10月も終わりに近づき、朝晩も大分冷え込んできた。
我々は基本的にヘタレなんで、寒いのは苦手だ。
今年はあと何回釣りに行けるだろう・・・
そんな中、永田名人が諸般の事情により今年の釣りを終えた。
今年3人で釣りに行けた回数はたったの4回。
認めたくは無いが、加齢と共に様々な責任や制限が出て来、皆の都合が
合わないことも多くなる。
本来であれば本日、永田名人の今年最後の忘れ物探しへ、私と会長が
お供させていただく予定であったのだが、急遽主役が来れなくなって
しまった。
これから仕事が忙しくなり、釣行が難しくなる彼の今年の釣行は、
なんともあっさりと終わってしまった。
一文字への忘れ物を、根こそぎ見つけて帰ってやるわいと意気込んでいた
永田名人、仕方ないとは言えあまりにも早すぎる決断であった。
とはいえ、感傷に浸っているわけにもいかず、彼の分まで頑張ろうと決意
する私と会長、実は今日の釣行に、気になる事がひとつだけあった。
それは、昼12時の時点で西の風が8mになるとの予報。
まぁ朝のうちは3m程度だし、途中で船長からの強制帰還命令が
下りそうではあるんだけど、まぁ、なんとかなるっしょ。
嫁にも、恐らく途中で帰ってくるハメになりそうではあるが、とりあえず
行ってくることを告げる。
「途中で釣りにならない事態が想定できるのに、何でわざわざ行くのかねぇ・・・」
との嫁の嫌味にも負けず、レッツらゴーゴー!
一文字に上がると、やっぱり前兆はあった。
嫌な予感がしながらも、手返し良く団子を打ちチヌを寄せる。
午前8時過ぎ、次第に風がザワザワなり始めると同時に、会長がソワソワ
し始めた。
そして意を決したように私に話しかけてくる。
会長「おっさんよぉー、すまんが今からロッドケースの中に頭を突っ込むんで、
風の音が中に入ってこないように、外からチャックを閉めてくれんかいのー?」
私「は、は、はあっ?」
会長「いやぁ、諸般の複雑な事情により詳しくは話せないんだけど、
何も聞かずに俺の言うとおりにしてくれ・・・」
何も聞かずになんて言われたら、それこそ聞かない訳にいくはずも無く、
諸般の複雑な事情とやらを根こそぎ聞き出してみれば、確かにそれはちょっと
やばい。
あんまり詳しく書くと会長が怒るので、ここではあくまで例えばの話。
仮に仕事がある土曜日の朝、急に39度の熱が出たことにして仕事を休み、
釣りに行ったとする。
「これで一日、のんびり過ごせるぜ!」と思ってた所に、思いもよらない
会社からの電話。
とりあえず無視を決め込んでその場をやり過ごしたものの、留守電に
メッセージがあったため恐る恐る聞いてみると、なんと会社では特大の
トラブルが発生しており、
「体調が悪い中申し訳ないが、どうしても今日中に一度、会社に連絡を
入れて欲しい」 との上司の声。
電話に出ず無視を決め込んだものの、それ程大きなトラブルが発生して
いるとわかれば連絡しないわけにもいかず、電話を入れようかと思った
側では、強い風がびゅーびゅー。
電話に出た上司にも、間違いなくこの風の音が聞こえるであろう状況に、
体調崩しているはずの男が何故、風がびゅーびゅー吹きすさぶ場所から
連絡を入れてくるのか?と疑問に思われ、さては熱を出したと言いながら、
どこかに遊びに行ってるのでは?と、嘘がバレてしまいかねない状況。
例えるならばそんなシチュエーション。
で、思いついた手段がロッドケースに頭を突っ込んで、風を避けながら
電話をしようという発想。
彼の言う通りに外からロッドケースのチャックを閉めてやる。
会長「モゴモゴ、 たこ?」
私「んっ?」
会長「ちょっと電話するから、風の音が聞こえないかテストしてくれい!」
彼の言う通り、テストしてやる。
私「おおー、ばっちり!とりあえずそっちから風の音は聞こえてこないんだけど、
それよりもハタから見たらすごい光景じゃ。
俺、ロッドケースの中に頭突っ込んでる奴、初めて見たわ・・・」
彼がその大事な電話をしている間、もちろん私は様々な角度から彼を激写!
彼は日本で、いや、おそらく世界で初めてロッドケースの中に頭を突っ込んだ
男ではなかろうか。
貴重な瞬間に立ち会わせてもらった。
何分か後、一通りトラブルを乗り切った彼がロッドケースから頭を出した。
彼の表情には、大きな苦難を乗り越えてきた事が見て取れる、
安らかな安堵の笑みが浮かんでいた。
私「あぁ、そういえばさっきは忙しそうだったから言わなかったけど、
別にロッドケースに頭を突っ込まなくても、服にくるまって電話すりゃ
良かったんじゃない?」
後付けではあるが、ごもっともなアドバイスを彼にしてやる。
会長「・・・
何でそれを早く言わんのかっちゃ!」
今年、楽天の野村監督は、成績の良かった田中将大投手のことを、
「まーくん神の子、奇跡の子」 とほめていたが、
私は会長のことを、
「会長アホな子、奇特な子」 とほめてあげたい。
「バカと天才は紙一重」 そのわずか、わずか紙一重の差でバカの方に
行ってしまった会長、ナムナムチーンである。
あと数ミリ、あと数ミリずれていれば、今頃世界的な物理学者になって
いたかもしれない。ナムナムチーンである。
友として残念でならない。
そんな彼の勇士を見ながら一通り大笑いした後はまじめに釣りをしたのだが、
風は収まるどころか一層強さを増し、残念ながら9時半、船長より撤収命令が
下る。
今日は朝から風が強く、チヌのタナが見えなかった。
それが敗因である。
もう少し時間があれば何とかなっていたかもしれないが、結果論。
会長は、そんな短時間勝負の中でも、40cmを筆頭に2枚を釣りあげた。
会長「おっさんよぉ、この厳しい条件の中でも俺は2枚。 優秀じゃねぇ?
今のこの釣り方、波止での俺の釣り方の、完成形かもしれん・・・」
私「かぁ〜っ、俺の考案した [続・副会釣法2007! 〜桜の花の咲く頃に〜]
釣法をそのままパクっただけやんけ!」
会長「考案しようが何しようが、釣れてなけりゃ意味無くね〜?
タイトルも、[桜の花の咲く頃に!]じゃなくて、[桜の花の散る頃に!]に
変えれば? が〜っはっは!」
ぬ、ぬぅ・・・
午前10時過ぎ、あまりにも早過ぎる帰宅をを果たした私に嫁が言う。
嫁「ほら言わんこっちゃない。風が出たから撤収してきたんやろ?
渡船代がもったいない。こうなること位、最初からわかってるやん!」
ふむ。もっともなご意見だ。
「だが嫁よ。男にはなぁ、負けると分かっていても戦わねばならぬ時がある。
男はなぁ、常識という名のモノサシで測れる程、単純に出来ちゃー
いねぇんだぜ!
それが、男のロマンってやつよ!
どうだ? お前には、男のロマンはわかるまい?」
嫁「全くわからんし、わかりたくもないんだけど、せっかく早く帰ってきたんなら
洗濯物でも取り込んどいて!」
私「えっ? 洗濯物? あぁ、はい。 すぐやります。」
小野田一文字に上る朝日と 釣り糸を垂れる会長。 |
|
遂に会長がおかしくなった? いえ、おかしいのは生まれつきです。 |
|
別角度から。 ウケ狙いの行動に見えますが、 これが彼の素の行動です。 これでも彼は、必死なんです。 |
|
必死に無い知恵振り絞って 色んなことを考えてながら生きてるんです。 ただ・・・ 普通の人とは、少し発想が違うだけ なんです。 そっとしておいてあげてください。 |
|
会長とチヌ | |
エイリアン | |
か、風が〜 | |
ぐぉーーー 船がぼよよんぼよよん、縦に揺れるー |