帰 省

ぼくは夜行列車の下りに乗っていた。

特急の指定席に乗りたかったが余裕がなかった。明日の朝までの時間は永い。向い合わせの座席に4人、師走の遅い時期だから列車は込んでいる。向かいの人とは互いの足を交差させないとしんどい。向かいの女性は、ぼくの足組みに合わせて位置を変えてくれる。ハニーワインを、2,3杯飲んだだけでほろ酔いになるのが、その夜はビールで少し酔っていたかも。ぽつり、ぽつりと話をして、九州のどこかに帰ると言っていた。若い女性の一人旅・・就職していて正月だから帰省かなぁ、それとも、ぼくと同じ学生かなぁ、その辺りは聞かなかった。輪郭のとれた唇がかわいい、丸みのある白い頬が熟す前の桃みたいでおいしそう

 ぼくはビールの酔いもあって饒舌だったかもー。主に自分の事をぽつり、ぽつり話した。大学のことやら寮のこと、アルバイトのことなど話したかもー。田舎のことなども話したかもー。丸いきれいな目で見られて、なんだかとても話が楽しかった。

 後から思えばその女性のことはほとんど聞いていなかった、聞くのが怖かったのかもー。親からの仕送りを飲んでしまい、アルバイトをして電車賃を工面しての帰省。働いているのだったら、ぼくの様な学生は軽蔑されるに違いない。思えばぼくはひどい学生だ。米や野菜の農業でぼくに仕送りしてくれている。東京と田舎では物価が違うー。ボロを着て野良仕事をしている親父が浮かぶ。女の人を好きになってはいけないのだ。気の遠くなるほどぼくの独り立ちは遥か先なのだ。どのぐらい話したか、眠くなってしまった。単調な線路の音は気持ちいい。・・・どのくらい眠ったか、お尻が痛いかなにかで目を覚ます。その女性は紅みのかかった頬をして、少し眠そうな目だけどまっすぐにぼくを見てー、足の位置を替えてくれる。さっきか膝と膝、そして股の当たりまでがくっ付いたままみたいだったー    (つづく)

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