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AI診断
作:高居空


  へえ、今はこういうサービスもあるんだ。
  眼鏡を新調しようと思い、眼鏡屋のネットサイトを覗いた俺は、そこで面白そうな機能をみつけた。
  なんでも、スマホで上半身を自撮りした写真をサイトに送信すると、AIがその人に似合う眼鏡を診断し、商品を紹介してくれるらしい。それも、送信した写真に商品を合成した画像でプレゼンしてくれるとのことだ。
  なるほど、レンズの度の関係もあるから結局店舗には行かなきゃだけど、ここで事前に眼鏡のフレームを決めていけば、店舗でサンプルを前にあれこれ悩まなくていいし、なにより面白そうだ。
  さっそく俺は、スマホで自撮りした画像を、サイトへと送信してみる。
  数十秒後、画面には、お薦めの眼鏡ブランド名とともに、AIにより合成された眼鏡をかけた俺の写真が表示された。
  …………似合ってるか、これ?
  その画像を前に、むうと声をあげる俺。
  いや、形だけでいえば、似合ってないかといえば、そういうわけでもない。それとなく知的に見えて、かつ近寄りがたさを感じさせないデザイン。まるで、俺の心の中が分かっているかのように、AIは俺の希望ドンピシャの商品をチョイスしてきた。それはいい。いいんだが…………何でフレームの色が赤なんだ?
  赤は確かにファッショナブルな色だ。しかし、男が身に付ける色としては少々ハードルが高くもある。使いこなすなら相応のファッションセンスが必要だろう。ネクタイなんかならいいかもしれないが、眼鏡のフレームはさすがに……。それに、そもそも俺の顔には赤は似合わないと思う。実際、表示された画像も違和感ありありだもんな。
  これは、さすがに無しだな……。
  一人肩をすくませた俺は、ページから移動しようとしたところで、画像の下に小さく“再診断(イメージに合うように調整)”のボタンがあることに気が付いた。
  なんだ、こんな機能もあるんじゃないか。
  なんとなく写真の送り損のような気分にもなっていた俺は、さっそくそのボタンをタッチしてみる。
  数十秒後、再びスマホに表示される画像。
  ……なんか変わったか、これ? いや、確かに違和感は減ったけど……。
  表示された眼鏡は、前回のそれと同じ物のように見えた。もちろん、フレームの色も赤のままだ。だが、さっきよりもそれが浮いていないようにも感じる。どこか分からないが、細かいところが調整されているんだろうか。
  だがまだ、俺の望むような眼鏡じゃないな。
  再び俺は再診断のボタンをタッチした……。



  よし、これならOK!
  やり直すこと数十回。スマホの画面には、ようやく納得いくデザインかつ違和感のない眼鏡をかけた自分の画像が表示された。
  うん、このそれとなく知的な大人に見えて、だけどとげとげしくない感じが良いんだよ。それにこのフレームの色味、思い描いていた新しい自分のイメージにぴったりだ。
  そこに表示されたブランド名ごとページを保存すると、さっそく店舗で注文すべくスマホをハンドバッグに放り込む。
  そう、眼鏡を新調しようとした理由、それはイメチェンのためだった。今の眼鏡はフレームも含めてとにかく地味、さらに童顔が際立つときてる。そのせいか、周囲からは年齢よりも年下に見られがちだったのだ。
  でも、それもこれで終わり。イメチェンしたら、もう“子供っぽかったから気付かなかったけど、結構スタイル良かったんだ”とか言わせないんだから! …………ってあれ? それっていつ誰に言われたんだっけ?
  なにか引っかかるものを感じながらも、あたしはひとつコツンと頭を叩くと、パンプスを履いて外に出る。
  まっ、いっか。ともかくあたしは新しい眼鏡が欲しいのだ。待っててね、あたしの可愛い真っ赤なフレームの眼鏡ちゃん♪



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