バッカン丸洗い

○バッカン丸洗い
ある夏の日に、野波瀬の筏にあがったときのことである。
その日の中野会長のバッカンには・・・        うじがわいていた。

というのも、前回の釣行であまった団子を、次回も使おうと、真夏の日差しのもと、
ふたを開けて天日干ししていたのであるが、まぁ、当然というか、ハエにとっては、
悪臭をはなつサナギやら、ちょうど良い湿り気やらで、絶好の卵の産み付け場所
なわけだ。

皆さんは、「肥え溜」といったものをご存知であろうか。
最近ではこのあたりの田舎でも、とんと見かけなくなったが、要は汲み取り式の
トイレから汲んできた人間のそれを、「肥やし」として撒くために、一時的に保管
しておく大きなたるの様なものである。

それは、夏の日差しのもとで、ほのかなかほりを放ち、猛烈に存在感をアピール
するのであるが、彼のバッカンからは、そんな懐かしい匂いがした。 

天日干しで数日間寝かせたサナギ入り団子は、ある意味兵器。
で、おおかたの予想通り、バッカンには大量のうじが。

釣行前日、何気にバッカンの様子を見た会長の目に飛び込んできたものは、
うねうねと動く、 数え切れない白い物体。

速攻で庭に撒き捨てたわけだが、そしたら今度は、いつ近所から苦情が出ても
おかしくないほど、そこいら一体が悪臭に包まれた。
当然だけど。

「やばいっ、これじゃいかん」と考えた会長は、スコップでそこら中のくさった団子を
再びバッカンにつめ、その日の釣行に持ってきた。 海という名の自然
へ帰すために。

で、釣り場でそれを撒き餌として撒いた後、今度はこれでもかってくらいに
バッカンを洗い始めたわけだ。

彼がバッカンを洗い始めて、1時間くらいたっただろうか。
「まだ釣りを始めないの?」との私の問いに、まだまだバッカン汚いから。
と洗い続ける中野会長。

ここに何をしに来たのかと、半ばあきれ気味に、

「そんならバッカンにヒモつけて、
水汲みバケツのような感じで、海の中で丸洗いすれば?」と冗談で言ったら、
予想に反して、「それ、グッドアイデアやね!」である。

大のおとななら、大きなバッカンに水が入ったら、結構な重さになり、
持ち上げるのも一苦労と気づくであろうと思うのだが、
さすがは会長である。

ヒモをつけ、おもむろにバッカンを海に放り投げる。
どうするのやらと、しばし釣りを止め行動を観察することにする。

「うじの馬鹿やろー、くそー、とかちきしょー」とかなんとか言いながら、バッカンを
ざぶざぶやっている。

ようやく満足したのか、いよいよバッカンの引き上げの時!
「ん?んん〜っ?」とか言いながら、水の入ったバッカンと必死になにやら
格闘しているが、重たいバッカンはなかなかあがってこない。
当然やけど。

どうするのかと、引き続きウォッチングを続ける私。
おもむろに後ろを振り返り、私に対して、

「たこ、助けて!バッカンが重くて持ちあがらん」の一言。

当然である。普通はそれを行動に移す前に気づくはずである。
が、そこはさすがの我らが会長である。