「俺、船に乗り込んだ時からなんか今日は床が滑るなぁって思ってたんやけど、
 よく見たら、スパイクブーツのスパイクが大量に抜け落ちてるわ・・・」

6月28日土曜日午前3時過ぎ、小雨降る、蓋井島に向かう渡船の上で永田名人
が話しかけてきた。

見ると、安売りセールで買った某釣り具店のスパイクが、所々ブーツの底から
抜け落ちている。

私「あはは。安物買いの銭失いっちゅー奴やね。
  まぁ、最悪裸足で釣りをすれば良いだけやから大丈夫じゃない?
  牡蠣殻踏んで、血だらけになって釣りしたら良いじゃん!」


そんな永田の磯ブーツを大笑いしながら上がった本日の磯は、泉水鼻と
呼ばれる場所。
今日も名誉顧問のカクちゃんと会長、永田と私で乗り込んできた。

前日金曜日の昼までは、28日土曜日の天気はくもりの予報であったのだが、
夜になって予報は一変、土曜日丸一日雨へと変わった。

会長「また雨男のタコのせいで雨が降った。」

私「今は梅雨の時期やし、雨は仕方ないんじゃない?」

永田「いや、先週もタコが釣りに行ったら曇りの予報が急に雨に変わったって
   言ってたし、今週もそうじゃん。俺もタコは間違いなく雨男だと思うよ。」

なんか、朝っぱらから嫌なレッテルを貼ってくれる二人。
まぁええやん。みんなカッパを持参してるし、釣りをやってりゃそのうち雨も
あがるでしょ!


ってことで、まだまだ周囲が真っ暗な中で、ヘッドランプを頼りに仕掛けを
作ってると、朝一番に壊れたスパイクブーツで笑いを誘ってくれた永田の
釣り座から 「ヴィーン ヴィーン」  と奇妙な音が聞こえてきた。

何かと思って見てみると、彼が先週購入したという、自慢の針結び器の音だった。

前にも一度書いたことがあるのだが、実は彼、釣りを始めてかれこれ何年にも
なろうかっていうのに未だに針が結べない。

永田のタックルボックスを開けると、まず目に飛び込んでくるのが、所狭しと
大量に並べられているハリス付の針の山。

「非経済的な上に、市販品だと針の大きさやハリスの太さが変えられなくて
 不便だし、自分で結ぶことによって攻めのバリエーションが広がるんで、
 簡単だから挑戦してみたら?」

ってゆー、私や会長のアドバイスを
「俺、細かい作業が好きじゃないから!」と、頑なに拒み続けてきた永田名人、
魚に針を飲み込まれて糸が切れる度に、わざわざ仕掛けをハリスごと交換、
時には図々しく、私や会長に 「ちょっと結んで!」とお願いに来ていた訳で
あるが、ようやくそれが面倒くさいことに気付いたのであろう。
針を飲まれる度にハリスごと仕掛けを変えないといけないジレンマに耐えきれず、
遂に彼が導き出した答えが、針結び器。

私や会長のアドバイスも頑なに拒み続け、自分で針を結ぼうとしない永田名人が
本日遂に、針結び器持参で蓋井島へ乗り込んできた。


しかし、「細かい作業が好きじゃないから!」と言っていた永田名人にとっては、
針結び器を使って針を結ぶこと自体が細かい作業だったようで、
わざわざ針結び器を使って針を結んだにも関わらず、残念ながら失敗した模様。
やっぱり今日も会長に針を結んでもらっている。

んで、会長が簡単そうに針を結ぶのを見て、何故か今日に限って自分で
トライしてみようと思った彼は、見よう見まねで挑戦してみたそうな。
そしたら、意外や意外、思ってたよりもずっと簡単に結べたご様子。

永田「あれっ?結べた・・・。 針結ぶのって、こんなに簡単だったの?
   こんなに簡単なら、何でもっと早くに教えてくれんかった訳?」

と、何故か逆切れ。

私「い、いやいや、何年も前からずーっと言っとりますがな・・・。  
  何年も前からずーっと。」

で、たまたま側を通りかかった会長に、

永田「あ、たいじ、ええ所におった。新品の針結び器、2000円で
   売っちゃろーか?」 

と、必要の無くなった針結び器を、無理矢理売りつけようとする永田と、
あっさり無視して通り過ぎていく会長。

振り向き様に目の合った私を見て、「そんならタコが買わん?」と、今度は私に
振ってきたので、「絶対買わん!」と丁重にお断りさせて頂いた。


で、遂に自分で針を結ぶといった革命的な成長を遂げた永田は、本日
響灘のバリを相手に大興奮。

永田「おーっと、またバリじゃ! バリだけにバリ引く! バリバリだぜぃ!」

と、ナイスなジョークで私の失笑を誘ってくれる。

彼は本日、瀬戸内のボラ釣り名人から、響灘のバリ釣り名人へとレベルアップを
果たした。本当におめでとう!


そしてまた、永田が得意のバリを掛けた。

がっちりタモで取り込んだ後、クルッとUターンした彼の持つタモの柄の尻が、
隣の磯際で釣りをしていた私の背中にポンと当たる。

まるでドリフのコントのように、あわや海へと転落しかける私。

「あわわ」とか言いながら、小学生のように手をぐるんぐるんと回しながら、何とか
磯際で踏ん張りきった。

私「お、おいおいコラコラ永田君、 君、何てことするんだ?」

永田「あれっ? そんな所におったん? いやぁ、ごめんごめん。 
   悪気は少ししかなかったから許して!」

私「わ、悪気は少ししかって・・・、それならまぁ、許すわ。 以後は気をつけて。」

危うく大惨事につながる所だったが、永田もまぁ本気で悪気があった訳では
ないようなので、許してやることにする。


その後、朝から降り続いていた雨が9時過ぎに一度あがったので、ベトベトで
気持ちの悪いカッパを脱ぐ私。

丁度全部脱ぎ終えた途端に、抜群のタイミングで再び降り始める雨。
しかもなんかさっきよりも強く降ってるし。
脱いだばかりのカッパを早速着直す。


そんな私の行動の一部始終を見ていた永田が話しかけてくる。

永田「ほら、雨男のタコがカッパ脱いだり変なことするけー、雷様が怒ってまた
    雨を降らせたじゃろうがい。頼むけーそこでおとなしくして動かんといて。
    雨雲は、タコの動きに合わせて雨を降らすシステムになってるんだから。」

うーむ。なんだかとっても失礼な人だ。

私「するってーとあれですかい?仮に俺が干からびた砂漠地帯に行ったら、
  急に潤いの雨が降って、干からびた大地に緑が戻るとでも言うんですかい?」

永田「ぶっちゃけ、戻ると思う。  ねぇたいじ?」

会長「俺も、戻ると思う・・・。
   タコの前世は多分、弥生時代にやぐらの上とかで亀の甲羅に絵を描いて、
   雨を降らすお祈りとかをする人なんじゃないかな?」

永田「うん。タコはねー、地球の環境を保護する、国連の団体か何かに入った
   方がいいと思うよ。」

私「そ、そうかな?」



で、その後も、惰性で仕掛けを海に投入しながら隣にいる永田と、

「ねぇねぇ、ヌーブラヤッホーってどの辺がおもしろいん?」とか、
「フランチェンって、どこで笑えばええか分かる?」などのたわいもない話をして
ダラダラと時間を過ごす。

依然雨脚が弱まる気配はなく、魚が釣れる気配もない。
雨はとうにカッパに染み渡り、先程からなんか段々寒くなってきてるんですけど。
「寝るんじゃない、寝たら死ぬるど!」とか言ってサバイバルしている我々を
尻目に、時折カクちゃんが竿を曲げ、良型のクロをタモに収めているのは
多分気のせいだと思う。
しかも、取り込むことは出来なかったものの、ヒラマサっ子のマサ子ちゃんまで
フッキングさせ、我々を熱くさせてくれた。

そんな釣りの上手いカクちゃんとは対照的に、本日私の最大の見せ場と言えば、
撤収間際に岩場を歩いていたら、岩と岩の間に磯ブーツが挟まって抜けなく
なってしまったことくらい。

完璧なまでに岩の間に挟まったブーツは、まさに芸術。
どれだけ足に力を入れて抜こうとしても、びくともしないのだ。

必死で近くに居た永田に助けを求めるが、
「ええやん。ずっとそのままそこに居たら、一生釣りして暮らせるよ。」  
などと意地悪なことを言ってくる。

一瞬、それもありかもな。とも思うが、やっぱりそれは困るので、どうしたものかと
知恵を振り絞って考えたら、単純な話、ブーツを脱いだら良いだけだと気付く。  
俺って天才!

早速その場でブーツを脱ぎ、両手で引っ張って救出を試みるが、
ミラクルなまでにすっぽりと岩に挟まってしまっているブーツはなかなか
取れない。四苦八苦をしている私を見て、再び永田が口を開く。

永田「今さぁ、私達がここに来たって証しに世界遺産に名前を書いた大学生
   とかがテレビで問題になってるけどさぁ、タコもブーツをそのままにして
   帰れば、俺たちが蓋井島に来たって証しになるんじゃない?
   で、そのまま片足裸足でさぁ、牡蠣殻踏んで血だらけになって帰ったら、
   さぞかし面白いんじゃない?」

なんか、どっかで聞いた事のある懐かしいセリフが、そのまま返ってきた・・・。

意地悪な永田は無視してその後もグリグリやってたら、なんとか無事、救出に
成功。あぶねーあぶねー焦りんこ焦りんこ。


いやぁ、今日の釣りは、永田の磯ブーツのピンが大量に抜けた事に始まり、
私の磯ブーツが岩に挟まって終わったって感じだったな。
磯ブーツに始まり、磯ブーツに終わった一日でしたとさ。


え?肝心の釣果?
いやいや、釣果なんて全然問題では無いんです。
4人共、怪我もなく無事に家に帰ることができるだけで幸せなんですわ。
それだけで、最高にハッピーなんですわ。

何かと暗い話題ばかりば目立つ昨今ですが、皆さん、今、幸せですか?




カクちゃんが昔つけていた
蓋井島釣行ノートを借りた。
詳細に色んな釣り座の情報と、
その日の仕掛け、釣果が記されている。
カクちゃん、マメやねー。

でも、おかげで私も今日から
蓋井名人だな。
ピンの抜けまくった永田のブーツ!
永田バリ釣り名人の釣ったバリを
皆で品評会。

カクちゃん「でけーバリじゃ!」

永田「ええじゃろうが?」

会長「いや全然。」
永田がめっちゃデカイおみやげを
釣っていた。
いやぁ、ここも景色が凄いですのぉ〜





6月28日  磯ブーツ