10月25日  大時化


10月25日(土)、本日は名誉顧問のカクちゃんと二人、2週間前のリベンジにと、蓋井島へと乗り込んだ。
天気予報、一応晴れにはなっているものの、北西の風が吹いてきそう。
それでも午前中は風速も1、2m程度なので問題ないかなと思っていたのであるが・・・

午前4時の出港を待っている間も、確かに荒れそうな兆候はあった。
本日、午前中は穏やかとの予報は外れ、北西からの風が結構な強さで吹いている。

なんとなく嫌な予感であるが、カクちゃん曰く、実際に蓋井島まで行ってみないと、どんな状況かはわからない
とのことで、荷物を積み込み乗船。 空いていれば必ず座る、いつもの最後尾の角席へと腰を下ろした。

私はこの場所が好きだ。 高校時代にはいつも教室の窓側、最後部の席に座りぼんやりと外ばかり
眺めていて、時にはチョークが飛んできた。  そんなハイスクールララバイだった。


案の定、港を出ると外海は荒れていた。  予想以上に。
船は大きく縦に揺れる、上下運動を繰り返す。

程なく大好きなこの後ろの席の位置取りが、今日に限っては大失敗だったことに気付く。
後で考えたらそりゃそうなのだが、この角の席、荒波の中を掻き分け進む船の波飛沫を、一番被る席なのだ。
お気に入りの後部座席、今日は飛んでくるのはチョークではなく、大量の水飛沫。 
ずぶ濡れになりながら、縦揺れに耐える。

時に船上、あまりの縦揺れでフリーフォールのような無重力状態になり、油断してると後ろに
フッ飛ばされそうになる。
私は角席のため横に手すりがついているが、隣に座ってるカクちゃんは船の動きを予測しながら、
必死で縦揺れに耐えている。

私「カクちゃん・・・、  怖くなったら、いつでも俺に抱きついてきて良いから。」

じっと私の目を見つめるカクちゃん。  最悪、それで私まで巻き添えで海に落ちても、後悔はしない。

私「カクちゃん、大丈夫。 もしもこのまま二人で海に投げ出されて波間を彷徨ったとしても・・・
 俺のウェアとカクちゃんのフローティングベストをコンビネーションして、二人抱きしめあったまま
 発見されよう・・・。」

カクちゃんが、黙って頷く。  二人に、新たな絆が芽生えた瞬間だった。


そんな青春真っ只中の二人を乗せ、船は荒波の中を一路蓋井島へ。

まず船が到着した場所は、響灘にポツンと浮かぶ小さな島、「水島」
クロだけでなく青物も狙えちゃったりする一級磯のこの島であるが、様子を伺うためのサーチライトが
照らし出す先の水島は・・・

はい。めっちゃ高いとこまで強烈な波が押し寄せてます。
凄いです。驚愕です。初めての光景です。恐ろしいです。
もちろん誰も下ろさずに、船は進路を蓋井島本島へ。


風が強く波が高い為、いつもより時間をかけて蓋井島周辺に到着。
そして北周りの一級磯、威勢をサーチライトが照らしますが、こちらもえらいことになってます。
北風をもろに喰らって、すごく高いところまで波が這い上がっております。 
危険です。 北周り、めっちゃ危険です。

船長が、外へ出てこられる。

船長「この辺に下りたい人いる?」


はい。 もちろん誰も手を上げません。 当然です。 めっちゃ危険ですから。
昔の私らだったら、「少々大丈夫やろ!」って、手を上げていたかもしれません。
で、襲い来る高波に恐れおののきながら、釣りどころではなかったはずです。

でも私、色々と学習しました。海の事、知れば知るほど思います。 海は怖いんだなって。
海が荒れているこんな時に、事故は起こり易いんだって。

そして、丁度私らみたいな磯釣りが楽しくなり始めてきたばかりの、危険な目に遭った事の無い磯初心者が、
こんなシチュエーションの中で一番海難事故に遭い易いんだって。
蓋井島で起こる海難事故の多くが、時化た日の北周りだそうです。

だからみんなは手をあげません。 私も手をあげません。  まだ死にたくないから。

そして、船はゆっくりと、南へ向かいます。
途中で2週間前に上がった小威勢を見てみました。
朝日をバックに釣りをしている写真を撮ったあの場所の上を、ザッブンザッブンと強烈な波が襲っています。
危険が危ない香りがぷんぷんです。

で、こんな時化た日はどの磯に上がったら良いのか皆目見当もつかない私ですが、
今日は、この島に10年以上も通っている、蓋井島を知り尽くしている男であるカクちゃんがいます。 
カクちゃん先生に、全てをおまかせコースです。

で、先生が長い経験からチョイスした磯は、蓋井島最南端の磯、「酒ノ瀬」
むかーしむかしのその昔、神功皇后がこの磯から月を見ながらお酒を飲んだことからこの名前がついた
んだそうです。

風裏で、少々の時化なら問題なく釣りができるこの磯にも、今日は本島を回りこんでくる強い風と、高い波が
押し寄せています。 
午前五時過ぎ、真っ暗な中、上礁。

仕掛けに電気浮きをセットし、第一投。 
こんな荒れた天気の中、辺りが見えないうちはのんびりと適当にやります。
最初の私の釣り座は南向き。 目の前の小さな磯、「先ノ瀬」を前方に見ながらの釣り。

足元は浅瀬で、凄い勢いで波が押し寄せてきているので、20m以上投げての釣り。
真っ暗で海面が見えない中、適当に撒き餌をドカドカ撒いて電気浮きと感覚だけを頼りに釣り。
嬉しいことに、今日は2週間前と違いツケ餌がなくなります。

何投かした後、電気浮きの赤い光が揺ら揺ら〜っと海中に消えていきました。
来ました! 手の平弱の木っ端グロです。 釣れました。魚が釣れました。
今日はこの釣り座、魚がいました!

北西の風をモロに正面に受けて、立ってるのもやっとな中で釣りをしているカクちゃんに報告すると、
既に彼はこの悪条件の中で、早くも数匹のクロをキープしています。 さすがです。

しかしカクちゃん、頭の上からシャワーの如く降り注いでくる波しぶきによって、全身ずぶ濡れ。
そんなひどい状態ながらも満面の笑顔で、「今、何か凄いのバラした。たこちゃんもこっちに来てみ!」と
私を誘うカクちゃん。 
このひどい状況の中での満面の笑み、やっぱりこの人相当な釣りキチだわとか思う。


で、「あっちに釣り座変えたら、間違いなく頭から波しぶきを被るんだろうなぁ・・・」とか思いながらも、
辺りも大分明るくなってきたので、促されるままにカクちゃんの横へと入らせてもらう。

案の定、岩にぶつりかり、「ゴッボーン」という凄い音を発して目の前で砕け散った波飛沫が、真上から
降り注いでくる。 私も速攻で全身ずぶ濡れ。
今日の満潮は午前8時なので、潮が引き出すまでは暫くの辛抱・・・。


そんな中でも先生、今日の様に風が強い時には大き目の浮きを使った方が良いとか、
道糸はどう置くとか、色々と教えてくれる。 
撒き餌の打ち方も、とかく私らみたいな初心者が沖を釣る場合、沖にもドカドカと撒き餌を撒きがち
なのであるが、とにかく餌盗りを沖に出さないよう、注意を払わないといけないのだそう。
更には、万が一餌取りが沖に出てしまった後の対処法も、惜しげもなく教えてくれます。


そして、狭い釣り座を観音釣り(複数の釣人が足場を移動しながら仕掛けを流してゆく釣り方)で、
何気に私の田吾杓を使ったカクちゃんが言う。

カクちゃん「たこちゃん、田吾杓、なんかめっちゃええやん。本当にブッ飛ぶやん。 
       全体的なバランスも良いし、売ったら絶対売れるわ。 これ。」

どうやら、カクちゃん先生にも田吾杓の良さが伝わった模様。

私「だしょ?だしょ? いいっしょ? ブッ飛ぶっしょ?
  ただねー、売るには色々と問題があって、勝手に色んなメーカーのパーツをそれぞれ分解して
  くっつけただけだから、さすがに売ったらまずいと思うんよね。」
 
いや、でも待て待て。 全ての部品に適当にカラースプレー吹き付けて、どこのメーカーのものか
身元をわからなくしてやれば・・・。

 
よし。 ってことで、早速カクちゃんには売ってあげよう。  1本10万円で。
更には、永田テスターに続き、新鋭釣具メーカー 「田吾作」 ブランド、第2号のフィールドテスターの称号も
授けたいと思う。大きな字で [田吾作 ふぃ〜るどてすた〜] と書かれたワッペンを自腹で作ってベストに
貼り付けて、色んな意味で注目を浴びて欲しいと思う。

そんなわけで、磯釣り歴十数年を誇るベテランアングラーのカクちゃんにまで認められた田吾杓、
これからは世界に向けてはばたいていきたい。


そしてまた、私の浮きが海中に消しこんだ。
合わせると、「ズッシーン」という重量感が手元に。

「クロならデカい!」とか思いながらのやり取りの末、姿を見せたのは40cmを超えようかという立派な馬ヅラハギ!

私「カクちゃん、ヅラじゃ、ヅラ。めちゃめちゃデカいヅラが来た!」

でも、これはある意味40cmの尾長よりも嬉しい外道。

強烈な引きを見せながらも、ジワリジワリと寄ってくる。
そして打ち寄せる波にヅラを乗せ、タモを入れようとしたその時だった。

一瞬手元が狂ってタモ入れ失敗。  引いていく波に乗ってヅラが海へと。


そして、引いていく波が磯際を潜る時に一緒に馬ヅラまでもを飲み込み、ハリスが瀬に擦れて切れてしまう。

私の大事な馬ヅラが、痛恨の瀬ズレで再び海へと・・・


私「カ、カクちゃん 大変じゃ・・・   

 俺のヅラが・・・  俺のヅラが・・・    ズレた・・・

 俺の大事なヅラが・・・  俺の大事なヅラが・・・       ズレた・・・          


 エイドリアーン!」

その後、悲しいかな流れていった私のヅラが、再び手元に戻ってくることは無かった・・・。


しかし、今日はなかなか楽しい。
2週間前とは違い、適当にクロやバリまで釣れて来る。
クロならデカい!とか思いながら、バリの黄色い姿が見えたときにはちょっとがっくり来るんだけど、
それはそれで楽しい。

そして12時15分の納竿間際、今日一の30cm弱のクロが釣れた。
全然自慢できるサイズではないが、食ったら美味そうやしとりあえず満足。

で、そのクロをすぐに絞めてキープしている間、仕掛けが磯際のカキ柄に引っかかる。
強引に仕掛けを引っ張ると、とりあえず針はついて帰ってきたが、ハリスはザラザラ。
おまけに、いつできたのかわからない、結び目のコブまでもが2つも出来ていた。

でも、交換したらめんどくさいし、もうすぐ道具を片付ける時間なので、気にせず続行。
てきとーに、足元狙ったり沖を狙ったりして、そろそろ最後の一投かなぁと思っていた12時20分、
浮きが勢い良く海中に消えて行った。


合わせるといつものバリより、朝の馬ヅラよりもよりも強く引く、今日一の引き。

私「ぬぉっ、カクちゃん、今度はデカい。これだけ強く引くのは、多分バリと思うけど。
 おおっと、引く引く! クロならデカい。でも多分バリ。」

心の隅ではクロなら良いなぁと思いながらも、そんなデカいクロなんか釣れる訳ねぇし、と、
ネガティブシンキングの中で糸を巻くと、チラッと見えたのはやっぱり黄色い魚体。

私「ちぇっ、やっぱりバリだよ・・・
  カクちゃ〜ん、やっぱりまたバリやったわ。」
  
さて、刺されたら危ないんで仕掛けもこのまま切って、撤収準備でもしますかね。

ってな感じで強引なやり取りして仕掛けを切ろうと思っていた私の後ろでカクちゃんが叫ぶ。

カクちゃん「タコちゃん・・・、 それ、バリじゃないわ。 青物じゃ。 カンパチ? ヒラゴ? いや、ヤズじゃ!
       ヤズじゃヤズ!」


「 んっ?   な、 なんですと?」


黄色い魚体の強く引く魚と言えば、私のお魚図鑑の中にはバリしか無かったので、今回もどうせバリかと思って、
めっちゃ適当にやり取りするとこやった。 あぶねーあぶねー。

しかしハリスは1,5号。
しかも、こんな時に限ってハリスはザラザラやし、おまけにコブが2つもついている。

しかし、普通こんな状況でハリス変える人はいるのだろうか。惰性であと一投か二投しかしないってのに、
わざわざハリス変える奴は絶対おらんよなぁ。 いや、でも居るのか?  いやいや、居ないっしょ・・・。 
俺、間違ってないよな?

そんな自問自答をしながら自分の怠慢さを正当化しても、とりあえず目の前のヤズは寄って来ない。

ゆっくりと慎重にやりとりする。
意味無く腰を落としたり、竿を横に寝せたりしている今の私、傍から見たらさぞかしかっこいい磯釣り師に
見えると思う。

そしてハラハラドキドキの闘いの末、遂に獲物がカクちゃんの差し出すタモに納まった。
初めて経験する青物の強烈な引きと、釣り上げた感動。
気分はもう、ヘミングウェイだった。 「老人と海」の老人だった。

釣り上げた魚を見、渾身のガッツポーズ!  久しぶりの、本気のガッツポーズ!

人は、人生という名の長い旅路の中で、一体どれだけガッツポーズをする事があるだろう・・・。
ただ無邪気に純粋に、本気で喜べる瞬間が一体どれだけあるだろう・・・。


もし、今どこかで人生に迷い、またどこかで良からぬ事を考えてる奴がいたら、私は一言こう言ってやりたい。

「とりあえず、蓋井島に来い!」 と。


そして美しい黄金色の魚体を見ながら思う。

「父さん、遂にやりました。ブリの子です。
 ブリッ子です。
 ブリブリブリッ子の聖子ちゃんです。
 聖子ちゃんが釣れました。」


そして私、やばいです。、磯にハマりました。 完全に磯にハマっちゃいました。
かくして釣り人は磯に魅せられ大金をつぎ込み、自らの身を滅ぼしていくんだろうなぁとつくづく痛感。
とりあえずまぁ、そうならないようぼちぼち頑張ります。


回収後の船の中では、みんな私らと同じ様にウェアが潮吹いて全身真っ白。
きっと皆さんも同じように、頭の上から降り注ぐ波しぶきを浴びながら釣りをされたんだろーなー。
とりあえず大時化の中、皆さんお疲れ様でした。







真ん中が、本日上がった磯、酒ノ瀬。

酒好きな私にぴったりの磯だ。
引きました。
むっちゃ引きました。
ザラザラのハリス、よくぞがんばってくれました。

紹介します。
ブリのブリッ子、聖子ちゃんです。
本日の釣果です。

一番上が、聖子ちゃんです。
最後、ブーツの裏のソールが剥がれた・・・。





こんな状態の海でした。
正面の岩は先ノ瀬と言う小さな磯ですが、穏やかな日には良く釣れるみたいです。
けれど今日は思いっきり波被ってます。
風の音がうるさいんで、ボリュームは注意してください。






カクちゃんを後から盗撮です。
強い風と高い波を読みながら、仕掛けや撒き餌を投入しております。
時折飛沫が上がってきますが、ピークはこんなもんじゃなかったです。
頭の上から降り注いでました。全身ずぶ濡れです。 でも釣りって面白いですね。