回転レシーブ
○回転レシーブ
中野会長は、少しおっちょこちょいなところがある。
おまけにちょっと変態チックなところもある。
しかし、人にはそれを悟られたがらない。ひた隠しにして生きている。
釣りに行けば、必ず1回は何かにつまづく。
それは、日中まだまだ日差しが強い初秋のとある日、野波瀬イカダでの出来事で
あった。
「ゴトゴトゴットーン」
釣りをしていた私と永田名人の後ろで、もの凄い音がした。
何かと思って振り返ると、水くみバケツを抱えた中野会長がまさに回転していた。
そして、柔道の受け身よろしく、「バタン」とイカダに手をつき、
華麗に一回転して起きあがった。
そして、何事もなかったかのようにバケツを抱え、また歩き始めた。
私と永田名人が、「どうした?何があった?」と訪ねるも、
「別に・・・」と答え、そのままその場を流そうとしている。
どうやら水くみバケツの長いひもに足がからまり、つまづいたようであるが、
そのことが恥ずかしかったようで、悟られたくなかったようである。
別に隠す必要はないと思うのだが、会長がそうやって隠そうとするのであれば、
我々にはそれをイジる義務がある。我々特捜部は、一瞬の隙を見逃さない。
一通りイジったあと、最後はその回転の華麗さをさんざんほめまくる。
要は、飴とムチである。
ほめられおだてられ、ご満悦の会長からこぼれた一言がこれである。
「回転レシーブみたいでかっこ良かったじゃろ?」