
「む、むむ? 何で知っとるんじゃ脇田君? 確かあれは18禁ゲームだから、発売当時脇田君の年齢では買えないはずなんじゃが……」
「いや、その後リメイクで全年齢版が発売されてるの知らないっすか? というか、そもそもオーナーがはまっているそのゲームの派生作であるスマホゲームにもそのキャラ出てるじゃないっすか。大体にしてショートカットアイコンだってそのキャラですし」
「あ、あれ? ……ひょっとしてワシ、選択肢間違えた? ということは、問答無用でデッドエンド直行?」
「まあ、そういうことで♪」
  額に汗をたらりと垂らすオーナーに向かい、にっこり笑ってヒロインよろしく可愛らしい声で告げた俺は……実際には元となったヒロインはこんな小悪魔めいた口調は使わないのだが……エネルギーが充填された光の聖剣を大上段に構える。
「それじゃあ行くっすよ! ダイカイガン! オメガ! カリバー!!」
  裂帛の気合いとともに振り下ろした剣先から放たれた光の奔流がオーナーに襲いかかる!
「こ、これでまた虎道場送りぃぃぃぃ……」
  謎の言葉を残して遠くに吹っ飛んでいくオーナーを見送りながら、俺はふうと一つため息をつく。
  さて、これにて一件落着と。それにしても今回のオチのあのシリーズ、いつもと逆の“あの伝説の美女がこんなむさいオッサンだったなんてー!”という展開はいつ来るんすかねえ……。


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