12月15日  山陽小野田ヅラクラブ


週末、大きな寒波が流れ込む山口県地方。

で、そんな厳しい寒さの12月15日、何故か今日も元気に磯に立つ私がいる。

寒気の影響でぐっと気温が下がり、肌を突き刺すような寒さの中、今日も釣り。
自分でもバカなんじゃないかって思う。

何が私をここまで釣りに駆り立てるんだろう。  自分でもわからない・・・。

わからない、わからないんだけどただ、ここに来れば何か答えを見つけられるような気がして・・・。

私は、今日も釣り糸を垂れる。


それと、今日ここに私がやってきたのには、もうひとつの理由があった。
先日の 「shimano 釣りロマンを求めて」の番組の中で、磯釣り師のエド山口さんがこうおっしゃられていた。

「知らない者同志でも、釣り場で1日一緒に過ごせば、その日から親友になれると。」


で、私、先週の釣りで親友が出来た。 名前はなめ猫。
この界隈の釣り場で、釣り師に魚をおねだりをして生計を立てる一匹の猫。
げっそりと痩せ細り薄汚れたその毛並みからは、今までの人生、もとい猫生において、様々な苦労を乗り越えて
きた事が容易に推測できる。

そんな親友のなめ猫と、今日も一日一緒に釣りをしようかと勇んでここへやってきたのだが、残念ながら
今日ここに彼の姿は無かった。

期待を裏切られ、少し落胆しつつも彼の安否が気になる私。

「どうしたんだろう・・・。  先週餌をあげられなかったせいで、病気とかしてなきゃいいけど・・・。」


まぁ、考えても仕方ないので、一応釣りを始めてみる。


今日の私の釣り方、とりあえずこの寒い中でも、素手で団子を握る紀州釣り。
11月14日の釣りで、今年はもう紀州釣りはしないとか言っておきながら、今日も元気に団子を握っている。

公約違反だが、まぁ私の人生なんて所詮そんなもん。行き当たりばったりで適当に生きている。

で、なぜこの寒い中で敢えて団子を握っているかというと、単純に先週のフカセ釣りでは、まだまだ元気に
湧いていた餌取りをかわしきれなかったため。
紀州釣りならなんとかなるだろうとの安易な作戦で、今日もこの釣り場にやってきた。
手を温めるための2個のカイロをポケットに忍ばせ、ひたすら団子を握る。


開始から数時間が経過し、探していた答えが見つかる。

それは、この近辺にはもう、チヌはいないということ。

相変わらず餌取りは活発に動いているんだけど、チヌらしきアタリがない。
チヌも寒いんで、どこかあったかい所にでも行ってしまったに違いない。間違いない。

そんな悲しい答えが見つかった私のダークな気持ちを知ってか知らずか、追い討ちをかけるように雲行きまで
怪しくなってくる。


いつの間にか空は鉛色に変わり、今にも泣き出してしまいそう。

「おかしいなぁ、天気予報では雨が降るとは一言も言ってなかったんだけど・・・。」

とか言ってる側からやっぱり降り出す雨。

「まぁ、弱い雨だからすぐにあがるだろう」と、ポジティブに考えた途端に強くなる雨脚。


嵐を呼ぶ男の本領発揮である。


最初は楽観的に釣りを続行していたんだけど、雨の一滴一滴が徐々に体温を奪っていく。
団子を握っている手からは次第に感覚が無くなり、オキアミを針につけることすらままならなくなってくる。

「ええいちくしょう。もうダメだ。寒くてやってられねー。
 車に戻って窓閉めて、練炭焚いて暖でも取るべ!」と、帰り支度を始める。
                                       (※ 良い子は絶対真似しちゃ駄目だ!)


一通り道具を片付け終えたところで、案の定謀ったかのように雨が止み晴れ間が見え始める。

「ケッ、やっぱりそうきやがったか。 こんちきしょー、ここでも俺の気持ちをもてあそびやがって・・・・」


「ええい、くそ、もう知るか! 撤収じゃ撤収。」 と、道具担いで帰ろうとしたその瞬間、後ろから聞こえてくる
「にゃー」という泣き声。  一週間ぶりに逢う、なめ猫だった。


「お、よぉ!なめ猫! お前、今日は随分と重役出勤じゃねぇか。
帰る気満々だったけど、お前が応援にきてくれたからには、こちとら帰るわけにはいかねぇやな。」

再びロッドケースから竿を取り出し、仕掛けを作り始める。

しかし、今日は先週とは違い5人も釣り師がいるってのに、相変わらず俺を観戦かい?
そこまで俺の腕を見込んでくれてるとは嬉しいねぇ。

まぁ、今日は任せときな! お前の分までガンガン魚を釣ってやるぜ!


いつの間にか雨はあがり、雲の隙間からは陽の光が差し込んでいた。
かじかんで動かなくなった手が、次第に感覚を取り戻していく。


なめ猫が応援に来てくれたことにより、リズムが変わってくれればいいなと思っていた矢先、
視界から浮きが消えた。まずは手の平弱の木っ端グロ。

猫の餌にするとか、ほんとはあまり好きじゃないんだけど、折角応援に来てくれたんだからとなめ猫に
プレゼント。

「にゃぁー」とひと鳴きし、嬉しそうに自分の縄張りである岩の影まで行き、クロを頬張るなめ猫。


「これで、俺とお前、完全にマブダチだな!」


さぁ、次はサイズアップ!と意気込むと、狙い通りに足の裏強!
こいつは刺身になるなとキープし、次を狙う。


そしてまた、浮きがスコーンと視界から消えた。
合わせで乗せた後、強烈な横走り。

チヌでないことは獲物の引き方ですぐに分かったが、右に左に走り回る魚に、久々にレバーブレーキを
炸裂させる。上がってきたのは、30cmを超えるナイスサイズの馬ヅラハギ!
こりゃーいい。いい刺身が釣れた。チヌを釣るよりよっぽどいいや!と、まずは応援してくれたなめ猫に報告。


「お前の応援のおかげで、馬ヅラハギが釣れたヅラ。これはいいお土産ができたヅラ!」

グイッとヅラを持ち上げ、なめ猫に見せる。

すると、何やら物欲しげな目で私を見つめるなめ猫。


「い、いやいや、これは駄目だ。 私のヅラだ。 これは私が持って帰るヅラ。」

隠すようにスカリに入れて、ヅラをキープ。


その後は、いい感じの集中で粘りを見せるも、最後は強風に煽られたバッカンが撒き餌ごと海に落ち、
泣く泣く撤収を余儀なくされる。

まぁいい。今日はレバーブレーキも炸裂したし、そこそこ楽しめた。



さて、お持ち帰り用の魚でも絞めますかねと、スカリを上げると、物珍しそうに近づいてくるなめ猫。

「そうかそうか。お前も私の獲物が見たいんだな?」

まずはクロを絞め、側に置く。

次にヅラを手に取り、ナイフを手にしたその瞬間だった。


親友であるはずのなめ猫が、先に絞めた私のクロを猛ダッシュでかっさらい、走り去ったのだ。


「お、おいこらバカ猫! てめー、なんてことしやがる!」


私のクロを咥えたまま、器用に岩と岩を飛び跳ねて逃げていくなめ猫。

人が折角優しく恩を着せてやってるって言うのに、この上ない more than best  な仇で返しやがって。

「この泥棒猫が、待ちやがれ!」


私の思いが届いたのか、走り去りながら一瞬私の方を振り返るなめ猫。

その鋭い目はまるで、 「誰の事も・・・  信じるな・・・」  とでも言っているかのように見えた。

再びくるりと反転し、岩場の影へ消えていく。


「ブルータス、お前もか・・・」 

シェイクスピアの著である「ジュリアス・シーザー」の中の名言が頭に浮かぶ。

私は今、信じていた友に裏切られた。


「くそー、ボケ猫め、ふざけやがって。」

でもまぁ、とりあえず先に木っ端グロの方を絞めておいて良かった。
これが馬ヅラハギの方を盗られてたら泣くに泣けず、裸足で駆けてくとこやった。
もうちょっとで、みんなに笑われる陽気な副会長になるところだった。 あぶねーあぶねー。


でも、あれだ。お前とは、今日限りで絶交な。
もう二度とファミコンのカセットも、ミニ四駆も貸しちゃらん。
コロコロコミックも、コミックボンボンも読ませちゃらん。

あと、「なめ猫君が、僕のクロを勝手に持って帰りました」って学級委員に言いつけて、
道徳の時間のクラス会議にもかけてやるから覚えとけ!





謹賀新年2!
この釣り場までの道中。
もしここで熊が出てきたら、絶対に逃げ切れないと思う。
低い雲、鉛色の空。

嵐を呼ぶ男の本領を発揮!
いい感じのクロと、
かなりいい感じの馬ヅラ!
お前、ずっとそこで狙ってやがったな・・・