10月13日  死兆星



「天高く、馬肥ゆる秋」という言葉もあるように、秋といえば人間にとっても馬にとっても食欲が旺盛に
なる季節。それはもちろん魚にとっても同じであり、気温や水温が下がり過ごしやすくなるこの時期は、
魚にとっても一年で一番活気付く季節である。

灼熱地獄の夏磯を離れ、それぞれ川や湖や波止へ散在していた釣り師達が、一斉に磯に帰ってくる
時期。

秋の蓋井島といえばチヌやクロはもちろんのこと、真鯛や青物なども入れ混じり、
それはもうウハウハのお祭り騒ぎになるようである。

で、そんなお祭り騒ぎを是が非でも体感すべく、10月13日(月)体育の日、会長に永田、名誉顧問の
カクちゃんに私の4人で、6月以来およそ4ケ月振りに蓋井島へやってきた。

午前4時、期待に胸膨らませ出港。
永田とカクちゃんは船室の中へと入り仮眠、真っ暗な夜の海が好きな私は、会長と共に船の
最後尾の椅子へ腰を下ろす。
見上げれば、空は透き通るように高く、星達は散りばめられた宝石のごとく潸然と輝きを放っている。

日々の喧騒や雑踏から解放され、ただ純粋に星が綺麗だと思える時間。
お金では買うことの出来ない最高の時である。 隣が胡散臭い会長でなければもっと最高なんだが。

そんなことを思いながらボーっとしてると、キョロキョロと北の空に北斗七星を見つけた会長が言う。


会長「タコ、 俺、死兆星が見えるわ・・・」

会長、昔流行ったアニメの如く、何か北斗七星の隅っこに小さな星を発見した模様。 
いわばこの星は、不吉の前兆。
この星が見える人間には、良くない事が起こると言われている。


私「そ、そうか・・・。 あんたには死兆星が見えるか。 とりあえずまぁ、元気出せや。」


そしてその後、仮眠を取る予定で船内に乗り込んだはずの永田、釣りが楽しみで寝るに寝られず、
のそのそと船内から起き出し、同じく空を見、会長に向けてこう呟く。


永田「たいじ、 俺、死兆星が見えるわ・・・」 と。


どうやら、 幸薄い会長に引き続き、永田名人にまで死兆星が見えている模様。 



そして、そんな永田の言葉を聞いた、会長と永田のやり取り。

会長「マジで? 実は俺も見えるんよ。死兆星。 ちなみに永田の死兆星は赤い?」

永田「いや、俺のは赤くない。」

会長「そうか。ええのー。俺のはまっ赤っ赤じゃ・・・。 今にも落ちてきそうじゃ・・・。」


君達、まるで小学生やなとか思っているうちに、エンジン音がスローになり船が目的地である蓋井島
近辺に到着。

毎度毎度のことであるが、このエンジン音がスローになる瞬間がたまらない。

「さぁ、目的地に到着! 今日も一日がんばるでー!」みたいな。

それは他の方々皆さんも同じのようで、にわかに船上が慌しくなる。


そして船長が操舵室から出てこられ、皆に上がる磯の確認を取られる。
当初は、4人で上がれる広い磯を希望していた我々であるが、船長の「小威勢も空いてるよ!」の
言葉に、私は、反射的に言葉を発していた。

「あっ、私、小威勢にお願いします!」 と。

実はこの小威勢、6月21日に一人で上がった際、推定300kg超えの本マグロ(勝手な思い込みだから、
そんな訳ないだろ!って本気の突っ込みはノーサンキューでお願いします。)に2.5号の太ハリスを
ブチ切られた場所。ここで遭ったが百年目、あの時のあのマグロにリベンジしてやろうとの想いから
だった。

そして、「俺も小威勢にあがってみたい!」との会長と2人で今日は小威勢へ。
そして永田とカクちゃんが「かけあがり」という磯へと、本日は2人ずつに別れての釣りとなった。

午前5時過ぎ、裏側の威勢に続き2番目の渡礁。
最近調子が上向いていると情報に、期待に胸躍らせて釣りを開始したわけであるが・・・

何故か開始から2時間たっても魚が釣れない。
足元に撒く撒き餌に、餌取りの反応すらない。

こんな時は、とにかく棚を深くだな!と、重い仕掛けで棚を思いっきり深くし、浮きごと沈めて
「あわよくば真鯛釣法」を、繰り出すが、痛恨の根掛かりにて得意の道糸高切れ。
沈めていた高価なシマノの浮きは、浮いてくること無く痛恨のロスト。
しかも相当流していた為にスプールから道糸が・・・  
真鯛狙いとか、訳のわからんことするんじゃなかった・・・。
換えスプールを取り出し、仕掛けを作り直す。  
日が昇り、ちらほらと餌取りの姿は確認できるが、しかし釣れない。


事態を重く見た会長も、
「これ、今日は相当やばくね?」と話しかけてくる。

とりあえず、「かけあがり」に上がっているカクちゃんに状況を確認。
聞けばどうやら向こうも状況はあまり芳しくないようで、バリしか釣れてないようである。

こちとら、バリどころか魚1匹釣れてない訳で、バリの強烈な引きを味わえているだけでも
うらやましいと思ったりするわけだが、あきらめずに頑張りたいと思う。

釣れてないときは「自分の持ってる知識の引き出し開けて、色々とやってみるといいよ!」と
釣りの上手いカクちゃんが言っていたので、私は会長のロッドケースからエギングロッドを
取り出し、とりあえずシャクってみる(色々の意味を履き違えてるとも言う)。

会長も会長で自分の知識の引き出し開けて、デカい竿にデカいカゴをセットし、カゴを
ぶん投げ始めた。どうやら狙いを青物に変えた模様。

そして、会長のカゴにセットされた15号の棒浮きが海面に沈む!

一瞬会長と二人で 「おおーっ!」 と興奮するも、上がってきたのはなんか頭に角のある、
小さいカラフルな魚。
毒があったらいけないので即リリース。
結局会長は時間掛けて作った重いカゴ仕掛けを、餌をカゴに詰めるのが面倒くさいとの
理由で即終了。

私も今一シャクリがよくわからないので、エギ終了。

時刻は午前10時。納竿の13時まで残り3時間。
さぁ、いよいよやばくなってきた。

最後の手段でハリスを0.8号に落とし、かろうじてベラ1匹を釣り上げる。
しかし、結局今日の釣りで私の浮きが海中に消えたのは、合わせをスカッた1回と、
このベラの計2回である。

秋の蓋井島に意気揚々と乗り込んできて、良い磯にも上げてもらった。
期待に胸躍らせ、色んな魚を釣ってやろうと目論んでいた私の釣果は、驚く無かれ、
なんとベラが1匹に終わった。

他には何も釣れておらず、ベラが1匹だ。 これはもう、ある意味奇跡ではないかと思う。
餌取りが海面を覆いつくす、どんな魚も活性が高いこの時期の磯釣りで、小っちゃいベラが
僅かに一匹のみ。逆に、狙ってもなかなか出来る芸当じゃないと思う。

ちなみに会長の釣果であるが、私よりはまだマシでベラが2匹とカゴで釣った名前の
わからないカラフルな黄色い魚が1匹。 
私には及ばないものの、こちらもなかなかの好釣果となった。

これが冬なら話はわかる。生命反応の感じられない冷たい海での話ならわかる。
しかし今は秋。どこの海でも餌取りが我先にと餌をついばみ、海面を覆いつくす季節。
にも関わらずこの激貧果である。これは一体、どういう見解であろうか。

あ、そういえば朝会長が、死兆星がどうとか言ってたな。  あの死兆星は、この釣果の
前触れだったか・・・。


そんな中、唯一の私の見せ場はといえば、
「あっ、なんか海面に流れてきた赤い浮き発見!」と沖を指差す会長の言葉を信じ、
あれでもさっき紛失した浮きかもしれないとパラソルを投げて回収してみれば、
それはさっき紛失した浮きどころか、単なるマヨネーズのフタだったことくらい。 
でも少しだけドキドキできた。



そして回収の船を待ちながら、会長と二人、緊急会議。

会長「なんか、こんなはずじゃぁ無かったのにのー・・・」

私「ほんとやったら、入れ食いのクロに青物や真鯛なんかも混じって、狂喜乱舞のはず
  やったのにのー。」

会長「30cmクロは入れ食いで、どうやってこの中から40cmを超える良型を
   出すんかのー?って相談するはずやったのに。」

私「俺達、釣り、ヘタクソじゃのー・・・。 ひょっとしたら俺達、釣りに向いてないかも
  しれんのー。」

会長「ほんとじゃ。毎度毎度高い金かけて餌ばら撒いて、俺達もう、もう釣りなんて
    やめたほうがええかもしれんのー・・・」

私「たいじよ〜、 なんか、俺にも死兆星が見えてきたわ・・・」


回収後、カクちゃん永田のかけあがりをはじめ、他の磯での釣果も色々と聞いてみれば、
他の磯でも結果はあまり芳しくなかった模様。

そっか。それなら良かった。悪いのは腕じゃなかった。

ってことで、懲りずにまた来ます。



朝一、「今日はどんな一日になるのだろう・・・」と期待に
胸膨らませていたのだが、大した一日にはならなかった。

いや、釣果はベラ1匹と、むしろ酷い一日になってしまった。
会長が、カゴで釣り上げた、カラフルな魚。
なんか大きなアンテナが立ってるし、
下手すりゃ毒がありそうだし、これはなんて名前の
魚なんだろう・・・。
左の小さな島が、本日の釣り座。
小威勢
永田とカクちゃんが上がった名礁「かけあがり」
いやぁ、良い崖っぷりだ。

蓋井島に慣れっこの上級者カクちゃんにとっては
なんともないようであるが、磯初心者である永田はと言えば・・・、
きっと、崖の上のポニョの気分が味わえたと思う。

朝永田が見た死兆星は、この崖を意味していたんだろうな。

心中お察しする。
魅惑の神の島、蓋井島。
釣り人にとっても魅力一杯の島。

ちっきしょー、覚えてやがれ!



磯を這い上がってくる波
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