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あなた
作:高居空
あら、あなた、どうしたの? このバーの営業は夜からよ。
ああ、雨宿り。そういうことならお入りなさいな。開店には早いけど、私がお相手してあげる。
大丈夫、私が好きでやることだから、お代はいただかないわ。
はい、まずは一杯。“レッドアイ”よ。
ふふ、良い赤色でしょ。ビールとトマトジュースを使ったカクテル。でも、この一杯はノンアルコールビールで作ってあるから、アルコールの心配はしなくて良いわ。
どう、美味しいでしょ、うちのカクテルは?
ふふっ、可愛いわね、あなた。アルコールが入ってないっていうのに目をとろんとさせちゃって。雰囲気に酔ったのかしら。それともお疲れなのかしら?
休みたいのならその扉から奥の部屋に行くと良いわ。ベッドもあるから、横になれるわよ。
そう、そこまでじゃないのね。なら、私と少しお話ししましょうか。ふふっ、ちょっとした言葉遊びをね。
ねえ、あなた。“あなた”って言葉、面白いと思わない?
読みは“あなた”1つだけなのに、充てる漢字は3つもある。“貴に方”、“貴に男”、“貴に女”。
ね、私があなたのことを呼ぶ“あなた”って、漢字はどれを使ってると思う?
ふふっ、残念。答えは、“貴に女”よ。
あら、何もおかしくはないわ。だってほら、貴女の着ているレッドアイにも負けない赤いドレスの胸元から覗いている谷間、それは男の人には絶対にないものでしょ?
ほら、そのネイルの入った細い指で大きな二つの胸を触ってごらんなさい。触られているという感覚が伝わってくるでしょ? それって作り物じゃないことの、なによりの証拠よね?
あらあら、顔を真っ赤にさせちゃって、可愛いわ、貴女。でも、そろそろ酔いもだいぶまわってきた頃ね。さっ、奥の部屋までエスコートしてあげるから、ベッドでお休みなさい。
ふふっ、大丈夫。防音はしっかりしてるから、お店に声が響くなんてことはないわ。好きなようにお休みなさいな。それとも一人じゃ眠れないかしら? もしそうなら、私が貴女のお相手をしてあげてもよろしくてよ?
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