6月21日  蓋井島


6月21日土曜日、蓋井島での磯釣り。
いやぁ、やばいもんにハマっちまった。

波止→地磯→沖磯→米水津→五島列島  

と、釣りにハマッていく人の典型的な道程を辿りつつある私、
今ハマッているのは、まさに荒磯って感じの蓋井島。
まるで来る者を拒んでいるかのような神々しい外観は、まさに蓋井島の別名である神の島と呼ばれるに
ふさわしいものとなっている。

見るだけでも飽きないこの絶景と、どんな大物が釣れるかわからないドキドキ感、私は完全にこの島の
磯に完全に魅せられてしまった。
いや、魅せられたというよりはむしろ、取り憑かれたと言った方が適切かもしれない。

ただひとつ問題なのは、波止と違って釣行費用がバカにならないこと。
安月給のサラリーマンがそんな所に取り憑かれてしまったもんだからさぁ大変、
かくして釣り人は破産の道を辿っていくんだろなと実感する今日この頃である。

とは言え、梅雨真っ只中のこの時期、少々無理してでも蓋井島に通って、まだ見ぬデカバン釣ってやろうと
考えるのが、大物求める磯釣り師の性というもの。

一度行くと決めたら、余程のことがない限りその衝動を抑えられない私は、色んな人に声をかけ蓋井釣行を
誘ってみるが、何故か今日に限ってみんな予定が・・・。
でもまぁ、一人色んな事を試しながら釣りをするのもこれまた風情があって良いかもなと
前日、20日の金曜日に天気予報チェックをすると、週間天気予報ではずっと雨となっていたはずの
21日の天気が、6時〜12時の間、曇り予報で降水確率30%にまで下がっていた。

速攻で船長に、3時便でお願いしますとの連絡を入れ就寝。
ようやく寝付いたかなと思う午前12時半、起床。

眠い目こすりながら外を見ると、悲しいかな雨。
再度天気予報をチェックすると、昨日降水確率30%だった天気予報は終日雨予報の降水確率70%に
戻っていた。

これが陸っぱりの波止や地磯釣行であれば「行くのやーめた」と二度寝することもできるのだが、
もう渡船の予約を入れてしまった後だし、雨が降るといっても1mm、2mm程度の弱雨だし、まぁ、
何とかなるんじゃないかと、行きたい気持ち半分、行きたくない気持ち半分で車を走らせた。

午前2時過ぎ、下関の吉見港へと到着。
小雨がパラついており先週よりも釣り人の数は少なめ。
渡船に荷物を積み込み、午前3時出港。

蓋井島までのおよそ1時間、船内に入り各々くつろいだり仮眠を取ったりする他のお客さん。
私は一人船の後部デッキで椅子に座り、特にすることもなくただボーっと暗い海を見つめる。
海には霧がかかっており、数メートル先すら見えない。
小雨がぱらつく船上、空には当然星一つ無く、漆黒の闇が辺りを支配する。

どこまでも行っても変わらない真っ暗闇、私の後ろで暗い海を切り裂くかのように八の字に広がっていく
波の軌跡と心地よいエンジン音だけが、それでも我々が確実に目的地へと近づきつつあることを教えて
くれている。
私は特にすることもなく、ボーっと暗い海を見ながら色んなことを考える。

家族のこと仕事のこと。
これまでのこと、そして、これからのこと。

もし、今座っているこの椅子から誤って海に落ちてしまったらどうなるだろう。
ライフジャケットは着ているものの、この暗闇の中で私は一体・・・
助けはやって来るのだろうか・・・。
仮に来たとしてもこの暗い海の中で、ぽつんと波に漂う私を果たして発見してもらえるのだろうか・・・。
そんな馬鹿げたことを考える。

真っ暗な夜の中で、揺りかごのように波に揺られ、子守歌のようなエンジン音を聞きながら
普段の生活の中では考えることのないこんな馬鹿げたことを考える時間が私にとってはまた、至福の
時なのである。

そうこうしているうちに船は減速、目的地である蓋井島周辺に到着。

船内で休まれていた方々もデッキに出てこられ、にわかに船上が慌ただしくなる。
船のサーチライトが、靄のかかった磯を不気味に照らし出す。

皆さん、それぞれ船長と釣り座を交渉され、各々の釣り場へと上礁して行かれる。
私は本日、一人でのんびりと色々と試行錯誤しながら釣りをする予定。
特に上がりたい磯も無いので、魚の釣れるお薦めの磯にお願いしますと船長に伝えていた。


船長「小威勢か三角でいい?」

船内、最後の一人となった私に船長が問いかけてこられる。

名誉顧問のカクちゃんから聞いていた情報では、どちらもA級ポイントの一級磯。

私「それじゃ、小威勢でお願いします。」  図々しくも小威勢に上げてもらう私。


かくして私は、先週上がった大威勢のすぐ裏に位置する、小威勢へと上礁した。

蓋井島本島と、先週上がった大威勢の間の水道に位置する独立瀬のここは、面積は10m×5m位と
二人での釣りが精一杯の小さな磯であるが、潮通しも良さそうでかなり良い感じ。
ただ、少し瀬が低いので、少しでも時化るとやばいかもな・・・。
そんなことを思いながら仕掛けを組んだ。

本日の仕掛けは、道糸2号のハリス2,5号からスタート。
竿一本半のタナへ、ガン玉打たずにゆっくり沈めてやるイメージ。

辺りがうっすらと明るくなり始めた頃、運命の第一投。
これだけ毎週のように釣りに行っていても、この最初の一投目というのは何とも言えないものがある。
今日一日、どんなドラマが私を待ち受けているであろうか。

カクちゃんの情報によれば、デカバンと遭遇する確率が高いのは、浮きが見えるか見えないかの
早い時間帯に集中しているようで、まさに今がゴールデンタイム。
撒き餌を打とうと、バッカンをベストポジションに移動させる。

と、ドラマは早速やって来た。
移動中のバッカン、不意に足が杓に当たり、買ったばかりの5250円のシマノのチタン製の杓が
カランカランコロンと海に落ちる。

海に浮くタイプの杓であるのは知っていたが、見ると海面には杓の尻しか浮いていない。
慌ててタモを手に落ちた杓を救おうとするが、沖に出て行く払い出しの潮に乗って、杓はぐんぐんと
沖を目指す。

加えて、仮に杓を磯際に寄せても、当たってくる潮が多少なりウネっており、上手く掬えない。
これまで使っていた杓は、杓全体が海面に浮いており掬うのも容易であったが、この杓は尻しか
浮いていないため、上からタモを被せたら沈んでいくし、下から掬おうにも長い杓の先端は海中の
どこにあるかわからないため、どうタモを入れて良いかわからない。
加えて沖に向かう潮のウネリが、タモで掬おうとする私の行為を尚更困難にさせる。

沖に出て行く杓を手前に寄せ、下から掬おうとして失敗。
そんな動作を30分位繰り返した後、ようやく救出。
薄暗いまずめ時はとっくに過ぎ、辺りはすっかり明るくなっていた。

午前5時30分、高価な杓の救出といった重大任務を終えた丁度その頃、私の身を案じた
名誉顧問のカクちゃんから電話が入る。

カクちゃん「今日はどこに上がってるの?」

私「今日は小威勢! 西の風が予報よりも強いんで今は東向いて釣ってるんだけど、ここは
  どう釣ればいいの?」

カクちゃん「そのまま東向きで良いよ。上げ潮の東流れが小威勢の本命潮だから。
       足下に仕掛けを落として、潮に乗せて流していけばいいよ。」

私「了解。それならまさに今が東流れの本命潮じゃん。このまま引き続きがんばりますわ。」

カクちゃん「それと、小威勢は潮被りやすいから荷物はできるだけまとめておいて、いつでも撤収できる
       ようにしといた方が良いよ。」


確かにここ、釣り座は低い。今日の様に、波が1,5mの穏やかな予報でも、先程から飛沫が飛んで
きている。満潮は10時半。今はまだ5時半。これから益々釣り座が狭くなっていくだろう。

「真冬の海が時化た日に無理矢理この磯に上がろうもんなら、過去最大の体感ショックが訪れ、
 そのままあっちの世界へと旅立ってしまうことにもなりかねんな。」

そんなことを思いながら、体感ショック好きの会長に教えてあげようと思う私であった。
荷物をより高い場所に移し、釣り再会。

しかし、私の身を案じ、こんな早朝から電話をくれるとは、さすがは名誉顧問のカクちゃん、優しいな。


それから1時間、何故か私には全くアタリがなかった。
なかなか釣れねぇなぁと思っていた矢先、スプールのラインが勢いよく走り出す。

オープンベールで合わせを入れ、慌ててベールを戻す。
散々走りまくった末にあがってきた獲物は、35cmの口太だった。
しかし、むっちゃ引いた。35cmの口太でこれだけ引くんだったら、40cmを超える尾長が
かかったら一体・・・

数分後に30cmのクロを追加した後、その時はやってきた。

再びラインが勢いよくスプールから飛び出す!
合わせを入れベールを戻した私であるが、リールを戻した瞬間から、猛烈な力で竿が引っ張られて
いく。気がつけば、あっと言う間に竿と魚が一直線。
一瞬、「やべー!」とは思ったものの、何分私も大人になった。

そこに、これまでの初心者だった頃のぎこちない私はもう居ない。
昨日までの、泣き虫で弱虫だった自分にさよなら。

冷静に今置かれている状況を分析。相手は間違いなくデカバン。
しかし、こちとらハリスは300kg級の本マグロまでを想定した2,5号。
レバーブレーキに指を当て、少し糸を出した後、
「大人をなめんなぁ〜!」と言わんばかりに、強引に竿を起こす。

1,5号の磯竿が根本からひん曲がり、相手がただ者でないことを伺わせる。
両手で竿を持ち、竿の弾力でその強引を受け止めながら、寄せにかかろうかと思ったその瞬間だった。

「ぷつん」 

なんとこの獲物、2,5号の太ハリスをぶっちぎって行きやがった・・・

「ナ、ナンダッタンデスカ? イマノハ・・・」


呆然とする私の心臓はバクバクと8ビートのリズムを刻む。

尾長が針を飲んでいたか、それとも青物?  いやいや、もしかしたら300kgを遥かに超える幻の
本マグロでは? それにしてもデカかった。

雨脚が強くなる中カッパ着て、今の興奮をもう一度とがんばるも、その後の私に竿ごと引ったくって
いくような強烈なアタリが襲ってくる事はなかった。

雨は降るわ、魚は釣れないわで少しだけ帰りたくなってきた頃、会長より電話が入る。
おそらく、電話の向こうで打ち寄せる波の音でも聞いて、私が釣りに行っていることを察知したの
だろう。

会長「うわっ、このおっさんアホじゃ。こんな天気の中で釣りに行っちょるわ。」

開口一番、そんな失礼なことをほざく会長。

私「アホはあんたじゃ。梅雨グロ狙う磯釣り師が、梅雨の雨で釣りを中止しよったら釣れる大物も
  釣れなくなるじゃろーがい!」

会長「そ、そうか。 で、魚は釣れたん?」

私「い、いや・・・」

会長「ほら見てみーや。一人ぼっちで天気の悪い中蓋井島まで行って、そろそろ心が折れて
   帰りたくなってきた頃じゃないんかいの?」

私「ア、アホかっちゃ。勝負はこれからじゃい!」


本心は、先程から少しだけ帰りてーなぁと思ってはいたのであるが、つい先程泣き虫で弱虫だった
これまでの自分とさよならしたばかりの私は、会長に愚痴をこぼすにもこぼせず、冷たい雨に打たれ
ながらただひたすらに惰性で仕掛けを投入する。
そんな私の心の中を見透かすかのように、まったく魚の釣れないまま迎えた13時、無念の撤収。

今日はイマイチの結果となってしまったが、この島が持つポテンシャルみたいなものは感じることが
できたと思うので、ひとまずよしとしておこう。 
そんな強がりを言いながら、蓋井島を後にする私であった。




この低い釣り座が、本日上礁した小威勢。

満潮に向けて、潮は磯際を這い上がってくる。
時化た日の満潮時には、
これまでに経験したことのない体感ショックを
味わうことができるのではないかと思うが、
そんな体感ショックを味わってしまうと、
この世に戻ってこれない可能性も
あるので、注意が必要。
本日上がった小威勢から、
先週上がった大威勢を撮影。
景色を見るだけでも圧巻。
目の前に広がる桃源郷。
35cmのクロ。
残念ながら、本日の見せ場はこいつだけ。